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「奉仕活動の義務化」に反対し、自主的な「ボランティア学習」推進を求める要望書


last update: 20160122


◆早瀬昇さんより 200010

皆さま

 「奉仕活動の義務化に反対し…」要望書(案)につきましては、皆さまからとても
生産的、建設的なご意見をいただき、ありがとうございました。
 結局、以下のような形にまとめました。

 今後、賛同者を募り、来週半ばには「国民会議」などに、賛同者の皆さんの名前を
添えて、意見を提出するとともに、マスコミやNPO議員連盟などの国会議員、文部
省などにも要望書を送付していきたいと思います。

 そこで、この要望にご賛同いただける個人ないし組織は、私、早瀬宛
hayasenoboru@msn.com)に、以下のメールをご返信ください。
 また、この要望書は「転載自由」としたいと思います。賛同者拡大のため、要望書
の普及にご協力ください。

 また、現時点の「要望書」も“完璧”なものとは思っておりませんので、修正すべ
き点があれば、細かい部分でも結構ですので、是非、ご連絡ください。ただし「全員
に返信」ボタンで返信すると、一部のメーリングリストでトラブルが発生することが
ありますので、ご意見の場合、ご自身の顔の見えている方に対してだけ返信するよう
にしてください。

 また「ワード版」(A4版・4ページにまとめています)をご希望の方はご連絡く
ださい。

以上、よろしくお願いいたします。

社会福祉法人 大阪ボランティア協会 早瀬 昇


*************

<「奉仕活動義務化」反対要望書への賛同シート(改訂版)>

@ お名前:          (←組織で賛同される場合、組織名)
A ご所属・肩書き:     (←個人で賛同される場合も、
所属・肩書きが公表できる方はお書きください。肩書きなどが
公表できない場合は、「教員」「福祉施設職員」などといった形で
職業や立場がわかるようにして下さい)
Bご住所の都道府県名と市町村名(←国会議員への圧力として有効)
Cご連絡先(メールアドレス):
Dご意見:          (←書かれなくても結構です) 


*************                

「奉仕活動の義務化」に反対し、自主的な「ボランティア学習」推進を求める要望書

私たちは、長年、ボランティア活動、市民活動の推進に取り組み、また青少年がNP
Oなどでボランティア活動に体験できる機会作りについても努力を重ねてきた者で
す。
私たちは、このほど「教育改革国民会議」の「中間報告」において提案されている
「奉仕活動の義務化」(全員が奉仕活動に取り組むべきだとする提案)の実施に強く
反対するとともに、真に教育効果のある自主的な「ボランティア学習」の推進を求め
ます。なお「ボランティア学習」の推進にあたっては、以下の「10項目」を柱とする
ことを合わせて要望します。


1.私たちは「中間報告」(「奉仕活動の義務化」提案)に強く反対します

 私たちは、今回の「中間報告」の中で第一分科会の提案する「奉仕活動の義務化」
(全員が奉仕活動に取り組むべきだとする提案)に強く反対します。その理由は、以
下のとおりです。

@ 目標とする「人間観」「社会観」が、大きく歪められる可能性が高いこと
ボランティア活動、社会参加活動などの用語が広く普及する中、「中間報告」では、
わざわざ「奉仕活動」の用語を使い、「奉仕」という言葉の持つ意味に強くこだわっ
ています。しかし、「奉仕」とは、神や仏などの権威的存在や、戦前の天皇、国家な
ど権力を持つ存在に対して「奉り仕える」行為を指すものであり、服従的な関係を前
提した行いです。
その「奉仕」の観念に基づく取り組みを教育課程に持ち込むことは、国民主権を憲法
でうたい、多様な市民が主体となって社会を形成するという民主主義社会にそぐわな
いものです。
また、元来、他者への思いやりは、中間報告が言う「人道的作業」だけでなく、人や
社会につながるあらゆる営みの中に現れるものです。それこそ、この「義務化」構想
への反対運動さえも、他者への思いやりから取り組まれるものです。しかし、「奉仕
活動」という概念では、そのような広がりは生まれません。それは結局、時の権力者
が求める狭い「善」なるもの ― たとえば「国家への奉仕」といった観念の下に、子
どもたちを押し込めるものでしかないと考えます。
このように「奉仕」という用語にこだわった取り組みは次代の社会を担う青少年の人
間観や社会観を歪める可能性が高く、強く反対します。

