『セルフヘルプ・グループの自己物語論――アルコホリズムと死別体験を例に』
伊藤 智樹 20091010 ハーベスト社,240p.
last update: 20130209
■伊藤 智樹 20091010 『セルフヘルプ・グループの自己物語論――アルコホリズムと死別体験を例に』,ハーベスト社,240p. ISBN-10: 4863390130 ISBN-13: 978-4863390133 \2600+税 [amazon]/[kinokuniya] alc d01 n08 s s01 s02
■内容
・第1章「問題設定と方法」の第1節「問題設定」より
本書の目的は,セルフヘルプ・グループを自己物語構成の場としてとらえることにある.なぜセルフヘルプ・グループは知識面では素人でも社会の中で敬意を払われるべき存在なのか,なぜセルフヘルプ・グループでは体験や想いが傾聴されるべきなのか、こうした根本的な問いに答えてゆくための鍵は,参加者たちの自己物語が握っている(7).
今問われるべきは,参加者たちはセルフヘルプ・グループにおける自己物語構成によってどのような生を創出しようとするのかである.個々のセルフヘルプ・グループにおいてどのような物語を語ることができ,そうした物語を語ることで参加者がどのような生を創ろうとしているのか,こうした点まで踏み込む分析的な理解が行われて初めて,私たちは,セルフヘルプ・グループが自己物語構成の場になっていると本当にいえるのである(9; 下線部原典では傍点)
■目次
第1章 問題設定と方法 7-29
第1節 問題設定 7-10
第2節 「物語」概念の導入とナラティヴ・アプローチの方法 10-12
第3節 調査の概要 12-26
1. 二つの調査対象 12-20
1-1. AAと断酒会 13-19
1-2. 死別体験のセルフヘルプ・グループ 19-20
2. 調査方法とデータ 20-25
2-1. フィールドワーク 20-21
2-2. インタヴュー 21-24
2-3. 文書資料 24-25
3. 倫理 25
4. 研究方法による限界 25
5. データ表記の仕方に関する一般事項 26
第4節 本書の構成(Overview) 26-27
注 27-29
第2章 セルフヘルプ・グループ,物語,自己――セルフヘルプ・グループ研究におけるナラティヴ・アプローチの潮流 31-50
第1節 セルフヘルプ・グループ研究の構図と機能論 31-39
第2節 機能論から物語論へ 39-44
第3節 物語行為の社会化論 44-47
第4節 まとめ 48
注 48-50
第3章 自己物語構成の分析枠組み 51-79
第1節 形態分析の方法と手順 51-58
1. 物語の抽出 51-52
2. データを分節する二つのやり方 52-55
2-1. ラボフ=ワレツキー・モデル 52-54
2-2. リースマンの詩モデル 54-55
3. 物語を特徴づける:前進的/後退的な物語,エピファニー 55-58
第2節 物語行為分析の視座と方法 58-62
1. 物語行為の場が持つ特殊性 58-60
2. 物語行為の場としてのインタヴュー 60-62
第4節 貧弱な次善策としてのセルフヘルプ・グループ――T. ワルターの死の社会学における解釈 70-73
第5節 まとめ 73-74
注 74-79
第4章 治療的言説の中の物語 81-95
第1節 物語の不在,精神病理学的な物語――アルコホリズムの場合 81-85
第2節 物語の散在,悲嘆の段階論――死別体験の場合 86-92
第3節 治療的言説と「回復の物語(the restitution narrative)」 92-94
注 94-95
第5章 転落と再生の物語を語る――アルコホーリクたちの自己物語と物語行為 97-138
第1節 集会の風景 98-104
第2節 転落と再生の物語――アルコホーリクたちの自己物語の形態分析 104-112
第3節 物語を語る楽しみ,正直さの基準,頻繁な出席 112-116
第4節 エピファニーを際立たせる――アルコホーリクEさんの物語編集 116-129
第5節 途上の道連れ――インタヴューからみる物語の聞き手 129-132
第6節 まとめと中間的な考察――セルフヘルプ・グループを好まない語り手Kさんとの比較 132-137
注 138
第6章 悲しみと記憶の物語を語る――死別体験者たちの自己物語と物語行為 139-177
第1節 集会の風景 140-144
第2節 死別体験者たちが語る自己物語の形態分析 144-146
第3節 体験を想起する語り 146-149
第4節 鳥と語る人――死別体験者Dさんによる自己物語の変化 149-168
第5節 厚い信頼と退屈への配慮――インタヴューからみる物語の聞き手 168-170
第6節 まとめと中間的な考察――セルフヘルプ・グループを好まない語り手Uさんとの比較 170-177
注 177
第7章 自己物語構成の社会的文脈 179-212
第1節 自己物語構成が可能にすること 179-191
1. 物語と人生を相互に浸透させる:アルコホリズムの場合 179-183
2. 個性をもった悲しみと記憶:死別体験の場合 183-191
3. 人々の方法としての物語行為:二つのグループの相違点 191
第2節 セルフヘルプ・グループの物語と「回復の物語(the restitution narrative)」 191-197
第3節 自己物語構成とセルフヘルプ・グループの聞き手 198-209
1. 受け止める聞き手 198-201
2. 物語を促す聞き手 201-208
3. 自己物語の社会的基盤としてのセルフヘルプ・グループ 209
注 209-212
第8章 結論と展望――「回復の物語(the restitution narrative)」の生き難さに立ち会う社会学に向けて 213-219
あとがき 220-222
文献 223-234
人名索引 235-237
事項索引 238-240
■引用
・セルフヘルプ・グループのはたらきをめぐって(第3章第4節)
もう一つの重要な観点は,「回復の物語」が機能しない経験を私たちが見出した場合,人々はどのようなコミュニケーションの回路によって自己物語を作ってゆくのか,あるいは作ってゆけるのかという問題である〔中略〕重要なことは,「回復の物語」に収まらない経験が,全くの混沌に終わらず,さまざまな筋によって具現化するプロセスであり,そのプロセスに他者はいかなる形で関与するのかということである〔中略〕セルフヘルプ・グループは,それ〔=刊行される物語を書く〕とは別のコミュニケーションの回路として機能する潜在性を持っている.社会学にとって重要なことは,人々が自己物語を編んでゆくに際して選択可能な他者のヴァリエーションを認識し,それぞれの特徴をとらえることにある.しかし,フランクのねらいは,病いの証言として物語を紡ぐことが持つ倫理性へと向かうために,この重要な論点は,深められることなく残されることになった(70; 〔〕内コンテンツ作成者加筆).
→cf. 『傷ついた物語の語り手――身体・病・倫理』
■書評・紹介
■言及
◆伊藤智樹,20100630,「英雄になりきれぬままに――パーキンソン病を生きる物語と,いまだそこにある苦しみについて」『社会学評論』61(1): 52-68. ISSN: 00215414
([外部リンク]J-Stageで全文閲覧可.PDFファイル)
◆中田喜一,20120320,「日本のセルフヘルプグループ言説の歴史社会学──1970年から現在まで」 角崎洋平・松田有紀子編『歴史から現在への学際的アプローチ(生存学研究センター報告17)』,立命館大学生存学研究センター,263-83. ISSN: 18826539
*作成:藤原 信行