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そのまま、+2

立岩 真也 2021/10
筋ジス病棟実態調査報告書


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筋ジス病棟実態調査報告書
こくりょう(旧国立療養所)を&から動かす

 以上に調べられ書かれたことに何も加えることはないし、むしろ言葉を加えてはならないと思うほどだ。「関係者」にとっては、聞いたこともないといった話はあまりないだろう。しかし、そうやって、そうして当たり前のことに、でないとしても、仕方のないことにされていることが、仕方のないことにされて、そのままにされたらだめだ。一つずつのこと、例えば気持ちのよい排泄ができるようにといったことが、当然に可能なことなのだから、当然になされるようにという、誰でも言えるし、誰でも否定しないことを、実際に可能にしようということだ。
 それだけのことで、理由も理屈もいらないことだけれども、加えて、この報告書から言えること、そこから始められることを各々一つ。
 一つ、そこらじゅうにあるのは、安全のために仕方がない、人手がいないので仕方がない、予算の制約で仕方がない、という話だ。その全部を否定しようと思わない。この調査からもいくらかその仕方のなさはうかがえる。しかし、そこそこ、それなりにやれているところもある。その相対的にましなところも、そうでないところも、おおまかには同じ制度のもとで運営されている。ならば、よりましな、よりよいところに合わせることはできるはずだ。ふだん文句ばかり言っている私たちも、よりよい、よりましなところを称賛したってよいだろう。そうして全体をいくらかよくすることことは可能だと、言うことができる。言うだけでは意味がないから、言って、そして実現させていく、そのために調査・調査結果を使うこともできる。
 一つ、いったいどういう仕掛けで、この現実が作られてしまっているのか。岡本〔晃明〕さんが書いている章はそのことに関わる。そこには、ひどくややこしいことになっていて、実態も、実態を作っている仕組みもなかなかはっきりさせられないことが書いてある。その、無駄にややこしい仕組みの成り立ちと実際をつかみ、そして、できるはずのことを言う。それは、仕組みが無駄にややこしくさせられているぶん、調べたり考えたりことを仕方なくせずをえず、そういうことは研究者と呼ばれる人たちの仕事のはずだ。しかし、そんな研究はなされていない。それはとてもだめなことなので、調べさせるか、調べるのに力を貸すか、それでも頼りにならないのなら、いくらか力は借りて自分たちで調べるか。そうして、経営側の人たちはなにかというと制度の制約のもとでやっているので仕方がないとか言うのだが、実はその仕組みをよくわかっていないその人たちよりこちら側がよくわかって、そして場合によっては経営し働く人たちといっしょに、もっとよい仕組みを考えて、よりましな現実を作って行くことも可能なはずだ。
 ここに、楽しいことは書いてない。読むのもいやだ。私にはそんなところがある。しかし、見たくないからと捨てられように、ピン止めして、いつでも目にふれるように貼っておくこと、具体的には、ウェブサイトに掲載して、現実が変わるまで貼っておくこと、それをことあるごとに指さすこと、変わったら変わった部分を加えていくこと、そのぐらいこのことは私たちもお手伝いできると思う。


UP:20211013 REV:
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