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Bowls, Samuel+Gintis, Herbert

サミュエル・ボウルズ+ハーバート・ギンタス


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■プロフィール
 サミュエル・ボウルズ(Bowls, Samuel 1939〜)
 ハーバート・ギンタス(Gintis, Herbert 1940〜)

■主な論文、著作
 (小内透著『再生産論を読む』の「ボールズ=ギンティスを紹介・検討している論文・著作」などを参考にまとめた)

◆1971, Bowles, S. “Unequal education and the reproduction of the social division of labor”, Review of Radical Political Economics, 3(4). In Richard, C. & Edwards, R. et al.1972, The Capitalist System (Englewood Cliffs, N.J., Prentice-Hall). In Karabel, J. & Halsey, A.H.(eds.) 1977, Power and Ideology in Education (New York, Oxford University Press).
 =早川操訳「教育の不平等と社会的分業の再生産」
  (カラベル=ハルゼー、潮木守一・天野郁夫・藤田英典編訳 1980 『教育と社会変動(上)』東京大学出版会)

「対応理論の形成過程において、出発点ともいうべき位置を占めているのが、ボールズの「教育の不平等と社会的分業の再生産」(1971年)である。なぜな ら、この論文は、対応理論(correspondence principle)という概念を用いていないにもかかわらず、後に展開される対応理論の中心的な論点の多くをすでに提示しているからであり、対応理論の 最も基本的な問題意識を素朴な形で表現しているからである。」(小内透著『再生産論を読む』p.117)

◆1972〜1973, Gintis, H. & Bowles, S. ”IQ in the U.S. class structure” , Social Policy, November-December and January-February. In Karabel, J. & Halsey, A.H.(eds.) 1977, Power and Ideology in Education (New York, Oxford University Press).
 =「アメリカ階級構造におけるIQ」
  (青木昌彦編著 1973 『ラディカル・エコノミックス』中央公論社)

◇最初の共同論文
◇はじめて「対応原理」という概念とその考え方が提示される

「本論文は、IQ(知能指数)は経済的成功にとって基本的に重要である、という一般的信念にたいして統計的な反駁を加えている。そして、地位獲得、もしく は地位伝達は、むしろ家庭生活と学校教育とによって生み出される非認識的人格特性パターンにもとづいて行われ、IQは、かかる階層化メカニズムの副産物で あり、その機能は、ヒエラルキー的生産システムの正統化にあることが論ぜられる。」(青木昌彦編著『ラディカル・エコノミックス』p.220)

◆1976, Gintis, H. & Bowles, S. “Schooling in Capitalist America : Education Reform and the Contradictions of Economic Life” (New York, Basic Books).
 =宇沢弘文訳 1986 『アメリカ資本主義と学校教育 T』岩波現代選書
  宇沢弘文訳 1987 『アメリカ資本主義と学校教育 U』岩波現代選書

◆1980, Gintis, H. & Bowles, S. “Contradictions and reproduction in educational theory”, in Barton, L. ,Meighan, R. & Walker, S.(eds.), Schooling Ideology and Curriculum(Lewes, The Falmer Press). In Dale, R. et al.(eds.)1981,Education and State, Volume 1: Schooling and the National Interest (Lewes, The Falmer Press). In Cole, M. (ed.) 1988, Bowles and Gintis Revisited (Philadelphia, The Falmer Press).

「『アメリカ資本主義と学校教育』において確立した対応理論は、たしかに「機能主義的」な性格を免れないものであった。したがって、この点に対応理論に対 する批判が集中した。この点に関しては、ボールズとギンティス自身認めざるを得なかった。事実、彼らは「教育理論における矛盾と再生産」(1980年)に おいて、われわれの本の弱点……は、発達した資本主義の体系的な矛盾の不適切な取扱いに起因している」と自己批判している。」(小内透著『再生産論を読 む』p.144)

