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森 康博

もり やすひろ

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last update:20230523


■名前

森 康博

■学歴

立命館大学大学院応用人間科学研究科人間科学専攻(修士)2012年3月20日修了  
立命館大学大学院先端総合学術研究科公共領域(在籍中)

■職歴

元兵庫県警察、警察官

■専門分野

不登校親支援
暴力団員離脱研究

■業績

〔年度〕 2011年度

(修士論文)
◇不登校親支援の有用性の実証-わが子の事例と他5家族の事例から考察-   

〔年度〕 2014年度

(その他:書評・印刷されたもの)
◇佐藤修策・濱名昭子・浅川潔司編(2014)『不登校の子どもの生活と親・教師の支援』あいり出版、編論文寄稿「わが子M男の不登校について」はじめにの章 p1-14.

〔年度〕 2020年度

(論文:査読あり)
◇ある暴力団離脱者の生活史-暴力団への加入と離脱におけるインフォーマルな関係性に着目して-

〔年度〕2021年度

(論文:査読あり)
◇逸脱集団への加入と離脱のプロセス-ある若者の生活史から-

■所属学会・研究会・勉強会

対人援助学会 会員
日本犯罪社会学会 会員
NPO法人神戸オレンジの会、理事
不登校のための学校カウンセリングセンター(SCSR)会員
元学校に行けない子どもと共に歩む父母の会「愛和会」会員


■文献表

(No1)
岡部眞規子(2012)「罪を犯した人の社会復帰についての一考察」『東洋大学大学院紀要』
神山直子(2016)「矯正機関における就労支援」目白大学短期大学部研究紀要第52号
玉井眞理子(1998)「初期シカゴ学派モノグラフ クリフォード・シヨウ『ジャック・ロー
ラ』の生活史法」大阪大学教育学年報1998
武田建・津田耕一(2016)『ソーシャルワークとは何か』誠信書房
早野禎二(2005)「精神障害者における就労の意義と就労支援の課題」『東海学園大学研究紀
要:人文学・健康科学研究編』第10号29-43
速水敏彦(2019)『内発的動機づけと自律的動機づけ』金子書房
廣末登(2017)『ヤクザと介護-暴力団離脱者たちの研究』角川新書
――(2017)「暴力団離脱実態と社会復帰について」警察学論集第70巻第2号64-80
星野周弘(1979)「組員の離脱過程に関する研究?組員の追跡研究(Ⅱ)」科学警察研究所報告
15(1)
守山正(2017)「刑務所出所者の社会復帰支援」警察学論集第70巻第2号3-22
Clifford R. Show(玉井眞理子・池田寛訳[1930]1966 =1998)『ジャック・ローラー
――ある非行少年自身の物語』東洋館出版社
Howard Saul Becker (村上直之訳n.d. =[2011]2013)『完訳アウトサイダーズ ――ラベリ
ング理論再考』現在人文社
村田愛「老舗温泉旅館で元組員奮闘中」毎日新聞2022.8.1朝刊19面
2022年6月24日取得. https://www.moj.go.jp/content/001344331.pdf

(No2)
小西 吉呂・外間 純也 2015 「刑罰論と社会福祉の連携に関する一研究――?刑務所出所者
等の就労支援に関する取組みを中心に」、『沖縄大学法経学部紀要』23-1-13
吉間 慎一郎 2021 「就労支援からキャリア支援へ――新自由主義化する労働市場と犯罪
者処遇の克服」、『犯罪社会学研究』46-2021:91-104
宝月 誠 2004 『逸脱とコントロールの社会学――社会病理学を超えて』、有斐閣
山本 淳一・加藤 哲文 2004 『応用行動分析入門』、学苑社

(No3)
玉井 裕子 2018 「精神障害者への就労支援の可能性――飲食や障害者アート領域の事例
から」、『21世紀社会デザイン研究』17-2018:81-99
伊藤 秀樹 「離脱/立ち直り研究における経済的排除の看過――マートンのアノミー論とヤ
ングの『排除型社会』を基にした批判的検討」、『犯罪社会学研究』47-2022:28-41

(No4)
野田 陽子 2022 「逸脱的キャリアにおける構造化された偶然性(contingency)としての
犯罪者観と離脱者観、『犯罪社会学研究』 47-2022:8-15
森久 智江 2022 「Restorative Justiceにおける『再統合のための恥付け(Re-integrative Shaming)による犯罪学理論の統合とその批判』」、『犯罪社会学研究』47-2022:16-27

(No5)
駒澤 真由美 2022 「パーソナル・リカバリーと就労支援に関する一考察――『精神障害
者として生きる』当事者のライフストーリーから」、Core Ethics Vol 16(2020)
伊東 健太郎 2015 「刑務所におけるSSTの活用――受刑者への就労支援指導実践を通
じて」、日本赤十字北海道看護大学紀要第15巻2015 

(No6)
中鹿 直樹・望月 昭 2010 「課題分析を使った指導の記録を就労支援に活用する」、『立命館人間科学研究』20 53-64 
若林 功 2009 「応用行動分析学は発達障害者の就労支援にどのように貢献しているのか?──米国の文献を中心とした概観」、『行動分析学研究』23(1)5-32

(No7) 八尋 茂樹 2018 「発達障害を有する少年院出院者等の社会復帰に向けた福祉的支援に関する研究の国内における動向」、『新見公立大学紀要』第38巻2号119-123 伊藤 健太郎 2015 「刑務所におけるSSTの活用??受刑者への就労支援指導実践を通して」、『日本赤十字北海道看護大学紀要』第15巻55-60

