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結核病棟→精神病棟(生の現代のために10・3)

「身体の現代」計画補足・124

立岩 真也 2016/02/29
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『現代思想』2016年3月号 特集:3・11以後の社会運動・表紙   
[表紙写真クリックで紹介頁へ→まだ写真出てきません]

 多分昨日あたりから売りだしている『現代思想』3月号の特集は「3・11以後の社会運動」。
http://www.arsvi.com/m/gs2016.htm#03
 その号に載っている連載第121回の関係の3。
 以下で引用しているのは
◇国立療養所史研究会 編 19761020 『国立療養所史(総括編)』,厚生省医務局国立療養所課,732p.
 より。国立療養所の結核の入所者が減った時の運営者側、労働者側の対応(「精神」の方面の病棟転換の受け入れ)についての文章を引いた。

 「■(1) 自らを護る運動:結核/ハンセン病療養者
 前回にも述べたのは、そして後にもっと詳しくみていこうと思うのは、例えば国立療養所といった施設が、その時どきに、狭義の加害の回避というよりも広い意味での社会防衛のために、そのときどきに収容の対象を変えて使われてきたということだった。その施設は、ハンセン病については後まで残しつつ、結核から、筋ジストロフィー・重症身心障害児(重心)のための、加えて幾つかの「難病」他の施設に転換していった。
 多く傷痍軍人のためのものとして国の施設であったもの、そして、県立の結核療養者の施設等様々な経緯で成立した多くの施設が戦時中に「日本医療団」の施設となったものが、戦後、占領軍によって――その経緯には偶然的な部分もあり、例えば日本医療団の施設は農業協同組合のもとでの施設にしようという主張もあったといったことも後に紹介する――国立療養所になっていく。そしてその大部分は結核療養者に対応するものだった。他にハンセン病に対応する療養所があり、他にもっと数の少ない数種類の療養所があった。
 ハンセン病の療養所は長くそのままにされる。しかし結核の入所者は、増えた後、減っていく。一九六〇年代、その空いたところに筋ジストロフィーの人たち、そして重症身心障害児と呼ばれる人たちが入っていく。そしてより数は少ないのだが、精神障害者の施設へと転換していく部分もある。今回は粗筋だけを記すとしたが、挿話の一つは紹介しておく。例えば以下のような具合だ。

 「昭和三六年四月、地方医務局へ呼ばれて[…]松籟荘長を兼務することになった。[…]週二回、松籟荘へ出勤した。当時、松籟荘には一〇〇人足らずの結核患者がいるのみであった。[…]当時、松籟荘付近の土地の価格は、三〇〇坪一〇万円位で、松籟荘の土地全部を売却しても六〇〇万円位にしかならない。もし、国が精神病院を作るから買収しようとすれば、反対が多くてとても大変なことになる。近畿には、国立精神療養所がないから、精神療養所に転換するに如かずと、秘かに、しかも相当根強く、松籟荘精神転換の運動をしていた。しかし、全医労は、当時結核病床の精神転換は、原則として反対の態度をもっていた。
 昭和三九年早々東京で、アメリカ大使ライシャワー氏が精神異常者に刺されるという事件が起きた。国会で、かくの如き精神異常者を野放しにして、今度のような事件を起されては、誠に困る。国はこれに対して何等の対策を持たないのかとの質問に対して、厚生大臣は、対策は立てている。例えば、近く松籟荘は精神転換するはずだと答弁した。これを知った全医労中央幹部は、反対のために、大挙して松籟荘に来るというニュースが二月二二日に入り、松籟荘の幹部は色を失った。そこで私は、全職員を会議室に集め、私一人中に入り、「君達は結核病学に興味を持つのか、千円札に興味を持つのか」より説き起して、一〇〇床ばかりの結核療養所の運命を説き、坐して奈良療養所に合併されるのを待つより、この際、精神療養所になって、将来の発展を計った方が良いではないかと、一時間余に互って説得した。終了後、組合大会を開いて相談し、組合は「松籟荘精神転換に賛成である。方法は一切荘長に任せる」との決議書を持って来た。このコピーを地方局と本省に送った。これで松籟荘の精神転換も本決りとなった。」(岩田[1976:565])

 渦中にある時には書けないことであっても、ことが決まり、それを回顧できる立場にいる人はこんなことを書く。「全医労」といった組織についてはまた紹介しよう。精神障害者の施設とするのに反対は多かったのだが、それでもともかく、つぶれるより、他と統合されるより、転換を選んだこと、そして組合も結局それを呑んだことが書かれている。
 [続く]」


 今回(このファイスブックに載せたこの回)のHP版は
http://www.arsvi.com/ts/20162124.htm
 第120回から書いていくものを大幅に組み替えるなりして、一つにまとめようと思った。それで文献表もそれ用に別立てのものを作り出した。
http://www.arsvi.com/ts/20160120b.htm
また『現代思想』連載3月号分(連載第121回)用のページ
http://www.arsvi.com/ts/20160121.htm
には、(いまのところとくに難病系の、医療・看護系の)書きものに紹介されてあってよい制度についての記述がないことを示す引用を集めている。足していくつもり。


UP:201602 REV:

立岩 真也  ◇Shin'ya Tateiwa  ◇身体の現代:歴史
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