◆1983,1984,1985, Bowles, S., Gordon, D.M., and Weisskopf, T.E. “Beyond The Waste Land : A Democratic Alternative to Economic Decline”(Garden City, N.J., Anchor Press/Doubleday).
 =都留康・磯谷明徳訳 1986 『アメリカ衰退の経済学―スタグフレーションの解剖と克服』東洋経済新報

「本書は、現代アメリカの直面する経済的困難の原因を、アメリカ経済を支える広範な社会的・制度的構造にまで遡ってみごとにえぐり出し、さらに現在の危機 の根本的打開策を提示した快作である。本書は、もともとアメリカのラディカル・エコノミストの組織であるURPE〔ラディカル政治経済学連合〕での長期に 及ぶ基礎研究にもとづき、また進歩的労働組合の連合組織「進歩派同盟」の求めに応じて執筆された。この成立事情が端的に物語っているように、本書の特色 は、保守派の跳梁に抗しリベラル派の退潮に代わるべく、アメリカ経済の現状を独自に分析し、これにもとづいて経済再生のための対案を提唱したところにあ る。」(都留康による「訳者解説」よりp.261)

◆1986, Bowles, S. & Gintis, H. ”Democracy and Capitalism : Property, Community and the Contradictions of Modern Social Thought” (New York, Basic Books).

「「経済の再編成という問題にたいして表明されるこうした躊躇は見当違いであるとわれわれは考える。進歩的な経済的要求をめぐる運動が、今やアメリカの進 歩派と社会主義者にとって主要な優先事項と好機を意味している。」
 いいかえれば、彼らの経済再編のプログラムは、この時点では直接社会主義的とはいえないが、それにもかかわらず、やがて社会主義建設に結びつくものであ り、その意味で社会変革の一つの過程に他ならないということである。
 こうした考え方は、一九八六年に出された『民主主義と資本主義』の中で、「民主主義的社会主義」という表現が避けられ、「ポスト自由民主主義」 (postliberal democracy)という概念が用いられるようになっている点にも現れている。」(小内透著『再生産論を読む』p.149〜150)

◆1998, Erik OlinWright(ed.), Bowles, S. & Gintis, H., ”Recasting Egalitarianism: New Rules for Communities, States and Markets” (Verso).
 =遠山弘徳訳 2002 『平等主義の政治経済学 市場・国家・コミュニティのための新たなルール』大村書店

「現実的ユートピア・プロジェクトの一環である本書は、イデオロギー的領域に足を踏み入れる。サミュエル・ボールズとハーバート・ギンタスは彼らじしんが 「効率的再配分」と呼ぶものを求めている。彼らの刺激的な案の中では、諸制度が適切に設計されるならば、市場は実際に左派のある一定の中核的価値―とりわ け平等の達成―を高めることができ、それと同時にさまざまな効率性の形態を維持する(そしておそらく高めることもある)、と主張されている。そのような 「市場、国家およびコミュニティのための新たなルール」によって、彼らは、左派の成果を、右派によって伝統的に擁護されてきた諸制度の中に組み込むことが できると主張する。」(エリック・オリン・ライトによる「序論」よりp.11)


■ボウルズ=ギンタスの関するメモ

・宇沢弘文:『アメリカ資本主義と学校教育』「訳者序文」、『日本の教育を考える』(岩波書店)「第五章 ボウルズ=ギンタスの対応理論」(p.56〜)
・橋本健二 1999 『現代日本の階級構造 理論・方法・計量分析』東信堂、「第8章 教育と階級構造 ―2つの再生産過程―」(p.212〜)
・マーティン・カーノイ 1984→1992『国家と政治理論』御茶の水書房
・都留康 1983,1984,1985→1986 『アメリカ衰退の経済学 スタグフレーションの解剖と克服』東洋経済新報社、「訳者解説」
・黒崎勲 1989 『教育と不平等 現代アメリカ教育制度研究』新曜社

◆宇沢弘文
『アメリカ資本主義と学校教育』(1976=1986、岩波書店)の訳者。「教育と社会体制−デューイ、ヴェブレン、ボウルズ=ギンタス」(1990、 『岩波講座 転換期における人間・別巻・教育の課題』岩波書店、所収)、『日本の教育を考える』(1998、岩波書店)でも二人について触れている(だい たい同じようなことが書かれている。統計の解説は前者のほうが詳しい)。