  (No8)
都島 梨紗 2017 「更生保護施設生活者のスティグマと『立ち直り』――スティグマ対処行動に関する語りに着目して」、『犯罪社会学研究』第42号155-170
市川 岳仁 2022 「『自己和解』を中心にしたリカバリー概念の生成に向けて――他者の定義による「回復」を超えて」、『犯罪社会学研究』第47号42-59

■文献メモ

(No1)
岡部 眞規子(2012)「罪を犯した人の社会復帰についての一考察」『東洋大学大学院紀要』

刑務所を出所者した離脱者は、暴力団に所属していたという前歴や指の欠損等離脱者特有の身体的問題が就労の阻害要因になり、容易に社会復帰ができない。その結果、彼らの多くは総じて「職業経験が乏しい傾向」(岡部2012:170)にある。

神山 直子(2016)「矯正機関における就労支援」目白大学短期大学部研究紀要第52号

神山直子は、非行の原因を貧困やネグレクト(養育放棄)など家庭環境にあるとし、非行少年や若年犯罪者には、学歴や就労資格・技能などの面で社会復帰につながる安定した就労先を確保するのは容易ではないことが伺われる(神山2016:44-45)と指摘。

玉井 眞理子(1998)「初期シカゴ学派モノグラフ クリフォード・シヨウ『ジャック・ロ
ーラ』の生活史法」大阪大学教育学年報1998 

古典的なものとしては、非行少年を更生させる目的を持った矯正者の立場から、非行少年自身の物語を収集、仮説に基づいた矯正計画を実施し、非行少年が更生していく経緯を生活史で示したものにクリフォードR.ショウがある(玉井1998:209)

武田 建・津田 耕一(2016)『ソーシャルワークとは何か』誠信書房

武田建、津田耕一(2016)は、「援助を目的としたワーカーとクライエントとの間で行き来するさまざまなやり取りを通して営まれるワーカーとクライエントの関係が援助関係なのです。そして、良好な援助関係が形成されて、効果的な援助が展開されるのです」(武田、津田2016:9)と述べている。(ワーカーとクライエントの間には援助関係が構築される必要があり、暴力団離脱者と社会復帰アドバイザーとの間には理想的な援助関係があることがわかる。)

早野 禎二(2005)「精神障害者における就労の意義と就労支援の課題」『東海学園大学研
究紀要:人文学・健康科学研究編』第10号29-43

精神障害者の就労支援を手がける早野禎二は、精神障害者への偏見が雇用現場で差別となって現われると述べている。そのため、精神障害者の雇用を進めていくためには就労をバックアップする体制を整備することが必要であり、就労の効果として社会的関係が広がり、生きがいを持つことができるとしている(早野2005:29)

速水 敏彦(2019)『内発的動機づけと自律的動機づけ』金子書房

速水敏彦のいう「外発的動機づけ」(2019:31)となり離脱に繋がったというケース
取調官の「離脱すれば就労支援が受けられる」との言葉掛けが、速水敏彦(2019)のいう「外発的動機付け」となり離脱に繋がったのではないか。

廣末 登(2017)『ヤクザと介護-暴力団離脱者たちの研究』角川新書

廣末登は、暴力団離脱研究の中で「非行・犯罪的生活にターニングポイントをもたらす出来事がある。それは結婚(あるいは出産)と、安定的仕事への就業である。これらを契機に逸脱的だった者も、社会的なボンドを回復して普通の社会生活を営むことが可能となる」(廣末 2017:70)と主張。

廣末 登(2017)「暴力団離脱実態と社会復帰について」警察学論集第70巻第2号64-80

廣末登は、暴排条項は離脱者の社会復帰を阻む理由のひとつになっている(廣末2021:15)と指摘している。
※ 暴排条項とは、暴力団を離脱しても5年間は、暴力団員と同一にみなす暴力団排除条例内の規定で「元暴5年条項」ともいわれる。

星野 周弘(1979)「組員の離脱過程に関する研究?組員の追跡研究(Ⅱ)」科学警察研究所
報告15(1)

 1974年の科学警察研究所の調査では、離脱者の約3分の1が社会復帰している(星野1979,1982)ことと比べると、現在の状況はあまりにも厳しい。(当時の状況と現在の状況を比較するために用いたもの)

守山 正(2017)「刑務所出所者の社会復帰支援」警察学論集第70巻第2号3-22

就労に関して守山正は、「社会復帰の過程で、例えば仕事を続ける場合に、本人の精神状態が安定しておらず、動揺があるとすれば、持続可能な活動を行うのは困難と思われる」(守山2017:9)と指摘している。

Clifford R. Show(玉井 眞理子・池田 寛訳[1930]1966 =1998)『ジャック・ローラー
―ある非行少年自身の物語』東洋館出版社

ショウは、矯正施設を出た非行少年が理解ある支援者との出会い、それが転機となり、非逸脱的社会集団に参加し、その後、就労を果たし更生に至る経緯を描いている(R.ショウ=1998玉井・池田)

Howard Saul Becker (村上 直之訳n.d. =[2011]2013)『完訳アウトサイダーズ ――ラベリ
ング理論再考』現在人文社

離脱者故の差別は、正にハワード・ソール・ベッカーのいうラベリングそのものであり、このようなラベリングが「社会がアウトサイダーとみなす特定の逸脱者を生みだす」( S. Becker2013:162)と指摘している。

