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『人間の本性を考える――心は「空白の石版」か』

Pinker, Steven 2002 The Blank Slate: The Modern Denial of Human Nature, Viking Penguin.
= 20040830 / 20040930 山下 篤子訳 日本放送出版協会, 301+300+345p.


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■Pinker, Steven 2002 The Blank Slate: The Modern Denial of Human Nature, Viking Penguin. = 20040830 / 20040930 山下 篤子訳 『人間の本性を考える――心は「空白の石版」か』, 日本放送出版協会, 301+300+345p.  ISBN-10: 4140910100(上); 4140910119(中); 4140910127(下)  1176円(上・中); 1260円(下) [amazon](上); [amazon](中); [amazon](下)

■内容(「BOOK」データベースより)
 人の心は「空白の石版」であり、すべては環境によって書き込まれる。これは、二〇世紀の人文・社会系科学の公式理論であり、反対意見は差別や不平等につながるとして、今なおタブー視される。世界的な認知科学者が、人の心や行動の基礎には生得的なものがあることを最新科学で明かし、人間の本性をめぐる科学が、道徳的・感情的・政治的にいかにゆがめられているかを探究する。米国で大反響のベストセラー、待望の翻訳。

 認知科学や進化心理学、脳科学などの最新知見によって、思考や感情に生得的なパターンが存在することが明らかになった。しかし、人間の本性をめぐる科学は、不平等や差別を正当化し、社会変革をつぶすのではないかという敵意や恐怖心が存在する。豊かな人間本性の発見が、平等・進歩・責任・人生の目的を損なうどころかむしろ向上させることを明らかにし、心を「空白の石版」とみなす相対主義的思考が、普遍的な人間性や生得的特性を否定することで、硬直した人間観・社会観につながることを明快に説く。

 豊かな人間本性の存在を認めることは、現実問題にも新しい視野をひらく。暴力的な感情は進化のなかで用意されてきたもの。その進化の仕組みの解明は、暴力の根絶に貢献する。男女の心の生得的な違いを理解することで、女性差別や性暴力の撤廃が推進される。子どもの知能や性格の生得性を知ることは、育児の負担を軽減する。日常に真の現実性と元気をもたらす新しい人間観の登場!

■目次
T 三つの公式理論――ブランク・スレート、高貴な野蛮人、機械のなかの幽霊
 第1章 心は「空白の石版」か
 第2章 ブランク・スレート、アカデミズムを乗っ取る
 第3章 ゆらぐ公式理論
 第4章 文化と科学を結びつける
 第5章 ブランク・スレートの最後の抵抗
U 知の欺瞞――科学から顔をそむける知識人たち
 第6章 不当な政治的攻撃
 第7章 すべては詭弁だった――「三位一体」信仰を検討する(以上、上巻の内容)
V 四つの恐怖を克服する――不平等・不道徳・無責任・ニヒリズム
 第8章 もし生まれついての差異があるのならば…
 第9章 もし努力しても無駄ならば…
 第10章 もしすべてがあらかじめ決定されているのならば…
 第11章 もし人生に意味がないのならば…
W 汝自身を知れ――心の設計仕様書
 第12章 人は世界とふれあう――相対主義の誤謬
 第13章 直観とその限界
 第14章 苦しみの根源はどこにあるのか
 第15章 殊勝ぶった動物――道徳感覚の危うさについて(以上、中巻の内容)
X 五つのホットな問題――人間の本性から見る
 第16章 政治――イデオロギー的対立の背景
 第17章 暴力の機嫌――「高貴な野蛮人」神話を超えて
 第18章 ジェンダー――なぜ男はレイプするのか
 第19章 子育て――「生まれか育ちか」論争の終焉
 第20章 芸術――再生への途をさぐる
Y 種の声――五つの文学作品から

