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生存学の構築――障病老異とともに暮らす世界の創造

2006年度 立命館大学学内提案公募型研究推進プログラム基盤的研究

研究拠点:生存学


  *申請2006.12.1→採択されました。
  *学内のより大きな規模の研究助成(「政策的重点研究」)も受けることになりました。

2006年度 学内提案公募型研究推進プログラム基盤的研究申請調書
研究代表者 所属機関・職名:立命館大学大学院先端総合学術研究科
氏  名  立岩 真也 (印)

研究メンバー [略]

研究分野及びキーワード(5点以内)
<研究分野: 融合領域> (障害) (病い) (老い) (倫理) (政策)

研究課題 生存学の構築――障病老異とともに暮らす世界の創造


T.研究目的、研究の必要性

@研究の背景(学術研究、技術開発等の動向や社会的背景との関連性)、A研究目的と必要性、意義、B本研究の学術的特色 について焦点を絞り、具体的かつ明確に記入してください。

@研究の背景(学術研究、技術開発等の動向や社会的背景との関連性)
 一人ひとりが異なる身体を有することは常に世界の現実であってきたし、そこに様々な困難があってきた。だが、第一に、@そのことを巡って起こったこと、考えられたことを私たちはよく知らない。Aこれら過去の蓄積と現在の成果を世界に発信することもできていない。第二に、@実際にその人たちを組み込んで研究・教育をしていくやり方を知らない。Aどんな調査・研究をすべき/すべきでないか研究倫理の機構も未確立である。第三に、以上を踏まえ、@企業や非営利組織や政府、総じて社会が、何をどのような機構のもとで実現していくか、このことについてもまだいくらも考えるべき課題がある。そして、Aここで社会は国家の内部に閉じられるべきでない。世界にある困難に対する私たちの関わり方を考え、そして実際に行うべきである。

A研究目的と必要性、意義
 1)実践的倫理的争点があっても、関連する事実の紹介で紙数をとられ、議論が十分になされない。争点、論点がそのたびに忘れられ、同じ話がまた始められ、繰り返され、議論は前に進まず、現実は進んでいく。そのようなことが繰り返されている。きちんとした議論をするためにも、その基礎になる部分を固めておく必要があり、その部分をいわば公共財としつつ、その作成に関わる人たちがそれを使って研究を生産していくような体制が必要であり、有効であると考える。
 2)「当事者」「利用者」主体は既にいくらも言われているし、反対されないが、それを実際に研究・教育の中にどのように実現していくかについては、たいしたことがなされていない。また「専門家」「供給者」の側も、その人たちの意向に応えねばならないとは思っているのだが、どのように行ったらよいか、わからないでいる。当人たちか何を望み何を望まないのか、それを明らかにし、提示し、必要なものを提案し、受け止めるべき人が受け止め、応え、さらにその結果を評価する、そうした経路・機構を作る必要・意義がある。

B本研究の学術的特色
 第一に、この領域は自然科学と人文・社会科学の狭間にあって情報の蓄積がなかった。私たちは既に、複数の主題について国内では規模の大きいデータベースを有しているが、それをさらに強化し、必要なものについては英語化していくことで、研究拠点としての役割を果たすことができる。知識の共有が進まないことが、かえって論理的な探求が十分にできない結果を産んでいる。情報の蓄積・共有によって哲理の探究に資することを目指す。
 第二に、存在した学は、それを職業とする人たちによる学問であり、本人の側に焦点を当て、また研究の主体に組み込む研究は、その意義は強調されつつ、実際にはなされてなかった。私たちは実際に企画を立て、実行し、その可能性を明確にし、成果を発表する。


