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多文化主義など言うだけならいくらでも言える(西川長夫)

「身体の現代」計画補足・179

立岩 真也 2016/07/16
https://www.facebook.com/ritsumeiarsvi/posts/1750291921904454
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『多文化主義・多言語主義の現在――カナダ・オーストラリア・そして日本』    立命館大学生存学研究センター編『生存学の企て――障老病異と共に暮らす世界へ』・表紙
[表紙写真クリックで紹介頁へ]

 西川長夫は
http://www.arsvi.com/w/nn03.htm
 西川[1997]は西川長夫・渡辺公三・McCormack, Gavan編『多文化主義・多言語主義の現在――カナダ・オーストラリア・そして日本』
http://www.arsvi.com/b1990/9710nn.htm
に収録されている「多文化主義・多言語主義の現在」。
 「補章」の引用を続けている『生存学の企て』は
http://www.arsvi.com/b2010/1603rcav.htm
 フェイスブック上のこの文章と同じ文章が
http://www.arsvi.com/ts/20162179.htm
にある。
そこからもみなリンクされているのだが拙稿「多言語問題覚書」は
http://www.arsvi.com/ts/2007056.htm
そして梁陽日(ヤン・ヤンイル)は
http://www.arsvi.com/w/yy08.htm


 「■孤立が悪いわけではないが、そうもいかない時
 言語や、行動の様式は、身体そのものではないとしても、身体に付着しているものであり、すくなくとも完全に自由になるものではない。そんな意味で物質的なものである。その自分(たち)のものが、別の方式・様式でやっている多数派との間でうまくいかないといった場合がある。
 […]
 そして、補助技術に関わる費用の問題、通訳等交信を可能にするための手間・負担の問題がある。「障害」が固定されたものであるとするなら、そのことに関わって生じている不利についての費用が社会的に負担されるべきであると主張するのはまず理屈としては素直に言えるだろう。ただ、それはそれとして、実際のところはどうなのかを見ておく必要はある→第3章2。
 かつて西川長夫――西川は研究科開設時からの教員で、退任後、2013年に亡くなった――は多文化主義など言うだけならいくらでも言えると、しかしまじめに実際にやるとなったら違うことを述べた。「文化はあいまいな概念であるから、多文化主義を唱えることは容易である。それはたいして我身にかかってこない。だがひとたび多文化主義の必然的な帰結である多言語主義が導入されれば、事態は急変する。多文化主義を受けいれながら多言語主義を拒否する理由の説明は、いままで私の知りえた限りでは、経済的効率のみである。それは妥協によって成立つ現実政治の観点からは説得的な理由である。では、文化的多様性を認め、それぞれの文化的自立と共存を積極的に推し進めようとする多文化主義は、経済的な効率によって左右されるような性質のものであろうか。そこには論理的あいまいさが残されており、その理論的なあいまいさにあえて立ち入ろうとしない姿勢がうかがわれるのである。」(西川[1997:17])
 「母語」と異なる多数派の言葉を習得(すること/させること)がまったく不可能とも言えない場合がある。見えない人に墨字は明らかに無理だが、他方には習得が可能な場合もある。私たちは「同化主義」というものがそう単純に否定されないものであることも踏まえておく必要がある。その主義者たちは、多数派の様式を取り入れた方が有利に楽に暮らしていくことができると述べる。それはまるきり非現実的なことというわけではない。実際(かなり)うまくいくこともある。それでも同化主義を受け入れない、受け入れられないとすればそれはどうしてか。こんな問いがある。(拙稿に「多言語問題覚書」がある。改稿の上、どこかに収録する。)
 後でもすこし紹介するが、梁陽日(ヤン・ヤンイル)は大阪の民族学級について書いている。そこには、政治的な種々の対立が絡み、たいへん複雑で厄介なことが起こった。その複雑怪奇さとともに、弾圧された、にもかかわらずがんばって維持してきた。それが書ければまったくよい、それを十全に書くことが十分な学的達成になると私は考える。そのことを後でも述べる。梁の論文に同化主義を巡る理論的議論がある必要はない。しかし読み手としては、この問いの存在はわかっていて、それで梁の研究成果をどのように読むかと考える、そのような読み方があるということである。」


UP:201604 REV:
立岩 真也  ◇Shin'ya Tateiwa  ◇身体の現代:歴史
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