麦倉 泰子
むぎくら・やすこ
2004年3月 早稲田大学大学院文学研究科博士課程単位取得退学
2004年4月〜 立教大学コミュニティ福祉学部助手
2005年4月〜 関東学院大学文学部専任講師
■著書・論文
◆麦倉泰子,2003,「(3)障害とジェンダーをめぐる複数の視線――知的障害を持つ男性のセルフ・ストーリー」桜井厚編『ライフストーリーとジェンダー』せりか書房,45-64.[amazon]
◆麦倉泰子,2003,「語られる施設化――知的障害者施設入所者のライフヒストリーから」『年報社会学論集』16:187-99.
◆麦倉泰子,2004,「知的障害者家族のアイデンティティ形成についての考察――子どもの施設入所にいたるプロセスを中心に」『社会福祉学』45(1)77-87.
■翻訳
(共訳)デビッド・ジョンストン,20081010,『障害学入門――福祉・医療分野にかかわる人のために』明石書店.270p.[amazon]
■報告書
◆麦倉泰子「2.ABIOS(脳損傷者アウトリサーチ・サービス)による脳損傷者のコミュニティ・インテグレーションへ向けた取り組み」『オーストラリア・クイーンズランド州における脳損傷者の地域支援システム』
http://support.ryoiku-c.com/shousai.php?lgid=&sd=7
■報告
◆20011125 「知的障害者施設のエスノグラフィー――カテゴリー化とスタッフ・コード」
第74回日本社会学会大会報告
◆20020615 「語られる施設化――知的障害者施設入所者のライフヒストリー」
障害学研究会関東部会第24回研究会(午後6時ー9時)
◆20030614 「「障害者」としての自己はいかに構築されるか――専門家との制度的会話を通して」
関東社会学会第51回大会、第2部会:福祉社会と生活
http://wwwsoc.nii.ac.jp/kss/congress/51/points_section02.html#report_01
◆語られる施設化――知的障害者施設入所者のライフヒストリー
早稲田大学大学院文学研究科博士課程 麦倉 泰子
(内容要約)
@方法
これまで「施設化」あるいは「脱施設化」についての分析の中心であったのは施設数
の増減や、それにともなう政府支出の変化等の統計的な変化によって捉えられる変化
であった。こうした実証的観点からの政策に対する評価研究に対し、近年障害や病い
を持つことが当事者にとってどのような意味をもっているのかという当事者の「経
験」を明らかにしようとする解釈的観点からの研究の高まりにともない、公共政策の
対象となった人々にとってそれがいかに経験されるのかに注目した研究が行われるよ
うになってきている。批判の中心は、社会サービス等の公的政策についてのこれまで
の社会学的研究が相互行為する諸個人の世界から独立している理論−分析的概念枠組
みを前提にしており、直接的に生きられるリアリティが消失してしまっているという
点である。
本稿もこうした問題意識を共有し、施設への入所を経験した当事者の語りに注目する
ことによって政策の内側で生きられる経験を明らかにしていきたい。特に自分に障害
があることを告げられたとき、施設への入所を勧められたときなど人生において転機
となる時点に注目し、自らを「障害者」として定義する文化的な知識、さらに専門知
識との出会い、そして「施設化」がいかに経験されたのかを明らかにしていきたい。
A背景 日本の戦後障害者施設政策の概要
B調査概要
2001年8月~9月都内知的障害者入所更生施設にて実施 録音によるインタビュー調査
対象者 知的障害当事者17人
(事例報告要約)
l 事例1 60代女性 40代で施設入所
30代で知的障害者の認定を受ける。それまでは自分自身のことを「普通の子」だと
思っていたが、成績が悪かったため高校進学などが遅れたことで「みんなから下に見
られていた」と語る。障害認定を受け、ワーカーから「あなたは軽いんだから、もっ
と重い人のために頑張らなきゃだめよ」と言われた。施設に入り、みんなを助けてあ
げたいと思うことで明るくなったと語る。
l 事例2 40代男性 30代で施設入所
小学校で特殊学級に入る。「知恵遅れ」「バカ」と言われ、「自分はバカじゃないと
思った」と語る。中学を卒業する際に、「バカにされてたから」「普通のところで働
きたい」と思い、就職する。施設に入所したのは、母親がもう年で自分を見ることが
できないと感じたからだという。
l 事例3 60代男性 50代で施設入所
50代で障害認定を受ける。それまでは土方などの仕事を転々とする。施設入所に対し
て、「良かったと思うよ、こういうきれいなところ入れてよ」と語る。障害者という
言葉を聞いたことがあるか、という質問に対しては、「車いすに乗ってる人」「テレ
ビで見たよ」と語る。自分自身はどう思うかと尋ねたところ、「今は足が悪いから障
害者になったと思うよ」と語る。
C考察
l 「障害者」としてのアイデンティティ多様性。=明示性、非明示性。
l 調査者のあり方について:病・障害を持ち、社会政策の対象者となる人々
の語りに耳を傾け、その経験を記録・分析し、彼らの人生に影響を及ぼしている個人
的な意味を明らかにすることによって調査者は何をなし得るのか。
*作成:小林勇人