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鎌田 東二

かまた・とうじ


◆「地球的平和の公共哲学の形成」
 『徳島新聞』2003-05-11朝刊,12朝刊
 
 「イラク戦争が終わり、復興計画が進んでいるという。が、米国が攻撃の第一の理由としてあげた核兵器や生物・化学兵器などの「大量破壊兵器」はまだ発見されていない。査察継続を主張したフランスやドイツ、ロシアの反対を押し切って、戦争に踏み切った判断と理由付けが正しかったかどうかは証明されていないどころか、それは甚だ疑わしい。
 また、米軍関係者や湾岸戦争時の退役軍人からも「非人道的」と批判があったクラスター(集束)爆弾が今回も使用された。大量破壊兵器とは、イラクが「開発・所有」しているのではなく、むしろ米国がもっとも多く「開発・所有」していることは間違いない。世界平和のためには、それをまず破棄する必要があるのではないか。
 今回の戦争は、情報戦でもあった。マスメディアが報道する情報だけでなく、それとは異なった市民レベルの情報がインターネット上を行き交い、世界中で二千万人を超すデモが起こり、反戦運動が急激に盛り上がった。これは湾岸戦争時でも起こらなかった未曾有(みぞう)の出来事であったといえる。
 しかしながら、メソポタミア文明の発祥地・バグダッドでは無辜(むこ)の市民の生命とともに、貴重な歴史的遺産が灰塵(はいじん)に帰したり、略奪されたりしている。ブッシュ大統領は、この戦争は「イラク解放戦争」であり、勝利を占めたのは自由と民主主義である、勝利宣言をした。が、それは国連や反戦運動をないがしろにする武力に任せた「一国自由主義」と「民主主義」であり、その内実は石油資源の確保と国際覇権の確立を急ぐ「侵略戦争」ではなかったか。
 イラク攻撃時に、米国防総省傘下の復興人道支援室は、イラク国立博物館などを保護するよう米軍に要請し、「収蔵品は人類にとって貴重な宝」と主張したが、無視されたという。いったいこの戦争の目的と意味は何だったのか、今後とも注意深い追及と吟味が必要である。
 そもそもこの戦争の背景には、パレスチナ問題がある。歴史的にイスラエルを支持してきた米英は、多くのアラブ・イスラム諸国の反発を買ってきたが、それを経済支援という「アメ」と、経済制裁と軍事力という「ムチ」で押さえ込み、ハイテク兵器の破壊力を見せつけることで恫喝(どうかつ)政治を確立した。
 二十一世紀の世界地図は、この帝国主義的な野望に食い破られて大きく塗り替えられる恐れが出てきた。今後、世界平和はどのようにしてなしとげられるのか、まったく予測がつかなくなったといえるが、少なくとも二十一世紀の平和を構想する場合に、文明論や宗教史についての知識と洞察は必要不可欠になるだろう。
 そのような折、公共哲学ネットワーク編『地球的平和の公共哲学』(東京大学出版会)が出版され、話題になっている。「公共哲学」とは、公開性と公益性を持ち、現実の問題解決に役立つ実践的で包括的な学問的知恵の総称である。この本は、9・11テロが起きた二〇〇一年の終わりに、千葉大学で行われた「地球的平和問題会議」での報告と討議の内容をまとめたもので、その残る半分も『戦争批判の公共哲学』(勁草書房)としてまもなく出版される。
 そこでの論議は多岐にわたるが、特筆しておきたいのは、会議の基調講演を飾ったイスラム研究家の板垣雄三東京大学名誉教授の「反テロ戦争と地球的平和」についてである。
 板垣は同論文で、「平和」を基本理念とした日本国家とイスラム国家の形成の平行現象という興味深い指摘をしている。いずれも七世紀に登場した聖徳太子(和を以て貴しとなす)、ムハンマド(イスラムの語源はアラビア語で平和を意味するサラーム)に平和への志向を見るのである。そして板垣は、「人類の共倒れを回避して地球的平和をつくり出すため」に、@覇権的グローバリズムに反対し、「多文化共生」を強めることAイスラーム文明の「多元主義的普遍主義」の論理を人類の「スーパーモダン原理」として活用すること|という方向性を打ち出している。
 わたしもこの「多文化共生」や「多元主義的普遍主義」の共有化への模索に基本的に賛同する。それこそが、「地球的平和の公共哲学」の形成の努力の一里塚であると思うからである。」

 cf.米国/イラク/…

 

■著書等(の一部)

◆『りしゅのえろす』 メタモルフォーゼ社  
◆『場所の記憶』 岩波書店  
◆『水神伝説』 泰水社  
◆19850707 『神界のフィールドワーク――霊学と民俗学の生成』 創林社,398p. 2600
◆19880505 『翁童論――子どもと老人の精神誌』 新曜社,ノマド叢書,556p. 3200
◆19900303 『老いと死のフォークロア――翁童論2』 新曜社,ノマド叢書 ,558p. 3605
◆19900425 『異界のフォノロジー――純粋国学理性批判序説』 河出書房新社,361p. 2900

◆19931215 「現代翁童論」 樺山紘一・上野千鶴子編[1993:249-263]


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