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『ストレングスモデル[第3版]――リカバリー志向の精神保健福祉サービス』

チャールズ・A. ラップ、リチャード・J. ゴスチャ 20140114 金剛出版,420p.

last update:20210212

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■Rapp, Charles A. and Goscha, Richard J., 2012, The Strengths Model: A Recovery-Oriented Approach to Mental Health Services,Third Edition. New York: Oxford University Press. =2014,田中秀樹(監訳),『ストレングスモデル――リカバリー志向の精神保健福祉サービス〔第3版〕』金剛出版.[amazon][kinokuniya]

■内容

(出版社ホームページより)
 個人と地域社会はストレングスの宝庫である。精神保健福祉援助実践の一つの理想形「ストレングスモデル」の第3版は,実践プロジェクト全体の統合と洗練に対応して,ストレングスアセスメント,個別リカバリー計画,資源獲得それぞれについて,支援技術・実践事例とツールを使いこなすための技能の習得・指導の増補が行われ,ストレングスモデルの原則をクライエントの成果に結実させる具体的な知識が整備された。

■目次

序 パトリシア・ディーガン
第1章 歴史,批判,有益な概念◎ストレングスパラダイムにむけて
第2章 ストレングスの基礎理論
第3章 ストレングスモデルの目的,原則,研究結果
第4章 関係とその結び方◎新しいパートナーシップ
第5章 ストレングスアセスメント◎個人の健康的な部分を展開する
第6章 個別計画◎達成課題を創造するために
第7章 資源の獲得◎地域を地域精神保健に戻す
第8章 ストレングスモデルを支える背景◎効果的な実践のための状況づくり
第9章 ストレングスモデルのエピローグ◎よく聞かれる質問/異議

■言及


■書評・紹介


■引用

pp. 3-4
【社会的過程と視座の再考】精神障害がある人々の生活を特徴づけてきたのは、貧困、孤独、達成機会の制限、差別、抑圧である。〔中略〕精神障害者は、その属する社会によって抑圧されており、また彼らを支援する専門家の行為によって抑圧がさらに助長されることが多い。こうした抑圧は、故意または悪意にもってなされることは稀であり、むしろ同情や思いやりによって生じる(p.3)。本節では、抑圧をもたらすこれらの社会的過程と専門家の実践について述べたい(p.4)。

p. 9
【問題に焦点を当てることの問題】問題志向のアセスメントは、社会・環境要因ではなく、個人的要因として問題の説明を促進することになる。人々の生活は人々に多大な影響を及ぼす複雑な社会的環境のなかで営まれていることは一般的に理解されているのにもかかわらず、より大きな社会的要因を考慮に入れてアセスメントされることは稀である。

p. 12
【環境の欠陥】隔離住居、治療、および余暇グループ活動を展開することによって、そして保護的就労機会に頼ることによって、事実上、州立病院を地域で再現してしまった。結果として、大勢の精神障害者は予防的環境で生活し、組織的に、そしてこっそりと本来の地域社会から排除されている。(Sullivan 1992: 152)。

p. 15
【ケアと移行の連続性】精神保健用の住居ケア施設、過渡的住居、およびナーシングホームは、限られた資金の大部分を消費している。自分で選んだ地域で生活する助けになるであろう借家人支援(例えば、賃貸助成金)などへの資金は、ほとんど残っていない。一連の職業前および保護就労への資金が配分されてしまい、一般就労の職場開拓とそれを維持するために、雇用主と一緒に取り組むのには資金を使うことができない。結果として、「正常な」生活に必要な支援は存在せず、精神障害者たちを精神保健システムに閉じ込めることになる。

