もの:呼吸器
新書2のための連載・12
立岩 真也 2020/11/02 『eS』
この文章は、2020年中には出したいと思っていた本・2の草稿として準備を始めたものです。
『介助の仕事』のための連載と異なり、順不同で書いていきます。今のところ、以下に記す取材時の記録を切り貼りしているだけのものです。だんだんと整理し、かたちを作っていきます。
ここにおく註と文献表は、新書では大幅に減らされます、というよりなくすと思います。紙の新書をご購入いただいた方に有料で提供する電子書籍版には収録しようと思います。
2021年の刊行になりました。7月には刊行していただきます。『eS』に連載?した文章(というか、方々で話したものの記録の抜粋)はそのままでは使えないので、大幅に書き直し書き足すます。〈Webちくま〉での連載をお願いしようと思っています。
◆立岩 真也 2021 『(本・2)』,ちくま新書,筑摩書房
◆2017/07/15 「高額薬価問題の手前に立ち戻って考えること」
『Cancer Board Square』3-2:81-85(253-257)
◆2019/02/02 「少子高齢化で「人や金が足りない」という不安は本物か? 社会的弱者に不寛容な言葉が広がる日本」
https://www.buzzfeed.com/jp/shinyatateiwa/tarinaifuan-1
◆2019/02/23 「少子高齢化のせいで「もの」は足りなくなるのか?――一人あたりで考えてみる」
https://www.buzzfeed.com/jp/shinyatateiwa/
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◆2019/03/25 「人工透析を中止し患者が死亡 提案する医師とその選択を支持する声に反論する」
https://www.buzzfeed.com/jp/shinyatateiwa/
◆2020/04/14 「だいじょうぶ、あまっている・1」
https://gendai.ismedia.jp/articles/-/71768
◆2020/04/21 「「自己犠牲」や「指針」で、命をめぐる医療現場の困難は減らない――だいじょうぶ、あまっている・2」
『現代ビジネス』 https://gendai.ismedia.jp/articles/-/71974
◆2020/05/02 「新型コロナの医療現場に、差別なく、敬意をもって人に来てもらう――だいじょうぶ、あまっている・3」
『現代ビジネス』 https://gendai.ismedia.jp/articles/-/72304
◆2020/06/23 「COVID-19から世界を構想する」(仮)
科学技術振興機構・社会技術研究開発センター戦略的創造研究推進事業(社会技術研究開発),科学技術の倫理的・法制度的・社会的課題(ELSI)への包括的実践研究開発プログラム
■機械・呼吸器
○次に、「人」と「もの」の「もの」の話です。「もの」は機械だけじゃないですけれども、機械もものですよね。例えば具体的には呼吸器の話です。ベンチレーター(ventilator)、レスピレーター(respirator)は見慣れてると思いますけども、ベンチレーターの話です。
○僕は医療の現場には何の関係もない人間なんですが、ものを書いてはきてて、『ALS――不動の身体と息する機械』っていう、「息する機械」っていうのは要するに人工呼吸器なんですけれども、をつけて生きていく、あるいはつけないで死んでいく、人たちについての本を2004年に書いてます(立岩[2004]◎)
。医学書院「ケアをひらく」っていうシリーズで出てます。いい本だと思ってるんだけどもな。僕の本の中ではそこそこ売れてるかな。この本は僕の文章があまりなくて、半分ぐらいで、ALSの人たちが書いた文章を使ってるんですよ。そうやって書いた本なんです。おもしろいと僕は思います。できれば、図書館でも何でもいいですから読んでください。16年前なんで、第2版を出したいっていう気持ちもあるんですが、できてません。その本を書いて以来、人工呼吸器には素人は素人なりに、知ってるっていうか書いてきたんですよね。このALSの人たちにとっては、人工呼吸器ってのは日常的な生活用具の一つ。肺を動かす筋肉が動かなくなっていくんで、呼吸するためには呼吸器ないとだめなわけですよね。
○だから、いったんつけたら死ぬまでそれを使って生きていく、そういう代物なんだけれども、コロナの時の使い方はちょっとそういうのとは違って、急激に症状が悪化して肺炎になっちゃって、呼吸機能が急激に落ちた時に、もうしょうがないからとりあえずつけて。今んところワクチンも、そのうちできるのかもしれないけど、僕はできると思ってますけれども、今のところ自然回復っていうかを待つ間のつなぎっていうか、そういうものみたいですね。だからちょっと使い方違うみたいですけれども、呼吸器は呼吸器だということで。で、生きてくのに必要だったら使えばいいじゃんって。だってそんなにね、昔はすごいでかかったらしいですけど、今そんなに、電子レンジぐらいの大きさのやつもあるしね。車いすに取り付けられるサイズのやつもあるしさ。そうやって考えたら冷蔵庫とかの方が全然大きいわけじゃない。電気も食ってそうだしね。冷蔵庫作れる鉄があるんだったら、アルミニウムがあるんだったら、冷蔵庫より呼吸器のほうが大切でしょ、っていうそれだけの話じゃないの。そういうことをずっと言ってきたわけですよ。だから別段どうこう言ってるんじゃなくて、「しのごの言わず用意しろよ」って話なんですけどね。
