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新山智基『世界を動かしたアフリカのHIV陽性者運動』に・02

「身体の現代」計画補足・787

立岩 真也 2022
https://www.facebook.com/ritsumeiarsvi/posts/3120357768231189

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『世界を動かしたアフリカのHIV陽性者運動』表紙画像


 私の勤め先の大学院で博士号をとったりした人たちが出した本におまけのようなものを幾つか書いてきた。
立岩が関係した博士論文:http://www.arsvi.com/ts/dt.htm(現在整理中)
 それを紹介していきます。

新山 智基 2011/12/01 『世界を動かしたアフリカのHIV陽性者運動――生存の視座から』,生活書院
 http://www.arsvi.com/b2010/1111nt.htm
 に入っている
■立岩真也 2011/12/01 「補足――もっとできたらよいなと思いつつこちらでしてきたこと」
 を再掲していきます。新山さんの本買ってください。


2 方法

 できるのに、可能なのに、と述べた。できないこともある。天災や、そして人災から、そして病、そのすべてからは逃れきることはできない。ただ、本書に書かれているように、この場合は可能だ。それはどうにもならない、はずのないことなのだ。
 普通に考えてみよう。必要なものはまず「もの」である。ものの原料と、それを製造する場所や機械と、人と人の労働、そして流通・利用の仕組みがあればよい。そしてこの場合の、原料は、稀少な鉱物とか、人間の生きた臓器だとか、そんなものではない。その他のものにしても同様だ。他方、人は――これも何度も言ってきたことだが――ありあまっている。だから、死なずにすむようになることは十分に可能なのだ。まず、そんな単純なこを確認しておこう。
 しかし、その薬のその値段が高いという。どうするか。二つ(あるいはその組み合わせ)だけである。一つには、買えるだけの金を人々がもつことだ。それもわるくはない。ただなぜ高いか。技術(についての権利)が独占され、結果として販売を独占するかそれに近い状態になると、値段が上がる。もちろん、そのことを言うと、開発には金がかかるから、その費用を回収するためにも、開発のための「動機付け」のためにも、その権利の付与は必要だとされる。それはいくらか認めてよい。ただそれは、その権利を排他的なものとしていつまでも持ち続けてよいということを意味しない。実際、特許権の付与というのは、一方の見方からは、その権利を保護するためのものだが、それは同時に、その権利をいついつまでと制限するものでもあるのだ。
 むろんそこには種々の利害が絡み、ことは複雑なことになっている。それをきちんと分析する仕事が一つにある――が、どれほどなされているのだろう。ただ、それはそれとして、おおまかにでもなすべき方向がある時、急ぎがなんとかせねばならない場合、人々や企業や政府にことを訴えて、変えていかねばならない。それはどうにもたいへんなことのように思える。しかし、そんな人がいたり、組織・運動があって――後で書くようなきっかけがなかったら、私は、ザッキー・アハマットという人のことも、ケニア他での運動のことも、つまり本書で書かれていることを知らなかっただろうと思う――だから、というほど世の中甘くはないとしても、それでも変えがたいと思われたものがいくらか変わった。アハマット氏はいっときノーベル賞の候補という話があったそうで、実際にそんなことでもあったらすこし違ったかもしれないが、そんなことも今のところなく、やはりほぼまったく知られていない。そのことだけでも知ってもらってよいだろうと思う。要求がかなえられるまで薬を飲まないとか、そんなことをさせてはならない、もっと容易にことが叶えられるほうがよいだろうとは思う。そう思いつつも、それでもこういう人たちがいること、そのことが無駄にならない(こともある)ことを感じ、希望をもつことができる。


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◆立岩 真也 2020/11/11 「私たちはそういうことにあまり慣れてないのだが」DPI日本会議,ご寄付、ご支援について
◆立岩 真也 2021/03/10 『介助の仕事――街で暮らす/を支える』,ちくま新書,筑摩書房,238p.
◆立岩 真也 2022/**/** 『人命の特別を言わず*言う』,筑摩書房


 生存学研究センターのフェイスブックにあるこの文章と同じものは
http://www.arsvi.com/ts/20222787.htm
にもある。


UP:2021 REV:
博士号取得者  ◇立命館大学大学院先端総合学術研究科  ◇生を辿り道を探る――身体×社会アーカイブの構築  ◇『介助の仕事――街で暮らす/を支える』  ◇立岩 真也  ◇Shin'ya Tateiwa 
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