U.研究計画・方法

前述の「研究目的」を達成するための研究計画・方法を、具体的に記入してください。

 1)既に収集済の数千点の書籍・冊子・映像資料等があり、それらについて作成中のデータベースがある。それを配架し、整備する。次に、関連のデータベースをさらに強化する。主題別の年表、人物別の資料、文献表、引用集。収集のための収集ではなく、大学院生が研究しながら、自らの研究に関連する資料を作成し、その結果を随時論文にしていくとともに、資料自体を業績として研究科のサイト上などに公表していく。
 2)新たな記録の作成。関係者、研究者等にインタビュー等を行う。論文・著書にしていくとともに、許可が得られるものについては公開する。記録の整理、公刊については、出版社の編集者等に意見を求め、必要な場合には企画段階から参加してもらう。
 3)論点・争点の整理。主題別、争点別に集積・整理し、公開すると同時に各自の論文の素材とする。
 4)海外への発信への準備。何を英訳するのがよいか検討する。日本語を英語にするに際しての訳語を検討し、確定する。海外の出版社に打診し、出版の可能性を探る。
 5)滋賀県・京都府の難病関連の組織の立ち上げ、運営について、また障害関連の全国組織の活動について参与観察・調査を行い、研究者の関与がどこで有効であるのかを探り、企画を立て、開始する。
 6)視覚障害等により既存の体制ではコミュニケーションが困難な人たちを含む研究・教育のためにどのような機構が必要であり、またどんな手段を用いればそれが効率的に実現されるのかを研究し、実際にシステムを作り、評価し、改善していく。


V.本プログラムを契機とする研究活動の展開・方向性

本プログラムは、研究を発展させていくためのスタートアップ資金として位置づけています。@今後、科研費もしくはそれに代わる学外競争的研究費に申請し、どのように研究を発展させようとしていますか。A本研究終了後、どういう形式・内容で研究成果を発信し、どのように学術的な評価を得ようとしていますか。B本研究を立命館大学の政策的重点研究としての選定を目指す場合は、世界水準の研究拠点を見据えた展開について記述してください。

@今後、科研費もしくはそれに代わる学外競争的研究費に申請し、どのように研究を発展させようとしていますか。
 ****申請の予定。
 他に科研費も申請(立岩・松原代表の研究が2007年度までのものであるため、2007年に申請)。また院生による民間の研究助成への応募にも協力する。

A本研究終了後、どういう形式・内容で研究成果を発信し、どのように学術的な評価を得ようとしていますか。
 大学院生は論文を書く。少なくとも計40本。教員は著書などにこの研究の成果を反映させる。
 公開不可能なものを除き、すべての情報は先端研ウェブサイト上に掲載する。

B本研究を立命館大学の政策的重点研究としての選定を目指す場合は、世界水準の研究拠点を見据えた展開について記述してください。
 総じて、病や障害と社会・世界のあり方との関係を全体的にまた実践的に問おうとする研究拠点は世界にまだ存在していない。この企画がさらに進められていくならば、その拠点となり、先導的な役割を果たすことができる。
 例えば障害に限れば、米国・英国等に障害学(disability studies)と呼ばれる学問領域があり学会・学会誌がある。日本における議論はそれらと比べて劣ることはなく、むしろ、いくつかの主題についてはより進んだ議論がある。しかしこれまでそれを英語化し英語圏で出版することができてこなかった。これまでのそして今後の成果を世界に発信する機構を形成することによって、ここを世界的な拠点とすることができる。
 また、重い病にある人、重度の障害のある人たちの主張、その社会運動、そしてそれにも促されてされてきた日本の制度・ケアのあり方には、よく引き合いに出される北欧のそれより、評価されてよいところがある。このような部分もまた学問的に明らかにされ、その成果を世界に発信していく意義がある。その研究・発信の拠点となることを目指す。