村田 愛「老舗温泉旅館で元組員奮闘中」毎日新聞2022.8.1朝刊19面

「暴力団排除条項(暴排条項」)によって生じる就労への阻害要因。この規定により離脱者が就労できない事例の一つに「自分で仕事を探したが、銀行口座がないことや元組員であることを伝えるとすぐに断られた」(村田 毎日新聞朝刊2022.8.1)との記事がある。
※ 暴排条項とは、暴力団を離脱しても5年間は、暴力団員と同一にみなす暴力団排除条例内の規定で「元暴5年条項」ともいわれる。

(No2)
小西 吉呂・外間 純也 2015 「刑罰論と社会福祉の連携に関する一研究――?刑務所出所者等の就労支援に関する取組みを中心に」、『沖縄大学法経学部紀要』23-1-13

古くから、再犯防止に対する福祉政策の重要性は指摘されている。…しかし、刑事責任論や刑罰論から、社会福祉的要素の色濃い刑事政策が、どのような論理からその妥当性を獲得できるか。その出発点となる理論的根拠を刑法学は模索し、提供する任務を負っているのではないか(小西ら2015:1)

犯歴の件数構成比を見ると、約30パーセントの再犯者によって約60%の犯罪が行われている(小西ら2015:3)

年齢層別にみた一般的再犯危険性は20歳代前半(20歳から24歳)の者が、最も高く、加齢とともに減少していく(小西ら2015:3)
無職者の再犯率が有職者のそれを大きく上回ること(無職者36.3%、有職者7.4%)(小西ら2015:3)

更生保護は、刑務所等の矯正施設内で行なわれる受刑者等に対する処遇を施設内処遇と呼ぶのに対して、社会の中で対象者に対する処遇を行うことから社会内処遇と呼ばれている(小西ら2015:3)

(刑務所出所者等総合的就労支援対策)
本対策は、刑務所出所者等に対する就労支援対策の重要性が社会的にも認識されたことを受けて、2006年から厚生労働省と法務省が連携して実施している施策である。
その内容は、矯正施設及び保護観察所並びにハローワークの連携のもとで的確な就労支援の早期実施により、刑務所出所者等の就労意欲を喚起し、就労のために必要な知識等について指導及び助言することを主軸にしている。これは、出所前からハローワークの担当職員が矯正施設へ出向き、対象者との面談等を行う中でその者に対する支援を選択し、同時に職業相談等を行うという方法で実施されている。加えて、雇用の受け皿となる協力雇用主の拡大を図り、就労の機会を確保することにも重点が置かれている。(小西ら2015:4)

(支援の課題)
「支援対象者の選定に当たっては、就労意欲や稼働能力を有することなどが要件として求められており、就労意欲に欠けることから、支援の第一歩として、面接指導を重ね就労意欲の惹起を図るところから始めることが必要な者も少なくない」ということが指摘されている。また、対象者と協力雇用主とのマッチングの問題も深刻である。というのも協力雇用主の業種のほとんどを建設業が占めているため、対象者のニーズに対応できるだけの業種の幅が現状では満足な整備がなされていない。(小西ら2015:4)

吉間 慎一郎 2021 「就労支援からキャリア支援へ――新自由主義化する労働市場と犯罪者処遇の克服」、『犯罪社会学研究』46-2021:91-104

就労支援により、その対象者を賃金等の格差が拡大しつつ労働市場に送り込むことは、社会的包摂に名を借りた社会的排除となる可能性がある。近年、雇用の不安定化のなかで労働者の職業を通じた自己実現を図るための理念的権利としてキャリア権が議論されているが、キャリア権は、キャリアの個人化を招き、職に就けないことや劣悪な労働環境で働かざるを得ない状況を労働者の自己責任とする見方を強化する危険性がある(吉間2021:91)

「就労支援をする場合に、彼ら出所者の場合は、一番大きな特徴は職業経験が極めて乏しい、限られている。限られた職業経験の中でしか職業を考えていない、あるいはそれでやっていけるという過信もある」。「目の前にある就労機会、それが日銭が入れば取りあえず何でもいいという刹那的なところもあります。そういう適職は何かという発想もなくて、刹那的にまた飛び付くという発想で、就労してから失敗をするというのが実情でして」(清水委員、法務省2017b:11)という発言や、「職業訓練、就労斡旋とか、職場に定着できるための公的な支援を在所中から始め、出所後も継続することが大事だと思っています」(堂本委員、法務省017:13)という発言からもわかるとおり、犯罪をした者は就労のための能力が欠如しているために、職業訓練を実施して就労に必要な能力を身につけさせ、職場への定着を図ることが必要であるという認識が共有されていたように思われる。(吉間2021:94)

支援者には、当事者の代理人として当事者の声を社会に伝えるだけでなく、当事者との協働により、社会の一員として自らの在り方を問い直しつつ、社会の在り方をも問い続けるような姿勢が求められよう。その過程の中で、使用者との対話や交渉による労働条件の改善や犯罪行為者に対する偏見の除去等が進められていくであろう。このような営みの継続によって、過酷な労働条件や犯罪行為者としての就労ばかりを求める政策の在り方が社会問題として人々の間に共有されていくようになるだろう。これは、当事者と伴走者(当事者の人生を共に歩む者)によるコミュニティと主流文化に属するコミュニティとの相互変容(吉間2019)の一類型といえる。こうした当事者と支援者の営みを権利として下支えするのが社会権としてのキャリア権である。つまり、社会の主流派に属さない人々を排除し続けてきた社会が、自省し、変容するための権利概念がキャリア権なのである。(吉間2021:102)

