分配的正義論
――要約と課題――
立岩真也 2003/03/31
山口定・佐藤春吉・中島茂樹・小関素明編 『新しい公共性――そのフロンティア』,有斐閣,12+394p. 3600 pp.131-150
last update: 201110122
■山口 定・佐藤 春吉・中島 茂樹・小関 素明 編 20030331 『新しい公共性――そのフロンティア』,有斐閣,12+394p. 3600
※ 本が品切れになっているようですので、この文章のテキストファイルを立岩からお送りします。150円です。
「しばらく、存在とその自由のための分配を主張し、また、その上で考えるべきことを考えようとしてきた。この「働ける人が働き、必要な人がとる」という主張自体はまったく単純なものであり、まず、どのように別の立場を批判するか、次に、どのように自らの立場を弁護するかである。このことについて既に述べたことを、もちろんその論の内実が大切なのではあるが、ここでは説明・証明を省きごく短くI・IIで要約する。次に、さらにどんなことを考えるべきか。それは例えば、政治がいま行なっていること行なっていないことをどう評価するかという具体的な問題につながるのだが、「現場」に近い一方の学はその記述に追われ、また、なされる評価・提言はその根拠があまりよく検討されているように思えない。他方で、「哲学的」な営みはより原理的な部分の考察に専念しようというのか、具体的な諸問題についての規範論的な考察が十分に行なわれていない。それは望ましいことではない。なにを私は考えたいかをIIIに記す。」
I 批判
1 規則について
2 価値について
II 根拠と可能性の条件
1 根拠について
2 業績原理の部分的な採用
3 資源よりむしろ国境が制約する
III 機構の構想/に残る課題
1 分配する最小国家?
2 基準について
3 分配の機構
4 生産財の分配
5 労働の分割
6 残されること
「分配を基本的に否定する立場と別に、問題を分配の問題として語ることに懐疑的な立場がある。分配を語ることが楽観的であると、あるいは現実とその問題を看過していると感じられる。それはどのようなものか。またそれにどのように応ずることができるか。
批判の一つは、福祉「国家」と言い、成員を「国民」に事実上限ってしまうことに向けられるだろう。これに対しては応えた。むしろ、成員を、また分配の範域を限っていることによって分配は、したがって生存は困難になっており、その範囲を拡大すべきことを述べた。
もう一つは、逆からの指摘とも言える。人は具体的な関係の中で共感し同情する。そうしたあり方を捨象し、空想を語っているのではないかと言う。だが、わからないではないこの指摘も距離を抽象してしまってはいないか。[…]」
■文献表
Nozick, Robert 1974 Anarchy, State, and Utopia, Basic Books=1985,1989 嶋津格訳,『アナーキー・国家・ユートピア』,木鐸社=1992 嶋津格訳,木鐸社
岡野 八代 2002 『法の政治学――法と正義とフェミニズム』,青土社
Rawls, John 1971 A Theory of Justice, Harvard Univ. Press=1979 矢島鈞次・篠塚慎吾・渡辺茂訳,『正義論』,紀伊國屋書店
立岩 真也 1997 『私的所有論』,勁草書房
――――― 1998 「分配する最小国家の可能性について」,『社会学評論』49-3(195):426-445(日本社会学会)
――――― 2000a 「選好・生産・国境――分配の制約について・上〜下」,『思想』908(2000-2):65-88,909(2000-3):122-149
――――― 2000b 「遠離・遭遇――介助について・1〜4」,『現代思想』28-4:155-179,28-5:28-38,28-6:231-243,28-7:252-277→(立岩[2000c:219-353])
――――― 2000c 「正しい制度とは,どのような制度か?」,大澤真幸編『社会学の知33』,新書館:232-237
――――― 2000d 『弱くある自由へ――自己決定・介護・生死の技術』,青土社
――――― 2000e 「多元性という曖昧なもの」,『社会政策研究』1:118-139(『社会政策研究』編集委員会,発売:東信堂)
――――― 2001a 「停滞する資本主義のために――の準備」,栗原彬・佐藤学・小森陽一・吉見俊哉編『文化の市場:交通する』(越境する知・5)東京大学出版会
――――― 2001b 「所有と流通の様式の変更」,『科学』71-12(2001-12 832):1543-1546
――――― 2001c 「できない・と・はたらけない――障害者の労働と雇用の基本問題」『季刊社会保障研究』37-3:208-217
――――― 2001-2003 「自由の平等・1〜6」,『思想』922:54-82,924:108-134,927:98-125,930:101-127,◇
――――― 2002a 「パターナリズムについて――覚え書き」,『法社会学』(日本法社会学会)
――――― 2002b 「分配的正義について――問うことと残されるもの」,『公共研会報』4:1-8(衣笠総合研究機構プロジェクト・公共研究会)
――――― 2002c 「分配的正義論――要約と課題」,『季刊社会保障研究』38-2(特集:福祉国家の規範理論,国立社会保障・人口問題研究所)
――――― 2003a 「(未定)」,『環』12
――――― 2003b 「社会的分配の理由」,齋藤純一編『社会的連帯の理由』,ミネルヴァ書房
――――― 2003c 『(未定)』,岩波書店