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論文審査の結果の要旨――樋澤本に・3

「身体の現代」計画補足・437

立岩 真也 2017/11/12 https://www.facebook.com/ritsumeiarsvi/posts/1969968063270171

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『造反有理――精神医療現代史へ』表紙   樋澤吉彦『保安処分構想と医療観察法体制――日本精神保健福祉士協会の関わりをめぐって』表紙   『精神病院体制の終わり――認知症の時代に』表紙

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 樋澤吉彦2017/10/12『保安処分構想と医療観察法体制――日本精神保健福祉士協会の関わりをめぐって』
http://www.arsvi.com/b2010/1710hy.htm
に「不可解さを示すという仕事」
http://www.arsvi.com/ts/20170028.htm
という短文を書かせていただいた。
◇2017/11/26 「義務、だと思う:樋澤ts/20170028.htm本に・1――「身体の現代」計画補足・426」
 https://www.facebook.com/ritsumeiarsvi/posts/1962581570675487
◇2017/10/28 「審査報告書再掲:樋澤本に・2――「身体の現代」計画補足・427」
 https://www.facebook.com/ritsumeiarsvi/posts/1962581570675487
に続く、その分載の第3回。

 「論文審査の結果の要旨
 制度の始まりや変更についてそれに関わる学会・業界の対応やその変遷を辿ることの意義は大きい。に△294 もかかわらず研究はわずかである。それでも日本精神神経学会の動きについてはいくらか知られているが、コメディカルと呼ばれる職種や社会福祉の側についてはこれまでほとんど研究がない。本論文で医療観察法とPSWとの関わりの推移が詳細に明らかにされた。しかもその組織は態度を変更している。それは医療観察法をどのように見るか、それへの関わりをどのように考えるかに関わる。そして本研究は職能団体の性格・動態を明らかにしようとする研究でもある。協会の医療観察法への関わりを詳細に辿った本論文が博士論文の水準を十分に超えていることを審査委員は一致して認めた。
 そして筆者は態度の変化がどのようなものであったのかを検討している。ただその「変節」は過去の見解を否定したうえでなされたものではない。そのため、変化がどのようなものであったのかの評定は困難なものになる。筆者は医療観察法成立の前後に協会が出したあるいは協会が名前を連ねた文書(全て巻末に資料として収録されている)、そして協会機関誌『精神保健福祉』で2度行われた特集に掲載された協会の関係者他の文章を検討した。ここにも論理的な過去の立場の否定があるわけではない。以前あったはずの将来の危険性の予測可能性が疑わしいから強制処置の正当性は得られないという論点は、医療観察法とそれへのPSWの参与を肯定することになってからの文章にたんに現れないといった具合である。
 こうして医療観察法否定の根拠を否定するのでなく、それに言及しないまま、肯定・受容の側への移動がなされる。そこに何があったのか。筆者は、一つに職域の拡大・確保が動因としてあったと推測する。そして以下を列挙している。日本弁護士会が示したPSWの参与を含む案に協会は肯定的に反応した。法制化の流れの中で与党案に「地方裁判所の判定機関」を構成する一員としてPSWが記されたことを契機に、協会は全国の保護観察所にPSWを位置づけるという与党案より一歩踏み込んだ「要望」を提出した。制△295 定された法のもとで職務が規定されていることに肯定的に反応し、成立・実施後はその職域の拡大を求める主張をしている。以上からその推定は妥当なものだろう。
 そしてここでは、どうせ決まった制度であるからには他の職種よりも自らがよく「本人の側に立って」仕事を遂行できるという論も差し挟まれる。そしてもう一つ、PSWの本務としての「社会復帰」を援助すると言う時のその社会復帰が、安全な存在としてその社会でやっていけるような人になることであるとされ、それを支援する仕事が肯定され、それが医療観察法への参与への抵抗を少なくさせたと筆者は考える。これも妥当な把握であるだろう。
 以上のように筆者は、協会やその関係者が言ったこと、そして言わなくなったことを辿りながら「変節」を跡付け、その上でそこに働いていた動因について傍証を重ねそれに迫りながら、その作業の困難をも感じることになった。その試みから何を受け取れるか。
 PSWの仕事はパターナリズム、そして強制に接している。それが正当化される場面があることを筆者は認める。同じ立場をとるとしよう。しかしだからこそ、将来の可能性予測は強制力の行使を正当化しないというように、強制力の発動に慎重であるべきだとされよう。そう考えるなら、本論文に描かれたのは、その「留め金」を知られぬ内に外してしまったその歴史だったとも言える。このように強制への関与の道が開かれることがあることを本論文は示しているのでもある。」


 生存学研究センターのフェイスブックにあるこの文章と同じものは
http://www.arsvi.com/ts/20172437.htm
にもある。


UP:201707 REV:
博士号取得者  ◇病者障害者運動史研究  ◇立岩 真也  ◇Shin'ya Tateiwa 
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