◇『アメリカ資本主義と学校教育』「訳者序文」
・「二人のすぐれた経済学者の手になるこの書物の基本的視点は、アメリカの教育制度が、アメリカ資本主義の社会的生産関係と資本蓄積、再生産の過程を反映 したものであって、経済制度の矛盾がそのまま教育制度の矛盾となって現れているというものである。」(B)

・「もともと、正統派の経済学、とくに新古典派経済学を学んだが、一九六〇年代から七〇年代にかけての激動期を通じて、その基本的視座に対して、根元的な 懐疑を抱くようになり、マルクス経済学の概念的枠組みにつよく傾斜し、ラジカル・エコノミックスという新しい経済学の考え方を定式化し、発展させてきた人 々である。」(C)

・サミュエル・ボウルズの父は、「リベラル・エスタブリッシュメントの総帥」チェスター・ボウルズ(デヴィッド・ハルバーシタム『ザ・ベスト・アンド・ ザ・ブライテスト』参照)

◇「教育と社会体制−デューイ、ヴェブレン、ボウルズ=ギンタス」
・1966年アメリカ教育省による大規模な調査
→1968年「コールマン報告」=「1960年代におこなわれた、教育の不平等を是正するためにおこなわれた財政的な再分配政策が、意図された結果を生み 出さなかったということを説得的に示した」

→1972年ジェンクスら『不平等−アメリカにおける家族と学校教育の効果に関する再評価』

→アーサー・ジェンセン、リチャード・ハーンシュタイン
 「IQ」論=「経済的、社会的不平等は、遺伝学的に決まってくるIQ格差にもとづくもので、この、遺伝学的特性は学校教育によって変えることはできな い」

→ボウルズ=ネルソンによる「IQ」批判=「経済的成功の度合いが平均して、親から子供に伝えられるという傾向は、親から受けついだIQ指数とはほぼ完全 に無関係となる」

◇『日本の教育を考える』「第五章 ボウルズ=ギンタスの対応理論」(p.56〜)
『アメリカ資本主義と学校教育』
・ヴェトナム戦争を契機として惹き起こされたアメリカの学校教育制度の激変をくわしく分析して、新しい学校教育制度のあり方を模索しようとした (p.56〜57)
・ここで展開した考え方が後に「対応理論」と呼ばれるようになる(p.57)
・デューイのリベラリズム的な教育理念に修正が加えられる
・専門技術=能力主義の考え方(新古典派経済学)批判
・IQ指数批判(ボウルズ=ネルソン)

・(リバラル派の教育理論にもとづく教育制度の改革が失敗続きだった)「そのもっとも主要な原因は、社会統合、平等化、人格的発達という学校教育の機能 が、法人資本主義という経済的、社会的体制のもとでは整合的なかたちで働くことができないことにあるというのが、ボウルズ=ギンタスの主張するところだっ たのです。」(p.64)

・「教育制度は、経済の社会的関係との対応を通じて、経済的不平等を再生産し、人格的発達を歪めるという役割を果たしている」(『アメリカ資本主義と学校 教育』第T巻、86ページからの引用)

・「抑圧、個人の無力化、所得の不平等、機会の不平等は歴史的にみて、教育制度に起因するものではないし、不平等で、抑圧的な今日の学校から生みだされた ものではない。抑圧と不平等の起源は、資本主義経済の構造と機能のなかにある。この点に、社会主義の国々をも含めて現代の経済体制を特徴づけるものがあっ て、人々が経済的生活の管理に参加することを不可能にしている。」(同87〜88ページからの引用)


