『資料シリーズ No.11 精神障害者の職業リハビリテーション――「世界精神保健連盟'93世界会議」から』
障害者総合職業センター 199511 障害者総合職業センター.
last update:20210204
■障害者職業センター,1995,『精神障害者の職業リハビリテーション――「世界保健連盟'93世界会議」から』日本障害者雇用促進協会 障害者職業総合センター.[全文]
■内容
■目次
序章 目的と会議の概要
第1節 目的と構成
第2節 「世界精神保健連盟'93世界会議」の概要
第3節 サブテーマ「精神障害者の職業リハビリテーション」
第T部 基調講演
第1章 講演者の紹介
第2章 「重篤な精神疾患を持つ人々の職業リハビリテーション:問題と神話」
第1節 精神障害者の就労実態
第2節 過去の神話
第3節 変化と将来の方向
第4節 結論
第5節 文献
第U部 シンポジウム
第3章 参加者の紹介と主旨
第1節 参加者の紹介
第2節 シンポジウムの主旨
第4章 医療と作業療法の視点
第1節 医学的リハビリテーション
第2節 精神科作業療法
第5章 社会復帰施設と地域医療の視点
第1節 社会復帰施設
第2節 地域ネットワーク
第6章 職業リハビリテーションの視点
第1節 働くスタイルの探索
第2節 キャリア発達
第7章 問題の所在と指定討論
第1節 問題の所在
第2節 指定討論-T
第3節 指定討論-U
第8章 追加発言と討論
第1節 追加発言
第2節 討論
第V部 発表抄録
■言及
■書評・紹介
■引用
p. 1
精神科作業療法から始まり、入院患者の院外作業や通院患者の「職親制度」が、国の制度としての「通院患者リハビリテーション事業」に引き継がれてきた。これに対して、職業リハビリションの領域で精神障害者を対象としたのは最近になってからであり、精神障害回復者を対象とした職場適応訓練制度の適用や職業準備訓練・職域開発援助事業が実施され、また、事業主にする助成金制度も幾つか適用されるようになって来ている。1994 年から、「精神障害者リハビリテーション研究会」が開催され、精神科医療や精神保健分野と職業リハビリテーションの専家が一堂に会した研究会が開始され、実践家の間での交流がますます進展して来ている。アンソニー(Anthony,W.A)教授の提唱する精神科リハビリテーションは、心理教育的アプローチであり、米国では、理論的にも政治的にも非常に強い影響力をもっていると言われている。その基本的な視点は、患者のニーズを重視することにあり、患者の発言の裏にはどのようなニーズや希望があり、そのニーズを満足させるにはどのように目標を設定して、患者を成長させ、環境からのサポートを活性化したらよいか、について患者との面接を通して患者と一緒に考えることに特徴がある。
p. 6
共同作業所は、我が国の精神障害者に対する社会復帰対策や雇用対策の立後れや、障害者自身の意識の変化、公的補助金制度の拡充、法定外事業の利点などを背景として急激な増大を遂げている。その機能の効果や今後の課題について総括的な指摘がなされた上で、民間のみならず公立の共同作業所についても、新しい実践的な取り組みの幾つかの事例が詳細に紹介された。それらを通して、共同作業所は、無為で無目的な生活や周囲の目から開放されて、自力で賃金を獲得して生活のリズムを取り戻し、人間関係の回復に貢献することが指摘された。共同作業所での就労支援活動の実際や労働の意義と役割の他に、精神障害者通所一授産施設や社会復帰施設での作業療法士の役割や職業リハビリテーションの取り組みが紹介された。
p. 11
10 年前の1983 年に、ILO は「障害者の職業リハビリテーション及び雇用に関する条約」、いわゆる159 号条約を採択いたしましたが、日本では、「国連・障害者の10 年」の最終年である1992年にそれを批准したばかりでありますILO が159 号条約を採択した後の日本政府の障害者の雇用対策は、1987 年に「身体障害者雇用促進法」の抜本的な改訂を行い、法の対象となる障害者の範囲を、身体障害から精神薄弱者および精神障害者にまで拡充して、すべての障害者を対象とするようになりました。この時に、法律の名称も「障害者の雇用の促進等に関する法律」に変え、雇用対策の一層の充実を図ることとなったのです。さらに1992 年に再度の改正を行っています。この間の精神障害者対策としては、1986 年より職場適応訓練の制度を実施し、また、1992 年より特定求職者雇用開発助成金および納付金に基づく助成金の対象となって来ました。しかしながら、これらの対象となる人はいわゆる「精神障害回復者」であり、「精神分裂病、そううつ病、てんかんにかかっている者で症状が安定し、就労が可能なもの」、と規定されております。〔中略〕、1970 年以降に、医療行政からの補助で職業リハビリテーション事業が行われて来たのですが、これが、以上の枠内に留まる限り、将来の発展性はないと思います。ここ数年来、医療、福祉、労働の3 者の垣根を取り払って、地域障害者職業センターでは慢性分裂病患者のための職業リハビリテーションと職業準備訓練の事業を推進するように努力し始めたばかりでございます。
p. 17(ウィリアム・アンソニー)
