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佐口 和郎

さぐち・かずろう



・東京大学経済学研究科
 http://www.e.u-tokyo.ac.jp/fservice/faculty/saguchi/saguchi.j/saguchi.j.htm

◆研究分野
 雇用・労働

◆単著
佐口 和郎 19911216 『日本における産業民主主義の前提――労使懇談制度から産業報国会へ』,東京大学出版会

◆編共著
武田 晴人 編 19950720 『日本産業発展のダイナミズム』,東京大学出版会
佐口 和郎・橋元 秀一 編 20030315 『人事労務管理の歴史分析』,ミネルヴァ書房,454p. ISBN-10: 462303786X ISBN-13: 978-4623037865 ¥6000 [amazon][kinokuniya] w0106
佐口 和郎・中川 清 編 20050630 『福祉社会の歴史――伝統と変容』,ミネルヴァ書房,399p. ISBN-10: 4623044130 ISBN-13: 978-4623044139 ¥3990 [amazon][kinokuniya] w0106

◆論文
佐口 和郎 19830200 「第一次大戦後の労資関係の展開――三井三池共愛組合の形成と再編に即して-上-」『日本労働協会雑誌』25(2),pp,49-57
佐口 和郎 19830400 「第一次大戦後の労資関係の展開――三井三池共愛組合の形成と再編に即して-下-」『日本労働協会雑誌』25(3・4),pp.35-43
佐口 和郎 19860000 「産業報国会の理念と組織(1)」『經濟學論集』52(1),pp.2-29
佐口 和郎 19860000 「産業報国会の理念と組織(2・完)」『經濟學論集』52(2),pp.26-53
西田美昭・大沢真理・佐口和郎 19871200 「大学教職員賃金を通じて見た人勧制度の問題点――「科学性」・「客観性」はどこに?」『日本の科学者』22(12),pp.692〜698
佐口 和郎 19881225 Anderew Gordon, The Evolution of Labor Relations in Japan : Heavy Industry 1853-1955. Cambridge, Council on Eastern Asian Studies, Harvard University, 1985. Pp. 524『社會經濟史學』54(4),pp.576-580
佐口 和郎 19890400 「日本における産業民主主義の前提」『経済学論集』55(1),pp.80〜100
佐口 和郎 19920825 「「雇用問題」の転換」(栗田 健 編著『現代日本の労使関係』,pp.73-102)
佐口 和郎 19950200 「新日鉄"中期雇用計画"と地域雇用問題」(戸塚 秀夫 他編『地域社会と労働組合』,日本経済評論社)
佐口 和郎 19950200 「アメリカ労働組合と国際的課題」(『現段階における労働組合の国際活動・政策』東京大学社会科学研究所調査報告27)
佐口 和郎 19950720 「高度成長期以降の雇用保障――雇用調整の展開に即して」(武田 晴人 編『日本産業発展のダイナミズム』,東京大学出版会,pp.361-405)
佐口 和郎 19950700 「いわゆる「日本モデル」論と労働問題研究――野村,上井両氏の著作の検討を通じて」『経済学論集』61(2),pp.70-86
佐口 和郎 19951100 「産業報国会の歴史的位置――総力戦体制と日本の労使関係」(山之内靖他編『総力戦と現代化』,柏書房)
佐口 和郎 19960300 「介護職の労働市場分析」『高齢社会における社会保障周辺施策に関する理論研究事業の調査研究報告書V』長寿社会開発センター
"The Japanese Employment System and Meritocracy in a Historical Perspective," Discussion Paper, 96-F-21, Faculty of Economics, The University of Tokyo, October 1996