宝月 誠 2004 『逸脱とコントロールの社会学――社会病理学を超えて』、有斐閣

(レイベリング論)
ひとたび逸脱を犯した人に対しては、他者はその人がまた逸脱するのではないかと恐れてその人を排除する。排除された人はまっとうな生活を送る機会が閉ざされて、再び逸脱する。他者はそれを見て自分たちの予想が正しかったことを確信し、逸脱者への排除を強める。その結果、逸脱者はますます逸脱者として生きて行くしかないと考え、逸脱的アイデンティティを形成していく。(宝月2004:96-97) 

逸脱者に烙印を貼るのではなくて、逸脱を自ら恥と感じさせ、その人を再び社会に受け入れて「再統合」するコントロールが重要であることを、プレイスウェイトは強調している(Braithwaite,1989)。排除ではなくて、地域社会や集団への逸脱者の再統合を重視するこの考え方は、現在の刑事司法のあり方に影響を与えて、修復的司法として展開されている。(宝月2004:96-97) 

(No3)
玉井 裕子 2018 「精神障害者への就労支援の可能性――飲食や障害者アート領域の事例
から」、『21世紀社会デザイン研究』17-2018:81-99

現在全国に約940万人存在するといわれる障害者に対し、2018年4月から民間企業の障害者に対する法定雇用率が2.2%に引き上げられ、精神障害者の雇用が義務化された。一方障害の三区分(身体障害、知的障害、精神障害)の中で、精神障害者は最も雇用しづらいとされる。(玉井2018:81) 

 マネージャーのF氏は、「障害者はできない」と、ただ保護するだけではなく、「障害者の持っている能力を引き出すための仕組みをつくること」が最も重要だと語った。(玉井2018:87)

精神障害者のための望ましい環境は障害があることを開示しても不利益にならないことを前提とする。(玉井2018:92)

障害があることを開示しないまま入社または復帰する場合は、服薬、通院、体調不良時の対応など様々な問題が生じてくることが明らかになった。(玉井2018:92)

(企業側の視点)
 どうしたら障害者が仕事を吸収しやすいかを考えるうち、業務を見直し、他の従業員も働きやすく改善された。(玉井2018:95)

伊藤 秀樹 「離脱/立ち直り研究における経済的排除の看過――マートンのアノミー論と
ヤングの『排除型社会』を基にした批判的検討」、『犯罪社会学研究』47-2022:28-41

犯罪発生のメカニズムを断ち切るためには、人々が直面する経済的排除に目を向ける必要があることが示唆される。一方で、日本の大多数の離脱/立ち直り研究では、犯罪・非行経験のある人々が直面する経済的排除を主題として扱ってこなかった。またそれらの研究では、個人の内面の変容と、それを可能にするような支援の文化の変容を求める傾向にあった。
 しかし、犯罪・非行経験のある人々への経済的排除が看過されることには、①彼らの犯罪をせずに生きていくという願いが頓挫させられる可能性がある、②彼らの生存権が脅かされ続ける、という2つの大きな問題がある。(伊藤2022:28)

(伊藤論文に対する批評)
 筆者の研究は、離脱者の生活史を通じて、組員が離脱し、就労を果たし社会復帰する過程を明らかにするものである。特に、離脱者の生活を支えることとなる就労(支援)は、離脱者の経済的自立を図るものであり、この生活史を通じて、離脱者の就労実態を明らかにすることは、むしろ離脱者を経済的に排除しょうとする社会の風潮に風穴を開ける一助になると考えるのである。

(No4)
野田 陽子 2022 「逸脱的キャリアにおける構造化された偶然性(contingency)として
の犯罪者観と離脱者観」、『犯罪社会学研究』47-2022:8-15

H.S.ベッカーが提起した逸脱的キャリアの発展図式において強調されている「偶然性(
Contingency)」という視点に着目し、構造化された偶然性としての犯罪者観と離脱者観
が逸脱化/離脱化に及ぼす影響を検討(野田2022:8)

離脱者観は、厳格化しやすい特徴をもつといえる。逸脱的行為が同一の場合、「警察に捕まったことがある」という前歴がある行為者に対しては、そうでない行為者に対しては、そうでない行為者に対してよりも、「つきあわない」という交流忌避的な統制態度をとると回答する者が明らかに多く、そのことは、いったん社会に「犯罪者」として認知されたことがある者の場合、「まっとうな社会」へと還流するハードルが高いことを表わしているといってよい。(野田2022:12)
 「ささいな」逸脱も強要されず、「日々襟を正して生きる」ような厳格な生き方を求められれば求められるほど、挫折経験が堆積する可能性が高く、離脱化過程は不安定化する。ラベリング論は、恣意的とされるラベリングが、行為者の個人的次元では逸脱的アイデンティティの形成という結果をもたらし、行為者の社会的次元では行為者を「まっとうな社会」から排除するメカニズムの形成という結果をもたらすことをとおして逸脱を創出すると論じたが、そのような現実的ラベリングの背後に構造化された偶然性としての犯罪者観、逸脱者観があることをいま一度注目すれば、ここでいう逸脱者観が離脱化を抑制する方向に作用する可能性は否定できないと思われる。とするならば、「まっとうな」社会のもつ逸脱者観を問い直すことが必要となってくるだろう。(野田2022:13)