◆橋本健二 1999 『現代日本の階級構造 理論・方法・計量分析』東信堂
第8章 教育と階級構造 ―2つの再生産過程―(p.212〜)
1.教育と階級構造―2つの課題
(1)「再生産」という問題設定
1970年代から80年代=教育と階級構造の関係が解明されるべき中心的な問題となる
フランス・Pierre Bourdieu Weberの身分集団概念にかなり近い
イギリス・Basil Bernstein、Paul Willis 英国の社会科学の伝統を受け継いでいる
アメリカ・Samuel Bowles、Herbert Gintis マルクス主義的な階級概念を使用

 階級構造の再生産=不安定かつ自己破壊的な諸要素の存在にもかかわらず、階級構造がその基本的な性格を維持すること
 再生産論の3つの知的起源
 @上部構造の機能を重視し、これに正当な理論的位置を与えることによってマルクス主義社会理論の再生をもたらした西欧マルクス主義
 A教育と社会構造の関連について実証的な知見を蓄積してきた教育機会の不平等研究
 B1960年代に多くの先進資本主義国を揺るがせた世界的な学生叛乱

(2)BowlesとGintisの再生産理論
・彼らによると、米国において学校教育は、@労働者の生産能力を向上させる、A階級関係を非政治化し搾取のための社会的・政治的・経済的条件を永続化す る、という2つの役割を果たしている
・「対応原理」=学校や家族の中の社会関係は生産現場の社会関係を映し出している
・学校教育は外見上、公平かつ業績主義的に、卒業生たちをそれぞれの経済的位置へと割り当てるメカニズムを提供している。このことが人々の間に、経済的成 功は客観的に測定される技術的・認知的能力によって決まるのだという信念を育て、その結果として経済的不平等が正統化される、というのである。

(3)「階級構造の再生産」という概念
・階級構造の再生産(=階級構造そのものの再生産)と諸階級の世代的再生産(=階級所属が世代から世代へ継承されること)の混同
・両者の関係を@概念上の関係、A現実の再生産過程における相互関係の2面から見る
 階級構造の再生産×諸階級の世代的再生産=固定的再生産(前近代の身分社会)
 階級構造の再生産×諸階級の世代的非再生産=流動的再生産(業績原理のみの状態)
 階級構造の非再生産×諸階級の世代的再生産=集合的社会移動(日本の農地改革前後)
 階級構造の非再生産×諸階級の世代的非再生産=全面的再構造化

・Bowles=GintisやBourdieuの想定したのは、固定的再生産
・学校は出身階級と到達階級を一致させ、かつそれを正統化する機能を持つが、出身階級と到達階級の一致度が低いほど、経済的不平等の正統化はされやすくな る、という両義的関係にある。
・諸階級の世代的再生産は階級構造の再生産のための必須の条件ではない。

以上より、階級研究で教育を取り上げる意義は次の2点である
@諸階級はそれぞれ、異なる仕方で教育と関係しているが、諸階級がどの程度まで世代的に再生産されているかは、経験的に確かめられるべき問題である。
A教育は階級構造の再生産に貢献する。

2.教育と社会諸階級―教育機会の階級差と教育による階級決定
(1)教育機会の階級差とその変動
・後期中等教育、高等教育とも、戦後に学齢期に達したコーホートに関しては教育機会の格差が一貫して縮小してきたわけであり、ここに学制改革と教育の大衆 化の効果を認めることができよう。
・しかし、1995年SSM調査データによると、「進学高校」や「エリート大学」へ進学する機会については、資本家階級出身者が以前ほど有利ではなくなっ てきているとみられるものの、全体として格差縮小への一貫した傾向は見られない。

(2)学歴と階級所属の対応関係の推移
(3)新規学卒者の階級所属の推移
(4)教育による諸階級の世代的再生産
・教育は確かに、教育機会格差を通じて諸階級の世代的再生産メカニズムを提供しているといえるが、それが世代的再生産過程全体に占める比重は、4分の1程 度である。

