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北島 健一

きたじま けんいち


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last update:20210212


■論文

◆北島健一,2016,「連帯経済と社会経済――アプローチ上の際に焦点を当てて (川口清史教授退任記念論文集)」『政策科学』23(3):15-32.
p. 16
長期失業者や公的扶助受給者の増大を背景に、いわゆる労働統合型といわれるタイプのものを中心に社会的企業を法制化する国が増えている。次いで、NPOだけでなく協同組合や共済組合、さらにはコミュニティベースの組織なども広く包含した社会的経済ないし社会的・連帯経済に法的枠組みを与える国や地域も増えつつある。最後に、国連、ILOなどの国際機関も社会的・連帯経済や社会的企業、さらにはいわゆるソーシャル・ビジネスに注目しその強化に向けた取組を強めている(p.16)。

p. 22
連帯経済の特徴付けは、K.ポランニーの経済行動原理ないし統合形態に関する議論に基づいている。第一の原理の市場は需要と供給が交換を目的にして出会う場であり、市場によって取引契約をベースに需要者と供給者の関係が結ばれることになる。第二の原理の再分配の下では、あらかじめ決められた強制的な徴収と割当のルールにしたがって、生産物はいったん中央権力の下に集められ、次いで中央権力は責任をもってそれを分配する。第三の原理である互酬性は贈与を基本におく。ここでは、贈与を、社会的つながりをつくり出すあるいは維持するために何の見返りの保障も無く実行される財・サービスの給付と定義しておく。「互酬性のサイクル」(贈る、受け取る、お返しをする)は商品交換とは区別され、また中心性ではなくシンメトリーの制度モデルを経由するという点で互酬は再配分とも異なる。連帯経済は、この互酬性に光を当て、この原理が現代社会においても重要な役割を果たしうることに注目し喚起を促す議論である。その系として、たんなる「ハイブリッド化」ではなく、互酬性を優勢な原則として三つの資源が組み合わされると理解されていることに注意しておく必要がある(p.22)。

p. 23
連帯経済は経済活動(生産)のプロジェクトであるばかりでなく、社会のあり方を問うプロジェクトでもある。大量失業を前に政府が「何が何でも雇用を」との姿勢をとり続けるなかで、連帯経済の擁護者が雇用の問題から切り離させない者として強調してきた「社会的帰属の形成、雇用労働だけに準拠するのではない各自のアイデンティティと居場所の生産」(Eme,B 1993: 77)である。結論を先取りすれば、連帯経済は"コミュニティを基盤にしたコミュニティ形成の社会プロジェクト”でもある。(p.23)

p. 23
90年代の中頃に示されたひとつの定義は、連帯経済を「互酬性・市場・再分配の諸原理を結合する経済」(Laville,J-L 1994)とした。しかし、00年代の中頃には、経済的な次元では、諸原理の結合が互酬性を主導的な原理として実現されることが明示されていること―中略―その中で、「連帯」も互酬的な連帯を基盤にしつつも、公共の領域に属する再分配的な連帯も視野に入れて理解されるように進化してきていると言えよう(p.28)。

pp. 28-29
社会的経済は、「もう一つの企業」アプローチに立ち、市場そのものではなく、そこに資本制企業が存在することが「社会的なつながりの商品化」などの弊害をもたらすのであるから、非資本主義原理に準拠する社会的経済企業を資本主義制企業と置き換えることで、その弊害は取り除かれると考える(p.28-29)。それに対して、「もう一つの経済」アプローチに立つ連帯経済論は、サービス経済化の進むなか、「お互い様の関係」の下に人々が自発的に経済的社会的取り組みに関わることこそが重要であると考える(p.29)

p.
公的機関からの働きかけの強まりにはもう一つの重要な背景がある。さまざまな社会課題を「自分ごと化」して(梅田一見,2015)捉える市民・住民による自発的な経済的社会的な取り組みの存在である。それらのイニシアチブは市民社会を出自とし、国の介入に先立って台頭し発展してきた。したがって、サードセクター組織の制度化によって問われるのは、市民社会と国家の関係である。フランスでも、2001年の法で「共同利益協同組合」が創設され、労働統合型に限定されない社会的企業が制度化された。次いで2014年7月には「社会的・連帯経済法」が制定された。この法律は、1980年代に登場した―中略―法人格に基礎をおく社会的経済」「1990年からの―中略―価値に基礎をおく連帯経済」そして最後にやってきた―中略―21世紀初頭から発展してきた実践に基礎をおく社会起業家活動」の3つの構成要素からなる(Sibille,2014)。2014年法によるサードセクターの境界線の再設定はこの「緊張関係の緩和」を法制度上で追認するという一面ももっている。とはいえ、両者が概念的に区別されて認識されている事情に変わりない。本稿は、連帯経済に軸足をおいて、両概念の特徴やアプローチ上の相違点がどこにあるのかを明らかにすることを目的とする。それを通して、国家と市民社会のあり方も視野に入れたサードセクター論の重要性を示唆したいと思う。



*作成:伊東香純
UP:20210212 REV:
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