森久 智江 2022 「Restorative Justiceにおける『再統合のための恥付け
(Re-integrative Shaming)による犯罪学理論の統合とその批判』、『犯罪社会学研究』
47-2022:16-27

現代においてもなお有罪宣告や刑罰を受けることは、やはりそれを受ける人の自尊心を傷つけものである。Braithwaiteが問題視したのは、このような制裁によって、逸脱行為者に対してスティグマを与えるのみの「排他的恥付け」が、却って本人を「犯罪者」としての地位に追いやり、そこに固定化し、犯罪統制として逆効果となるということである。
 また一方で、Braithwaiteは、われわれの社会は、逸脱行為への対応として「恥付け」自体を必要としているという。しかし強制や暴力による犯罪行為の統制は、報復や反発を招きうる。だからこそ本人にではなく逸脱行為に対する不承認という「恥付け」を行った上で、本人に対しては遵法的なコミュニティに再び受け入れるという態度を示すことが、本人が自らの行為に対する「恥」と遵法的なアイデンティティを学ぶことに繋がるとする(Braithwaite,1989:55)。そのためBraithwaiteは、スティグマを与えることなく「恥付け」を行うことが必要であり、またそれは可能であるとする。それが「再統合のための恥付け」なのである。(森久2022:19)

(No5)
駒澤 真由美 2022 「パーソナル・リカバリーと就労支援に関する一考察――『精神障害
者として生きる』当事者のライフストーリーから」、Core Ethics Vol 16(2020)

(支援者に翻弄される当事者)
今井さん本人は「しょうもないことして、人どついて(精神病院に)入った」と発言しているが、ある人は精神科病院に行って医師に診断書を書いてもらったら「精神病患者」になった、ある人は「犯罪者」として刑務所にたどり着いた(山本2009)というように、どのような類の人間であるとされるかは、その時々の医療・福祉・矯正などの専門家の判断によって左右されるということかもしれない。しかし、今井さんと支援者のやり取り、本人の受け取り方には、たとえば「犯罪を犯さないと助けようがない」「僕らは別に君が刑務所行くか裁判受けてもええんやけど、どっちにする?このまま病院にいるか?」「療育態度が良いに丸つけてくれて(障害年金を)もらえた」など、情報のゆがみがあるように思われる。支援者はこのように自分たちの対応が当事者の人生を左右し翻弄していることを強く自覚する必要がある。
 本稿では、精神保健医療福祉システムの構造的な枠組みに囲い込まれながらも自らそこ
に乗っていくこと、またそこからはみ出すことにも本人なりの「合理性」を見出している
ことを例証した。(駒澤2020:92)
(支援の枠組みに入り生きて行くか、また、それからはみ出して生きて行くか、それは本人にとってそれが最適だとの判断に基づき決断している、と考える)

 刑務所行くよりはいいとして精神科病院に入院する、障なくなり害年金を受給できない
なら生活保護を受給しながら生活する、一般企業への就職が難しいなら社会的事業所で働
く、というように本人の「希望」が叶っている状態には見えないかもしれない。ただし、
所持金がなくなり犯罪をおこなうような生活からは抜け出すことができた。それは、パー
ソナル・リカバリー概念でいう「満足感のある、希望に満ちた、〔中略〕人生の新しい意
味と目的を創り出す」といった「成功物語」に回収されることのない生き方であると言え
る。そこには従来のパーソナル・リカバリー論に収まりきれない「生の実践」がある。(駒
澤2020:92)
 
伊東 健太郎 2015 「刑務所におけるSSTの活用――受刑者への就労支援指導実践を通じ
て」、日本赤十字北海道看護大学紀要第15巻2015 

※ SST(Social Skills Training)とは、社会で人と人が関わりながら生きていくために欠かせないスキルを身に付ける訓練のことをいう。

( SST訓練後の感想)
様々な解決法の発見
・自分が考えつかなかった色々の方法があった。
・人によって、色々の考え方があることを知った。
・一人でどうしたらよいかと悩んでいたことが、みんなからアドバイスをもらったことによって、さまざまな解決方法があることがわかった。(以下略)
他者への配慮
・相手の立場になって考えることが必要だと思った。他者への配慮することの大切さがわった。
・仕事で叱られたときに、感謝の気持ちを伝えると、よい人間関係を保つことができることがわかった。
気持ちを確認することの大切さ
・自分の勝手な思い込みで誤解してしまうところがあった。相手にはきちんと確認することが大切だと思った。
・自分の気持ちを相手に伝えることが大切だと思った。(以下略)(伊東2015:59)

(就労を定着させるために必要なものとしてのSST)
 犯罪者の行動特徴のひとつに、角谷は、すぐに結果を求め、相談してもすぐに問題解決ができないと「相談しても無駄」と短絡的に結論づけ、自分の思い込みで行動したり投げ出したりしやすいと報告している。
 このことは、受刑者が刑務所から出所し社会復帰後に、再び同じような行動をとる可能性があることを示唆している。そのため、前田は、受刑者にSSTを行うことの必要性について、出所後生活を考えた場合、ストレス状況において引き起こされる衝動的な感情をコントロールし、できごとをポジティブに考えて適切な対処行動を実行する手段として、SSTが必要であると述べており、刑務所でのSSTは、就労のみならず、地域社会における人間関係の持ち方や、日常生活の過ごし方を考えられるように、SSTを行うことが必要であるといえよう。(伊東2015:60)