佐口 和郎 19970825 「紹介 「アジアの労働」研究と社会政策学会――第94回大会共通論題に参加して」『労働法律旬報』(通号 1414),pp.28〜32
佐口 和郎 19970000 「労働史研究と経営史研究」『社会政策学会年報』(通号 41),pp.160-164
"The Historical Significance of the Industrial Patriotic Association: Labor Relations in the Total-War State," in Y. Yamanouchi ed., Total War and Modernization, East Asia Program, Cornell University, 1998
佐口 和郎 19990900 「日本における労働と福祉――退職過程からみた関係史」『土地制度史学 41』,pp.43-50
佐口 和郎 20020700 「紹介 国際労働研究センター(96)リビングウェイジをめぐる議論が示唆するもの――吉村臨兵報告へのコメントに代えて」『労働法律旬報』(1532),pp.50-52
佐口 和郎 20021000 「新規高卒採用制度の生成と展開――造船現業労働者を事例として」『經濟學論集』 68(3),pp.2-32
佐口 和郎・橋元 秀一 20030315 「歴史分析の新しい可能性」(佐口 和郎・橋元 秀一 編著『人事労務管理の歴史分析』,ミネルヴァ書房,pp.1-11)
佐口 和郎 20030315 「新規高卒採用制度――A社を事例とした生成と展開」(佐口 和郎・橋元 秀一 編著『人事労務管理の歴史分析』,ミネルヴァ書房,pp.15-62)
佐口 和郎 20030315 「定年制度の諸相――雇用システムと退職過程の展開の中で」(佐口 和郎・橋元 秀一 編著『人事労務管理の歴史分析』,ミネルヴァ書房,pp.282-332)
佐口 和郎 20030400 「若者と福祉」『社会福祉研究』(86),p.1
佐口 和郎 20040400 「地域雇用政策とは何か――その必要性と可能性」(神野 直彦 他編著『自立した地域経済のデザイン 新しい自治体の設計4――生産と生活の公共空間』有斐閣)
佐口 和郎 20040700 「労働研究と福祉社会」『社会福祉研究』(90),pp.141-149
"The Role of the Senior HR Executive in Japan and the United States: Employment Relations, Corporate Governance and Values," Industrial Relations, 44(2), April 2005 (with S. Jacoby and E. Nason)
佐口 和郎 20050630 「福祉社会と雇用社会」(佐口 和郎・中川 清 編著『福祉社会の歴史――伝統と変容』,ミネルヴァ書房,pp.1-20)
佐口 和郎 20050630 「福祉社会と雇用」(佐口 和郎・中川 清 編著『福祉社会の歴史――伝統と変容』,ミネルヴァ書房,pp.145-174)
佐口 和郎 20050700 「労働研究から見たワークフェア」『社会福祉研究』第93号,p.1
佐口 和郎 20060300 「地域雇用政策の展開と課題」『地域政策研究』(34),pp.28-39
佐口 和郎 20060300 「大阪府における地域雇用政策の生成――就業支援策への収斂」(田端博邦編著『地域雇用政策と福祉:公共政策と市場の交錯』,東京大学社会科学研究所研究シリーズ22)
佐口 和郎・上田 修 20060300 「勤労部門の戦後史(1)――1950年代石川島重工における勤労政策の展開」ディスカッション・ペーパー CIRJE-J-193,東京大学大学院経済学研究科・経済学部
佐口 和郎 20080300 「制度派労働研究の現代的価値――社会政策研究との関連で」ディスカッション・ペーパー CIRJE-J-192,東京大学大学院経済学研究科・経済学部
佐口 和郎・神野 直彦・中川 清 他 20080400 「座談会 社会保障制度の近未来を展望する」『社会福祉研究』(101),pp.64-79
佐口 和郎 20081025 「制度派労働研究の現代的価値――社会政策研究との関連で」『社会政策』第1巻第1号,pp.44-59

