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細かに見ていく+すぐに言えることは言う・2(『精神医療』掲載稿14)

「身体の現代」計画補足・257

立岩 真也 2016/11/07

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『精神医療』4-84(159)特集:国家意志とメンタルヘルス表紙    On Private Property, English Version    『精神病院体制の終わり――認知症の時代に』表紙
[表紙写真クリックで紹介頁へ]

 「新オレンジプラン」に精神医療業界の力が関わっていることを(ことも)書いた『精神病院体制の終わり――――認知症の時代に』は
http://www.arsvi.com/ts/2015b2.htm
と前回も紹介した。

 「国家・権力を素朴に考える」
http://www.arsvi.com/ts/20160027.htm
の転載の第14回、これで終わり。いろいろを寄せ集め並べた文章ではあったが、じつはわりあい大切なことを記した、つもり。
 全文は、他にも様々を集めた、『精神』
http://www.arsvi.com/ts/2016m3.htm
に収録されている。
 もとは『精神医療』第84号(特集:国家意志とメンタルヘルス)に掲載。
http://www.arsvi.com/m/p4084.htm

 フェイスブックに載せるのと同じこの文章は
http://www.arsvi.com/ts/20162257.htm
にもある。


 「■6 細かに見ていく+すぐに言えることは言う
 […]例えばどの程度の割合かとわからなくても、これがなければ決まらない、あるいは明らかに決まりようが違ってくるということはありるうし、それは推定できる、あるいは証明できるといったことがあって、それで十分だというところがある。
 『精神病院体制の終わり』([2015])はそのような気持ちで書いた。例えば、「新オレン△070 ジプラン」と称される認知症対策の計画――「認知症施策推進総合戦略――認知症高齢者等にやさしい地域づくりに向けて(新オレンジプラン)」――の文章がごく短期間のうちに変更されたこと、そこで精神病院の役割が大きくなったことを書いた。精神病院側の力とそれを介した単純素朴な政治力が介在したことは、原案がたいへん短期間のうちに明確に変化していること、そしてそれ以前の業界団体や議員組織の動き、そこでの言葉使いをみても明らかである。知られないように密かに動く場合はわからないことがあるが、この場合にはあまりに露骨であったから、わかった。「癒着」を疑われたくないのであれば普通はもっと慎重にことを進めるだろうから、それは珍しい例ということになるだろうが、すくなくとも今回起こっていることはそのようなできごとだ。
 それがわかると今度は、そこを変えれば決定が変わる可能性があるということになる。むろん問題はその先にもある。精神病院(の経営者の側)にも利害があるとして、さらにその精神病院をあてにする力がどの程度働いているかということである。だから当然業界団体だけの話ではない。その本でいちばん分量を割いて書いた十全会病院がかくも長く生き延びまだ健在であることにもそれが関わっている。その病院はたしかに京都の人たちに(そしてかつてはもっと広い域の行政担当者他に)頼られてきたのである。
 するとそこにいる「アクター」は、まず負担を避けたい家族であるということになる。さらに、結局、その負担を家族に押し付けている政府であり、医療・福祉の予算を削ろうとしている国家、国家権力だということなる、か。それは極端に乱暴な捉え方というわけではない。単純化すればそのように捉えることはできる。
 ただそれでも、本稿に記してきたまた記してこなかった様々を考慮しておく必要はある。政府が予算の増大を押さえようとしているのは間違いではないが、しかし認知症には偉い人も金持ちも結局たいがいの人がなる。自分もなる。その人たちもそう乱暴なことをされたいとは思わない。それでもこんな具合になるにあたっては何が作用しているのか。「足りない」のだから仕方がないというあきらめのようなものがある。しかしそれは思い違いであることは述べた。ではそれはたんなる誤解であるだけか。それだけのことでもないだろう。国境の存在性格、グローバリゼーションといったものが関わってくる。すくなくとも、「風が吹けば桶屋が…」の場合よりは関わりがある。
 こうして私たちは、「政治過程」を細かに点検していくとともに、大きく括ればどうなるかと見ていく必要がある。「べた」な情報の収集と、大風呂敷でもう使えなくなっているかに見える大きな社会に対する見立てを再利用できないかと考えること。両方が要る。そうして、ものを言うとき考えるときの精度を上げていく。と同時に、何も考えなくても言えることもたくさんある。「それは私たちの仕事ではない」とか、「殺すな」とか、「死△071 ねばいいなどお前がなぜ言えるんだ」とかである。」


UP:201611 REV:
身体の現代:歴史病者障害者運動史研究  ◇立岩 真也  ◇Shin'ya Tateiwa 
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