(No6)
中鹿 直樹・望月 昭 2010 「課題分析を使った指導の記録を就労支援に活用する」、『立命館人間科学研究』20 53-64 

 障害者の就労を支えるためにさまざまな仕組みが作られている。中でも大きな転機となったのは援助つき雇用(supported employment)という考え方である。
 しかし本当に必要なのは障害を持った個人が「やりがいを持って」仕事を続けられる環境を整備することにある。(中鹿ら2010:53)

(継続的就労支援)
 当事者の新しい仕事への適応をうまく援助できるかがポイントとなる。新たな技能を習得する際に、しばしば用いられる支援方法に課題分析(task analysis)に基づく支援がある。(中鹿ら2010:54)
※ 課題分析とは、業務はいくつかの作業で構成されている。業務を構成する作業工程を明確にし、支援対象がどの工程でつまずいているかなどを把握、分析することを課題分析という。

 ジョブコーチ(職場適応援助者)は、障害者に新しい職務を教える際に、その職務を課題分析して指導を行う。細かく分けられた構成要素ごとにどのような手助けが(プロンプト)があれば、その要素の行動ができ、時間の経過(練習の経過)とともに、その手助けが必要なくなっていくつまりは障害者が自立して作業をできるようになるかという経過を記録する。(中鹿ら2010:54)

 人間の反応は、正の強化によっても、負の強化によっても増加・維持される。正の強化によって維持される場合は、その反応、場面全体なども好きになっていき、やりがいを感じるようになる。しかし負の強化によって反応が維持される場合は、逆に嫌悪を感じるようになる。望月(2007)は、正の強化によって維持される行動の選択肢が拡大していくことこそがQOL(Quality Of Life)であるとした。(中鹿ら2010:56)

 支援者が行う働き掛けは、プロンプトだけではない。対象者の反応に対して、主には言葉かけという刺激を与えることも行う。この言葉かけも実は大きな周囲からの支援であり、時間の経過とともに減少していくことが期待される(中鹿ら2010:59)
この言葉がけは暴力団離脱者の就労支援についても言えるのではないだろうか。

 新しい環境に当人がおかれたときに、どのような配慮をすべきかを、その環境下にある新しい支援者に伝えることになるのである。こうした支援のつながりこそが、対人援助における3つの連環的作業である援助・援護・教授(望月、2007)になる。すなわち、課題分析に基づく具体的指導(教授)、そこで表現された機能に基づいて行う新たな環境調整(援護)、さらにこれらの経緯を記録し表現することで新たな環境に対象者がおかれた時に必要な援助を要請(援護)する連環をなす。(中鹿ら2010:63)


若林 功 2009 「応用行動分析学は発達障害者の就労支援にどのように貢献しているのか?──米国の文献を中心とした概観」、『行動分析学研究』23(1)5-32
今まで知的障害が重く、働くことは不可能だとされてきた人達にも指導法を含んだ適切な環境を提供すれば十分働けるということを証明すべきだという意図があったためと考えられる。なおこの意図は、援助付き雇用の「zero exclusion(どんな重度な障害の人でも援助付き雇用のサービス受給者から排除しない)という理念にも受け継がれていると考えられる。(若林2009:13)

典型的な障害者就労支援のプロセスとは、まず職業相談や職業評価を行い、就労に向けてどのような道筋をたどるべきか計画を立て、その後具体的に施設内での訓練や、ジョブコーチにより実際の事業所の環境アセスメントや事業所内での訓練を行う、といった段階に移っていく。(若林2009:26)
※ 環境アセスメントとは、「環境影響調査」のことで、1997年6月に成立した「環境影響評価法(別名アセス法)にて手続きなどが定められている。

 応用行動分析学には、標的行動を実現するためにスモールステップを設定する、データによって介入効果の判断しより効果的な手法を追及する、行動の般化・維持の方法論をもっている、といった特徴があるが、これらは施設内や学校内での職業訓練や移行の計画を立案する際に有効性を発揮すると考えられえる。(若林2009:27)
※ スモールステップとは、目標を細分化して達成を目指す手法。

「習得にどのくらい時間がかかりそうか」「職場内で他に本人に適した職務はないか」、さらには「本当にその行動を習得させる必要があるのか」といった?指導・介入手続きの社会的適切性についても視点を持つことが重要であろう。(若林2009:27)


(No7)
八尋 茂樹 2018 「発達障害を有する少年院出院者等の社会復帰に向けた福祉的支援に関する研究の国内における動向」、『新見公立大学紀要』第38巻2号119-123

安達(2011)は教育講演の中で「発達障害支援が急務であるのは、発達障害特性を持ちつつも、周囲の理解と配慮が乏しく、育ちの経過の中でさまざまな傷つき体験を溜め込み、結果的に重大な生活不適応に陥ってしまう人たちが少なくないからである」と述べ、少年非行などの生活不適応の背景に発達障害の存在や疑いが少なからず認められることに触れている。(八尋2018:119)

NHKの福祉番組『ハートネットTV』(中略)シリーズ第2回では、発達障害を有する刑務所収容者や少年院在院者には「反省」を基本とするこれまでの矯正手法が通用せず、更生への道筋が描きずらく」、「出所した後も、障害への適切な支援を受けられないまま過ごし、結果として再犯を繰り返してしまう人も少なく」ないため、社会復帰の道が険しいことが伝えられた。(八尋2018:119)

