2005
■2005.7.20 大谷医師による「流産防止」を目的とした受精卵診断実施に反対する声明
<2005.7.20 大谷医師による「流産防止」を目的とした受精卵診断実施に反対する声明>
<声明>
大谷徹郎医師による
「習慣流産防止等を目的した受精卵診断実施」に反対します
新聞報道等によれば、大谷産婦人科(神戸市)の大谷徹郎医師は、昨年9月からこれまでに、染色体「異常」が原因で流産を繰り返す習慣流産などを避ける目的で、計27組の夫婦に対して受精卵の着床前遺伝子診断(以下、受精卵診断と略す)を実施、6月16日の時点で3組の夫婦が出産にいたったとのことです。5月末には、根津八紘医師(長野県、諏訪マタニティークリニック)が同様の受精卵診断を実施する予定だと表明するなど、医療界や法曹界の一部には、これを支持する動きもあるとも伝えられています。
私たちは、以下の理由から、これらを厳しく弾劾するとともに、さらに暴挙を重ねることがないよう強く要望します。
1.大谷医師の行為は「いのちの選別」にほかならず、認めることはできません
大谷医師は、記者会見や自らのホームページ等で、「着床前診断を受けると、もともと染色体異常で着床できなかった受精卵、あるいは流産する運命にあった受精卵を調べて、胎児として発育できる受精卵だけを子宮に戻すことができる。生まれる可能性のある受精卵だけを子宮にもどすのだから、命の選別にはあたらない」と主張し、「着床前診断は不妊症や習慣流産などでお悩みの方が新しい命を育むための技術です」とまで述べています。
しかしながら、大谷医師が実際に行っている行為は、受精卵の染色体の数や構造を調べて、「異常」と判断した受精卵を排除し「正常」とされた受精卵のみを子宮にもどしているのであり、いかに言を左右にし取りつくろってみても、いのちの選別以外のなにものでもありません。しかも、大谷医師の用いたFISH法という検査法を使えば、非常に簡便かつ迅速に多種類の染色体を調べあげることが可能なのです。
自然の過程においても、必然、偶然を問わずさまざまな理由から、多くの受精卵が染色体や遺伝子に多様な変異をもっており、着床できなかったり流産に至ってしまう場合もあることは周知の事実です。が、様々なバリエーションを持った胚がすべて流産にいたるわけではなく、力強く生を得て、「障害」や「病」もろともに、その人ならではの営みや暮らしを楽しみ、周囲の人たちと豊かな関係を築いている人たちも数多く存在します。
大谷医師の行為は、受精卵の段階で、これら「障害」や「病気」を持って生まれる可能性のあるものを、根こそぎ排除しようとするものです。しかも、声高に「流産防止」を標榜することで、ことの本質を隠蔽するものであり、絶対に認めることはできません。
2.受精卵診断は、女性をさらに苦しめる可能性があります
大谷医師は、「着床前診断によって、女性の心身に大きな負担をかける流産を防ぐことができる」と述べて、女性への福音を強調しています。
しかしながら、受精卵診断自体、女性の心身に過重な負担を強いる技術です。体外受精が前提とされることから、ホルモンバランスの人為的な操作、頻回の検査・通院・入院、使用される排卵誘発剤による副作用、採卵に伴う出血など、女性の生活を著しく拘束する上に多くの危険性を伴うものです。しかも、体外受精の妊娠・出産率はまだまだ低く、長期間にわたってこのつらい体外受精を何度も繰り返さねばなりません。その上、たとえ妊娠した場合でも、受精卵診断が「障害」をもたない子どものみの妊娠・出産を目的とした技術であること、にもかかわらず診断精度が未だ万全ではないことから、多くの場合、絨毛診断や羊水診断といった出生前診断が実施され、女性に二重の負担を強いているのが現状です。
日本では今も「女は子どもを産んで一人前」という意識が根強く、地域によっては跡継ぎを望む旧態然とした圧力も存在します。マスコミを通じて、「家庭は夫婦と子どもがいてこそ幸せ」というイメージが繰り返し流されます。習慣流産に悩む女性(カップル)は、そのような社会や周囲に押される形で不妊治療を開始したものの、「産めない身体」は劣ったもの、病的なものとして次々と生殖技術の対象とされ、ますます「何が何でも、どのような技術を使ってでも、子どもを産まなければ」と追い詰められていくのではないでしょうか。
流産を繰り返し子どもを持てないことに悩む女性やカップルに、受精卵診断という重大な倫理的問題を包含する技術をさし出し、更なる苦悩や負担を強いるよりも、私たちは、子どもを産まない、産めない女(カップル)が差別や偏見にさらされることなく、ありのままに認められる社会を求めます。
3.生命の操作が、とどまることなく進行する危険性があります。
大谷医師は、受精卵診断の有用性について、「遺伝子・染色体異常に起因する疾患の診断と出生予防や習慣流産の予防が可能」と述べると共に、「体外受精の妊娠率の向上や流産率の低下をはかること」にも言及しています。つまり、受精卵診断を生殖補助医療に組み込むことで、すべての受精卵を「ふるいにかけよう」というのです。既に、大谷医師は、受精卵診断を男女産み分けにも使ったことが明らかになっています。
外国ではすでに、受精卵診断の適用範囲はどんどん広がっており、体外受精時の胚のスクリーニング、乳がんや遺伝性のアルツハイマー病といった「年をとってから発病するかもしれない疾患」への適用、病気のきょうだいの治療のために受精卵を選び出産することにも用いられています。加えて、人のクローン胚作成やクローン胚由来のES細胞研究にも着手しようとしている現在、技術的には生殖細胞への遺伝子導入といった生命操作さえ可能になりつつあります。
受精卵の段階でいのちの価値に優劣をつけて選別すること、個人の都合に基づいて生まれてくるいのちを恣意的に選ぶことが広範囲に行われるようになれば、極めてストレートに、手を加えて望ましい受精卵を作り人間改造を目指す方向へと進んでいくのではないかと強い不安と危惧をいだきます。
いのちの選別と優生操作がますます進行することで、さらなる差別がうみだされることに強く反対します。
2005年7月20日
<賛同人>
NPO法人 文福
四十物 和雄
蔵田伸雄
西沢いづみ
DNA問題研究会
障害者の労働・差別を考える会(障労)
SOSHIREN女(わたし)のからだから
久野綾子 おんなの叛逆編集者
「脳死」・臓器移植に反対する関西市民の会
京都ダウン症児を育てる親の会
安藤節子
肌勢誠治
西村亜圭未
山口研一郎(現代医療を考える会、やまぐちクリニック院長)
山口かをり(現代医療を考える会事務局)
先天性四肢障害児父母の会
真野京子
優生思想を問うネットワーク
(順不同)
連絡先
536-0023
大阪市城東区東中浜2-10-13
緑橋グリーンハイツ1Fアド企画内
優生思想を問うネットワーク
TEL/FAX 06-6965-7399
e-mail yunet@cat.zero.ad.jp
採録:利光恵子(立命館大学大学院先端総合学術研究科)