HOME > Tateiwa >

ナチによる「安楽死」・後(10月号・15)

「身体の現代」計画補足・229

立岩 真也 2016/10/10
https://www.facebook.com/ritsumeiarsvi/posts/1787065258227120

228 < / > 230

Tweet


自由の平等    On Private Property, English Version    『現代思想』2016年10月号 緊急特集:相模原障害者殺傷事件・表紙
[表紙写真クリックで紹介頁へ]

 「国家と国境について」を収録した『運動と国境――2005年前後のエイズ/南アフリカ+国家と越境を巡る覚書 第2版』等、今回引用する部分について、いくつかの文章に書いている。
http://www.arsvi.com/ts/2007b1.htm
 その基本になる考察としては『私的所有論』英語日本語電子書籍版。
http://www.arsvi.com/ts/2016b2.htm
 また、『自由の平等』が書店品切れになっているので、唯のテキストファイルで提供。
http://www.arsvi.com/ts/2004b1.htm
これらの解説・広告はまた。
 以下は、『現代思想』10月号に載っている「七・二六殺傷事件後に 2」
http://www.arsvi.com/ts/20160031.htm
をこまぎれに、きれぎれに、の15。

 フェイスブックに載せるのと同じこの文章は
http://www.arsvi.com/ts/20162229.htm
にもある。


 「■ナチによる「安楽死」
 […]
 これらの人たちは皆、そのできごとを戦時下の独裁者の特異な蛮行とは捉えていない。医療、精神病院…が問題にされた時期に、社会・体制を語るなかで言及している。そして私はそれは基本的には正しいと考えている。ただそれらが指摘されてから五〇年程の時は経っている。すこし別のことも加えてみようと思う。
 ナチは民主的に政権をとり、民主的に独裁に至り、それを継続させる。その時、経済を成長させ景気を維持して支持を得た。障害者を殺したからというわけではないだろう。それでいくらかを節約できたかもしれないが、それが直接国力に響くといった場合には、既にその経済運営は失敗していると言ってよいだろう。そうした節約によってでなく、経済についてすくなくともいっとき成功した。社会保険他を導入したこともよく知られてている。さらにこの時期のナチの政権に限らず、排除、排外主義がどのように実行され支持されるかである。たしかにそこに偏見はあるだろうし、差別したい心情もあるだろう。だがそうしたものと込みになりながら、移民を制限したり、既にいる人を排外することで、得をする人がいる。
 例えば金融業で大きな利益を得ている層を追放して同業の人を儲けさせるといったこともありうるが、むしろ、今般各国で生じているのは国境に纏わる文化障壁によって流入者を気にしなくてよい人たちとそうでない人たちの分化である。例えばその国の言葉がうまく使えなくてもできる仕事に人が多く流入してくれば、もとからその仕事をしていた人たちの就業率や労賃は下がるかもしれない。だからその人たちは排外主義に賛成することがある。他方、損をしない人は、市場全般としては自由市場の方が効率がよいこともあり、安く買えるものは安く買いたいから自由市場化に賛成することがある。こうして労働者のある部分が排除、防衛に賛成することがある。
 「重度障害者」は単純にこの社会の構制から割を食う人だから、その点では社会を変えること、変えるべきことに単純に同意できるところがある。ただ、とくに得もしていないがなにがしかはできる人にとっては、この社会はそれほど単純ではない。ではどうするのか。基本的に言えることは幾つかある。しかし言えることがあることはその実現可能性とはやはり別のことだ。考えれば言えることが言われていないという問題と、言えても現実に難しいところとある。これは大きな問題でここではこれ以上述べないが、まず国家をそうした相において捉えることだ(cf.[2016/10/10])。漠然としたしかし確かなものに思える不安、殺さなければ社会がもたないとまでは思わないが、(あまり)殺さないためにも、(自分たちに関わる)経済をよい状態に保つこと、そのための国力への期待、強さへの志向、いくらか乱暴なことは許容されると思うこと。その国は実際そのような方向に動いたのでもあり、そしてその経済について成功して支持された。その殺害の行ないはうすうすは知られていたが、大きく問題にされることはなかった。作戦の中止は、戦争の相手方が「人道」を持ち出して非難してくるのを嫌ったからだと言われる。
 それと現在とは、この日本国にまったく限らず、いくらか似ている。そして明らかなのは、その状況を批判するのに、道徳的な文言では、すくなくともそれたけではだめだということだ。道徳的な文言は、「自由化」によって益を得ている人たちを正当化する装飾だと受け止められるだろうし、実際かなりの部分そのとおりなのである。だから(社会科学の)大きな問題だと述べた。」


UP:201609 REV:
障害者殺し  ◇7.26障害者殺傷事件  ◇『現代思想』2016  ◇立岩 真也  ◇Shin'ya Tateiwa  ◇身体の現代:歴史
TOP HOME (http://www.arsvi.com)