 少年院を出院した者が社会復帰を果たすには、まず帰住先の確保という壁を乗り越えなければならない。これは出院者が発達障害を有する少年であれば、なお一層高い壁となる。さらに、徳田(2016)は、「罪に問われた障害のある者の更生には、本人の障害の特性や背景事情に応じた福祉的な寄り添い型の支援が検討されるべき」と考えながらも、現実的には「障害があるにもかかわらず、福祉との接点さえも途絶えている人は多い」、あるいは「従来の画一的、硬直的な福祉に対するイメージから、本人自身が福祉の利用に否定的な態度を示すこともままある」と指摘している。(八尋2018:121)

 平成23年版犯罪白書では、少年院出院後に社会に適応できない主な理由として、「学業や仕事を続けられない、仕事が見つからない」者が約3割いることが報告されている。
(八尋2018:122)

津富(2009)は、少年院出院者が自身の負の経験を社会に役立てたりする活動などにポジティブに変換するパラダイムシフト(長所基盤モデル)に基づいたNPO法人セカンドチャンス!を立ち上げ、出院後の者の社会復帰支援を行っていることを報告している。
(八尋2018:122)

伊藤 健太郎 2015 「刑務所におけるSSTの活用??受刑者への就労支援指導実践を通して」、『日本赤十字北海道看護大学紀要』第15巻55-60

 明治以来100年近く続いてきた監獄法に代わり、2006年5月24日、「刑事収容施設及び被収容者等の処遇に関する法律」が施行された。この法律は、「刑務所の透明性」「受刑者の人権尊重」「矯正教育の質的向上」を掲げ、刑務所内の処遇改善と受刑者の社会適応を目的としている。今まで刑務作業が中心であった受刑者の処遇について改め、新たに「教科指導」と「改善指導」を規定した。(伊藤2015:55)
※ これらは全て受刑者の社会復帰に向けての施策である。

 Social Skills Training(以下SST)が、近年司法領域で活発に行われるようになった。SSTは、社会生活技能訓練ともいわれ、認知行動療法の一つであり、主に対人関係で生じる問題に対して、ものの見かたや、考え方、行動の改善を図るのに効果的な手法だとされている。司法領域で行なわれるSSTでは、社会的ルールや、対人上のスキル獲得を目指し、社会生活では学べなかった社会資源の活用方法を含む生活の質を高める学びや、集団指導でお互いが体験を通して学習したことが、再犯防止につながるとされていると報告があるが、先行研究の成果は少ない。
 現在、司法領域でSSTが行われている主な機関は、少年院、刑事施設、保護観察所、更生保護施設(伊藤2015:55-56)
※ SSTとは、社会で人と人とが関わりながら生きていくために欠かせないスキルを身につける訓練のことをいう。

(就労支援指導)
 就労支援指導は、社会復帰後の勤労意欲が認められる職業訓練生及び、刑務所出所者等就労支援事業における就労支援を受けることを希望している受刑者に対し、職場において直面する具体的な場面を想定した対応の仕方等、就労生活に必要な基礎的知識及び技能を習得させることを目的とする。(伊藤2015:56)

 SSTは、「改善指導」の中にかる「特別改善指導」の一部として導入された。
 「特別改善指導」は、「薬物依存離脱指導」、「暴力団離脱指導」、「性犯罪再犯防止指導」、「被害者の視点を取り入れた教育」、「交通安全指導」、「就労支援指導」の6種類があり、それぞれの受刑者が持つ問題に合わせて、実施し、改善更生及び円滑な社会復帰に向けて改善を図っている。(伊藤2015:56)

(刑務所でのSSTの実際)
 SSTの対象者は、社会復帰後の勤労意欲が認められる職業訓練生及び、刑務所出所者等就労支援事業における就労支援を受けることを希望している受刑者である。(伊藤2015:56)

 就労指導支援で行なわれるSSTでは、練習課題として、主に、就労に関する課題だけではなく、対人コミュニケーションなどの社会生活を送ることについての様々な課題へも取り組んでいるため、自分の感じたことや、思ったことについて、言語化するためのスキルを身につけることができるようになる。また、グループメンバーから、正のフィードバックを多く受けることにより、対象者は、小さな成功体験を実感し、自分を肯定的にとらえられるようになる。受刑者自身が課題の練習を行い、グループメンバーに褒められたり、アドバイスを述べたり、様々な意見を聞いたりすることにより、他者の意見を聞いたり、対処方法について知ることは、刑務所の環境において大変貴重な体験となるとともに、対象者自身の強化につながると考えられる。
 犯罪者の行動特徴の一つに、角谷は、すぐに結果を求め、相談してもすぐに問題解決ができないと「相談しても無駄」と短絡的に結論づけ、自分の思い込みで行動したり投げ出したりしやすいと報告している。
 このことは、受刑者が、刑務所から出所し社会復帰後に、再び同じような行動をとる可能性があることを示唆している。そのため、前田は、受刑者にSSTを行うことの必要性について、出所後の生活を考えた場合、ストレス状況において引き起こされる衝動的な感情をコントロールし、できごとをポジティブに考えて適切な対処行動を実行する手段として、SSTが必要であると述べており、刑務所でのSSTは、就労のみならず、地域社会における人間関係の持ち方や、日常生活の過ごし方を考えられるように、SSTを行うことが必要であるといえよう。(伊藤2015:60)