3.教育による階級構造の再生産
(1)資本主義社会の再生産過程
・資本主義社会が、人員・資源の不断の消耗・補充にもかかわらずその基本的な性格を維持しているとき、資本主義社会は再生産されたという。階級構造とは、 市民社会の成員が、資本主義的生産様式によって構成される階級的諸位置へと編成された状態をいう。この意味で階級構造の再生産条件は、資本主義社会の再生 産条件に等しい。
・資本主義社会の再生産とは、そこに内在するこうした非再生産的な諸傾向を排除し、潜在化させる動的な過程である。
・経済危機と階級闘争という資本主義社会に内在的な二重の自己破壊的傾向は、@資本主義的生産様式そのものの自己再生産的メカニズムによって、A国家に よって、B市民社会によって排除あるいは潜在化される。

(2)再生産過程における学校教育の位置
・学校は、市民社会と市場経済を媒介するものとして、国家によって組織された制度なのである。

(3)高度成長期の国家と学校教育
 A.フォード主義的蓄積体制と福祉−介入主義国家
 B.福祉−介入主義国家と学校教育
 ・トヨタ主義
 ・日本の学校の組織や管理方式は、こうした経営システムと驚くほど似ている
 ・大量消費的生活様式の定着にも影響(教科書、標準語、新しい耐久消費財の購入)
 ・労働力の再生産コストを低減させた(親の解放、階級間移動や地域間移動の促進)
 ・階級的な不平等を正統化し非政治化する主要な制度であった
 ・1960年代の「人的資本理論」=教育への投資が社会的にも、諸個人にも有効な投資である=不平等の当然視
 ・学歴が低いほど、学歴に対する信頼もしくは信仰が強い
 ・高等教育レベルの学歴を持つものは、学歴主義批判や学歴無意味論の比率が高い
 ↓
 ・労働者階級の場合には、学歴は実力を示すものだとする意識が強く、そこから学歴によって異なる処遇を受ける現実を正当なものとみなし、相対的に不利な 自らの位置をも正当なものとして受け入れる傾向が生じている。
 ・新中間階級の場合には、学歴は本人の実力を示すものではないし、現実に本人の処遇を決める要因にもなっていないと考える傾向が比較的強く、ここから相 対的に有利な立場にある自分の地位を、学歴とは無関係な自分の実力や努力によるものとして受け入れ、不公平の存在を否定する傾向が生じているようである。

(4)資本主義国家の危機と学校教育
 A.福祉−介入主義国家の危機と再編
 ・国家による蓄積と正統化の内在的矛盾
 国家によって私的資本の蓄積が促進されると、より大きな相対的過剰人口が生まれ、それによってより大きな正統化需要が発生するが、蓄積機能と正統化機能 は同一の国家財政によって賄われるから、正統化機能の強化は蓄積機能のための財源からの控除を必要とする。
 ・国家が担いきれなくなった過大な要求を縮小すること、社会システムの問題解決能力を向上させること
 ↓
 新自由主義
 @国家がこれまで引き受けてきた諸課題の一部を、市場システムに移譲すること
  新自由主義は、自由主義と権威主義を併せ持つ
 A福祉への支出を削減し、労働力の再生産の責任を再び市民社会に負わせること
  伝統的な規範や道徳、国家主義イデオロギーの強調、都市コミュニティの再編

 B.学校教育の危機
 ・学校教育は財政規模の拡大に対してその蓄積機能を次第に低下させ、そのことは正統化機能をも侵食していった
  =過剰教育→大卒・短大卒者のプロレタリア化(1990年代)
 過剰教育は、現代の教育の矛盾の集中的な表現である(Carnoy & Lewin[1985])

 C.「過剰教育」の現実とその効果

(5)21世紀社会の階級構造と教育政策
 A.新自由主義と高等教育政策
 ・日本の高等教育システムの計画モデルから市場モデルへの移行
  1991年=大学設置基準の大綱化
  1998年=大学審議会答申「競争的環境の中で個性が輝く大学」
 ・一般的にいえば、「自由化」による市場メカニズムの導入は、高等教育に対する財政支出の削減を可能にするとともに、その蓄積機能と正統化機能の矛盾を 部分的に解決する効果を持つだろう
 ・高等教育の非政治化

