科学研究費報告書(2019年度)
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研究種目:基盤(B)
研究期間:2017~2019
課題番号:17H02614
研究課題名:病者障害者運動史研究――生の現在までを辿り未来を構想する
英語題: Research on the history of movements of people with an illness and people with a disability: Tracing life up to the present and plotting its future
研究代表者
 立岩 真也(TATEIWA, Shinya)
 立命館大学・大学院先端総合学術研究科・教授
 研究者番号:30222110

2019年度科研費

◆2018年12月の公開シンポジウム第1回「マイノリティ・アーカイブズの構築・研究・発信」の記録を掲載した『立命館生存学研究』3を刊行した。各地域、各組織の各々の特色・独自性が示され、方法・技を互いが摂取でき、また共通の課題も確認できる、有意義なものとなった。◆これまでの調査をもとに『往き還り繋ぐ――障害者運動於&発福島の50年』(青木千帆子・瀬山紀子・立岩真也・田中恵美子・土屋葉、生活書院)を刊行した。それを機に2019年9月にシンポジウム第2回を開催した。◆『弱くある自由へ――自己決定・介護・生死の技術 増補新版』(立岩真也)に新しい2つの章「闘争と遡行」「高橋修 一九四八~一九九九」を加えた。後者は、30年に間に複数回行われたインタビューを用いたものである。◆インタビューの記録を対象者に点検してもらい、註などを加えたうえでHPに掲載した。その総数は123に上り、今後も増えていくことになる。一覧:http://www.arsvi.com/a/arc.htm#i◆代表者が所長を務める生存学研究所に大学が提供した書庫に、贈与された資料を受け入れ、作業する院生たちと方法を考え協議し、整理し、配架するとともに、その書誌情報などを入力しHP上で公開した。◆私たちにとって歴史は現在の歴史でも、アーカイブとは今を集積することでもある。2011年の東日本大震災の時に情報を集積し公開したが、本研究の期間中には優生保護法下での不妊手術を巡る報道等を整理した。そして2020年3月には新型コロナウィルスに関する頁の公開を開始した。それぞれに種々の運動がどう関係してきたのかしているのをまとめた。◆そうした研究のなかで、例えば報道の全文をどう扱うが問題になってきた。その公開は、主題によっては社会が、そしてときに報道機関が求めているのでもあり、この本年になってのできごとによって、その協議が再開されている。それを詰めて「即時のアーカイブ」を作り提供していくことは今後の課題になる。


…………
https://mi-journey.jp/foodie/56798/

(3)が生存学研究所のHPの一つの表紙であり、そこから(2)「生を辿り途を探す――身体×社会アーカイブの構築」がリンクされている。またそこから(1)「病者障害者運動史研究」の頁にもリンクされている。これらの頁からこれまでのインタビューの記録を読むことができる。人・書籍・機関誌についての情報を収集・整理した頁がある。関連事項についての年表・資料・文献などを知らせ、それらを紹介している頁にもリンクされている。


(直接経費)12,700,000円


1.研究開始当初の背景
 これから10年も経てば証言がまったく得られなくなるだろう時期から始まり、現在に至る、障害や病に関わるこの国での社会運動についての研究の重要性は認識されてはおり、とくに1970年代以降の身体障害者の運動についての研究は幾らかなされるようになってきた。だがなお広大な未踏の部分が残されており、さらに考察すべき部分を多く残している。そしてその手前で、より広い範囲の人々の利用に資するための資料・情報の収集・整理・発信を行う必要がある。新たなインタビュー調査とその記録、その公表も重要である。ただ満遍なく全てを集めるのはもはや不可能だ。重要と考えられる部分に当たり、その検証から新たに調査すべき場所を見つける。その繰り返しの作業を速く進める必要がある。調査・研究を効果的に遂行できる体制を組み込み、個々の研究を随時まとめながら、個々に独立しているかに思われる事象の連関を確かめて行って、この時代の全体像を描く必要と有効性がある。それがこの計画が実現するなら可能であると考えた。

