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だが、それは苦くもある(『母よ!殺すな』)

「身体の現代」計画補足・148 立岩 真也 2016/04/28 https://www.facebook.com/ritsumeiarsvi/posts/1719941178272862

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 29の企画
http://www.arsvi.com/2010/20160429hk.htm
に合わせて、思いついて、本(電子書籍)を一つ作った。
http://www.arsvi.com/ts/2016b1.htm
 これまで書いたいくつかの文章に付記とリンクを加えた。検索したら『さようならCP』という語は9回出てくる。以下はそのうちの一つ。横塚晃一について書いた2015年の文章にいくらか加えた文章。△は初出の文章の頁。以下に出てくる『母よ!殺すな』
http://www.arsvi.com/b2000/0709yk.htm
は29日販売します。


 「横塚が属した神奈川県連合会のその人たちの数は少なかったし、そんなにいつも能動的に実働できたわけではないし、横塚はそのことを時々嘆いてもいるが【296】、果敢で挑戦的だ。『あゆみ』という神奈川県連合会の機関紙にその編集を担当していた横田が、無断で、七〇年に「綱領」を発表する。「われらは自らがCP者であることを自覚する」「われらは強烈な自己主張を行う」、「われらは愛と正義を否定する」、「われらは問題解決の路を選ばない」【110】というものだ。
 後に「われらは、健全者文明を否定する」という項目が三番目と四番目の間に入って五つになる。各々に短い解説がついている。この綱領は当初内部で批判もされる。けっしてその組織は一枚岩の組織ではなく、喧々諤々の議論が機関誌に収録されている。七五年全国組織で綱領は採択される。
 だが、それは苦くもある。『母よ』の増補版以降には『さようならCP』の上映会の記録も収録されている。その最初に収録されているのは山口県・須佐町(現在は萩市)での上映会の記録(文責は司会をした室津滋)で、横塚の言葉がわからないから一文ごとに通訳してくれと言われ、「(かなり逆△263 上)」と記す司会がそれに怒り、「そのような態度がどんなに障害者を押さえつけているかといるか……」と応じたのに対して、「主婦 そんなに感情的になられたたら困る。/(会場のざわめきは一層ひどくなり帰る人が続出。老人が数人、「かわいそうにね、頑張って下さいね」と横塚氏に金を置いていく)」【157】といった記述がある。また和歌山でのセンター闘争の時には、針金で身体を括りつけてセンターに一晩立てこもったのだが、結局捕まった人たちは、拘置所ではなく事務所に搬送され戻されることになったという挿話がある【369】。
 しかし、こうした気の重い場に出て身体を晒し、突出したり突入したりし、そして空しくかわされるといった行ない・扱いが始まる。さきの映画もそんな映画だ。「障害もの」といえば、いつまでも人情ものが多いなかで異色のものだった(この映画についての原の文章も前記した「横塚晃一」頁から辿れる)。そして、きわめて単純な、その後何十年もまったく同じ言葉で繰り返される主張をする。自分たちはこの世・この社会において「あってはならない存在」【105】とされているのだと言い、それを糾弾する。つまり「殺すな」と言う。
 この言葉に歴史があるのは不思議だとも言える。まず子の殺害は殺害であると言うしかないではないか。だが、これはもっともな主張だが、それまで公然とはなされなかったことでもあった。むしろ逆のことが公然と言われた。『障害者殺しの思想』の解説にも記したが、例えば六二年の『婦人公論』でベルギーでのサリドマイド児の殺害事件(判決は殺した両親を有罪としたが、世論の大多数は無罪を支持した)を受けた座談会があり、自身に二分脊椎の子もいて、同じころ障害者の救△364 済(重症心身障害児施設への政府支援の増額)を求める作家水上勉は障害をもつ新生児が生まれたらその生死を判断する政府の委員会があるとよいといったことを述べ、作家の石川達三は「もっと冷たくわりきった、はっきりしたヒューマニズム」が必要だと主張する。詳細は略す――代わりにこれらの全文を収録した資料集『与えられる生死:1960年代』を作って頒布している。
 横塚の七〇年の文章にも「ある福祉関係者は、「数年前ドイツでおきたサリドマイド児殺しにつき某女子大生にアンケートを求めたところ、殆んどが殺しても仕方がない。罪ではないというように答えた」と語っていた。また「犬や猫を殺しても罪にならない、だから今度の場合も果して罪と言えるのかどうか」と言った人もある。」【80】という箇所がある。そうして、変わらないものは変わらない中で、批判を始める。座談会の時からでも八年しかたっていない。」


 今回のHP版は
http://www.arsvi.com/ts/20162149.htm


UP:201604 REV:
立岩 真也  ◇Shin'ya Tateiwa  ◇身体の現代:歴史
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