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「この本はまず実用的な本で、そして正統な社会科学の本だ」4

「身体の現代」計画補足・542

立岩 真也 2018/11/
https://www.facebook.com/ritsumeiarsvi/posts/2193623534237955

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仲尾 謙二 20180930 『自動車 カーシェアリングと自動運転という未来――脱自動車保有・脱運転免許のシステムへ』,生活書院,300p. ISBN-10: 4865000860 ISBN-13: 978-4865000863 3000+ [amazon][kinokuniya]
 本センター客員研究員の仲尾謙二さんの本『自動車 カーシェアリングと自動運転という未来――脱自動車保有・脱運転免許のシステムへ』が刊行された。この本のもとになった博士論文の主査(大学院における主担当)を務めた私は、この本に「この本はまず実用的な本で、そして正統な社会科学の本だ」という短文を書かせてもらっている。この本がたくさん売れてほしいので、それを何回かに分けてここで掲載していく。



 […]
 ただ他方でもう一つ、著者は交通政策のことを知っていて、そこにもっともな部分があることをわかっている。自動車は、混雑をもたらしたり、公害、事故を起こすことがある。すると、自家用車、というか市中に走っている車は少ない方がよいということになる。とすると、利用者にとっては使用が増えるか減るかはどちらでもよいとして、それを受けつつ、かつ利用量を減らすのにカーシェアリングはどう関わるか、あるいは減少に寄与するためにカーシェアリング、そして公共交通機関をどう配置していくか。その辺りの論の進め方がうまくいっているかである。述べたように、そこには多数の変数が関わっている。人が何を望んでいるか(当の本人だって)読めないところがある。だから現実からみていこうとするが、統計データからわかることには限界があるし、その推論の精度の問題もある。そこをどうやってやりくりして、言えるところまでどう言うか。言えたか。ここが腕の見せ所ということになる。そしてうまくいっているかを読んで考える。自分ならどう言うかと考える。社会科学の本を読む楽しみの一つはそこにあるし、その楽しみを本書は与えてくれるのでもある。
 それは著者の態度・姿勢から来ているのでもある。著者は都合のよい話はしない。カーシェアリングは自動車の利用量を増やす可能性もある、少なくなる可能性もある。何がどうなったら、また何をどうするかで、どちらに転ぶか。それを開いておいて、そして考えるという姿勢が著者にあって、それはよい。すると読者も、あとをついで考えようということにもなる。
 著者、仲尾さんは、なんと勤め先を辞めてしまった。まったくもって無謀なことであると思う。おそろしいので事情は聞かない。事情は知らないし、知りたくない。ただ、本書が「学的達成」であるとして、勤めというものは方向が決まっているものであるのに対して、学がなにか「中立的」なものであって、その方がよい、ということではない、とは言えると思う。私は学問が中立的である必要があるとは思わない。何が望ましいか、それを明示したうえで、その方向に現実を向けていく営為に意義はあるし、そういうものもまた学問であってよいと思っている。ただ、いい加減に丸めこむことはしない、それが研究であることの条件であるなら、それは支持されてよい。他方に、つまりは「ご都合主義」の世界がある。私の勤め先にしたって、まあそうだ。それは、基本的には、よくない。そんなことが著者の今回と今後に関係があるのかないのか。私は、生活の資を得るということは無条件に大切だと思うから、よいかよくないかでその大切なことが左右される必要はないと思うが、それはそれとして、事実と論理に対する誠実さというものはあってよいと思っている。本書はそういう方角を向いた本だ。


 生存学研究センターのフェイスブックにあるこの文章と同じものは
http://www.arsvi.com/ts/20182542.htm
にもある。


UP:2018 REV:
仲尾 謙二  ◇立岩 真也  ◇Shin'ya Tateiwa  ◇病者障害者運動史研究 
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