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介助者として働いてみようという本の話

何がおもしろうて読むか書くか 第13回

立岩 真也 2020/10/25 『ちいさい・おおきい・よわい・つよい』128:http://japama.jp/chio128/
http://www.japama.jp/cgi-bin/event.cgi#4
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■『ちいさい・おおきい・よわい・つよい』128:- 2020年1025日刊行 特集:
 http://japama.jp/chio128/


◆立岩 真也 2021/02/10 『介助の仕事――街で暮らす/を支える』,筑摩書房,ちくま新書,238p. 820+
◆立岩 真也 2021/02/11 『介助の仕事――街で暮らす/を支える 補注・文献Kyoto Books

■『ちいさい・おおきい・よわい・つよい』/『おそい・はやい・ひくい・たかい』

◆ジャパン・マシニスト社 https://japama.jp/
◆ツィッター https://twitter.com/japama_official
『ちいさい・おおきい・よわい・つよい』
『おそい・はやい・ひくい・たかい』
◆定期購読のお願い→https://karaimo.exblog.jp/26367357/

◆立岩 真也 2020/04/25 「話してもらう――何がおもしろうて読むか書くか 第12回」
 『ちいさい・おおきい・よわい・つよい』127
◆立岩 真也 2021/10/25 「『介助の仕事』――何がおもしろうて読むか書くか 第14回」
 『ちいさい・おおきい・よわい・つよい』129

 ※校正済のもの(ただし雑誌では数字は漢数字)

これからしばらく新書を
 新しく調べたり考えたりして書きたいことはたくさんある。これまでもそういう仕事をしてきた。だが伝わっている感じはあまりしない。本の好きな人たちというのが少しはいて、そういう人は高い本でも買ってくれるのだが、そういう人に読んでほしいというわけでもない。
 前書いたことでも、短くして、安い本にしたらよいと思う。具体的には新書を書こう。そう思ったのはこれが初めてのことではなく、もう10年以上前からそんなことを思ってきた。私が京都に来たのは2002年だが、その後の数年の間に複数の出版社から新書の提案も△164 いただいた。しかし結局そのままになり、時間が過ぎた。それはいかん、と思って、今年から実行することにした。生まれてから60年経った――あまりに成熟感なく、困っている――ついでに、ということもないではない。それでまず、岩波新書から『介助為す介助得る』という題で出してもらう。一番短く安くするには?、とうかがったら、214頁で800円で、と言ってもらったので、その分量にした。

介助為す
 今度の本は、介助者=ヘルパーとして働いてみようという本であり、その人たちに働いてもらって暮らそうという本だ。障害の重い人を利用者として想定した、あまり知られていない制度として「重度訪問介護(重訪)」というものがあり、私は、もうかなり長く、年に3回ぐらい、京都でそういう研修の講師というものをやっている。
 全部で1日あるいは2日で仕事ができるようになるその課程の最初の2時間話す。その記録をいったん文字にしてもらって、それを切ったり貼ったりして、新しい部分を加えて書いた。
 私のその講義は、書いているものに比べてだが、評判がよい。だったらそれを使えばいいじゃないか、と講義の時に思ったのだ。新書だったら軽いし、かさばらないし、メモやノートとるより楽に使える。そして、この研修、全国で△165 やっているのだが、それにも使ってもらえるかもしれない、と思ったのでもある。
 ひとつに、この仕事やってみませんかということがあった。ほんとにそう思っている。そしてこの本で書いているのは、30分いて次の仕事にというあわただしい仕事ではなく、1回8時間だとかずっとその人のそばにいて言われたことをするというものだ。時給は高くない。まずはざっと1000円。それでも1回8000円から1万円だったらまあなんとか、ではなかろうか。そしてこの本で、1500円にしようとも呼びかけている。政治が変われば簡単に可能なことだ。そうなればよいと書いている。
 そしていろんな人がこの仕事に関わったらよいのにと前から思ってきた。実際、私のまわりに、他にいろんなことをしながらこの仕事をしている人たちがいる。私の務め関係で大学院生とか大学生がいるのは当然として、他に「アート系」の人たちとか、種々。そういうことは知っている人しか知らない。「福祉の仕事」のイメージが固定してしまっているのもあまり気持ちよくないとも思ってきた。

