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障害学/「反精神医学」(リプライ・6)

「身体の現代」計画補足・240

立岩 真也 2016/10/21
https://www.facebook.com/ritsumeiarsvi/posts/1793094987624147

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田島明子編『「存在を肯定する」作業療法へのまなざし――なぜ「作業は人を元気にする!」のか』表紙    『自閉症連続体の時代』表紙    『障害学研究』11表紙    『造反有理――精神医療現代史へ』表紙
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 なおす/なおさない、については、「社会モデル」の理解にも関わる。ということでこれまでに書いたものをとりあえず集めて作った『社会モデル』、どうぞ。
http://www.arsvi.com/ts/2016m2.htm
障害学会の学会誌『障害学研究』第11号掲載の拙著『造反有理』の書評へのリプライをひらすら載せている。今回はその6。その目次他は
http://www.arsvi.com/ts/20150013.htm

 フェイスブックに載せるのと同じこの文章は
http://www.arsvi.com/ts/20162240.htm
にもある。そこでは多くの人・項目にリンクしているからそちらをご覧いただきたい。

 「■障害学/「反精神医学」
 なんのことやら、と思われるかもしれない。しかしいくらか「論点」を取り出していけば、これらは障害学の、障害や病(にかかわること)について考えることの中心的な問題であることがわかってもらえる、と私は思う。この本に流れていった連載の最初の方も「社会モデル」の検討に当てられている。そうして考えたことを『造反有理』では第5章「何を言った/言えるか」で、その後に出た『自閉症連続体の時代』(二〇一四、みすず書房)では第2部「回答の試み」に記した。また田島明子編『「存在を肯定する」作業療法へのまなざし――なぜ「作業は人を元気にする!」のか』(二〇一四、三輪書店)では「存在の肯定、の手前で」に書いてみた。
 さきにすこしふれたこまごまとした争いごとなどは省いたうえで、まとめて、できるだけすっきりさせた短い本を一つ書こうと思う。それは(これまでの)障害学というものがどのあたりに位置するのかを示そうとするものでもある。加えて、過去の細々としたことはそれとして、『そよ風のように街に出よう』に書いているようなことも含めて、読者はとても限られるのだろうが、別途まとめられればと思っていて、出版してもらうことになるかもしれない。
 こうしたことを考えていくといくつか言えることがあるが、ここでは一つ。何をどのように書いても、わかられ方というものは難しいものだと思うのだが、私はこの本で「反精神医学」【116】を主題的に扱ったのでもなく、またそれを肯定したのでもない。  その語はまず、評者が記してくれている通り、「自己否定」をしている(にもかかわらす医者を続けている)馬鹿ものというような意味での「札(ラベル)」であった。いっとき自らについてその語を使った人もいたし、翻訳書があいついで出て、その翻訳書を読み合わせたりした人たちもいたが、そこらで留まった。その人たちはほぼ普通の医者だった。それはそれで一つの事実で、そのことを述べた。
 では「本義」としてのそれはどういうものなのか。一つ、精神医療を行なわないという方向がある。それにも二つあって、一つはなにもしないというもの。一つはなおすことについては肯定的であるそのうえで、近代精神医療とは別の発想・方法を使うというものである。このように考えた場合に、レインであるとか、クーパーであるとか、その代表者たちがどのあたりに位置づくかは考えてみてもよいことだろう。
 そして言葉の上乗せを一切省いて言っておけば、私は近代精神医療の幾分かを肯定する。理由は簡単で、私自身の立場は第5章に書いてある。「なおす」というときに、なにを(どの部分を)なおすのかと考えればよいという単純なことが書いてある――「間にいる」と述べた私の考えの筋道はそういう単純なものだ。統合失調症になったことはないのでわからないのだが、すくなくとも(現在DSMではその名は消えている)神経症は苦しいし、鬱病も確実に苦しい。根絶すべきであるかどうかは別として、苦しいのを減らすことは――今ある技術でどの程度のことが(どんな副反応を生じさせつつ)できているかというと、その技術をそう高く評価はできないのだが――よいことだと思う。(他方、自閉症、発達障害の場合はどうかと考えることができる。こちらについては『自閉症連続体の時代』。) そこから「反精神医学」を見ることもできる。また(腕のよい)医療者は肯定される――造反派/反造反派の医師たちの誰が腕がよかったか、よくなかったかといったことについてはいろいろと噂を聞くが、それはここで記すことでもないだろう。そしてそのことと「社会」を問題にすることとは基本的には矛盾しない。矛盾しないが、様々な位置(の変更)がある。このあたりのことについては中井久夫【44】や小澤勲【281】について記した箇所も見ていただければと思う。」


UP:201610 REV:
『造反有理――精神医療現代史へ』  ◇立岩 真也  ◇Shin'ya Tateiwa  ◇身体の現代:歴史
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