 B.階級構造の変化と学校教育の構造転換
 ・技術革新とオフィスの合理化を受けて、新中間階級の内部構成は専門技術職中心へとシフトを続けていくことになろう
 ・それにあわせて、大学も「総合領域型」「専門体系型」「目的履修型」の3種類へと種別化する可能性が高い
 ・学校歴の持つ意味は今まで以上に大きくなる
 ・全体として学歴水準が上昇するが、高等教育の費用負担は下がりそうにないので、低所得者層は今まで以上にない不利な状態におかれることになるだろう
 ・また受験競争も高校受験から大学受験に重点をシフトさせながら、より多くの若者を巻き込んで展開されることになるだろう

 C.平等のための教育−社会政策
 ・日本の教育機会は依然として不平等であり、諸階級の世代的再生産の傾向を生んでいるのにもかかわらず、平等批判をする言説がはびこっている
 ・アファーマティブ・アクションか、総合的な経済・社会政策が必要
 ・生産手段そのほかの生産資産の再配分か、所得の再配分か=経済民主主義の実現


◆マーティン・カーノイ 1984→1992 『国家と政治理論』御茶の水書房
 ・西側工業経済の経済危機とそれに対するレーガン主義・サッチャー主義などの保守的回答、第三世界における経済危機と南米諸国での権威主義的軍事体制か ら民主主義への移行、という時代背景のもと、グラムシやプーランザスらの国家論を理解・分析した本
 ・日本語版において触れられている4つの新研究の1つとして、ボールズ=ギンタス『資本主義と民主主義』(1986)が挙げられている。

 そのポイントは(Cページ「矛盾的国家」より)
 ・「国家への民衆的圧力を増大させるために、経済と市民社会の内部における他の権力諸関係の場においても闘争すること」「国家を「民主主義的形態と民主 主義的統制が拡大し深化するように」変形すること」という国家論の戦略−理論アプローチの3つの主題のうちの2つを発展させるものである
 ・民主主義と資本主義を先天的に対立するものだと見ている
 ・民主主義は、資本主義国家の統制を変化させたり、資本主義経済における政治闘争を行ったりするときの土台でなければならないと考えている
 ・家族と教育を再生産の決定的要素として分析し、一方で国家および経済の外部における闘争の、主要な「場」として扱う。また家父長制の概念も導入してい る

第八章 最近のアメリカ政治理論における階級と国家
階級闘争と国家(p.333)
「国家とその諸政策を形成する際の社会諸闘争の役割を強調する見解」の「最良の例」の1つとしてボールズ=ギンタス(1982)が挙げられている
・ボールズ=ギンタスは、国家は、資本主義的諸関係だけによって設定される蓄積過程への介入の有効なエージェントでも、社会構成における凝集の一要素、つ まり(カステルとオコンナーによって論じられているように)社会的生産諸関係の再生産のために主に機能する道具でもない、ということを示唆している。 (p.339〜)

・自由民主主義国家の介入と資本蓄積の諸条件との矛盾(矛盾を孕んだ全体性)=自由民主主義国家は「蓄積過程をまったく根本的に変えてしまう」 (1982,52)社会闘争の分節化なのである→スタグフレーションの原因=国家は、解決の手段であるとともに問題の一部でもある。

・資本主義的生産においては政治参加(相対的権力)は所有だけに左右されるのに対して、自由民主主義国家は、市民と所有者の双方に権利を与える。

・ボールズ=ギンタスにとって、国家と資本主義的生産の場との際接合の主要な時期は、1930年代から1940年代初めにかけてであり、この時期の一連の 諸立法は、労働者と労働者、資本と資本、資本と労働者階級の関係を再定義した→資本主義的成長過程の減速

・30年代から40年代にかけて結ばれた資本―労働協定は、失業予備軍を労働者の規律化や賃金引き下げの手段として利用する資本の可能性を変化させた、と 論じている。




◆都留康「訳者解説」(1983,1984,1985→1986『アメリカ衰退の経済学 スタグフレーションの解剖と克服』東洋経済新報社)

