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立岩 真也 2021/**/** 『精神医療』5-1

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『精神医療』5-1
 特集「コロナという名の試練――精神保健医療福祉はどう挑むか―」
 責任編集:近田真美子・岡崎伸郎

◇「コロナという名の試練―精神保健医療福祉はどう挑むか―」
 2.出席予定者
 齋藤 正彦 様(東京都立松沢病院 院長)
 増田 一世 様(やどかりの里 理事長)
 立岩 真也 様(立命館大学大学院 教授)
 〈司会〉近田真美子(本誌編集委員)

■特集企画趣旨
 2020 年1 月16 日。
 国内初の新型コロナウイルス感染症患者が確認された。発見当時、未知の存在であったこのウイルスは、膨大な感染者数と死者数をたたき出しながら、全世界を大混乱に陥れた。パンデミックに翻弄される中で顕わになったことは、このウイルスが、感染力の強さや致死性のみならず、現代社会に特有の脆弱性につけこむ高度の狡猾さを備えていることである。
 そしてメンタルヘルスの現場もまた、この手強いウイルスに翻弄され続けている。
 もともと精神医療のユーザーは、生活のさまざまの場面で苦しい制約を強いられてきた。特に精神科病院・病棟のなかでは、閉鎖処遇・行動制限・面会制限といったさまざまの不自由が入院患者に日々のしかかっている。こうした状況下でのコロナ禍は、ウイルスの持ち込み防止やクラスター化の防止という大義名分のもとで、その閉鎖性・密室性を一層強化する方向に誘導してしまうだろう。それは私たちが取り除こうとしてきたはずの地域社会との隔絶をまたもや助長することになりかねないだろう。感染防止と人権、言い換えれば「安全」と「自由」との極めてデリケートなバランスが今、問われている。
 治療的関わりとは、また介護福祉的な関わりとは、自己と他者との関係性を推し量りながら身体的接触を介して行うコミュニケーションそのものであった。コロナ禍以来、治療や相談支援の各領域でタブレット端末の導入など新たなコミュニケーションの試みが進んではいる。しかし食事、排泄、入浴といった生活援助は、人の手がなければできないものばかりであり、“ソーシャルディスタンス”を保ちながらの援助はそもそも成立しない。
 私たちは新型コロナウイルスの登場によって、精神保健医療福祉がこれまで大切にしてきた価値を一旦棚上げし、再検討しなければならない局面に立たされているのだ。
 精神保健医療福祉にかかわる人々の心身の問題も深刻である。施設内で感染者が発生すれば、濃厚接触者とその周辺が自宅待機を余儀なくされ、残されたスタッフの負担は増大する。個人防護用の装備も十分ではなく、自身の感染への不安のみならず家族への感染の不安から自宅への帰宅をためらう人も続出した。こうして心身ともに疲弊した状態で、さらに追い打ちをかけたのが、感染者や医療従事者への誹謗中傷であった。
 …そして、
 新型コロナウイルスという見えない未知の存在は、日常と非日常、生と死、公と私、自己と他者、法秩序と道徳といったさまざまの境界線を撹乱し、私たちのこころをざわつかせた。不確かな存在に耐え続けることが難しくなった私たちは、〈ざわつき〉をコントロールしようと、いたるところにさまざまの〈装置〉張り巡らせた。〈装置〉を武器に不寛容にとらわれた人は、自粛という名の下に〈正しい〉振る舞いを他者へ強要し、行動を通して透かし見えた個人の価値観まで尋問にかけるようになった。同調圧力とも呼ばれるこのような息苦しい雰囲気は、多様性を否定し排除する社会を生み出すだろう。メンタルヘルスの役割や責任を照らし出すのが〈社会〉であるとするならば、この息苦しい社会にどう対峙していくのかについて考えることも、精神保健医療福祉に関係する者に与えられた試練である。
 本特集では、新型コロナウイルス感染症という未曽有の出来事に対して、私たち精神保健医療福祉関係者らが、何を考え、どう抗ったのか、さまざまな立場からの報告をお願いする。そして、この状況に臨んで、私たちは一旦後退せざるを得ないのか、あるいは新しい価値を生み出す契機とすることもできるのかについて考える機会としたい。



https://www.byouin.metro.tokyo.lg.jp/matsuzawa/recruit/doctor/resident_s/incho_message.html
https://www.byouin.metro.tokyo.lg.jp/matsuzawa/aboutus/matsuzawa_voice/interview-2/director_saito.html

https://booklog.jp/author/%E5%A2%97%E7%94%B0%E4%B8%80%E4%B8%96?amp
1978年明治学院大学社会学部社会福祉学科卒業後,やどかりの里の研修生となり,1979年やどかりの里職員.
[現職] 公益社団法人やどかりの里常務理事,やどかり情報館館長,やどかり出版代表.NPO法人日本障害者協議会常務理事,日本健康福祉政策学会理事など.

「2014年 『病棟から出て地域で暮らしたい』 で使われていた紹介文から引用しています。」

病棟から出て地域で暮らしたい―精神科の「社会的入院」問題を検証する (JDブックレット) 単行本 ? 2014/10/1




UP:20201223 REV:
立岩 真也  ◇Shin'ya Tateiwa  ◇生を辿り道を探る――身体×社会アーカイブの構築 
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