○だけどいろんなものが足りないって話があって、あとで読んでください。人工呼吸器、ベンチレーターを製造できる日本のメーカーってないんだってね。輸入なんだってね。だけどどう考えたってたいしたもんじゃないですよ。普通の精密機械ですよ。で、ソニーだっけ、トヨタだっけ、作ろうかって話も出たみたいです。それだけの技術力ってのもちろんあるわけだし、原材料もあるわけだから、もっと早めに、足りなくなるっていうんだったらやっとけよって。
『ALS』書いた時、素人なりにいろんな本を集めて読みました。そういう読み方ってあるんだよね。僕は社会学なんで、けっこう好きなように読んでるわけ。たまたま『人工呼吸器の歴史』っていう専門書を読んでたら、50年代にコペンハーゲンでポリオの流行があった時にみんなふいごを押したって。ありますよね、今もね。緊急の時、たとえば電気が止まったりとか、それからちょっとこう付け替えたりする時とか、そういう時とかに手押しのやつがありますすか、アンビューバッグ。あれはちょっともう簡便なものだと思うけれども。もっとなんか大仰なものだったと思いますけど、医科大学の学生が、そりゃ日夜ですよね、夜もおそらくそりゃ呼吸できないんだから、押して。それでポリオの人たちを救ったっていうか、ここに書いてあるのは、「死亡率は八〇%から二五%までに低下した」。
コロナとはなんの関係もないってば関係ないですよ。「そんなに近づいたら、うつっちゃう」みたいな話でしょ、今あるのはね。だから違うんだけど、何が言いたいかっていうとね、つまり70年の日本ではそんな大変だったから、みんなお金、本人は払わなくても受けられるようにしようってなって、言った人たちがいてメディアがあって、で実際そうなった。だから、50年代のコペンハーゲンでは、「もうしょうがねえや」っつってみんなで、みんなでっていうか、ふいご押して何とかしたってことがあった。「それと比べて今本当にそんなに大変なの?、そう考えたらどうなの?」って言いたいわけですよ。
そういうことを考えてほしいんだな。社会科学とか人文科学ってそういうもんだと思うんだ、僕はね。みんな「大変だ」ってなって、視野が狭くなってね、わーわー言ってる時に、「いや、だけど本当にそんなに大変なの?」っていうか、「大変なんだけど、大変じゃなくせないの?」って考える、考えられるってことを考える。そういうことは大切です、ってことが社会科学、人文科学の役割だって思ってるわけです。
■もの
○どっちかっていうと僕は始まりは「ものは足りない」派だったと思うのね。僕は1960年って年に生まれて、70年ぐらいに小学生で、79年に大学に入ってっていう、60年代70年代に子どもしてた人間です。で、田舎でぼーっと暮らしていたので、ぼーっとしてました。そんな人間でも中学校とかなってきた時に、やっぱ当時の、最初にいわゆる社会問題ってものがあるんだなって思ったのは、環境問題、公害って昔言ってたものです。今はあまり公害って言わないね。地球環境問題とかサステナブル・デベロップメントとかって言うよね。そういう熟語で言うのが流行りだけども。以前は公害って言ってた。水俣病であるとか、四日市ぜんそくであるとか、イタイイタイ病であるとか、そういうことが世間を騒がせて、社会問題になって、「おお、ひでえな」っていう、そういう。それはもちろん人間が何かによって害される、特に天然自然のものならしょうがねえっちゃしょうがないのかもしんないけど、人間が作ったもので人間が殺されるっていうのはだめでしょう、っていう、そういうことでもあったし、なんか「ものを作りすぎてんじゃないの?」っていうか、「自然壊してるじゃん」ってね。やっぱりそういうことは、もちろんもっと前から50年代60年代から言われ始めてたんだけれども「ほんとそうだよね」という時に、「やっぱりもの作りすぎてんじゃないの?」と、「消費しすぎてんじゃないの?」と、「そしたらものなくなっちゃうんじゃないの?」みたいなね、そういうような時代っていうか。そういう時に、僕は小学生の終わりぐらいであったり中学生だったりしたが、どっちかって言ったらやっぱり「ものいっぱいあんだから使やあいい」っていうノリではなくてね。本当はね。
○今でもそういう地球環境問題とか資源の枯渇問題っていうのはなくなったわけじゃない、とは思ってるんです、それはね。だけどあんまり心配しすぎるのは確実によくないよなと思ってもいます。ちゃんと冷静に、クールにクリアに考えましょっていうだけの話なんだけれども。
呼吸器が足りないなんていうのは、地球環境問題でも資源の枯渇の問題でも何でもない。すくなぐとも、呼吸器のほうが冷蔵庫よりは大切でしょうよ。本当に鉄がない、アルミがない、油がないっていうんだったら、冷蔵庫作るのやめて呼吸器作りゃいいんだよ。ていうぐらいの話だと思っているんです。だから「もの」の話はいっぺん終わりましょうっていう、やめましょうっていう、そういう話なんですけどね。
■文献→『本・2』文献表