『リカバリー―希望をもたらすエンパワーメントモデル』
カタナ・ブラウン(編)坂本明子(監訳) 201206 星和書店,227p.
last update:20210204
■Brown, Catana, 20021025, Recovery and Wellness: Models of Hope and Empowerment for People with Mental Illness. Philadelphia: The Haworth Press. =2012,坂本明子(監訳)『リカバリー――希望をもたらすエンパワメントモデル』金剛出版,ISBN-10: 4772412557,ISBN-13: 978-4772412551,[amazon]/[kinokuniya].
■内容
(出版社ホームページより)
精神疾患からの「リカバリー」とは,疾患を経験する前の状態に戻ることではなく,苦痛を経て,それでも夢や希望を携え,人生の舵をとる新たな自分に変化することである。本書は,精神障害者の当事者運動のなかで発生し,今や世界中の精神医療福祉政策にインパクトをあたえ続けている「リカバリー」の概念について,パトリシア・ディーガン,メアリー・エレン・コープランドら先駆者の議論や,ストレングスモデルで名高いカンザス大学の作業療法士(OT)たちの実践を集めた論集である。「第1部 リカバリー・ストーリー」では,リカバリーにおいて特に重要な位置を占める「当事者自身の経験」が紹介され,「第2部 リカバリーへの哲学的視点」ではリカバリーの理念を思想史的な文脈から再考する。そして「第3部 リカバリー原則に基づいた実践と研究」では,当事者自身のリカバリーに伴走するための支援・研究技術が紹介される。
■目次
序
PART 1 リカバリー・ストーリー
第1章 自分で決める回復と変化の過程としてのリカバリー パトリシア・E・ディーガン
第2章 ユニークなまなざしとチャンスの数々―ピアスタッフの視点から シェリー・ブレッドソー
第3章 虹が語り,太陽をつかむ場所―本当の私の色を見つけだす シュゼット(スーザン)・マーク
PART 2 リカバリーへの哲学的視点
第4章 人生の経験は病ではない―狂気を医療の対象とすることがなぜリカバリーを妨げるのか ユーリ・マクグルーダー
第5章 教育アプローチと作業療法における心理教育 ルネ・パディラ
PART 3 リカバリー原則に基づいた実践と研究
第6章 地域精神保健領域におけるリカバリーと作業療法 ジェイソン・L・ウォーレンバーグ
第7章 何が私にとって最良の環境か?―感覚処理の視点 カタナ・ブラウン
第8章 WRAP元気回復行動プラン―不快でつらい身体症状と感情をモニターし,やわらげ,取り除く仕組み メアリー・エレン・コープランド
第9章 参加型アクションリサーチ―精神保健領域の研究者と精神障害を有する人との間のパートナーシップを構築するモデル メリッサ・レンプファー/ジル・ノット
監訳者あとがき
■言及
■書評・紹介
■引用
pp. 3-4(カンタ・ブラウン)
【序】リカバリーモデルはコンシューマー運動から台頭してきた。リカバリーモデルは、自分の人生の主導権を持ち、自分自身のユニークさを認め、価値あるものとし、コミュニティに属し、参加し、そして希望と夢を創造し、実現していく、その過程なのである。第1部は、リカバリーしている人々の声である。@パトリシア・ディーガンはナショナルエンパワーメント・センターの創立者であり、リカバリーの第一人者である。統合失調症からのリカバリーという彼女の経験を彼女自身の視点と言葉で述べている。彼女はまた、サービス提供者がリカバリーをいかにして支援できるかについて示唆している。Aシェリー・ブレッドソーは、サービス利用者兼サービス提供者である自分の体験を述べている。彼女の論文は、メンタルヘルスセンターでのピアスタッフとしての挑戦と成功についての概略を述べている。B精神疾患を持ちながら成長すること、作業療法士になること、そしてリカバリーの意義と発見に関するスーザン・マックの記述である。
pp. 4-5(カンタ・ブラウン)
【序】最後、第3部では、リカバリーの原則の活用に焦点を当てている。ジェイソン・ウォーレンバーグはリカバリー概念に基づいた作業療法の過程について概観している。メアリー・エレン・コープランドは、彼女のWRAP、元気回復行動プランについて紹介している。このプランは日常生活を元気に送る方法や対処をまとめる仕組みであり、今では多くの慢性疾患を持つ人々に使われている。作業療法士が、この本を読んで、関心を持ち、刺激となるものを見つけること、そして見つけたアイデアや活用方法が実践を変えてくれることを願っている。