A 教育効果が期待できないこと
「義務化」とは、参加しない者に罰を課すことを伴うものですが、このような手法は
「思いやりの心を育てる」といった教育目標を実現する上で、効果をあげにくく、逆
効果さえ懸念される手法です。
本来、体験学習は、自分で考え工夫する中で生まれる気付きや、自らが課した役割を
果たすことで得られる「自己肯定感情」をはぐくめる点に大きな意義があります。た
だしこれは、参加する本人の自発的な参加意欲があって初めて成立するものであり、
強制感を伴う場合には成立しにくいものです。それどころか、「やらなければならな
い」という状況は、逆に「言われたことだけをやれば良い」という閉じた姿勢さえ招
きかねません。
これまでの私たちの実践経験から、「思いやり」のような感性を育む教育では、心理
的な開放感を与えることが不可欠だと考えます。今回の提案には、そのような配慮が
感じられません。

B 「福祉施設の教材化」など受け入れ側に極端に重い負担が発生すること
今回の提案には、受け入れ先、つまり他者への思いやりなどを学ぶ「教材」となる施
設利用者の人権への配慮が欠けています。1998年から始まった教員免許状取得希
望者の「介護等体験」義務化でも、大した研修も受けない若者が受身的に施設等での
介護体験に出向き、受入先でのトラブルが絶えない事態が生じています。今回の提案
は、対象者の多さから「介護等体験」の数十倍の規模となるもので、受け入れ現場で
の混乱・トラブルが、さらに悲惨な形で発生することは必至です。
そもそも、このようなトラブルが起こりやすいのも、強制的な参加では相手の個性を
受け止める能動性が生まれないからです。強制の下、受身的に参加する若者たちが、
その技術不足を補う意欲や心遣いも示さないまま、受入先の負担となっているので
す。その意味で今回の「義務化」は、誰かの「我慢の教育」のために(本来は丁寧な
配慮の必要な)誰かを犠牲にするという、それこそモラルに反する状況に、さらに多
くの子どもたちを巻き込むものだと言えます。

C 地域社会の多様で自主的な取り組みを促さず、全国一律の実施によって地域社会
に強制を強いるものであること
地域社会に出て展開される取り組みは、当然、地域社会との協働でなされることにな
りますが、このような取り組みを全国的な制度として実施することは、それぞれの地
域社会の文化や土壌の違いを無視して一律的な「強制」を強いることになりかねませ
ん。
そもそも現在の社会停滞の大きな要因の一つに、戦後の日本社会が地方ごとの特殊性
や個性を重視せず全国一律の制度を中央から押しつけてきたことがあります。そし
て、そのことが広く自覚されてきたからこそ、地方分権の推進などで地方・地域のイ
ニシアティブが重視され、また自主的なNPO活動への認知・評価が高まってきてい
るのです。
今回の提案は、そのような時代の流れを無視したものだと考えます。

D 「教育」改革というより、新たにもう一つの「国民の義務」を課す提案と受け取
れること
さらに言えば、そもそも今回の提案は教育改革の一環というより、「国民の義務」
に、「兵役」に類する義務を新たに加える提案と解釈した方が良いように受け取れま
す。
というのも、上記のように学習の効果に対する配慮が極めて不十分な上、「満18歳
の国民すべてに1年間の奉仕活動を義務づける」などの提案は、青少年に1年間の労
役を強いて国民の資格を与えるということと同義であるからです。
国民がどのような義務を負うのか(そして、どのような権利を持つのか)という大問
題について、国民全体での幅広い議論のないまま、「教育改革」の名を借りて、その
内容を変えてしまうことは、きわめて乱暴なことだと考えます。

