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高橋修・下

『弱くある自由へ』第二版に・3

立岩 真也 2019/10/01 『現代思想』47-13(2019-10):215-231 文献表

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高橋 修(1948/07/25〜1999/02/27)  ◆文献表
生を辿り道を探る――身体×社会アーカイブの構築

◆立岩 真也 2019/**/** 『弱くある自由へ――自己決定・介護・生死の技術 増補新版』,青土社
 この本に収録されました。

◆立岩 真也 2019/08/01 「高橋修・上&話を残すこと――『弱くある自由へ』第二版に・1」,『現代思想』47-10(2019-08):222-237
◆立岩 真也 2019/09/01 「高橋修・中――『弱くある自由へ』第二版に・2」『現代思想』47-12(2019-09):206-221

ぬるい八〇年代と線を画する
 『弱くある自由へ』は二〇〇〇年に出された。運動の歴史・展開、そこに作られた仕組みについては現在第三版になっている『生の技法』に書いたが、とくに介助・介護を巡る理論的な主題については『弱く』全体の五分の二ほどの分量を占める「遠離・遭遇――介助について」に記した。それは「ケア」を語りたい人たちにも、他方で今ある仕組みをはなから所与にして制度を言う人たちにも、よくわからないものであったのだろうが、他の「自己決定」がどうだとか「先端技術」がどうだといったことを書いたその本の他の章に比しても意義のあるものだったと筆者は思っている。そしてそれは、七〇年代を継いで、八〇年代以降の運動・政策そして社会をどう見るかに関わっている。その章のもとは本誌二〇〇〇年の三月号から六月号に書いた四回分だった。そしてその前年亡くなった人に高橋修(一九四八〜一九九九)がいて、あとがきには「捧げるならその人に」と記されている。以前から高橋について書こうと思っていて、それを加えて第2版にすることにしたという次第だ。
 そして、ある人の思考・行動から社会と運動が辿った道を確認するという文章をもう一つ九月に出た本に収録した。白石清春(一九五〇〜)の一九八〇年代について書いた「分かれた道を引き返し進む」(立岩[201909b])だ。各所で「福島本」と称してきた(今でもそう呼んでいる)その本の題は、ずいぶん難儀した末、『往き還り繋ぐ』(青木他[2019])というよくわからないものになった。評判が悪いのだが、それでも無理やりそれにしてもらった。難儀したのは、「母よ!殺すな」といった類いの直截なメッセージで括れないところがあったからだ。
 告発は暗く重いが、しかし、言い放つことによって、じつはすこし明るく軽くもなれる。多くの人たちが、そして白石も橋本広芳も(土屋[2019a:29-30]、田中[2019:93-94])『さようならCP』(一九七二)にびっくりしたという――私が観たのは、ずっと後、原一男監督を呼んで話してもらった二〇一六年のことで、周囲に呆れられた。比べて、その後の時期の運動には華々しい荒々しいところがなくてつまらないという受け止め方は、わからないではないが、やはりだめだと、むしろそれこそがつまらないと私は思う。むしろ私たちがどのように捉えて言えるかだ。いろいろと多様になりました、地域での地道な運動になっていきました、センター・事業・プログラム…が普及していきました、といったこと以上・以外のことを言えると思うが、それを言おうとすれば、よく考える必要もあるし、また調べる必要もある。それを私は捉え書きたいと思ってきた。二〇〇〇年の文章もそういうものだ。しかしあまり伝わっていない。だから新たにまた再び、加えようということでもある。
 白石についての章他でも繰り返したが、とくにこの社会は能力によって編成されているから、非・能力者〜障害者はこの体制ではいいめに会わない。腹が立つから、その社会を否定し、逃げ出したいところだ。だが、食べていかねぱならないし、介助がいる人は介助を得ねばならない。(やせ)がまんするという手をとれる人はまだよいが、できない人もいる。嫌いな人たちと別れて暮らすという合理主義――孤立主義は、可能であれば、合理的である――を貫くことができない。付き合わざるを得ないし、取ってこざるをえないそれは、主張するだけ主張して、それが実現しなくてもじつはさして困らない運動と違う。そのような気楽な運動の方が楽しいかもしれないが、仕方がない。どのようにするか、どのように考えるか。それをこの社会をどのように捉え、どのように介入していくかということだから、本人たちは辛くとも社会(科)学的にはおもしろい。
 そして、批判・否定と交渉・妥協・獲得の間をどのように振れるかは種々の事情により変わる。七〇年代のしばらくは、否定し批判することがよいことだとされた。それがその後しかじか、という推移もあった。そして八〇年代から九〇年代は、いくらかは「福祉」が拡張していった時期だ。年金改革の流れに乗って障害基礎年金が実現する(八五年)。介護保険が構想され実現する(二〇〇〇年)。そしてそれに乗った人たちもいた。やがては私も高齢者になるのだから互いに助け合ってという、またかつての「左」の性癖が国家に依存しないという方角に行って、「共助」が言われる。どこまでが仕方なくでどこからが本気だったか、それは様々だが、それに乗った人たちがいた。さらに、自分で稼いで払うというのとは異なる屈折した「自助」〜「責任」を言う人たちもいた。それでよいか。
 福島本で私が書いたのは、白石たちがいったんそれに乗ったが、まずいと思って引き返したこと、そしてそれは正しかったということだ。そしてこの時期、正面からまっとうなことを言って――具体的には年金による所得保障という主張を――批判しているのは新田勲だ。前回私は、根性のないただの障害者に制度利用を拡張していくことに積極的でなかった新田と別の立場をとると述べ、別の立場をとった側を支持してきたことを述べたが、ここでは新田は正しい――そのぐらいにはことはややこしいのだ。

