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論文等審査報告書(博士)

立岩 真也 2021/07/27 立岩が関係した博士論文



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◆中嶌清美 近日公開予定 ※近日掲載予定


金野 大 ※近日掲載予定


駒澤 真由美 2021 「精神障害を生きる当事者の「生の実践」――リカバリーと一般就労の直線的理解を超えて」

□要旨(本人のものを下敷きに作成)
 精神障害者の就労実態は、障害者雇用促進法に基づき雇用制度によって補助がなされる一般就労よりも、障害者総合支援法に基づき福祉制度によって補助がなされる福祉的就労が圧倒的多数を占める。福祉的就労のなかでも、就労継続支援B型の月額工賃(1.6万円)と就労継続支援A型の月額賃金(7.7万円)には差がある。一般就労の平均賃金も低い(12.5万円)が、それと福祉的就労との間にはさらに大きな差がある。精神障害者の多くは非就労を余儀なくされるか、福祉的就労の場に押し込められて生きている。そのようななか就労支援の現場は、一般就労こそがリカバリーのための重要な要素であると唱える立場、工賃と利用者の満足度には相関がなく福祉的就労であっても当事者の主観的なリカバリーはなしうるとする立場、これに対して福祉的就労に搾取の構造を見出し、一般就労でも福祉的就労でもない第三の社会的就労、たとえばソーシャルファームや社会的事業所など障害者を「労働を通じて社会的に包摂すること」の優位性を指摘する立場が存在する。
 本研究では、「一般就労」への移行、「福祉的就労」「社会的就労」の場で、約半年ずつボランティアとして働きながら、就労現場の参与観察によってデータを詳細に収集し、支援者ならびに当事者間の相互作用も含めて描き出す方法を採用した。そのなかで14名の精神障害当事者に協働構成的な対話によるライフストーリー・インタビューを実施し、彼らの「生の実践」を、法制度・支援システムと本人の行為の意味の複相性に着目し、詳らかにしている。
 構成は以下。序論:序章「「リカバリー」と就労支援」、第1章「就労支援をめぐる法制度の変遷と実践の歴史」、第2章「障害者総合支援法下における現行制度の概要と課題」。
 第1部 「「一般就労」とはどのようなものなのか」:第3章 精神障害を開示して一般就労するとはどういうことか」、第4章「精神障害当事者はなぜ就労移行支援サービスを受けているのか」、第5章「精神障害当事者でもある支援者は就労支援をどのように体験しているか」。
 第2部 「「福祉的就労」とはどのようなものなのか」:第6章「精神障害当事者は「就労継続支援A型」をどのように意味づけているのか」、第7章 精神障害当事者にとって「就労継続支援B型」とはどのような場なのか」、第8章「精神障害当事者にとっての「就労継続支援B型」とリカバリーとの関係」。第3部 「「社会的就労」とはどのようなものなのか」:第9章「精神障害者が働き続ける「社会的事業所」とはどのような場なのか」、第10章「社会的事業所にたどりついた精神障害当事者の「生の論理」。
 結論:終章「精神障害を生きる当事者の「生の実践」」。

□審査結果
 454頁に達する本論文の著述は圧倒的である。一人ひとりに長い時間をかけたインタビューが積み重ねられ、その一つひとつを丁寧にまとめていく。調子がわるくなったりよくなったりしながら、ある人は、いくつかの制度を渡り歩く。かなり長く同じ職場にとどまる人もいる。精神障害者と認めることについて、年金や生活保護の受給について、ためらいがあったり、割り切りがあったりする。本人たちが、またその人たちに接する「現場」の人たちが、ある程度、部分部分を体感しているものの全体が見えてくる。そのような著述はなされたことがなかった。審査委員たちはみなこの論文の大きな意義を認め、もちろん、博士論文として十分な価値があることを認めた。
 その上で、ここに記述されたことをどのように読み解くかは課題として残るだろう。著者は一つ、世上ではリカバリー(回復)が目指され、そしてそれがつまりは一般就労を得ることとされることを批判したとするが、それだけなら、働くことだけがよいことではないこと、よくなることだけがよいわけでないこと、それは認めている、とすぐに返されるだろう。また著者は、一つ、人々が、その場その場で、いろいろと考え、天秤にかけたりしながら、生きていることを言う。しかし、この社会ではあらゆる人がみなそこそこに賢く生きている、それとそう違いはない、それだけのことではないか、と返されるかもしれない。
 とすれば、さらに言えることはないか、ここまで優れた記述をしたのだからと、期待が語られもした。だがそれはまったく容易なことではない。働くこと、働くことに関わる政策について、包括的な考察は世界全体を見てもまだない。とすれば、下手にまとめるより、まず現実を示すほうが賢明だとも言える。そして本論文は、いくつかの就労の型を示し、迷ったり選んだりする人たちを描いている。ならば、ここからどのような労働、労働を巡る仕組みがより望ましいのか、後に続く私たちは考えていくこともできる。

cf.◇立岩 真也 2021/08/27 「メモ」(報告)


UP:20210827 REV:
立岩 真也  ◇Shin'ya Tateiwa 
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