p. 6(カンタ・ブラウン)
【編者:カンタ・ブラウン】コロラド州立大学で作業療法士においてBSを取得、ニューヨーク大学で作業療法においてMAを取得、カンザス大学で教育心理学研究においてPhDを取得。カンザス大学メディカルセンターの准教授である。ブラウンの主な研究と実践の関心は、精神障害を持つ人々が地域生活の質を高めることである。ブラウンは、エンパワーメント、希望、そして成功と満足した生活というアウトカムに焦点を当てること、最も重要なのはサービス利用者の展望に立つこと、そして自分たちの実践を未来に向けて構想する挑戦こそが、ウェルネスとリカバリーの原則であると明言する。
p. 14(パトリシア・ディーガン)
この論文では、自分で決める癒しと変化の過程としてのリカバリーを私個人的体験から分かち合うとともに、専門職がどのようにリカバリーの過程をサポートできるかについて、いくつか提案したいと思います。
pp. 17-21(パトリシア・ディーガン)
精神科医、ソーシャルワーカー、看護師、心理学者、作業療法士にとって最も重要なことは、私が統合失調症であることでした。私の傍で仕事をしている彼らの目線では、私のアイデンティティは病気に化してしまいました。私がこの烙印と私自身から人間性を奪う見方を内在化し始めるのは、時間の問題でした。人間性を奪うことは暴力行為です。〔中略〕精神科医は、「ディーガンさん、あなたは統合失調症と呼ばれる病気にかかっています。統合失調症は糖尿病のような病気です。ちょうど糖尿病患者が一生薬を飲む必要があるように、あなたは一生薬を飲む必要があるでしょう。あなたがこのハーフウェイハウス※)に入所すれば、症状に対処できるようになると思いますよ」〔中略〕精神科医のオフィスでのこの瞬間が、私のリカバリーの過程における大きな転換期となったことがわかるのは、のちのことです。悲運な運命の予測を拒絶したと同時に、私は私の価値と尊厳を再確認したのです。不当な扱いへの怒りを通して、「私はそんなものではない、統合失調症などではない」と断言していました。人が否認や病識欠如として見ていたことが、私にとっては、リカバリーの過程における転換期となる体験だったのです(p.18-20)。「私はディーガン博士になり、もう二度と、こんなふうに誰かを傷つけない、正しいやり方が行われるメンタルヘルスの組織を作ろう」と考えている自分に気がつきました(p.20)。あくまでサバイバーとしての使命を見つけたことが、私のリカバリーの前進であったと言えます(p.21)。 ※訳注1)ハーフウェイハウスとは、退院後の社会復帰の準備を行う共同住居。
pp. 22-25(パトリシア・ディーガン)
私がリカバリーの過程でとった本当に前向きな最初の一歩は、私の祖母の促しによって起きました。毎日、彼女は、私に食料品の買い出しに一緒に行きたくないかと誘い、毎日私は「いいえ」と答えていました。ある日のこと、理由もなく、彼女の誘いに「はい」と答えました。その「はい」と、それに続くカートを押すだけの市場への小旅行が、私のリカバリーのための積極的な第一歩だと理解しています(p.22)。その時、元患者のためのセルフヘルプグループ、サポートグループはまったくなかったので、自分で何とか対処方法をつくりあげていました。表1は、私がつくった自分をいたわる重要な方法のリストです(p.23)。〔中略〕寛容な環境はいつも私のリカバリーに役立つことが分かりました。一人暮らしから、元ヒッピーのグループの人たちと協働でアパートの一室を借りたとき、偶然に発見しました。彼らは私が狂気を体験する余地を与えてくれました(p.24)。ハーフウェイハウスにいたなら、私は、これらの重要なセルフケアのレッスンを積むことは決してなかっただろうし、リカバリーの進みは遅くなっていたか、あるいはとめられていたかもしれません(p.25)。
p. 31(パトリシア・ディーガン)
精神保健福祉領域の専門家の役割は、従順ではなく、自分で方向性を決めることを学ぶように援助すること。それがリカバリー過程における目標です。なぜなら、リカバリーは、一人ひとりのユニークな旅だからです。マニュアルに基づいたアプローチではないのです。
*作成:伊東香純