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「とにかく調べて書け」みたいなことしか言わない:「事実への信仰」より・07

「身体の現代」計画補足・470

立岩 真也 2018/02/07
https://www.facebook.com/ritsumeiarsvi/2009045442695766

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立岩真也・杉田俊介『相模原障害者殺傷事件――優生思想とヘイトクライム』表紙   『日本の血友病者の歴史――他者歓待・社会参加・抗議運動』表紙   『現代思想』2018年2月号 特集:保守とリベラル――ねじれる対立軸・表紙

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 荻上チキ×立岩真也×岸政彦の「事実への信仰――ディティールで現実に介入する」。『現代思想』2018年2月号(特集「保守とリベラル――ねじれる対立軸」)に掲載。
http://www.arsvi.com/ts/20180001.htm
 その私の発言部分、すこしとばして、続き。第7回。

 「岸 […]「理解」って結局何だろう?ということを思うのです。
 ともかくそこで立岩さんは相模原の彼に対して「怒った人がいるのか」と言う。立岩さんはあまり「心」とか「理解」とか、そういうことは言いませんが。
 立岩 それは難しい話ですね(笑)。心はあるんでしょうし、理解はしてるんでしょう。そのうえで、その中に入っていくというよりは、その中にあるとされるものが本当かどうかをなぜどういう水準で決めなければならないかと問うほうが、順序としては先かなと思います。  先ほどチキさんが言っていたのは、大西巨人という作家が渡部昇一に噛みついたという話ですね。大西赤人という大西巨人のお子さんが血友病だったのです。だから血友病絡みの話なんです。北村健太郎というここの大学院の第一期生――大学院は二〇〇三年に始まりました――が実際血友病で、血友病の人たちの運動史のことを書いています★。「薬害エイズ」というものがあって、血液製剤でエイズになってしまった人たちの社会運動があったということも、ここにいるうちのどれくらいの人が知っているでしょうか。北村さんが研究したのはさらにその手前にあったことですけど。その一つが大西vs渡部の事件だったのです。そういったことがまずはあったという水準で調べて書くことが要るよねという話です。
★ 北村健太郎『日本の血友病者の歴史――他者歓待・社会参加・抗議運動』(生活書院、二〇一四年)。
http://www.arsvi.com/b2010/1409kk.htm
 その上で、そういう事件・出来事を穿り出して書いたらそれで話が終わるかというと、それでは終わらないのです。そこで何かしらのロジックがあったり、ロジックではどうにもならない壁があったりする。どういうふうにそれに対していくかというのは、悩ましい。こういうことがあったからそれがわかる・書けるというものではない。だけれども、悲しいかな、われわれの社会というものはそれ以前のところでこういったことがあったということすら知らない。そうすると、先ほどチキさんが言ったように、同じ周を回っていることになってしまう。多少でもそういうことを知っていれば、「こういう話が昔あったよね。こういう論点とこういう論点だったよね」と言えます。そして「その当時はそういう話だったのだけれど、次をどう考えようか」というときにちょっと上がれるわけです。螺旋状に話を持っていけるわけなのですが、そういうことを知らないと、一〇年前・二〇年前の同じ話をグルグルやって疲れるということになってしまう。
 私はよく大学院生に「とにかく調べて書け」みたいなことしか言わない人だと言われているし、実際そうだし、別にそれは悪いことだと思っていません。そう言っているのは、その手前のところを残すとか、そういうことすらなされていないということです。それでも、沖縄については岸さんみたいな学者が何人もいたりするし、また水俣や広島といったごく限られたものについては、それでも調べたり書いたりするということがかろうじてなされてきたわけですが、それ以外のものに関しては本当に何もないというようなことがずっと続いている。それが今の学問というものの体たらくで、現状であるということを知ってもらいたいし、それを何とかしようという人がいるといいなと思います。」


 この号には「社会科学する(←星加良司『障害とは何か』の3)――連載・142」も掲載されている。いっしょに読んでいただけるとありがたい。というか、この号の特集、そして上の討議というか鼎談というかを多少意識してこの第142回を書いたところがある。これは連載の第141回「星加良司『障害とは何か』の2」 http://www.arsvi.com/ts/20180141.htm
の続き、で「身体の現代」計画補足」では前回まで「の2」を分載してきたが、それは中止。雑誌買ってください。立岩真也編『社会モデル』
http://www.arsvi.com/ts/2016m2.htm
の購入者には、「1〜4?」の原稿を収録した増補版を無償で後日提供します。

 生存学研究センターのフェイスブックにあるこの文章と同じものは
http://www.arsvi.com/ts/20182472.htm
にもある。


UP:2018 REV:
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