介助得る
 もう一つ、介助する人がいれば、もっと多くの人たちが住みたいところで暮らせるのにということがあった。さっき紹介した研修を主催している団体も含め、介助者=ヘルパーを登録し派遣する事業所の幾つかといくらかのつきあいがあるのだが、働き手が足りず、利用したいとう人たちの希望に応えきれないという話を聞いてきた。見知らぬ人から、「介助者がいないと病院に戻ることになる、事業所をいくつかあたったが、人手がいないと言われた」というメールをもらったこともある。
 それとともにこの制度、日本全国どこでも使えるという具合にはなっていないし、使える量にも差がある。そして、制度があること自体もあまり知られていない。そこで知ってもらい、使えるようになってもらったらよいと思ってきた。
 金沢の筋ジストロフィーの人で、入所して37年を経て、医王病院というところから出て暮らし始めた古込和宏のことを、昨年、この連載の第9回で紹介した※。金沢市でそれまでまったく使えなかったこの「重訪」の制度を使えるようにさせて、彼は街中での生活が始めることができるようになった。

※立岩 真也 2019/07/25 「遺したものを記録する――何がおもしろうて読むか書くか 第9回」,『ちいさい・おおきい・よわい・つよい』124

制度は使えていた、としたら
 そんなことで、これはまったく実用的な本なのだが、これまで私がいろいろと考えてきたことに、いろいろと関わってもいる。いつもだとながながとした注をつけたり文献表を付したりして、このことについてはここに詳しく書いた、といったことを書いてきたが、今回は、分量的なこともあり、それは略した。ただ、新書版の約3倍の分量の「電子書籍」を作って提供することにした。特別のソフト・アプリは不要。このような関連情報をいつものように当方のウェブサイトに掲載している。私の名前か「介助為す」などで検索すると出てきます。
 原稿を書き終わったと思った7月23日、京都在住のALSの女性が昨年の秋「安楽死」(日本の法律的には「嘱託殺人」)していたという報道があった。その人は、その「重訪」の制度を使って1日24時間の介助を得ていた人だった。
 そのことをどう考えるか。私たちはずっと、介助の制度が使えないから、人は死なざるをえないのだと、だから制度を、だから予算を、と言ってきた。しかしこの人は制度は使えていた。としたら、何か言うことがあるのか。何を言えばよいのか。その部分を書き足して、本の最後に、第9章「こんな時だから言う、また言う」を置いた。そして8月10日に最終の原稿を送った※。この事件のこと、それと京都での生きるため生きることを支えるための運動のことについて、8月19・20日の『京都新聞』にインタビュー記事が掲載される。これもホームページに掲載しますのでよろしくです。


◆紹介

◇立岩 真也 2021/01/13 「介助の新書・01――「身体の現代」計画補足・727」
 https://www.facebook.com/ritsumeiarsvi/posts/2863381043928864


 


 ※以下は草稿。『ちいさい・おおきい・よわい・つよい』お買い求めください。

これからしばらく新書を
 新しく調べたり考えたりして書きたいことはたくさんある。これまでもそういう仕事をしてきた。だが伝わっている感じはあまりしない。本の好きな人たちというのが少しはいて、そういう人は高い本でも買ってくれるのだが、そういう人に読んでほしいというわけでもない。
 前書いたことでも、短くして、安い本にしたらよいと思う。具体的には新書を書こう。そう思ったのはこれが初めてのことではなく、もう十年以上前からそんなことを思ってきた。私が京都に来たのは2002年だが、その後の数年の間に複数の出版社から新書の提案もいただいた。しかし結局そのままになり、時間が過ぎた。それはいかん、と思って、今年から実行することにした。生まれてから60年経った――あまりに成熟感なく、困っている――ついでに、ということもないではない。それでまず、岩波新書から『介助為す介助得る』という題で出してもらう。一番短く安くするには?、とうかがったら、214頁で800円で、と言ってもらったので、その分量にした。