 以上の理由から、私たちは今回の「奉仕活動の義務化」提案に反対します。


2.「市民学習」を進める「ボランティア学習」充実に向けて10項目の逆提案をし
ます

今回の「奉仕活動の義務化」という提案には以上のように重大な問題を感じますが、
私たちも子どもの成長にあたって社会活動を体験することには大きな意義があると考
えています。
ただし、それが民主主義社会の担い手を育てるものとなるためには、「中間報告」で
提案されている発想・理念とは異なる以下のような原則・手続きのもと、「自発性」
を基盤として展開されなければなりません。これを以下に具体的に提案します。

@ 全国一律で実施するのではなく、実施の是非や内容などを、地域社会がそれぞれ
に判断するものとすること
社会活動体験を通じた学習では地域社会との協働が重要ですが、それだけに地域社会
の文化や土壌に応じて、取り組みを実施するのかしないのか、どのような形態・内容
で実施するかは、地域社会(PTA、学校、地域のNPOなど)が、それぞれに判断
できることが必要です。
以下に掲げる提案も、あくまでもそれぞれの教育機関や活動推進機関と地域社会の判
断で社会活動体験を通じた学習を実施すると決めた場合の留意点として提示するもの
です。

A 社会活動体験の目標を、「国家への奉仕」ではなく、「多様性を認め、社会の中
で主体的に役割を担う市民となるための学習(市民学習)」として位置付けること
「奉仕」という用語に固執する「中間報告」には、その取り組みの目標として「国家
への奉仕」意識を高めようという意図さえ感じます。
しかし、これからの社会は、多様性や個性の尊重、市民主体、分権などがキーワード
となる社会であるべきです。そこで、社会活動体験の目標は、あくまで「多様性を認
め、社会の中で主体的に役割を担う市民を育てる」こととし、次代の民主主義社会を
支える「市民」を育てるための取り組み(市民学習)として進められるべきです。

B 「ボランティア学習の推進」としての体験学習を充実すること
私たちは、歴史的に、服従的あるいは「滅私奉公」的な形で理解されてきた「奉仕」
観を克服した主体的な社会活動として、「ボランティア活動」「市民活動」の普及・
推進に取り組んできました。その取り組みはようやく実りつつあり、さまざまな場で
自主的に取り組まれるボランティア活動、市民活動の輪が広がっています。これらの
取り組みは、戦後の社会体制が涵養に失敗した「公共心」を、自ら自主的に社会的な
課題に取り組む中で取り戻そうという極めて重要な動きでもあります。
そして、この自発的に参加する社会活動体験を通じた学習を「ボランティア学習」と
呼び、その普及に努めてきました。社会活動体験を通じて学習を進めるにあたって
は、こうした「ボランティア学習」実践の蓄積を生かし、その推進に取り組むべきだ
と考えます。

C 社会活動体験に参加しない者に罰を与えないこと
「奉仕活動の義務化」に関して、一部与党議員の発言として「大学入学資格を認めな
い」旨の報道がなされています。このような罰則を課して社会活動体験を強制するこ
とは、意欲のない若者が、嫌々、社会活動を行う事態を招き、活動現場を混乱させる
上に、参加者自身も「言われたことをこなして済まそう」という姿勢になり、学習効
果を下げる危険性が高いと言わねばなりません。そこで、もし実施する場合、上記の
ような罰を課さずに実施するべきです。
また社会活動体験に参加することを「成績の差別化や進路指導などで誘導する(つま
り推薦入試の推薦用件にしたり、内申書に記述したりということ)」ことも、参加し
ない者を評価しないという点で結果的に罰を与えることになります。この点の配慮も
必要です。