◆書評
佐口 和郎 19900400 「「近代日本労資関係史の研究」西成田豊」『土地制度史学』32(3),pp.69-72
佐口 和郎 19911000 「製糸同盟の女工登録制度--日本近代の変容と女工の『人格』」東条由紀彦」『経済学論集』57(3),pp.115-118
佐口 和郎 19920600 「「仕事の経済学」小池和男」『社会政策学会年報』(通号 36),pp.180-186
佐口 和郎 19950000 「野村正実『熟練と分業』・『トヨティズム』」『社会政策叢書 第19集』啓文社
佐口 和郎 19981000 「兵藤サ著『労働の戦後史』上・下の検討,東京大学出版会,1997年」『社会科学論集』(通号 95),pp.103-110
佐口 和郎 20050400 「講座・福祉国家のゆくえ 第1巻〜第5巻」『社会福祉研究』第92号,pp.118-119
佐口 和郎 20070400 「加藤榮一著『現代資本主義と福祉国家』」『社会福祉研究』第98号,p.121

■言及
玉井 芳郎 20041200 「書評 佐口和郎・橋元秀一編著『人事労務管理の歴史分析』(ミネルヴァ書房2003年3月 pp.454+7)」『同志社政策科学研究』6(1),pp.289-293
久本 憲夫 20040200 「書評と紹介 佐口和郎/橋元秀一編著『人事労務管理の歴史分析』」『大原社会問題研究所雑誌』(通号 543),pp.74-76
Woo, Jongwon 20031000 「書評 佐口和郎・橋元秀一編著『人事労務管理の歴史分析』2003年 ミネルヴァ書房刊」『経済学論集』69(3),pp.75-82
石田 光男 20031000 「書評 佐口和郎・橋元秀一編著『人事労務管理の歴史分析』」『日本労働研究雑誌』45(10) (通号 519),pp.87〜90
塩田 咲子 19940000 「「日本における産業民主主義の前提」佐口和郎」『社会政策学会年報』(通号 38),pp.202-205
東条 由紀彦 19930700 「「日本における産業民主主義の前提――労使懇談制度から産業報国会へ」佐口和郎(東京大学産業経済研究叢書)」『経済学論集』59(2),pp.95-97
三輪 泰史 19930200 「「日本における産業民主主義の前提――労使懇談制度から産業報国会へ」佐口和郎」『大原社会問題研究所雑誌』(通号 411),pp.55-62
島田 昌和 19930100 「「日本における産業民主主義の前提――労使懇談制度から産業報国会へ」佐口和郎」『経営史学』27(4),pp.104-109
稲葉 振一郎 19921000 「労使関係史から労使関係論へ――東条由紀彦「製糸同盟の女工登録制度――日本近代と女工の『人格』」(東京大学出版会,1990年),佐口和郎「日本における産業民主主義の前提――労使懇談制度から産業報国会へ」(東京大学出版会,1991年)」『経済評論』41(10),pp.88-112
萩原 進 19921000 「「日本における産業民主主義の前提」佐口和郎」『日本労働研究雑誌』34(10),pp.56-58

■引用・メモ

◆佐口和郎 19890400 「日本における産業民主主義の前提」『経済学論集』55−1,pp.80-100

〔1〕問題意識と課題
〔2〕ヘゲモニーとしての産業民主主義
〔3〕"前提"の意味
〔4〕人格主義の展開過程
〔5〕まとめにかえて――産業民主主義と人格主義

〔1〕問題意識と課題
 「本稿は,第一次大戦後から第二次大戦期にかけての日本労使関係の展開を,産業民主主義という概念を用いて,即ち産業民主主義の"前提期"として再構築するための覚え書きである.」(p.80)

・従来日本労使関係の「特質」としてとらえられてきたもの
 2)本稿での「特質」とは,特にことわらない限り1960年代に確立し70年代後半,特に内外から注目されるにいたったそれをさす.但し,通常「特質」とされている部分には,普遍性も,それに解消しえない日本固有のあり方も混在していると考えられる.その意味では本稿での個別性という用語に近い.但し通常「特質」という場合,個別性の内で,日本固有のあり方の側面に比重を置いてとらえられていると考えられる.」(p.80)

〔2〕ヘゲモニーとしての産業民主主義

〔3〕"前提"の意味
「(…)本稿において産業民主主義に代わるヘゲモニーとして規定しているのが,先に述べた人格主義なる理念とそれに基づく制度である.人格主義なる理念は,それ自体としては極めて曖昧なものである.従来使われてきた表現をまとめれば「労働者の人間としての尊厳を認める」ということになろう.(16)」
 16)労働運動がこうした理念の実現を求めていたことを最初に強調されたのは隅谷三喜男氏である.またこれを日本労使関係の特質をとらえる上での焦点とされ議論を展開したのは二村一夫氏である.例えば,二村一夫「日本労使関係の歴史的特質」(『社会政策学会年報第31集,日本労使関係の特質』1987年5月)参照,またA. Gordon氏は,これを労働者の「メンバーシップ」承認への志向としてとらえた.Andrew Gordon, The Evolution of Labor Relations in Japan, Cambridge, Council on Eastern Asian Studies, Harvard University, 1985.

「本稿では,こうした人格の承認は,ある単位(例えば広義の国家,社会,企業)の正式の構成員としての地位の確保を意味している点を重視する.また人格は,労働者の側からみるとあくまでも他者に認めさせるもの,あるいは認められるものであって,自己完結的でない点にも留意しなければならないであろう.」

・人格主義を分析していくすじ道
@このような漠然とした理念がどのような論理でこの時期に,労働者団結に関わる制度を伴うヘゲモニーたりえていったのかを探ること
A人格主義には労働者団結そのものに関わる理念,制度であるだけでなく,それに解消できない側面も含まれていた.つまり労働者が,他と同じ=差別されない構成員として取り扱われるという理念及び制度としての側面,いわば労働者からみると受動的側面である(17).このような二重性に正当な注意を払うこと,これが人格主義をときほぐしていく第二のすじ道である.

「やや先走ったことを述べれば,人格主義は第一次大戦後,大量に登場した非熟練労働者を社会,国家のレベルでどのような存在として位置づけるのかという課題の下で登場したヘゲモニーである.」(p.89)

B労働者の人格の承認といっても,何によって承認されるのか,何を根拠に承認されるのか,それによって労働者はどのような存在として位置づけられるのか,それはどのような制度を伴っているのか,等は,歴史の展開の中で変遷をとげていくことになる.この変遷の過程を分析していくことが,第三のすじ道である.