介助為す
 今度の本は、介助者=ヘルパーとして働いてみようという本であり、その人たちに働いてもらって暮らそうという本だ。障害の重い人を利用者として想定した、あまり知られていない制度として「重度訪問介護(重訪)」というものがあり、私、もうかなり長く、年に3回ぐらい、京都でそういう研修の講師というものをやっている。全部で1日あるいは2日で仕事ができるようになるその課程の最初の2時間話す。その記録をいったん文字にしてもらって、それを切ったり貼ったりして、新しい部分を加えて書いた。
 私のその講義は、書いているものに比べてだが、評判がよい。だったらそれを使えばいいじゃないか、と講義の時に思ったのだ。新書だったら軽いし、かさばらないし、メモやノートとるより楽に使える。そして、この研修、全国でやっているのだが、それにも使ってもらえるかもしれない、と思ったのでもある。
 一つに、この仕事やってみませんかということがあった。ほんとにそう思っている。そしてこの本で書いているのは、30分いて次の仕事にというあわただしい仕事ではなく、1回8時間だとかずっとその人のそばにいて言われたことをするというものだ。時給は高くない。まずはざっと1000円。それでも1回8000円から1万円だったらまあなんとか、ではなかろうか。そしてこの本で、1500円にしようとも呼びかけている。政治が変われば簡単に可能なことだ。そうなればよいと書いている。
 そしていろんな人がこの仕事に関わったらよいのにと前から思ってきた。実際、私のまわりに、他にいろんなことをしながらこの仕事をしている人たちがいる。私の務め関係で大学院生とか大学生がいるのは当然として、他に「アート系」の人たちとか、種々。そういうことは知っている人しか知らない。「福祉の仕事」のイメージが固定してしまっているのもあまり気持ちよくないとも思ってきた。

介助得る
 もう一つ、介助する人がいれば、もっと多くの人たちが住みたいところで暮らせるのにということがあった。さっき紹介した研修を主催している団体も含め、介助者=ヘルパーを登録し派遣する事業所の幾つかといくらかのつきあいがあるのだが、働き手が足りず、利用したいとう人たちの希望に応えきれないという話を聞いてきた。見知らぬ人から、「介助者がいないと病院に戻ることになる、事業所をいくつかあたったが、人手がいないと言われた」というメールをもらったこともある。
 それとともにこの制度、日本全国どこでも使えるという具合にはなっていないし、使える量にも差がある。そして、制度があること自体もあまり知られていない。そこで知ってもらい、使えるようになってもらったらよいと思ってきた。
 金沢の筋ジストロフィーの人で、入所して37年を経て、医王病院というところから出て暮らし始めた古込和宏のことを、昨年、この連載の第9回で紹介した。金沢市でそれまでまったく使えなかったこの「重訪」の制度を使えるようにさせて、彼は街中での生活が始めることができるようになった。


 そんなことで、これはまったく実用的な本なのだが、これまで私がいろいろと考えてきたことに、いろいろと関わってもいる。いつもだとながながとした注をつけたり文献表を付したりして、このことについてはここに詳しく書いた、といったことを書いてきたが、今回は、分量的なこともあり、それは略した。ただ、新書版の約3倍の分量の「電子書籍」を作って提供することにした。特別のソフト・アプリは不要。このような関連情報をいつものように当方のウェブサイトに掲載している。私の名前か「介助為す」などで検索すると出てきます。
 原稿を書き終わったと思った7月23日、京都在住のALSの女性が昨年の秋「安楽死」(日本の法律的には「嘱託殺人」)していたという報道があった。その人は、その「重訪」の制度を使って1日24時間の介助を得ていた人だった。
 そのことをどう考えるか。私たちはずっと、介助の制度が使えないから、人は死なざるをえないのだと、だから制度を、だから予算を、と言ってきた。しかしこの人は制度は使えていた。としたら、何か言うことがあるのか。何を言えばよいのか。その部分を書き足して、本の最後に、第9章「こんな時だから言う、また言う」を置いた。そして8月10日に最終の原稿を送った※。この事件のこと、それと京都での生きるため生きることを支えるための運動のことについて、8月19・20日の『京都新聞』にインタビュー記事が掲載される。これもホームページに掲載しますのでよろしくです。


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