『男同士の絆――イギリス文学とホモソーシャルな欲望』
Sedgwick, Eve K. 1985 Between Men: English Literature and Male Homosocial Desire,Columbia University Press
=20010220 上原 早苗・亀澤 美由紀訳,名古屋大学出版会,362p
last update:20101205
■Sedgwick, Eve K. 1985 Between Men: English Literature and Male Homosocial Desire,Columbia University Press.=20010220 上原 早苗・亀澤 美由紀訳
『男同士の絆――イギリス文学とホモソーシャルな欲望』,名古屋大学出版会,362p
ISBN-10:4815804001
ISBN-13:978-4815804008
\3990 [amazon]/
[kinokuniya] ※
■内容
Amazon.co.jp
1985年、イヴ・K・セジウィックの名を広く知らしめ不動のものにしたのが『Between Men』(邦題『男同士の絆―イギリス文学とホモソーシャルな欲望』)である。本書は、フェミニズムからジェンダー論、レズビアン・ゲイ理論が興ってくるちょうど転換期に著され、そのパラダイム転換を象徴する書としてさまざまな分野から注目されてきた。あえて男性同士の関係を問題にした点でフェミニズム論の中で異彩を放っている。女性あるいは同性愛の抑圧機構を告発していくフェミニズムの方法は、逆に女性や同性愛者をマイノリティーの位置に執拗に固定化させてしまうという問題にぶち当たり隘路(あいろ)に陥っていた。そうした状況において、本書が提示した方法論は理論的突破口を開いたといえる。
また、本書の理論が徹底的にイギリス文学を読み解くことで構築されていることも強調すべき点である。文学を丹念に読み解くことで、たとえば従来の家父長制あるいは産業革命以後の近代家族の枠組みで構築された性差の理論からは抜け落ちてしまう階級差の視角が取り込まれている。
本書でとりわけ重要な用語となるのが、男同士のきずなの上に成り立った社会制度を支える「男性のホモソーシャルな欲望」である。男性社会(ホモソーシャル)の裏面にホモセクシュアルが切れ目のない連続体としてありながら、ホモフォビア(同性愛嫌悪)がそれを切断する、というこの図式は有用な方法概念として広く流通していったが、セジウィックはそれをスタティックな公式として提示しようとしたわけでは決してない。シェイクスピアの『ソネット』からはじめ、19世紀中葉までを通時的に見通していくことで、ホモフォビアによる切断の地点を歴史化しようとするのが本書の主要な趣旨である。セジウィックによれば、その切断の地点は18世紀から19世紀に出現したゴシック小説において初めて見いだされる。20世紀以後の展開に関しては、本書の続編として『Epistemology of the Closet』(邦題『クローゼットの認識論』)がすでに用意されている。
セジウィックの文章は読者へのサービス精神に満ちており、理論書にして抜群のおもしろさを保っている。しかしなんといっても、本書の魅力は、実際のイギリス文学を相手にしたときのその手さばきと語り口にある。
■目次
第1章 ジェンダーの非対称性と性愛の三角形
第2章 恋する白鳥―シェイクスピア『ソネット集』の例
第3章 『田舎女房』―男性のホモソーシャルな欲望の解剖モデル集
第4章 『センチメンタル・ジャーニー』―セクシュアリズムと世界市民
第5章 ゴシック小説に向けて―テロリズムとホモセクシュアル・パニック
第6章 代行された殺人―『義とされた罪人の手記と告白』
第7章 テニスンの『王女』―七人兄弟にひとりの花嫁
第8章 『アダム・ビード』と『ヘンリー・エズモンド』―ホモソーシャルな欲望と女性の歴史性
第9章 ホモフォビア・女性嫌悪・資本―『我らが共通の友』の例
第10章 後門から階段を上って―『エドウィン・ドルードの謎』と帝国のホモフォビア
結び 二〇世紀に向けて―ホイットマンのイギリス人読者たち
■引用
■書評・紹介
■言及
*作成:八木 慎一