last: update: 20251020
◆高岡 杏, 種村 光太郎, 宮本 敬太, 山口 和紀 2025/10/25-26 「地域移行を伴う重度障害者の大学院進学の課題」, 障害学国際セミナー2025, 於:京都(日本)
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オープン・コーディングでは、とくに「介助(現場)」と「就学(現場)」に関連する困難が多かった。「介助(現場)」における項目が多い要因として、日常介助を行うヘルパーの交代は規則的に行われることが多い一方で、授業時間の延長や、突発的な院生同士の研究相談など、周りの学生や教員の関係によって不規則に変更がある学内での予定においては、日常的な支援を変則的に組み替える必要性が生じることによる。また、帰省やフィールドワークの際に、帰省先や訪問先と生活拠点間の移動のヘルパー調整のために、事前に具体的スケジュールを介助関係者に連絡していたとしても、ヘルパーの外出介助経験の不足や移動の負担という、「利用者の生活/研究」と「介助者の仕事」の間にある非対称性、ひいては「重度障害者の長距離の移動を前提としていない福祉制度」により、帰省やフィールドワークが困難になる場合がある。これらから、現行の就学支援や福祉制度が時間を守る、あるいは長距離の移動を行わないという「標準的な障害者」像を想定した設計になっていることにより、派遣調整や慢性的な介助者不足、設備不備などが重なることで継続的な調整負担が生じていることが浮かび上がる。これは、日本の大学における就学支援事業と、福祉サービスの狭間によって生じたものでもあると考えられる。
また、「就学(現場)」における項目が多い要因としては、筆頭報告者の関係者たちからの「障害者」としての規範の眼差しや、日常的に行うコミュニケーション方法から派生する問題があると考えられる。筆頭報告者は、研究環境の整備に伴い周辺的なサポートを求めた際に、日常的に「障害者」としての周囲の眼差し、具体的には自立生活運動の文脈で主張されてきた「自立生活」を前提とする「主体的な障害者」像や、規則正しさを求められたり、守られるべき存在としての「受動的な障害者」像の眼差しを経験した。また筆頭報告者は、発声ができないことから、iPadに入力した文字を媒介としてコミュニケーションを行っているが、このようなコミュニケーション方法の場合、天畠が指摘するように、必然と即時性が欠如するため、健常者に比べ、コミュニケーションに時間を要する。そのため、相手が筆頭報告者の「障害者」像や意図を間違って先読みしてしまうことも生じ、筆頭報告者は、そのような人物像や意図と自己がいかに異なるかを説明するコストが新たに生じた。 以上から、福祉制度上で想定されている「模範的な障害者」像や、大学院という研究活動の場において生じる「主体的/受動的な障害者」像で眼差されることにで生じる自他のギャップによって、利用者の心理的・身体的な負担が生じると考えられる。
*作成:中井 良平
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高岡 杏, 種村 光太郎, 宮本 敬太, 山口 和紀 2025/10/25-26 「地域移行を伴う重度障害者の大学院進学の課題」
"Graduate School Challenges for Persons with Severe Disabilities in Community Transition"問題
本報告は、発話困難な重度身体障害者が大学院に進学すると同時に、他地域への地域移行(引越し)が行われる際、入学前の準備段階から入学後、そして就学や研究を進める中で直面する、複合的課題を検討するものである。 発話困難な重度身体障害者が大学院で学ぶ上での問題については、天畠(2014)が述べる、コミュニケーションにおける「即時性の欠如」による研究遂行上の困難性などが述べられている。また、福田(2024)では、日英の社会福祉サービスの比較から、日本の社会福祉サービスと「重度訪問介護利用者の大学就学支援事業」の制度の間には連携が取れていない箇所があり、福祉サービスの充実と、高等教育進学における福祉と教育の連携の必要性を提示する。本報告では、従来のそのような研究に示唆を得つつも、そのようなコミュニケーションの即時性の欠如の問題や制度的な隙間の狭間で生じる問題が重層的になることが、いかなる意味で問題となっているのかを報告する。方法
