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『パサージュ論 第5巻』

Benjamin, Walter 1982 Das Passagen-Werk,Suhrkamp,1354p.
=20031114 今村 仁司・三島 憲一 訳,岩波書店,454p.

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last update:20220312

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Benjamin, Walter 1982 Das Passagen-Werk,Suhrkamp,1354p. =20031114 今村 仁司・三島 憲一 訳 『パサージュ論 第5巻』,岩波書店,454p. ISBN-10:4006001053 ISBN-13:978-4006001056 欠品 [amazon][kinokuniya] ※ cv

■内容

岩波書店 HPより

19世紀の事物や歴史の中に眠り込まされていて現われることのなかった夢の巨大な力を解放する試み―それがベンヤミンのパサージュ・プロジェクトだった。「文学史、ユゴー」「無為」などの重要断章を収録。『パサージュ論』をめぐる書簡、編者ロルフ・ティーデマンの長文解説、引用文献一覧、人名注索引を付す。全5巻完結。


 いよいよ最後の第5巻となりましたが、この巻も面白い断章が載っています。とりわけ、出版を題材にしている「文学史、ユゴー」という断章にはわれわれ出版業界にいる者には考えさせられるものがあります。例えば、次のような断章。
バルザックの『政治新聞のための書評誌』の版元は、ある種の本を、書籍販売業者を通さないことによって、定価より安い値段で提供した。この企画に対する外部からの攻撃に対抗してバルザックはこれを自慢し、版元と読者公衆とのあいだに、自分が求めている直接の関係が実現することを期待すると述べている。(後略)[d6,3]

 現在の「出版社―取次―小売書店」という流通には多くのメリットがありますが、またデメリットも指摘されるようになりました。つくられた本の販売を取次や小売書店に任せるのは、他の業界とちがって出版はアイテム数がとてつもなく多いのですから、合理的なシステムともいえます。しかし、バルザックがこのあとの文章で指摘していますが、いい加減なものが多く刊行されやすいということも起こります。また、読者と出版社の関係が間接的になり、出版社からは顧客の姿はわからなくなります。19世紀にすでにそのことが指摘されています。
  また、書物の広告については、このような意見があります。
『パリにおける田舎の偉人』〔『幻滅』第二部〕の初版の序文で、バルザックは新聞についてこう述べている。「文学が商業的なものに変身するにつれて、そこにどれほどの害悪が襲いかかるか、公衆はわかっていない。……かつて新聞業界は〔本が出ると〕……何部かを要求し……そのうえさらに、〔書評〕記事に金を払えと言ってきたものだが、……記事が出ることを書店が熱望しても、……結局出ぬままに終わることもしばしばだった。……今日ではこの二重の課税にさらに、途方もない広告料が加わり、これが本の制作費と同じくらいかかるのだ。……そんなわけで新聞は、現代の作家生活にはきわめて有害といえよう。」[d3,5]

 書評に金を払えなどと今の新聞が言うことは断じてありませんが、われわれ出版社は新聞に広告を出さないと本を買ってもらえないと思っています。ですから、売上高に比して、他の業界では信じられないくらいの広告費を計上しなければなりません。それが作家の取り分に影響するとバルザックは言いたいのでしょうが、現在では本のコストと広告費は別会計ですので、そのように考える人は出版社のなかにはいません。
  さて、これで『パサージュ論』全5巻が完結しました。単行本の企画段階では、このような未完の草稿を出版するなんてどのような意味があるか、という疑問は当然ありました。ズールカンプ版の編者ロルフ・ディーデマンも、「こうした息づまるほどの大量の引用を公刊することに果たして意味があるのかどうか疑わしく感じることもときにはあった」と書いています。しかし、ベンヤミン自身の文章と引用の集積は、一つの断片ごとに思考する機会を与え、われわれを深い考察へと誘ってくれました。
  第4巻まで読まれた方は、すっかり19世紀づけになったのではないでしょうか。鉄道、パサージュ、百貨店、鉄骨建築、大量生産品、新聞連載小説、社会主義運動などなど、19世紀に初めて登場したものの衝撃は、それ以前の時代の初物とは比べものにならなかったと思われます。幼年時代を19世紀に送ったベンヤミンは、19世紀をひたすら掘ることで、20世紀の危機を考えようとしたのだと思います。自動車が大衆化し、芸術もさまざまな前衛を生みながら、近代は隆盛へとひた走る。そんな20世紀前半に生きたベンヤミンには、ファシズムの脅威があり、進歩の思想に与しないという側面がありましたが、それでも何らかの希望はもっていたと思われます。
  一方、ミレニアム騒ぎも空虚に終って新しい世紀が始まりましたが、どうもいやな感じばかりの21世紀です。ウェーバーのいう「精神のない専門人、心情のない享楽人」(オタク)のせせこましい私的生活と檻のようなシステムがあるだけなのか、と嘆きたくもなります。
  いつでも過去に学ぶしかないのですが、『パサージュ論』を参照する一つとし、19世紀、20世紀を掘る思考が待望されます。
  第5巻には、単行本のときの人名索引を発展させて、主な人名に説明を加えました。各断片に登場する固有名詞が何者であるかがわかっているかどうかで、面白さがちがってきます。これも大いに利用してください。

■目次

b:ドーミエ
d:文学史、ユゴー
g:株式市場、経済史
i:複製技術、リトグラフ
k:コミューン
l:セーヌ河、最古のパリ
m:無為
p:人間学的唯物論、宗派の歴史
r:理工科学校
  土星の輪あるいは鉄骨建築
『パサージュ論』に関連する書簡
付論 『パサージュ論』を読むために(ロルフ・ティーデマン)
岩波現代文庫版訳者あとがき

■引用


■書評・紹介


■言及



*作成:宮内 沙也佳
UP:20220312 REV:
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