退院して地域に戻ったからといって、仕事に就けるとか働く意欲があるはずだ、と短絡的に考えて頂きたくないのです。退院して地域に戻ることが望ましいことは言うまでもありませんが、退院した人はすべて仕事に就けるとか仕事をするべきである、と考えてはいけないのです。職業リハビリテーション活動の難しさは、退院して生活状態の良い人が仕事に就けるか否かをどのように見極めるか、という点にあるのです。
p. 18(ウィリアム・アンソニー)
職業リハビリテーションの最も基本的な過程は、精神障害のある人が自分で仕事を「選び(choosing)」「見つけ(getting)」「維持する(keeping)」ものである。サービスを受ける人こそが主体であり私たちはそれを支援する立場である、ということを明確にしているのです。「選択(choosing)−確保(getting)−維持(keeping)」この「選択−確保−維持」モデルに従うと、職業的な成功を遂げるには、この3 段階の領域についての能力が基本的に必要であるということになります。精神障害のある人が職業的な場面でこれらの3 段階の能力を発揮するならば大変によいことですし、そうでない場合には、担当者は、不足している能力段階に的を絞って教示や支援をすれば良いのです。
p. 19(ウィリアム・アンソニー)
「選択−確保−維持」モデルの基本となっているのが、「選択」の概念です。精神障害のある人は、自分の興味・能力・履歴・過去の経験などに最も適合するような仕事を、自分で積極的に選択する機会が与えられるべきなのです。人と仕事とのマッチングは当事者自身が参加して行うべきであり、それを他人が勝手にすることは避けなければなりません。サービス提供者はそれを受ける人が自分で意志決定できるように支援することが重要なのです。また、リハビリテーションは、当事者に対してではなくて、当事者とともに行うものなのです。
p. 20(ウィリアム・アンソニー)
こうした、サービスを受ける人が自分で自分のことを決定できないという現実は、本人が精神障害を持っているからではなくて、むしろ、選択の過程に本人を積極的に参加させる仕組みになっていない精神保健やリハビリテーションのシステムそのものが原因ではないでしょうか(Anthony,Howell & Danley, 1984)。大切なことは、本人の視点に立つことであり、たとえば、彼の文化・興味・希望などを選択の過程の中に明確に反映させていくことなのです。
p. 21(ウィリアム・アンソニー)
当事者の持てる力と不足している部分や症状さえ明らかになれば職業リハビリテーションの課題は解決できる、といった評価や処遇はもはや空虚なものとなっています。今日では、個人と環境の双方に対して評価すべきであるということが、精神保健の分野でも現実味を帯びて来ています。ここで言う環境は非常に広い概念で捉えおり、例えば、やがては就職するかもしれない職場の他にも、社会保障や障害者福祉の制度なども含みます。これらのすべてのシステムが、リハビリテーションの成果を良くも悪くもするのです。
p. 21(ウィリアム・アンソニー)
米国では、精神障害のために働けない場合には年金が支給されますが、仕事に就くとその受給資格が無くなってしまいます。そのために、受給資格を継続するために働かないという人もかなりの数になります。ですから、経済的な自立は社会保障や福祉の制度と連動して考えなければなりません。こうしたさまざまな環境条件を総合的に捉えて、もしも、そうした制度のために働きたくないというのであれば、そうした問題にも対応する必要があります。それゆえ、精神保健の分野は、環境条件を障壁と考える(それはまた、促進剤になると見なすことでもありますが)ことによって、リハビリテーションの哲学と技術に対する眼を開くことになるでしょう(Anthony, Cohen &Farkas,1990)。
p. 22(ウィリアム・アンソニー)
精神保健に従事する人たちは、提供されるべき支援についての理解が高まって来ております。援助付き雇用、援助付き住宅、援助付き教育、そして消費者として活用できる幾つかのプログラムは、同じ障害者の支援、友人等による世話、専門的な支援、あるいは支援ネットワークなどを提供しているのです。支援をどのように提供するかという点についての課題はまだ多く残されておりますが、支援を提供することは職業リハビリテーションを成功させるための常套的な介入になっているのです。支援の提供、中でも、環境的な支援を提供することの重要性を、私たちはよく理解することが重要なのです。
p. 24(ウィリアム・アンソニー)
精神科の職業リハビリテーションは患者の病気を治すための新しい治療法ではない、ということを理解しておかねばなりません。そうではなくて、精神障害のある人が、人生の過程において重要な役割を十分に果たして心理的にも物理的にも利益を享受するための試みである、ということを肝に命じて頂きたいのです。〔中略〕精神障害のある人の職業リハビリテーションの最も重大な課題は、当事者の誇りと希望を回復することです。これはまさに、フロストの詩のとおりなのです。「精神障害のある人の職業リハビリテーションは、忘れられた過去の誇りを呼び起こし、可能な未達成の希望を呼び起こす(Psychiatric vocational rehabilitation attempts to instill pride in things done but since forgotton, and instill hope for things undone but still possible)」
*作成:伊東香純