W.これまでの関連する研究における成果発表の状況

当該研究課題に関連する研究において、発表された主要な研究成果を記入してください。発表状況が多数の場合は、主なものを記入してください。

論文、学術図書、口頭発表等の種別ごとに、@執筆・発表者、A論文等タイトル、書名、頁、B発行元、出版年を 明記してください。

*以下単著・共著・共編書のみ
◆立岩真也『希望について』(2006、青土社)◆稲葉振一郎・立岩『所有と国家のゆくえ』(2006、日本放送出版協会)◆立岩『自由の平等』(2004、岩波書店)◆立岩『ALS』(2004、医学書院)◆立岩『私的所有論』(1997、勁草書房)◆立岩『弱くある自由へ――自己決定・介護・生死の技術』(2000、青土社)◆立岩他『生の技法――家と施設を出て暮らす障害者の社会学 増補・改訂版』(1995、藤原書店)◆天田城介『<老い衰えゆくこと>の社会学』(2003、多賀出版)◆天田『老い衰えゆく自己の/と自由――高齢者ケアの社会学的実践論・当事者論』(2004、ハーベスト社)。◆小泉義之『病いの哲学』(2006、筑摩書房)◆小泉『レヴィナス――何のために生きるのか』(2003、日本放送出版協会)◆小泉『生殖の哲学』(2003、河出書房新社)◆小泉『ドゥルーズの哲学――生命・自然・未来のために』(2000、講談社)◆永井均・小泉『なぜ人を殺してはいけないのか?』(1998、河出書房新社)◆小泉『弔いの哲学』(1997、河出書房新社)◆小泉『デカルト=哲学のすすめ』(1996、講談社)◆小泉『兵士デカルト――戦いから祈りへ』(1995、勁草書房)◆松原洋子他『優生学と人間社会――生命科学の世紀はどこへ向かうのか』(2000、講談社)◆松原・小泉編『生命の臨界――争点としての生命』(2005、人文書院)[…]
  *その他についてはhttp://www.arsvi.com/0u/01.htmを参照のこと

X.研究経費執行計画(千円)

費目  金額(千円)  明細
機器備品費     0  他の資金で調達
図書費     200  基本的には他の資金で調達
旅費(国内)  150  調査のための旅費
旅費(国外)    0  
人件費、謝金  600  資料収集・整理・データ入力等
消耗品費     50  紙等
印刷費       0  
その他       0  
合計(申請額)1000  

Y.その他本研究における特記事項

本研究において、業績、若手育成、組織構成や運営上の工夫等特記すべき事項があれば、自由に記述してください。

 第1頁の記入欄の制約もあって、そこにはあまり多くの院生をあげることをしなかったが、先端研のなかで60名を超える院生たちが、この企画に中心的にあるいは部分的に関係する研究課題をもって研究に取り組んでいる。この企画はそれら院生に、研究のための条件を提供し、助言し指導することによって、研究を進めさせ、成果を上げさせることを意図するとともに、それらの成果それ自体の集積をもって、この企画の本体とするものでもある。
 第1頁には[…]。これらの人たちとともに研究を遂行する。

 なお今回、いわゆる****への申請とも連動させ、学内のほかの研究科・研究所・学部の教員・研究者も加え、「生存学センター」(仮称)を立ち上げることにしている。
 他の大学における状況をみても、これまでの大きな研究プロジェクトは、結局、雑用を増やし、かえって研究の中心にいるべき研究者の研究活動を妨げるものであった。このセンターはこの轍を踏むことはしない。仕事をできる限り、できる人に渡し、研究・教育者は、研究・教育に専念することにする。例えば資料の整備、公開、研究成果の刊行などにあたっては、当該の領域をよく知る出版界の人にある部分を依頼・委託するといったことも行うことになるだろう。
 また、人を呼び催しを行うことに金を使い労力を使うことについても、(金銭以外も含む)費用と便益とを慎重に比較考量して行う。むしろ、私たち自身が、成果を作り、それを外に向けて発信していくことの方に力を注ぐ。なにより実際に成果をあげ、それを内外に知らせることがこの企画・このセンターが行うことである。
 年間数千万円の資金があれば、とりあえず企画を前に進めていくことができるだろうと考えている。今回の企画はそれを本格的に始動させ、軌道に乗せていくための準備のために申請するものである。

  cf.http://www.arsvi.com/0u/01.htm


UP:20061215 REV:
立命館大学  ◇研究拠点:生存学
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