重度の脳性麻痺を持つ身体障害者(筆頭報告者)や、その進学にあたっての支援者(注1)により、進学時に起きた課題事例の抽出を行い、進学前後の生活上の課題や支援制度の利用状況を時系列的にカテゴライズした。項目としては、「院試における配慮事項の申請に手間取った」「合否決定後でないと介助の調整ができない」など、計36事項になった。その上で、それらの事項にオープン・コーディングを実施した。コード化の際には、制度的制約、情報アクセスの困難、地域支援との接続不全、生活設計上の調整負担といった観点に注目した。結果
オープン・コーディングにより、以下の9つの主要カテゴリーに分類された。介助(現場)、就学(現場)、介助・就学の複合的問題、介助(相談支援)、支援情報を集めることの困難、介助(制度)、健康に関する問題、就学(課外・社交ほか)、院試における合理的配慮 ※事項の多さ順
また、時期コードとして下記を用いた。
出願前、出願後、合格後~引っ越し前、引っ越し直後、入学=引っ越しから少し慣れてきたころ、かなり慣れてきたころ、いまも続いている問題
この表では、主に「介助(現場)」と「就学(現場)」に関する課題が多く報告されている。「介助(現場)」は出願後から入学直後にかけて複数件(およそ10件)あり、特に入学直後に集中している。「就学(現場)」は引っ越し直後に6件と突出して多く、その後の時期にも少数ながら継続している。
そのほか、「介助・就学の複合的問題」が出願後と入学直後に計3件、「介助(相談支援)」が入学後に数件みられる。「健康に関する問題」は入学直後に2件あり、「支援情報の収集の困難」は出願前から合格後にかけて計3件確認される。また、「就学(人付き合いほか)」は現在も続いている問題として2件報告されている。
| コード | 出願前 | 出願後 | 合格後~引っ越し前 | 引っ越し直後 | 入学=引っ越しから少し慣れてきたころ | かなり慣れてきたころ | いまも続いている問題 |
|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 院試における合理的配慮 | 1 | ||||||
| 介助・就学の複合的問題 | 1 | 2 | |||||
| 介助(制度) | 1 | 1 | |||||
| 介助(現場) | 1 | 3 | 2 | 5 | |||
| 介助(相談支援) | 1 | 2 | |||||
| 就学(人付き合いほか) | 2 | ||||||
| 就学(現場) | 6 | 1 | 1 | 1 | |||
| 健康に関する問題 | 2 | ||||||
| 支援情報を集めることの困難 | 1 | 2 |
考察
重度の身体障害者、とくに介助派遣の高度な調整を含む者の進学にあたっては、下記の2点の課題があると考えられる。まず、「標準な生活水準」を基盤とした福祉サービスの対応不足の面、さらには日本の就学支援事業との連携の不足である。これは、日本の重度身体障害者の大学院進学事例の少なさなどにも起因する問題であると考えられる。 次に、大学院での就学の支援と日常生活その他の支援で想定されている「標準な障害者像」、例えば「時間通りに動く」、「障害者らしく振る舞う」ことが前提となっていることで生じる問題である。本報告を通じて、就学や福祉サービスの中で生じる重層的な課題として、制度的、および周囲の関係者からの固定化された「障害者」像をいかに取り扱うかが大きな課題であることが示唆された。 注1:進学した重度障害者とは筆頭報告者を指し、支援者とはその他の報告者を指す。本ポスター報告者以外にはインタビューは行っていない。参考文献
- 福田由紀子,2024,「重度身体障害のある学生の介助に関する日英比較──公的サービスと高等教育機関の責任をめぐる論理の検討」,『東京大学バリアフリー教育開発研究センター紀要』第2号:33-50.
- 天畠大輔,2014,「発話困難な重度身体障がい者における通訳者の『専門性』と『個別性』について」,『Core Ethics』10:155-166.