・本書は、現代アメリカの直面する経済的困難の原因を、アメリカ経済を支える広範な社会的・制度的構造にまで遡ってみごとにえぐり出し、さらに現在の危機 の根本的打開策を提示した快作である。
・第1章:アメリカ経済の現状が「ゼロ・サム経済」ではなくて「たるみのある経済」である

・第2章:経済衰退の開始が、通説のいうように1970年代ではなく、それに先立つ1960年代中期であって、ここを分水嶺として戦後期がブームと経済衰 退に分かれる

・第3章:経済衰退についての諸説、例えばもっとも有力な資本不足説、が批判される

・第4章:通説が見逃した社会的・制度的要因に注目した著者たちに独自の分析を提示している
「戦後コーポレート・システム」(@世界市場でのアメリカ企業の支配力を保障する「パックス・アメリカーナ」、A大企業と産業別労働組合の間の労働平和を 保障する「資本と労働の暗黙の合意」、B企業活動を阻害しない方向での政府政策の形成を保証する「資本と市民の合意」などの制度)の内部分解

・第5章:この経済衰退に対してとられた1970年代の合衆国政府による政策措置の帰結がスタグフレーションという解明がなされる

・第6章:生産性上昇率の持続的低下、いわゆる「生産性のパズル」が、制度的要因を重視する著者たちの分析によって、定量的にほぼ完全に説明される

・第7章:「戦後コーポレート・システム」の存続を前提したうえで上のような政策措置がとられた結果、1980年に発生せざるをえなかった経済的浪費 (「たるみ」)の規模が推計される。

・エピローグ:1980年代に深刻化するスタグフレーションに対して発動されたレーガノミクスが、理論的には資本不足説の誤りを基礎にもち、現実的には大 量失業を代償として文化上昇率を低下させているに過ぎず、スタグフレーションの趨勢それ自体を逆転させるのには失敗だったと判定される。


◆黒崎勲 1989 『教育と不平等 現代アメリカ教育制度研究』新曜社 ・新しい教育制度への関心=ボールズの言葉(p.2〜) 階級構造と下位文化
・ボールズとギンタスは、この対応理論を旧来のマルクス主義の理解を統計的手法によって実証する、近年とくにアメリカ合衆国において発達してきた研究の成 果と位置づけている。
・もともとボールズとギンタスの研究は、教育の機会均等論に決定的な一石を投じたとされる、公民権法に基づく1966年の教育機会均等調査の再分析の作業 に係わるものであり、そこから派生することになった一連のアメリカ社会における不平等問題についての研究の中に位置するものであった。

*批判
・彼らの主張する階級下位文化の仮説が、そしてまた、階層化の要因としてのパーソナリティ特性の強調が、認識能力の客観性と社会的有用性それ自体の否定に まで至るのであれば、それは支持されるべきではないだろう。
・教育制度論の観点から見れば、その理論構成が教育制度を社会的分業からの規制に対して受動的に把握するに留まり、教育制度独自の意義、役割を導き出すこ とに十分な考慮をはらっていないことを最大の問題点として指摘するべきであろう。
・バーンシュタインの議論は、ボールズとギンタスのそれとは違って、教育の可能性という問題を軸として、教育制度の独自の役割を導きだそうとするもので あった。

バーバラスとシャーマンの教育の機会均等原則に対する批判の類型化(6つのうちの3つ)
・教育の機会均等原則は教育が達成でき、かつ達成すべきものと共通に信じられているものとは一致しないような不平等な結果を許容しているとする批判
・対応理論
・教育の機会均等原則は能力主義的なものであるがゆえに批判されるべきである

・支配階級の政策の中にディレンマを見出し、このディレンマとかかわって常に被支配者階級の利益の拡大のために具体的な行動を行おうとするところにアップ ルの議論の真髄があり、それがアップルとボールズおよびギンタスの理論を分けているように思われる。


*作成:橋口 昌治
UP:20051005 REV:
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