D 社会活動体験の場を複数の候補の中から選べるようにし、また個別の面談に時間
をかけ、参加者が可能な限り主体的に活動できる環境を整えること
体験を通じた学習の効果を高め、また受け入れ先との良好な関係を築くためには、参
加者が自主的・主体的に参加できる環境を整えることが重要です。そこで、社会活動
体験の場は、福祉、環境、国際、文化などの幅広い分野の中で認め、また参加者が社
会活動体験の場を選べる態勢を整備し、さらに可能ならば参加者自身が社会活動体験
の場を探すこともできる仕組みを導入する必要があります。
また、活動先、活動場所を決める際に、時間をかけて本人と話し合った上で決めるべ
きで、間違っても機械的に振り分けるようなことがあってはなりません。
このように、参加者の動機付けを高めることに最大限の努力をはかる必要がありま
す。

E 受け入れ先に、参加者を選ぶ自由ならびに受け入れを断る自由が保障されること
社会活動体験には自宅などで出来るものもありますが、福祉施設やNPOなどに出向
いて体験する場合、参加者と受け入れる側の間に一定の信頼関係ならびに共感が成立
してこそ、成果を得られるものです。そこで、受け入れ側にも参加者を選ぶ自由が保
障されなければなりません。またこのプログラムは、自らを「教材」として提供する
ものでもあることから、その余裕のない現場に負担をかけないため、受け入れを断る
自由も保障されなければなりません。
なお、社会活動体験に参加しない青少年に罰を与えることになると、受け入れ側は、
その青少年の将来をおもんぱかって、不本意ながら、嫌々活動する青少年を受け入れ
るという事態が起こりかねません。このように、青少年が社会活動体験に参加する自
由と、受け入れ側が青少年を受け入れる自由は相互に結びついており、どちらが欠け
ても問題が生じるものです。

F 社会活動体験を支援する専門職としての「コーディネーター」を配置すること
社会活動体験をスムーズに進めるためには、活動参加者や学校と、受け入れ先のNP
Oや福祉施設などの双方の希望や条件を受け止め、社会活動体験を協働で進めるため
の調整役として専門職である「コーディネーター」の配置が必要です。現在、このよ
うな仲介業務には、各地のボランティアセンターなどに所属するボランティアコー
ディネーターがあたっており、そこで蓄積されているノウハウを活用することが望ま
しいと考えられます。
また受け入れ期間中の支援・調整は受け入れ側の役割となるため、受け入れ先におい
ても専門の「コーディネーター」を配置する必要があります。特に福祉施設の場合
は、利用者の人権に対する配慮も必要であるため、この「コーディネーター」の配置
は不可欠の条件です。

G 社会活動体験の前に「事前研修」を実施すること
社会活動体験者の受け入れは、受け入れ先にとって「素人」を受け入れるという負担
が生じるものです。特に受け入れ先が福祉施設などとなる場合、施設の利用者が、他
者への思いやりなどを学ぶ「教材」となってしまう可能性があるわけで、それだけに
施設利用者の人権に対して最大限の配慮が必要です。
そこで、こうした受け入れ先のの負担を軽減するとともに、参加者の動機付けを高め
るため、参加者に対して適切な事前研修が実施されるべきです。
また学校が社会活動体験を進める場合は、教員のアプローチの仕方によっては「義務
的な奉仕活動」と変わらないものとなってしまうだけに、教員に対して社会活動体験
の意味や手法に対する研修を行うことが必要です。

H 取り組みに要する費用は関係者が応分の負担をし合うこと
活動体験者の学習効果を高めるためには、コーディネーターの確保など受け入れ先が
コストをかけて受け入れ態勢を整備する必要があります。また青少年を送り出す学校
に対しても、丁寧な対応をして送り出せる態勢にするため人員配置の整備が必要にな
ります。
このような経費は、受け入れ先などだけが負担するのではなく、学習者を含む関係者
が応分の負担をする必要があります。

I 拙速な導入を避け、従来から「市民学習」「ボランティア学習」に取り組んでき
た専門機関(ボランティアセンターなど)などの意見を聞くこと
以上の他、この取り組みを実施するにあたっては、すでに先行して多くの実績を積み
重ねているボランティアセンターなどの専門機関をはじめ、受け入れ側など関係者の
意見を聞き、さらにモデル事業を実施するなどして、拙速な導入をさけるべきです。

以上


REV: 20160122
ボランティア 全文掲載
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