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今般の認知症業界政治続

「身体の現代」計画補足・353

立岩 真也 2017/04/27


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立岩真也『精神』表紙   『造反有理――精神医療現代史へ』表紙   立岩真也『加害について』表紙   『精神病院体制の終わり――認知症の時代に』表紙
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 文集?『精神』
http://www.arsvi.com/ts/2016m3.htm
に収録している「今般の認知症業界政治と先日までの社会防衛 連載・117」(2015/11/01 『現代思想』43-17(2015-11):20-33)の分載はここでいったん中断。『精神』をどうぞ。次回からは「障害者――思想と実践」という特集になっている『現代思想』2017年5月号に掲載されている(特集の部分にでなく、連載の)拙稿を。
 フェイスブックに載せているこの文章は
http://www.arsvi.com/ts/20172353.htm
にもあって、関連書籍へのリンクがある。

 「■今般の認知症業界政治
 […]
 「シームレスにつなぐ循環型…」とは、誰が考えたのか微笑ましくもなる言葉だが、そして妙な言葉使いだと思いつつ読み飛ばしてしまうかもしれないのだが、つまりは精神病院の役割を強調している――このことはその後の経緯をみるとより明らかになる。そして高木によれば、その石井(もとの職業は歯科医)の兄石井知行は、広島の医療法人社団「知仁会」の理事長で、認知症病棟一四六床、精神一般病棟(身体合併型)五〇床、精神療養病棟一〇〇床と内科療養病棟九〇床――どのような制度上の区分なのか私は知らない――を有するメープルヒル病院の院長。広島県精神科病院協会会長、日本精神科病院協会理事を務めている。さらに少し調べてみると、この人は日本精神神学会の「男女共同参画委員会」の担当理事であったりしてもおり、また知仁会は介護老人保健施設「ゆうゆ」も経営している。本でも前回にも書いたように、病院経営者は病院の看板に格別のこだわりがあるわけではない。精神病院の一部を「転換」したところでそれほどの益にはならない。本で紹介した「病棟転換型居住系施設」といった半端なものより、別の形態の施設を作ってしまった方がよいと判断すれば、そのように行動するだろうし、実際そんなところが多くある★03。そこでは、実質的には組織内部での「循環」――とは実際にはならず、重度者用の施設への移行となるだろうが――も可能だ。
 その法人が発行する『知仁会だより』の石井知行の「理事長挨拶」には二〇一四年七月に視察があったことを報じている。
 「七月一日、参議院厚生労働委員会視察がありました。国会議員団は石井みどり委員長を始めとして各政党から一人の代表が[…]厚生労働省からは二川官房長以下[…]メープルヒル病院の療養環境の良さに驚いたと感想を頂戴いたしました。井門先生が認知症についての医学的説明と認知症疾患医療センターについて説明し、私が現在当院で行っている認知症の重度別病棟機能分化及び循環型医療介護推進事業について説明しました。また、厚生労働省の政策立案が思いつきでなく、根拠をもって科学的になされるべきであることを主張し、一定の理解が得られたように思いました。懇親会は広島において行われ、県知事、県議会長も参加されて和やかにとり行わました。[…]」(石井[2014]、全文はHP)
 ここでも「病棟機能分化」「循環型」が言われる。
 同二〇一四年一一月に開催された国際会議「認知症サミット後継東京会議」で、安倍首相は国家戦略として(二〇一二年の所謂「オレンジプラン」に続く次の)対認知症計画を作ることを宣言し、厚労大臣に指示するのだが、それを受けた二日めの塩崎恭久厚生労働大臣の閉会の挨拶には次のようにある。
 「団塊の世代が七五歳以上となる二〇二五年を目指して、認知症地域包括ケアシステムを実現していくということです。早期診断・早期対応がこのシステムの鍵となります。医療・介護サービスが有機的に連携し、認知症の容態の進行に応じて切れ目なく提供されていくということなのです。また、身体合併症や妄想・うつ・徘徊等の行動・心理症状(BPSD)が見られ、認知症の人が医療機関・介護施設で対応を受けた後も、医療・介護の連携により地域生活が継続できる循環型のシステムを確立していきます。」(塩崎[2014])
 ここでも「切れ目なく」「循環型のシステム」という同じ語が使われている。英語の文章から翻訳されたのだと解説されており、前者は「seamlessly」、後者は「integrated system」がもとの英語ということになっている。
 そして、翌年一月七日の新オランジプラン原案の発表、その二〇日後、二七日の大きな修正・決定版の発表へという流れになる。基本的な流れは既にできており、その方向とは異なった当初案――その案がこの間の主張をそのまま踏襲したものにならなかった事情についてはわからないところがある――に対する急で強い修正が入ったということだ。その具体的な変更点については本に記した。一番簡単にわかるのは、言葉がそのまま使われていることだ。業界と議員と政策との直接的なつながりをあまり強調しないのであれば、あまり露骨に使わなければよいとも思うのだが、まったくそんなことは心配していないようだ。
 そしてその後も、「晋精会」という――これもひどくわかりやすい名前の――精神科医による安倍の後援会が活動している(これも出席したことの確認だけなら、ウェブ検索で容易にできる)。例年は年一回だったというが、二〇一五年には二月一二日と六月一一日の会合に首相が参席、萩生田光一自民党総裁特別補佐が同席した六月の会合では「安倍首相から国民にきちんと理解してもらえるような政策を発信するよう要望された」ことになっており、翌六月一二日、日精協の山崎學会長は定時社員総会で「日精協の政策や取り組み、精神科医療などについての発信に注力する考えを示した」という(『CBニュース』六月一二日)。」

 「★03 上野[2015b]によれば、二〇一五年五月一九日の内閣府障害者政策委員会――上野はその委員を努めている――の精神科医療に関する第一回目のワーキングセッションで日精協理事の委員が病棟転換型居住系に反対であり、それを推進していると言われるのは迷惑であるむねの発言をしたという。上野は思いのほか反対が強いことを受けて、それ以前からの「介護精神型老人保健施設」を認めさせる路線に転じたのだろうと推測している。このことについても、本にまた前回に書いた。病院は病院にこだわるわけではない。後述する広島の精神病院の経営者・法人がそうであるように、他領域に進出することが得策であればそれを行なう。精神病院や老人病院の代替施設についてそんなことがあったことは本に述べた。また、反対があったりして設置や運営の条件が厳しくなりわりにあわないものになった事業には手を出さないこともこれまであってきた。」


UP:201704 REV:
病者障害者運動史研究  ◇立岩 真也  ◇Shin'ya Tateiwa 
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