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時事について書くこと

「身体の現代」計画補足・351

立岩 真也 2017/04/25
https://www.facebook.com/ritsumeiarsvi/posts/1880743432192635

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『精神病院体制の終わり――認知症の時代に』表紙   立岩真也『精神』表紙   『造反有理――精神医療現代史へ』表紙   立岩真也『加害について』表紙
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 「今般の認知症業界政治と先日までの社会防衛 連載・117」(2015/11/01 『現代思想』43-17(2015-11):20-33)は『精神病院体制の終わり――認知症の時代に』刊行に際して書かれた。それを『精神』
http://www.arsvi.com/ts/2016m3.htm
に掲載し、以下に分載している。このたびの精神保健福祉法改定の動きに「業界の力」はどのぐらい関わっているのだろう。知っている人がいたら教えてください。以下に出てくるように『精神病院体制の終わり――認知症の時代に』
http://www.arsvi.com/ts/2015b2.htm
に書いたことの一つはその「業界の力」だった。

 フェイスブックに載せているこの文章は
http://www.arsvi.com/ts/20172351.htm
にもあって、関連書籍へのリンクがある。


 「■時事について書くこと
 例えば認知症の本人だけのことを考えるなら、医療、とくに病院という箱はいらない。誰にとっての利得になるか。単純化すればひどく単純な話だ。二つある。一つ、周囲が、その人がどこかに行ってくれないと困る。一つ、供給側が客として手放そうとしないあるいは新たな客としようとする。ここでは後者について。技術は常に限界まで技術を行使してしまうというのは、私はまちがっていると考えており、そのことは幾度か書いている。ただ、供給が――というより、供給先として抱え込むことによって益を得られることが――得になる条件のもとでは、そうなる傾向にある。だから今度の本はその部分を変えるべきだとし、その基本的な方策について述べた。
 書いてしまって、また書きながら、業界側の力を大きく見すぎているかもしれないと思うことはあった。ただ、どの程度の大きさと見るかはともかく、具体的な様々は起こり続けている。そこで補足する。いま石井みどりという国会議員が話題になっているのだそうだが、その人は問題にされている歯科医の組織からの献金に関わる問題以外に、むしろ問題にされていない部分の方が大きな問題だと思うのだが、本に書いたことに関わることで役割を果たしている。その辺りのことについて少し記しておく。
 それはどのようにものを書いていくかということにも関わる。政治と金といった主題を報ずるのは「ジャーリズム」の仕事ということにして、「学者」はそういう部分にはあまり立ち入らないという、なんとなくの分業があるようにも見える。それには一つ、なにかそうした部分に立ち入らないことが高級であるかのように思っているということがあるのかもしれない。それは単純な間違いだが、もう一つ、それ以前に、力量として、内幕であるとか裏であるとか、そんなところに立ち入ろうにも立ち入れないということがある。実際のところは後者の要因が大きいだろう。すくなくとも私はまったく何もできない。たんに椅子にすわって書いているだけで、何も調べることはでぎない。例えば精神医療についてなら、製薬会社の動向を見ておくことは大切だが、それについて調べることができない。せいぜい既に出ている本を紹介するぐらいのことだ。
 ただ、それでも国会その他の議事録の類はだいぶ公開されるようになり、それで今回の本(第2章「京都十全会――告発されたが延命したことから言う」)でも十全会事件についての国会議事録はすべて見ることができ――国会議事録にも誤字がかなりあることを発見もしたのだが――そこから言えることもあった。たったそれだけのこともこれまでなされてこなかったようなのだから、それなりの意義はあると思って、それで本にしてもらったのでもある。そのようにして追えることが実はかなりあるはずだと感じた。
 もちろん、そうした場に現れるのはごく一部だ。多くのことはわからない。けれど表に出てこない情報自体を自分で得られなくとも、ときには、公式の記録や文書や報道から、あるいはそれに少し簡単にできることを加えることでいくらか確実なことをを言うことができることもある。
 本に書いたのは、「新オレンジプラン」と称される認知症対策の計画――「認知症施策推進総合戦略――認知症高齢者等にやさしい地域づくりに向けて(新オレンジプラン)」(厚生労働省[2015])――の文章がごく短期間のうちに変更されたことだった。そこに精神病院側の力とそれを介した単純素朴な政治力が介在したことは、原案がたいへん短期間のうちに明確に変化していること、そしてそれ以前の業界団体や議員組織の動き、そこでの言葉使いをみても明らかである。「癒着」を疑われたくないのであればもっと慎重にことを進めるだろうから、それは珍しい例ということになるだろうが、すくなくとも今回起こっていることはそのようなできごとだ。」


UP:201704 REV:
病者障害者運動史研究  ◇立岩 真也  ◇Shin'ya Tateiwa 
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2017/04/23