永山 悦子
ながやま・えつこ
last update:20120418
■略歴
毎日新聞科学環境部
◆「原点を見つめる」<発信箱>
『毎日新聞』2012-03-20
◆「老いの伴走者」<発信箱>
『毎日新聞』2012-02-21
◆「原点を見つめる」<発信箱>
『毎日新聞』2012-03-20
福島支援に関する一本の論考が、インターネットで話題になっている。医療政策が専門の猪飼周平・一橋大准教授が書いた
「原発震災に対する支援とは何か」だ。
猪飼さんは除染ボランティアとして福島市へ入り、地元の人たちと交流した経験から、「避難する人、とどまる人の両方が存在することを前提とした支援を」
「福島で日常生活を営む人の被ばくを少しでも下げるため除染は必要」「国には頼れない。市民レベル、ボランティアによる柔軟な支援が有効」などと、
問題の所在を整理した。
ドキッとする一文もあった。「国民が総じて(福島の人に)冷淡」。福島の除染活動などに十分な財源を確保できていないのは、
福島を支えることへの国民的合意がないため、と分析する。猪飼さんは「専門外からの個人的な意見」と話したが、反響はすごかった。「やっとまともな議論に出合った」。
そんな声もあったという。
「安全か否か」「脱原発か否か」。これまでの福島を巡る議論は、対立を深めるだけだった。一方、今なお福島を離れず、被ばくという健康リスクと隣り合わせの環境で、
普段と変わらない暮らしを続ける人たちがいる。避難を促すことだけが「人道」にかなうといえるのか。猪飼さんはそう考えた。「現在の議論には、
福島に今住む人の暮らしをどのように支えるか、という視点が欠けている。住民は減っても、ゼロになることはない。その人たちに何ができるか、
という普通の議論をしたかった」
今もこれからも、福島に住む人がいる。それが支援の原点だ。国民一人一人が、できることをしてみる。福島に友達を作ったり、福島に役立つ情報を集める。
可能な人は福島を訪れてもいい。そこから見えることがあるはずだ。原発震災2年目、私たちの行動が問われている。(科学環境部)
cf. 猪飼 周平 20120203
「原発震災に対する支援とは何か――福島第一原発事故から10ヶ月後の現状の整理」
SYNODOS JOURNAL
◆「老いの伴走者」<発信箱>
『毎日新聞』2012-02-21
自分や家族の晩年をどこで過ごすか。そんなことを考えることが増えた。自宅で過ごせれば一番。だが、体調や周囲の状況によっては難しいこともあるだろう。
最近は病院や施設にもあまり長居できない。
一つの答えが、宮崎市にある。「かあさんの家」と呼ばれるNPOが運営する施設が、市内に4カ所ある。いずれも元は普通の民家。「こんにちは」。
そう声をかけて玄関で靴を脱ぐと、居間、台所があり、食卓で高齢の入居者がだんらんしている。一般的な施設にはない生活のにおいに包まれた「家」。
職員も「家族」として接する。
最近、一人の女性が「家」で息を引き取った。女性の家族は遺体とともに葬儀までの3日間を「家」で過ごした。「ここが本人の家でしたから」と話したという。
NPO理事長の市原美穂さん(65)も昨年、「家」で母をみとった。2年前、入院していた母が「自宅に帰りたい」と訴え、家族での介護が難しかったため、
母の自宅を改装して「家」にした。「遊びに来たひ孫と合唱したり、おすしを食べたり、納得できる時間を過ごせた」と市原さん。最後の1週間、市原さんは母の隣で、
途切れそうな息遣いを感じながら寝泊まりした。
一人一人に応じたケアのため、「家」の定員は1軒5人。臨機応変に外部のサービスを使うなど、個人のニーズ最優先の仕組みだ。市原さんは
「福祉の専門家ではない主婦の私だから、『老いに伴走する』という発想ができたのかもしれない」と話す。
最初の「家」ができてから8年になる。これまでに認知症やがんなどを抱える66人が住み、38人が旅立った。市原さんは最近、1冊の本を書いた。
「『かあさんの家』のつくり方」(木星舎、1470円)。「家」は特別なものではない、そんな思いが込められている。
(科学環境部)