■ジン(Zine)
まず、「ジン(Zine)」は「マガジン(Magazine)」の略語ではない。マガジンから派生した「ファンジン(Fanzine)」という言葉から独立して、「ジン」という言葉が生まれた。最も簡潔なジンの定義は、「有志による非営利・少部数の自主制作出版物」となる★01。ジンは、個人的でありかつ政治的であること、親密性と身体性をあわせもつことをその大きな特徴とし、DIY(Do It Yourself)カルチャーの一部として位置づけられる。
現在のジン・カルチャーに特に強い影響を与えているのは、1970〜80年代のパンク・シーン、90年代初頭のライオット・ガール(Riot Grrrl)・ムーヴメントと第3波フェミニズムだが(ピープマイヤー[2009=2011])、60年代の各種社会運動とアンダーグラウンド文化、そして70年代の第2波フェミニズムも、その発展に大きく寄与している★02。ジン・カルチャーは、本質的に反資本主義・反権威主義的姿勢を内包しており、アナキズムやラディカルな直接行動と親和性が高い★03。カウンターカルチャーとしてファシズム/家父長制/商業主義/能力主義への抵抗手段となる一方、障害者/マイノリティ/持たざる者たちの主体的表現手段となる★04。
ジンの起源は一般には1920年代のアメリカのSFファンによるファンジンとされているが、その見解を白人男性優位主義とし、それ以前のアイダ・B・ウェルズに代表される黒人女性解放運動における自主刊行物の存在意義を強調する立場もある。これに象徴されるように、現在のジン・カルチャーでは、黒人/POC(People of Color)/移民/先住民/女性/ノンバイナリーといったマージナライズ(周縁化)された人びとの存在を重視し、白人男性中心の歴史/価値観を「脱植民地化(Decolonize)」することが重要な課題とされている。またジン・フェスト等の会場では、「セーファースペース・ポリシー(Safer Space Policy)」の周知徹底など、さまざまな差別・抑圧・排除の問題に対する具体的・実践的な社会正義(Social Justice)の取り組みが積極的に行なわれている。
ジン・カルチャーの実践においては、ジンの制作にとどまらず、その流通・収集・保存・公開のシステムや、創造とシェアのためのアクセシブルなスペース(空間)も自律的に構築する(村上[2018])。例えばアメリカ・イギリスでは、公立/大学図書館の図書館員たちが中心となり、ジンのアーカイヴィングに関する専門的な検討を定期的に行なっている。ローカルなコミュニティ単位の草の根の活動が国際的に連携し、交流・議論が重ねられ、その成果が共有されることで、ジン・カルチャーは日々成長を続けていく。
【注】
★01 以下に補足する。@「有志」:(機関誌/同人誌に見られる)掲載審査、掲載料、投稿ノルマ等は存在しない。固定的な組織を前提としない。A「非営利」:できる限り自力で、身近な資源を活用して、低予算で制作し、無償で譲渡/寄付、交換、もしくは極力安価で販売する。なお、ブランドやプロのアーティストが商品/作品のプロモーションのために華美な印刷物を大量に製作し、それをジンと称して頒布する行為は、批判の対象とされる。B「少部数」:一般的に一度に制作されるのは20〜30部ほどである。
★02 日本の例でいえば、戦後のサークル文化運動のなかで制作された各種「サークル誌」や、ウーマンリブ運動のなかで制作(・複製)され流通したパンフレットなどが、現在のジンの「先祖」に位置づく。
★03 一例として、アナーカ・フェミニズム(Anarcha-Feminism)の運動におけるジンの活用が挙げられる(村上[2019])。
★04 ディスアビリティ・ジン、メンタルヘルス・ジン、クィア・ジン、レズビアン・ジンといったジャンルも確立しており、当事者たちの表現・交流手段となっている。
【文献】
◇Piepmeier, Alison[アリスン・ピープマイヤー], 2009,
Girl Zines: Making Media, Doing Feminism, New York: New York University Press.=2011 野中モモ訳
『ガール・ジン――「フェミニズムする」少女たちの参加型メディア』太田出版
◇村上潔 2018
「[連載]都市空間と自律的文化へのアプローチ――マンチェスター・ジン・シーン・レポート(全4回)」Webマガジン『AMeeT』(一般財団法人ニッシャ印刷文化振興財団)
◇村上潔 2019
「アナーカ・フェミニズム」『現代思想』47(6): 170-173
*2019年5月臨時増刊号《総特集=現代思想43のキーワード》
BST 10:00-11:30(日本時間=同日18:00〜19:30) オンライン開催(Zoom)
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《Zines ASSEMBLE》Free One-Day Online Symposium: Session 1
【Program】
*タイトル日本語訳:「多様なマイノリティ運動の集合地におけるジン[Zine]サークルのコミュニティ活動と学習実践がもつ意義――京都の多民族・多文化共生地域の事例から」
◇20220228 UP: 20180906 REV: 20180907, 20190513, 0603, 0714, 15, 26, 1003, 1107,[…]20201020, 20210616, 0715, 20230505, 20251023, 26
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