〔4〕人格主義の展開過程
(1)形成期
「第一次大戦直後の労働問題の焦点は,少数の熟練労働者以外の非熟練労働者をどのような存在として社会,国家のレベルで位置づけるのか,という点であった.」(p.90)

「労働者の運動は,人格の承認を求める運動として展開した.労働争議の争点が直接的には賃金水準をめぐる問題であっても,その背景には多くの場合それに留らない労働者の処遇の仕方(呼称の仕方から始って賃金決定の方式なども含む)の問題が存在していたのである.」(p.90)

「もともと日本では職業別組合の伝統は弱かった.その中での上述の階層の変化,流動化状況を考えると,労働者がその地位を主張する必要に迫られた時「人間として正当に処遇せよ」という曖昧な内容となることは,むしろ自然であろう.」(p.90)

「すでに先学が明らかにしているように,日本の資本主義化の過程でそれに適合的なものとして形成された立身出世主義は,日露戦争にその非現実性を露呈していた.その挫折の中から労働者の間に生まれてきたのが,労働者は自らの人格を磨き上げることで社会の中で正当な地位を確保していくという考え方出会った.労働者自身の「品性向上」への営みがあってはじめて人格が認められるとされていた.また承認する主体としては社会一般が想定されていた.修養主義はあくまで熟練労働者内部の姿勢としての側面が強かったのである.」(p.90)

「しかしながら同時に留意すべきは,日本の場合,いわば否定すべき対象が明確な形では実在していなかったという点である。したがって,この"勤労"を中軸とした政策上の理念は,人格主義の国家主導の再編としてとらえることができると考える.旧来の人格主義の克服を目指したとしても,そのものを徹底的に破壊し,全く別のヘゲモニーの形成を意図した訳ではなかった。」(p.96)

〔5〕まとめにかえて――産業民主主義と人格主義

「(4)日本における産業民主主義の形成,確立は,本稿での視角からすれば,ad hocな過程としてとらえることができる.産業民主主義は,戦前からの人格主義のつみ重ねを"前提"とせねばならなかった.そして人格主義との融合というせばめられた選択の幅の中で更につみ重ねられてきた諸主体の妥協の産物が日本の産業民主主義なのである.」(p.100)

◆佐口 和郎 19920825 「「雇用問題」の転換」(栗田 健 編著『現代日本の労使関係』,pp.73-102)

1.はじめに
2.共通認識と試行錯誤
 (1)政府(労働省サイド)
 (2)使用者(日経連)
 (3)労働組合
3.高卒労働者化と企業内訓練
4.雇用保険法の成立とハードな雇用調整
5.「内部市場型」調整と多能工の評価
6.おわりに

・問題意識
 70年代後半・オイルショック以上の日本の労働市場の柔軟性、労使関係の安定性・効率性に対する評価への不満
 小池和男の「熟練」論(70年代後半から80年代にかけて)
 OJT、多能工の意味内容の曖昧さ

「以上のような問題設定のもとで、標題の「雇用問題」の転換とは、実践主体(本稿では政府、経営者団体、労働組合を想定)がどのような状況のなかで何を労働市場における問題であるととらえたのか、その転換を含意することになる。70年代半ばをそうした意味での「転換期」として相対化していこうとするのが本稿の狙いである。」(p.75)


3.高卒労働者化と企業内訓練
「職場における訓練にとって与件とせねばならなかった重要な事実は、労働市場の逼迫の中での高卒労働者の「ブルーカラー職種」への参入であった。このことは日本の労働市場のあり方を考えるうえできわめて重要な意味をもっていた。若年技能労働力不足は単なる循環的要因に解消できるものではなく、完全雇用状況、学歴水準の上昇などを背景とした労働力供給側の行動様式のなかで生まれていたのである。この新規高卒労働者は、結果として「ブルーカラー職種」に参入したとしても、もともと「ホワイトカラー志向」の強い層であった。佐口(1990)で検討したように、これらは雇い入れ口での学校と企業の「実績関係」の形成という変化を経て、臨時工制度の「解体」、職能資格制度の導入という形での内部労働市場の平準化をもたらしたのである。」(pp.83-84)


◆佐口和郎 19950720 「高度成長期以降の雇用保障――雇用調整の展開に即して」(武田 晴人 編『日本産業発展のダイナミズム』,東京大学出版会,pp.361-405)