p. 18
「リカバリーは、一つの過程、生活の仕方、姿勢、日々の課題への取り組み方である。それは、完全な直線的な過程ではない。時に私たちの進路は気まぐれで、私たちはたじろぎ、後ずさりし、取り直し、そして再出発するのだ。必要なのは障害に立ち向かうことであり、新たな価値ある一貫性の感覚、障害のなかであるいはそれを越えた目的を回復させることである。熱望(aspiration)は、意義ある貢献ができる地域で生活し、仕事をし、人を愛することである。」(Deegam 1992: 15) ディーガンの定義では、リカバリーは過程でもあり結果でもあるとされている。

p. 19
リカバリーとは、もはや症状を体験していないということを意味するものではない。精神病症状をもっているかいないかを超えて、リカバリーとは、症状を体験し、スティグマとかトラウマに直面し、そしてその他のつまずきのまっただ中にあって、いかに人生を生きているかということである。同様に、その人が深刻な葛藤を抱えているからといって、リカバリーの途上にないということを意味しない。〔中略〕リカバリーの意味するところは、私たちが日常生活の葛藤を病理的であるとすることをやめて、そのかわりに、生活の困難を乗り越えて、どうしたらうまく彼らの願望の達成を援助できるかに集中することである。〔中略〕リカバリーは、人によって異なるものである。

p. 21
リカバリーの決定的な要素は、その人が自我を回復させ、よみがえらせることである。リカバリーの過程で、人は症状の体験や診断というレッテル貼りを超えて、人として自分を定義するようになる。「精神疾患というレッテルを貼られた私たちは、何よりもまず人間なのです。……私たちは人間です。診断を下されたからといって、私たちは受け身の存在ではありません。私たちは十分に主体性をもった人間であり、行動することができるし、行動すれば自分で状況を変えることができます。私たちは人間であり、自分の思いを言葉で表現することができます。私たちは発言する権利をもち、それをどう用いるかも自分で学ぶことができます。私たちには声や訴えを聞いてもらう権利があります。私たちは自分自身で決定することができます。自分自身のリカバリーの旅では、私たちは専門家になることができるのです。(パトリシア・ディーガン)」『心の旅としてのリカバリー』より(in Ridgway,McDiarmid, et al. 2010: 379) 

pp. 22-24
リカバリーの第二のテーマは、個人的な統制の必要性である。……三番目に重要と考えられる要素は、目的である。……リカバリーの第四のテーマは、早い段階で達成感を得ること、および責任ある役割を担うことのようである。当事者の報告に含まれる最も一般的な達成事項は、他者(仲間であることが多い)の支援、仕事や職業訓練への参加、趣味や芸術などである。……リカバリーの第五の要素は、(少なくとも)一人の人間の存在である。リカバリーは非常に個人的なものであるが、ほとんどの当事者の報告は、ある友人、専門家、家族の一人、教師、自助グループ、またときには特定のプログラムに携わっているスタッフの存在が、リカバリー過程の引き金になり支えになってくれたと指摘している。……リカバリーの決定的な要素として、人間関係を挙げていない当事者の報告を見出すことは困難である。