二つの流れを合流させる
 […]


■文献(前回・前々回の文献表にあった文献は略した)
阿部 志郎・河 幹夫・土肥 隆一 2001 『新しい社会福祉と理念――社会福祉の基礎構造改革とは何か』、中央法規出版
青木 千帆子・瀬山 紀子・立岩 真也・田中 恵美子・土屋 葉 2019 『往き還り繋ぐ――障害者運動於&発福島の50年』、生活書院
土肥 隆一・戸枝 義明 2002 『この国を憂いて――いま教会が国家を問う』、キリスト新聞社出版事業部
古込 和宏 2017 「Re: 素朴な疑問」,[inclusive society:0865] ※
ヒューマンケア協会ケアマネジメント研究委員会 1998 『障害者当事者が提案する地域ケアシステム――英国コミュニティケアへの当事者の挑戦』、ヒューマンケア協会・日本財団
自立生活情報センター 編 1996 『How to 介護保障――障害者・高齢者の豊かな一人暮らしを支える制度』、現代書館
石政 信一郎 1994 「働く「声」を聞く」、千葉大学社会学研究室[1994] ※
小井戸 恵子 2019- 「横山晃久」 ※
高橋 修・圓山 里子 監修 1997 『当事者主体のケアマネジメント 立川市における身体障害者ケアガイドライン試行事業を実施して』(1996年度厚生省委託研究報告)、自立生活センター・立川
田中 恵美子 2019 「福島コミュニティの形成――コミュニティ・キャピタル論から福島の障害者運動形成期を読み解く」,青木他[2019:65-139]
立岩 真也 199512 「「公的介護保険」をどうするか――自立生活運動の現在・14」、『季刊福祉労働』69:155-162 ※
―――― 199712 「ケア・マネジメントはうまくいかない――ロンドンにいってきました」、『こちら”ちくま”』5
―――― 199801 「ケア・マネジメントはイギリスでどう機能しているか」、『ノーマライゼーション 障害者の福祉』18-1(1998-1):74-77
―――― 199806 「どうやって、英国の轍も踏まず、なんとかやっていけるだろうか」、『季刊福祉労働』79:12-22
―――― 199903 「高橋さんの死を悼む」、『CILたちかわ通信』51:4
―――― 200101 「闘争と遡行――立岩真也氏に聞く 『弱くある自由へ』」(聞き手:米田綱路)、『図書新聞』2519:1-2
―――― 200810 「楽観してよいはずだ」、上野・中西編[2008:220-242]
―――― 201212a 「多様で複雑でもあるが基本は単純であること」、安積他[2012:499-548]
―――― 201212b 「共助・対・障害者――前世紀末からの約十五年」(第11章)、安積他[2012:549-603]
―――― 201312 『造反有理――精神医療現代史へ』、青土社
―――― 201708 『生死の語り行い・2――私の良い死を見つめる本 etc.』、Kyoto Books
―――― 201909b 「分かれた道を引き返し進む」、青木他[2019:255-322]
立岩 真也・小林 勇人 編 2005 『<障害者自立支援法案>関連資料』、Kyoto Books
立岩 真也・堀田 義太郎 2012 『差異と平等――障害とケア/有償と無償』、青土社
立岩 真也・中西正司 1998 「ケアコンサルタント・モデルの提案――ケアマネジメントへの対案として」(中西正司との共著)、ヒューマンケア協会ケアマネジメント研究委員会[1998]
土屋 葉 2019a 「「福島県青い芝の会」の生成と展開――それは『さようならCP』からはじまった」、青木他[2019:23-64]
―――― 2019b 「支援/介助はどのように問題化されてきたか――福島県青い芝の会の呼びかけから」、青木他[2019:-]
―――― 2019c 「獲るために動き、対話する――白石清春の戦略」、青木他[2019:-]
上野 千鶴子・中西 正司 編 2008 『ニーズ中心の福祉社会へ――当事者主権の次世代福祉戦略』、医学書院
全国障害者介護保障協議会 1998 「障害者のケアガイドライン」,『2000年障害者介護保障確立全国行動98年8月集会資料集』→『全国障害者介護制度情報』1998-8 ※


立岩 真也 2018/11/30 『不如意の身体――病障害とある社会』,青土社 文献表
立岩 真也 2018/12/20 『病者障害者の戦後――生政治史点描』,青土社 文献表
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UP:2019 REV:20191111
高橋 修  ◇立岩真也:青土社との仕事  ◇生を辿り道を探る――身体×社会アーカイブの構築  ◇病者障害者運動史研究  ◇立岩 真也  ◇Shin'ya Tateiwa 
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