■紹介・引用
◆…私は、多くの人が決め込んでいるように、極端な「生まれ」の立場から、極端な「育ち」の立場や、 その中間のどこかに存在する真実に対抗しているのではない。ある場合には、極端な環境要因派的な説明が正しい。 人がどの言語を話すかはその明白な一例であり、人種や民族集団のあいだに見られる検査スコアの差異はもう一つの例ではないかと思われる。 これに対して、ある種の先天的な神経疾患などの場合は、極端な遺伝要因派的な説明が正しい。そのほかの大部分のケースでは、 遺伝と環境との複雑な相互作用が正しい説明の引きあいにだされる。文化は重要だが、そもそも人間が文化を創造し学習するのを可能にした心的能力なしには存在しえない。 この本の目的は、遺伝子がすべてで文化は何ものでもないと論じることではなく(そんなことはだれも信じていない)、なぜ極端な立場(文化がすべてだという立場)が しばしば中庸の立場と見なされ、中庸の立場が極端と見なされるのか、その理由を探ることにある。(上巻、p.10)
◆…男の子が喧嘩をするのは喧嘩を奨励されているからだ。子どもが菓子を好むのは親が野菜を食べる褒美に菓子を利用するからだ。 ティーンエイジャーが外見やファッションを競う発想はスペリング・コンテストや成績優秀者の表彰からきている。 男がセックスの目的をオーガズムだと考えるのはそのように社会化されたからである、などなど。 問題は、こうした主張が単に荒唐無稽なだけでなく、常識を疑われそうなことを言っているという認識が書き手に欠けているところにある。 これは空想的信念が信仰の深さの証拠として堂々と誇示される、カルトの精神状態である。その精神状態は、真実の尊重と共存できないし、 私が考えるに、近年の知識社会に見られるいくつかの残念な傾向の原因になっている。その一つは、多数の学者のあいだに見られる、 真理、論理、論拠といった概念に対するあからさまな軽蔑。もう一つは知識人がおおやけの発言と実際の信念を使い分ける偽善的態度である。 三つめは、それに対する必然的な反応である。すなわち、学界が一般社会の信頼を求める資格を失ってしまっていることを知って勢いづき、 反知性主義と偏狭な考えをふりまく「政治的に不適切な」ショック・ジョック(過激な発言や下品な言葉づかいを売りものにするディスク・ジョッキー) の文化である。
 人間本性の否定は、批評家や知識人の世界をむしばんでいるだけなく、現実の人々の生活にも害をおよぼしている。 親が子を粘土のように形成できるという説のために、世の親たちは不自然な、そしてときに残酷な育児体制を強いられてきた。 またこの説は、自分の生活と育児のバランスをとろうとする母親が直面する選択をゆがめ、子どもが希望どおりに育たなかった親の苦しみを倍加している。 人間の好みは取り消しの効く文化的選好だという信念のせいで、人は装飾や自然光やヒューマン・スケール(人間の感覚や行動に適合した、 物の大きさや空間の規模)を心地よく感じるということが社会計画において考慮の対象外となり、その結果、何百万という人びとが殺風景な コンクリートの箱のなかに住むことを余儀なくされてきた。悪はすべて社会の所産であるという現実ばなれした見解のために、罪のない人びとを ためらいもなしに殺した危険なサイコパス(精神病質者)の釈放が正当化されている。そして、大規模な社会工学のプロジェクトで 人間性をつくりかえられるという確信は、史上屈指の残虐行為につながった。(上巻、p.13-14.)

■書評・言及
◆人間性は生得か、環境か?
 「人間の本性」に関する公式教義は、長らく「空白の石版」説だった。人の心は環境によってどうにでも変わる、という人間観。この考えが好都合なのは、近代以降の社会改革、そして現代の平等思想に合っているからだ。
 しかし近年の社会生物学の発見によれば、ヒトの遺伝的本性は、自然淘汰により強固に決定されてきたらしい。この進化論的見方に対し、北米でどれほど激しい政治的反発が生じているかを活写する本書は、これ自体が強い政治メッセージを放っている。すなわち「真理を政治で歪めるな」。「空白の石版」説によってもたらされた害毒の実例を次々に槍玉に挙げるのだ。
 とりわけ熱のこもった議論は、レイプについて。ジェンダー・フェミニズムは、男女差別を糾弾する根拠として「男女に本性の違いはない」と唱える。レイプは性欲とは無関係で、社会が作り出した「支配の道具」だと。しかし、他の霊長類にも強制交尾がみられる事実からして、フェミニストの言説は虚構なのだ。雌雄の繁殖戦略の実態を無視した改革運動は、レイプ防止策にとって大きな障害になっているという。
 人間本能の邪悪さから目をそらしたり、遺伝子組み換え食品を拒んだりするのは、「自然はよい」という無反省なロマン主義である。倫理的価値と自然とは別なのだと認識してこそ、無慈悲な自然淘汰からの独立を勝ち取れるのだ。
 マルクス主義やポストモダニズムの不純な偏見と延命工作を暴いてゆく著者の舌鋒に「よくぞ言ってくれた」と歓声あげっぱなしの私だったが、ただ一つ、芸術を論じた章には首をかしげた。人間本来の感性におかまいなく難解になりすぎた現代芸術が批判されるのだが、倫理と同じく芸術も、安易な本能的自然から離脱すべし、という見識も当然成り立つはずだろう。「善」と「美」に対する本書の矛盾した姿勢は、認知心理学が倫理と芸術をどう見ているかの実例として、しばし考えさせられた。山下篤子訳。(読売新聞書評 2004.10.10、評者:三浦 俊彦(和洋女子大学教授))



*作成:坂本 徳仁
UP: 20080719
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