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渡部昇一「神聖な義務」/花田春兆の母語る

「身体の現代」計画補足・344

立岩 真也 2017/04/18


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『生の技法――家と施設を出て暮らす障害者の社会学 第3版』表紙   立岩真也編『与えられる生死:1960年代』表紙   立岩真也『青い芝・横塚晃一・横田弘:1970年へ/から』表紙    立岩真也・杉田俊介『相模原障害者殺傷事件――優生思想とヘイトクライム』表紙
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 渡部昇一が死んだそうだ。生存学研究センターのMLに「 [mlst-ars-vive: 17482] 「神聖な義務」」。「
http://www.arsvi.com/d/eg-j1980.htm
みょうにリツィートとかあるので、かな、と思ったら、そうでした。
没したようです。頁は北村(健)さん作です。立岩」
と知らせた。
 強引なつなげ方だが、以下引用している文章の著者、松山善三
http://www.arsvi.com/w/mz01.htm
は昨年の8月27日に亡くなった。
 04/22(土)日本社会福祉学中部地域ブロック部会主催2017年度春季研究例会研究例会 、「相模原障害者 殺傷事件から問い直す『社会』と福祉」での講演「道筋を何度も作ること――7.26殺傷事件後」
http://www.arsvi.com/ts/20170422.htm
関連もあり。松山のその文章の全文は『与えられる生死:1960年代――『しののめ』安楽死特集/あざらしっ子/重度心身障害児/「拝啓池田総理大学殿」他』(立岩真也編、2015)
http://www.arsvi.com/ts/2015b1.htm
にあり。その2番目にこの松山の文章。購入おすすめします。
 フェイスブックに載せているこの文章は
http://www.arsvi.com/ts/20172344.htm
にもある。

 「ロスアンゼルスの病院に鉄の肺患者が六人収容されていた。そこでは、一人の患者に一人の看護婦がついていて、食事や日常生活の世話をしていた。更に、その部屋に一人の専門医師と看護婦長が配属されている。
 日本の場合はどうだろう。先天性股脱や、軽いマヒ患者はもちろん、どんな重症者にも、その子供の母親が一日中、かたときも離れることなくつきそっている。日本では、こうした場合、家族ぐるみ、いや家族の犠牲の上にしか、罹病者を守る方法はないのであ△120 る。また、こうした子供たちを持つ母親には、子の病いを自分の責任だと考える考え方が、非常に強く深い。そうでもなければ、あの献身的な看病はできないのかも知れない。
 献身的な看病を非難するつもりは毛頭ない。しかし、多くの母親たちがこのような自己犠牲の上に子供の幸せをきずこうと考えるのは過ちである。そうした考え方は、不幸な子供に、更に不幸を強制する。それは母親の自己満足以外の何ものでもないように思われる。まして、その家族が、その子供のために一生を奉仕で生きたなどという美談は、決して美談とはいえない。そうした考え方が、もし方向を誤って進行する時、一家心中や、親子心中を誘発するからである。
 米国の母親たちは、一見つめたい。そうした肢体不自由児を衆目の中に、どんどん連れ出す。決して、かくしたりなどはしない。デパートや舗道で、手押し車にのせられた肢体不自由児をよくみかける。ニューヨークでは自分で手押し車を操作し、エレベーターにのり、タイプをたたき、飛行機に乗ってインタビューに出かける新聞記者に会った。彼は三歳の時、小児マヒにおかされたという。
 飛行機といえば、ロスアンゼルスの飛行場で見た風景を思い出す。自家用車で一人の老婆が空港へやって来た。運転手が後のトランクから折りたたみ式の手押し車をとり出し、老婆は運転手の手をかりて、その車に腰をおろした。運転手は「いってらっしやい」と一礼して車に乗った。老婆は手押し車を自分で操作して空港構内へ入っていった。しばらくして、私はロスアンゼルスからハワイ・ホノルル行きの飛行機に乗った。なんと、先刻の老婆がすでに乗っているではないか。
 この話を花田さんのお母さんにしたら、お母さんは羨ましそうな顔で言った。「日本も手押し車はありますけれど病院や施設の中だけで、生活の中には入っていません。日本の家屋は廊下が狭いし、タタミの生活だから、手押し車は容易に使えないのです。例え使っても、日本の道はね…日本では遠いところへは行けても、近いところには行けないのです。…それに日本のお母さん方は、まだまだ子供を人前に出したがりませんね、その家にCPの子供がいると判っていて、お訪ねしても、そんな子供はうちにはいませんと断る人が多いのです…家の恥だと思っている人がいるんですね、…もう一つ、子供を人前に出さない原因は、世間の人の冷たい眼です…ことに電車に乗った時など…一番厭なのは女学生さんですね。中学生の方は席をゆずってくれたりしますけれど、女学生は遠くの方で、友達同士、ひそひそと、小さな声で喋っては、お互いつつきあって笑っています…中年の男女でも男性の方がいいですね。どうして女の人は、ああ冷たいのでしょう。いつか自分も子供の母親になるのに…しかし老人になると、男女とも同じに親切に暖かい眼でみて下さいます。年をとるということは、やはり、それだけ、世の中を知っていらっしゃるということなのですね」
 「CPの子供を抱えたお母さん方で、一番つらいことは、親が年をとることですね、そして、子供を残して先に死ぬということです。いままで、日本ではそういう不幸な子供たちを家庭の中だけで処理してきましたけれど、世の中が住みにくくなってきて、社会もずいぶん変りましたから、もう家庭の負担だけでは処理できなくなってきました。一日も早く良い施設をつくって欲しいですね」
 「もう一つ、CPは二つの点で損をしていま△121 す。脳性とつくので精薄と思われます。小児マヒとつくので伝染病と思われます」」


UP:201704 REV:
松山 善三  ◇花田 春兆  ◇病者障害者運動史研究  ◇立岩 真也  ◇Shin'ya Tateiwa 
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