2.研究の目的
 障害・病を有する人達の主張・運動の多くは記録も考察もされていない。資料の散逸が進み、今後しばらく長く活動してきた人の声を聞く最後の機会となる。研究を組織化し、世界的な流れの中に位置づけつつ、その過程を明らかにする。Ⅰ結核・ハンセン病等の収容施設が批判の対象とされつつ生活のための砦であったことがある中での運動。Ⅱ社会・政治を加害の原因として糾弾しつつ自らの内にも対立や困難を必然的に抱えてしまった公害・薬害に関わる運動。Ⅲ医療福祉政策の狭間に置かれる中で自らの位置を得、生活を獲得ようとしてなされてきた「難病」を巡る運動。Ⅳすべてに関わりつつ障害と病の位置の転換を主張して1970年前後に新たに現れた運動、それが起こした波紋。そしてⅤそれらを経て世界に共通する現況を診断し、これからを展望する。

3.研究の方法
 研究代表者・分担者他は、多年の研究・社会活動から既に多くの組織・人との繋がりを得て研究を進め、成果を出してきた。それに関心を共有し時間と意欲をもって研究を進めている大学院生や修了者等が連繋し、調査研究に当たる。資料室がありスタッフを擁する研究機関(グローバルCOEを引き継ぐ生存学研究所)が日常的な活動を支える。この体制のもと、これまでの蓄積に加え、散逸しつつある資料を収集・整理・公開する。関係者への聞き取り(一部は公開インタビュー)を行い、記録化する(文字、一部については動画)。それらに詳細な註を付した上で書籍化していく。基礎情報を踏まえ考察を進め、研究書を年2冊以上出す。韓国、中国、英国他の研究者と連携し、運動史を比較研究し、成果を国際的に発信する。

4.研究成果の概要
◆和文
最大300文字、改行は2回まで入力可。(ただし、一時保存の際は600文字まで入力できます。)
40×7+20

★★
○複数の資料贈与の申し出も受け、関係する資料を収集・整理し配架し、ウェブサイトに書誌情報他を掲載した。○125のインタビューの記録約300時間を文字化し編集作業を加え、各々の全文を公開した→http://www.arsvi.com/a/arc.htm#i○本主題と直接に関係する研究代表者の書籍として『不如意の身体――病障害とある社会』(2018、青土社)、『病者障害者の戦後――生政治史点描』(2018、青土社)、『往き還り繋ぐ――障害者運動於&発福島の50年』(青木千帆子他、2019、生活書院)、『弱くある自由へ――自己決定・介護・生死の技術 増補新

○We received several offers for the donation of documents, assembled, organized, and catalogued related documents, and published bibliographic information and other materials on our website. ○We transcribed and edited 125 interviews comprising roughly 300 hours of recordings and made each of the resulting texts publicly available (www.arsvi.com/a/arc.htm#i). ○Books by the lead researcher: People with an Illness or Disability in the Postwar Period: A Sketch of the History of the Politics of Life (Seidosha, 2018),Connecting Going and Coming Back: In & From - 50 Years of Fukushima (Aoki Chihoko et al., 2019,Seikatsushoin), Toward Freedom with Weakness: Self-determination, Nursing Care, and Technologies of Life and Death (Revised and Expanded).

◇英文
最大1000文字、改行は2回まで入力可。(ただし、一時保存の際は2000文字まで入力できます。)

5.研究成果の学術的意義や社会的意義
最大300文字、改行は2回まで入力可。(ただし、一時保存の際は600文字まで入力できます。)

 学問の意義の一つは記録することにある。この研究の3年の間にも毎年数人の運動家ががくなった。自らを文字にして公けにできる人は少ない。それを聞いて記録した。もう一つ、この研究は人々に有益なものであろうとした。人々がどのように自らとその身体を了解し、技術を使い、政治に働きかけ、組織や人を使っていくかを見出すために、その経験を記録し公開した。同時に理論的にも貢献した。本研究は、「医療化」「専門家支配」といった言葉で何がどこまで言えるのかを吟味した。障害者運動・障害学にある「障害者は病人ではない」といった主張や「社会モデル」という標語をどう捉えるのか、これらを確認し考察し社会福祉学そして社会科学に返していく作業でもあった。


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