1.はじめに――なぜ雇用保障か
2.1960年代の雇用調整――希望退職と配転
 2.1 60年代の2つの顔
 2.2 希望退職
  (1)2つの希望退職
  (2)希望退職の「成功」と労働組合
 2.3 配置転換
  (1)雇用調整としての配転
  (2)配転に伴う問題
3.石油危機後の雇用調整
 3.1 石油危機のインパクト
 3.2 雇用政策理念の転換
 3.3 1980年代の展開――出向の進行と限界
4.おわりに

1.はじめに――なぜ雇用保障か

「本章の課題は,1960年代から80年代後半にかけて日本における雇用保障はどのような内実をもったものとして展開してきたのかを,雇用調整に焦点を当てて整理することを通じて,この領域の今後の研究にとって重視されるべき論点を示唆することである.(…)」(p.361)

2.1960年代の雇用調整――希望退職と配転
 2.1 60年代の2つの顔
 2.2 希望退職
  (1)2つの希望退職
  (2)希望退職の「成功」と労働組合
 2.3 配置転換
  (1)雇用調整としての配転
  (2)配転に伴う問題
3.石油危機後の雇用調整
 3.1 石油危機のインパクト
 3.2 雇用政策理念の転換
 3.3 1980年代の展開――出向の進行と限界
4.おわりに


◆佐口 和郎 20040700 「労働研究と福祉社会」『社会福祉研究』(90),pp.141-149

はじめに
T 研究の分離の意味と協働の必要
U 福祉社会への照射
V 現在の位相
おわりに

「まず雇用においては,企業(使用者)にとって,指揮命令権の確立とそれに基づく一定の質と量の労働給付の確保が決定的に重要である。だが企業はヒトそのもの,あるいはそれと不可分の労働そのものを買うことはできない。雇用において売買されるのは,企業(使用者)の指揮命令のもとに服従するという労働者側の「約束」なのである。解雇の自由も退職の自由も存在するもとで仕事が遂行されるには,この「約束」についての合意や信頼関係が不断に更新されていなければならない。そのためには,企業(使用者)にとって満足のいく労働給付と,労働者にとって満足のいく労働条件が実現していることが求められる(9)。そしてこの労働条件の中には,強い拘束と服従への代償として,労働者(雇用以外に生活手段のない)の使い捨てはしないという内容が含まれていなければならない。つまり雇用であるかぎり,企業はヒトとしての労働者の生活に無関心でいられないし,一定程度の継続性が伴われるのである(10)。ここで広義の福祉を,人が自らの意思で持続的・安定的に生活することを可能にする資源と定義しよう。すると就労一般とは区別される雇用は,上記のような性格を有しているがゆえに,持続的・安定的生活の資源(=広義の福祉)を供給する仕組みの重要な一角を担いうるととらえることができる。」(p.143)

「ところでこの安定的雇用は,他方でそれを享受する労働者の特権を生み出した。安定的雇用のもと,スキルの養成は基本的には企業内で行われ,労働者は「能力を発揮する主体」と認められた。そしてこのことは企業が労働者を事実上内部の構成員として承認したことを意味する。これらこそ20世紀の労働者に対する人格の承認であったとみなすことができる。だがそれには「能力を発揮する主体」とそうでない者,ルールの主体になる者とそうでない者との分断が伴われていたのである。また企業への長期的コミットメントと安定的雇用の取引の背後には,企業による労働者の全人格的支配(善意の結果であれ)の危険が横たわっていたのである(12)。」(p.144)

「繰り返しになるが,雇用という制度は,不断の労使の合意,信頼の再生産を必要とする。企業は,指揮命令への服従や強い拘束を実現する代償として,常にヒトとして相応の処遇を供給することを示し,労働者の「約束」を維持し続けるのである。つまり雇用であるかぎり,企業は労働者の生活に無関心であるわけにはいかないし,一定程度の継続性が必要なのである。このことは企業にとって一面では制約かもしれないが,雇用のこうした性格が社会の分断や亀裂を回避することを可能にしている。雇用という制度はこのような意味で,本来的に公共性を帯びているのである(19)。他方,業務請負や派遣などの場合は,実際に使用する企業はヒトとしての労働者と直接の雇用関係に立つわけではなく,基本的に関心は労働の成果そのものにある。よって企業は,契約の背後の労働者たちの生活に関心をもつ必然性もないし,結果として労働者をモノとして使い捨てることにもつながる(20)。だがモノではないヒトは,簡単に廃棄されるわけにはいかず,むしろ使い捨ては膨大な社会的コストを生じさせうるのである。」(p.146)


UP:20080901
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