人工透析の精神医学的諸問題
浅井昌弘** 保崎秀夫 武正建一 平野正治 大沢炯***
『精神医学』15-1(169 1973-1):4-17
* Psychiatric Problems on Artificial Dialysis
** 慶応義塾大学医学部,精神神経科学教室(主任:保崎秀夫教捜), Masahiro Asai, Hideo Hosaki, Kenichi Takemasa and Masaharu Hirano: Keio Univ. School of Med., Dept. of Neuropsychiatry (Director: Prof. Hideo Hosaki)
*** 慶応義塾大学病院,腎センター,Akira Osawa: Renal Unit, Keio Univ. Hospital
T.問題点の概観
4.基本的問題点
一般に,種々の条件が良い症例を選んで透析を行なえば結果が良好なことは当然であるが,生命に直接かかわることだけに,それで良いかどうかには問題がある。現状では透析により延命可能な症例数にくらべて,透析装置や専門スタッフが少なく,なんらかの意味で透析療法の適応を決定<0005<し,症例を選択せねばならない。身体的条件は決定しやすいが,精神的条件は決定が困難である3)。精神面で問題が起こりそうだと分かっていたら透析しないのか,それとも危険を承知で予防対策をとりながら透析するべきか。いずれにしても,いったん透析を始めたら引返すことはできず,重大な責任を負うことになるのを充分考えておかねばならない。この問題については人によって考え方が異なるが, Schreinerら61)は透析療法について以下のような問題点を指摘している。「透析療法について患者にどのように説明するのか,尿毒症の患者が正常に考えうるのか,透析により単なる延命を図るのか,リハビリテーツョンを必須のものとするのか,多大な透析費用を誰が負担するのか,症例選択に社会的なものが入るとしたらどのように決めるのか,単なる先着順でよいのか,透析患者が不健康な延命は嫌だと透析中止を申し出たらどう扱うのか……」。
いずれにしても,透析開姶前に患者と家族に充分,透析療法の問題点や困難さについても話しておくくことが望ましい。透析に過大な希望を持ち過ぎるとあとで失望が大きくなる可能性がある。何よりもまず,患者や家族と医療スタッフとの間に良好な信頼関係をうちたてておくことが必要である。」(浅井他[1973:5-6])
2) Abram, H. S.: The psychiatrist, the treatment of life 1. Amer. J. Psychiat.,124: 1351. 1968.
61) Schreiner, G. E. et ai. : Hemodialysis for chronic renal failure: III Medical, moral, ethical and socio-economic problems. Ann. Intern. Med., 62; 551, 1965.