(No8)
都島 梨紗 2017 「更生保護施設生活者のスティグマと『立ち直り』――スティグマ対処行動に関する語りに着目して」、『犯罪社会学研究』第42号155-170

 「非行・犯罪からの離脱」に関する研究では、「立ち直り」の過程において、スティグマからの回復が重要であると言われている。(都島2017:155)
 本研究で得られた知見は、主に以下の2つである。1つは、スティグマ対処行動についてである。就労生活や施設生活を維持するために、「補償努力」や「開き直り」という方法でスティグマの埋め合わせしていたことである。もう1つは、「更生保護施設」という集合的なスティグマも存在しており、それを知覚している非行経験者にとって更生保護施設は、スティグマ強化の場だけでなく、緩和の場として経験されていることである。本研究の知見を踏まえると、スティグマ付与の経験とその対処行動が非行からの「立ち直り」重要な解釈資源をもたらしていることがわかった。(都島2017:155)
 ※スティグマ:差別、偏見 

(ユウヒさんのスティグマ対処実践)
 補償努力
ユウヒさんは現在更生保護施設に入寮しながら、就労生活を送っているが、「施設生活者」としてのスティグマを知覚している。(都島2017:161)
彼女は職場においてスティグマを知覚しているものの、それを単に受容するのではなく、埋め合わせるように対処行動をとっていることがわかった。ユウヒさんの具体的な対処行動としては、過去に身に付けた「敬語や礼儀正しさ」を活用して接客に臨むことと、例えばシフト変更の折には余分に働くなど、「仕事をちゃんとする」ことが挙げられる。
「仕事をちゃんとする」「礼儀正しく敬語を使う」といったユウヒさんの対処行動は、Goffman(1963=1970)が類型化したアイデンティティ管理の一つである「補償努力」に当てはまるだろう。それは「ひとつの社会的アイデンティティにおけるマイナスを、他の社会的アイデンティティにおいて補償する戦略」(上野05:22)である。ユウヒさんの上記対処行動によって、「施設入寮者なのに仕事がちゃんとできる」や「若いのに(あるいは非行経験者なのに)礼儀正しく敬語が使える」といった新たなアイデンティティを職場で提示しているといえる。
ただ一方で「補償努力」という対処行動は、上野も述べるように「所与の社会的カテゴリーにおける劣位を受け入れる」(上野2005:22)結果になる可能性がある。それだけではなく、受け入れたカテゴリーの劣位性に囚われて過剰に「頑張ってしまう」可能性もあり、失敗した場合のダメージも大きい可能性がある。(都島2017:162)
(例)Tは暴力団離脱者というスティグマを知覚している。それだけに自ら進んで同僚に挨拶をし、他の部署の仕事でも積極的に応援するなどの対処行動(都島2017)により、同僚から、暴力団離脱者なのに「礼儀正しいし、仕事が忙しいときはよく手伝ってくれる」といった新たなアイデンティティを職場で提示し、信頼を勝ち取った。

市川 岳仁 2022 「『自己和解』を中心にしたリカバリー概念の生成に向けて――他者の定義による「回復」を超えて」、『犯罪社会学研究』第47号42-59

(本稿の目的)
刑事政策上の再犯防止が主目的ではないダルクの立場から、臨床社会学的に当事者のリカバリーを考察
適応という意味が強く合意される強迫的で外挿性の強い回復論ではなく、自己内対話に支えられたプロアクティブproactiveな行動論としてのリカバリー概念生成への試み(市川2022:42)

自助グループはまさに、逸脱者としてのレッテルを貼られた者が、他の逸脱者との間での社会的相互作用を通じて肯定的な評価・処遇を享受できる逸脱者(のちに「リカバリングアディクト」に置き換えられる)のを避難場所であり、互いのアイデンティティを確認し合ったり、自分たちの行為を正当化する理論を身につけたり、社会統制を回避する場である。
10代のほとんどを少年院で過ごした三重ダルクに所属する青年は、「悪いことをするよりこっちの方が楽しかった」と語る。青年は、ダルクにきて始めた学業について楽しいと語るのだが、それは、悪いことをやめて、その対極にある「健全なこと」としての行いが楽しいのではなく、「悪いことよりも楽しかった」のである。青年にとって、〈悪いこと〉と〈楽しい〉ことは、社会規範に基づく〈善〉〈悪〉や、〈健康〉〈不健康〉のような二項対立的な関係ではなく、過去の「悪いことも」ダルクでの「リカバリー」のプロセスも、同一方向的な楽しさであるように見て取れる。
こう見ると、リカバリーと逸脱は必ずしも対極に位置するのではなく、むしろ、同じ方向性にあるのではないか。アディクションとリカバリーは、「何か」から逃れるように同じベクトル上にある。その「何か」とは、自らのことを否定的に定義し、抑圧する他者、つまり社会のことである。少なくとも、アディクションとリカバリーは対極の関係にはないのであろう。同様に、アディクションに関連する犯罪とその状態からの離脱も対極にはなく、同じ方向線上にあるのだと思われる。(市川2022:48-49)

リカバリーとは自己の肯定的な再定義であり、それを可能にする環境が当事者活動であるといえる。そして、あらゆる権力・権力性の排除がそれを保証している。(市川2022:49)

アップロード:山口 和紀
UP:20220218, 1204(山口和紀), 11, 19, 28, 20230116, 0213, 0523
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