pp. 25-28
【抑圧のルーツ――リカバリーのベルリンの壁】リカバリーのためには、二つの原因からもたらされる落胆、引きこもり、疎外、そして孤立を克服する必要がある。第一に、苦悩や障害をもたらす症状によって打ちのめされてしまうことがある。それは、感情と認知の激変の体験である(p.25)。……第二に、リカバリーは、社会における支配的な力、そして社会で確立しているケアの仕組みとの闘いである。これらの仕組みは、個人の居場所、時間、活力、移動、絆、そして究極的には主体性を侵害することによって、抑圧的で、落胆や疎外をもたらし増強するものとして体験されてきた。精神障害者たちがおかれた抑圧的な生活をもたらし、その根拠となる五つの要素がある。心理主義、貧困、恐怖心、専門家による実践、そして精神保健サービスシステムの構造である。第一の要因である心理主義には、精神障害者たちの行動の大部分を「疾患」の相関要素に帰属し説明するある傾向(すなわち強迫傾向)が存在する(Camberlin 1978; Deegan 1992)(p.26)。第二の要因は、貧困である。ほとんどの精神障害者は全生活を国の扶助に頼っている。貧困の意味するところは、不十分な住居、移動の制限、余暇・教育・人間関係・雇用の機会の制限である。貧困による希望喪失は無気力と孤立をもたらす。第三の要因は、恐怖心である。精神障害者たちは、しばしば恐怖感のなかで生活し、自信と自己効力感をなくしている。……恐怖心は、症状の悪化、再発、失敗を恐れる専門家とも関連している。第四の要因は、私たち専門家による実践に関することである(p.27)。……非常に多くの方法で、精神保健システムは期待しないこと、そして失敗を非難することを制度化してしまっている。第五の要因は、精神障害者たちに可能性の閉ざされた生活の場を強制し(Talor 1997)、目標の達成と真の地域への参加を妨害する精神保健システムによって設計され、資金が提供され、運用されるシステムに関係している。例を挙げれば、仕事の代替物としての保護的就労、自分のアパートや家の代用としてのナーシングホームやグループホーム、余暇・社会化・教育の場として代替的に強制される部分入院、デイトリートメントおよびある種の心理社会的活動がある(p.28)。

p. 30
【転帰としてのリカバリー――心理学的状態】転帰としてのリカバリーとは、何かを熱望する状態である。それは二つの要素で構成される。第一の要素は、個人の自己知覚と心理学的状態に関するものであるり、その例としては、希望に満ちていること、自己効力感、自尊感情、つながりの実践、エンパワメントなどが挙げられる。第二の要素は地域参加に関することである。端的に言えば、精神障害者も、家庭と呼べるところに住み、満足と収入を得られる仕事に就き、豊かな社会的ネットワークをもち、そして他の人々に貢献するための手段を持つ機会を与えられるべきである。

p. 37
【転帰としてのリカバリー――統合、ノーマライゼーション、および市民権】精神障害者は、集団において平等なメンバーとしての地位および市民権をもつべきである。「メンバーとしての平等な地位」には、資源、選択権と機会、選択肢、場所という四つの次元が存在する。統合とは、「精神障害者が、患者としての役割、治療センター、隔離された住居、そして保護的な就労から出ていくことを助け、自立、疾患の自己管理、地域で普通の大人としての役割に向けて前進することができるようにすることを意味している。ノーマライゼーションとは、障害のある人々がない人々と差別されることなく同等の機会をもって生活し、働き、遊び、日常生活を過ごす環境のことである。

p. 42
【心理学的および環境的転帰とケースマネジメントとの相互作用】転帰としてのリカバリーは、特定の心理学的状態の達成とある程度の地域統合を伴うものである。人生においては、この二つは密接にからみあっている。希望への関心が増すと、友人が増え、求職活動が増える一因になりえる。自信が増すと、学校への入学につながるかもしれない。同様に職を得ることによって、自己効力感とエンパワメントの意識が増加する可能性がある。楽しい日々を過ごすことによって、自尊感情が高まる可能性がある。

p. 42
【旅としての人生】単に、リカバリーとは何か、リカバリーでないものは何かを理解することが重要であるばかりでなく、リカバリーがその人の人生の経過を通してどのように展開するものなのかを理解することもまた重要である(p.42)。私たちは、彼らがリカバリーし、再起し、彼らの人生を変革させる能力をもっていると信じているだろうか?……ストレングスモデルの実践者にとって、リカバリーとは奉仕する人のために掲げられるビジョンである。そのようなビジョンがないと、ケースマネジメントの実践は、成長や目標達成ではなく、現状維持に終始してしまう。リカバリーの希望に満ちたビジョンがないと、実践は目的をもった前向きなものでなく、受け身的になってしまう。リカバリーのビジョンは、ストレングスを実践するための原動力となる。


*作成:伊東香純
UP:20210212
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