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反社会的病気/社会病

「身体の現代」計画補足・112

立岩 真也 2016/01/31
https://www.facebook.com/ritsumeiarsvi/posts/1685814395018874

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『現代思想』2016年2月号 特集:老後崩壊――下流老人・老老格差・孤独死…・表紙    有吉玲子『腎臓病と人工透析の現代史――「選択」を強いられる患者たち』表紙    『現代思想』2016年1月号 特集:ポスト現代思想・表紙
[表紙写真クリックで紹介頁へ]

 「連載」第120回「国立療養所/筋ジストロフィー」
http://www.arsvi.com/ts/20160120.htm
から、第1回。(前回続く、と書きましたが、いったん終わりでした。)
 それが掲載されている『現代思想』(青土社)2016年2月号、特集「老後崩壊――下流老人・老老格差・孤独死…」は今日ぐらいから書店にあるはず。
http://www.arsvi.com/m/gs2016.htm#02
 ちなみにほぼ同時発売の2月臨時増刊号は総特集「辺野古から問う」
http://www.arsvi.com/m/gs2016.htm#02e

 この連載(の「生の現代のために」というパート?)では基本的に「枠組み」の話をしてきたのだが、それをすっかり終わらせることはせず、「中身」の話になった。その中身がどういう文脈のもとで書き連ねられているのか、これからまた始まるのかについては、続きものを続きものとして読んでもらわねばならないのが、この回以降だけでも読めるものにはなると思う。なぜこんな順序にしたのかについては幾つか理由があるが、その一つは、「難病」
http://www.arsvi.com/d/n02.htm
について、誰か書いてくれるのを待っていたけれど、なかなか出てこないということがあり、(とくに筋ジストロフィーに関係するところについて)具体的に「あて」にしていた人も、しばらくはものを書けないというがわかったということもある。
そして、私の基本的な見立て、立場は「そもそも難病って?だが、それでも難病者は(ほぼ)障害者だ」
http://www.arsvi.com/ts/20141024.htm
に書いた通りだが、なぜ今そんなことを言わねばならないようなことになっているのかについて、書いておく必要もあると思ったということがある。
なお、以下に出てくる(薬害)スモン病については
http://www.arsvi.com/d/d07smon.htm

 関連する本の頁などにリンクもされている今回のHP版は
http://www.arsvi.com/ts/20162112.htm

 「■反社会的病気/社会病  前回、「迷惑」を広く捉えた方がよく、直接的な「加害」はそんなに現実には「効いていない」はずだと述べた上で、「狭義の加害」についていくつかを記した。「広義」の方に話を戻し、再開する。第一一七回(昨日一一月号)、引用だけしておくと述べて引用したのが以下。『腎臓病と人工透析の現代史』(有吉[2013:176])で引かれている、一九七〇年四月六日、第六三回国会参議院予算委員会一六号における厚生大臣内田常雄の答弁。

 「スモン病というものはむずかしい病気ではありますけれども、必ずしも結核でありますとか、あるいは精神病患者、さらにはまた、らい病のように、何といいますか、反社会的な要素をおびておるものということにも断定をいたしておりませんので、したがって、公費でこれだけの病気を対象にして診療するという制度は、なかなか確立いたしにくいところでございます。ガンのようなものでも、患者にとりましては非常に大きな負担でございますけれども、研究には力を入れておりますが、公費負担の制度をとっておりませんことは御承知のとおりであります。そうではありますが、[…]悲惨な家庭の状況もございますので、研究費の中におきまして薬剤費のごときものは、実際はまかなっておる。したがって、本人あるいは家族の負担というものも、さような限度におきましてはできるだけ研究費の中でかぶる場合もある」

 次に七二年三月一七日、第六八回国会衆議院本会議一三号。斉藤昇厚生大臣の答弁(有吉[2013:178])。

 「公費負担は、御承知のように社会防衛的に必要な疾病、あるいは社会的な事柄が原因になって起こってくる疾病、そういったようないろいろな観点から、どういうものを公費負担にすべきかということをきめてまいらなければならないと考えます。公費負担制度は逐次拡張をいたしてまいっておりますことは御承知のとおりでありまして、ことに公害に基づく疾病等につきましては、これは一種の公費負担という制度も確立をいたしてまいりました。今後も社会的原因に基づくような疾病に対しましては、公費負担の原則を拡充をいたしてまいりたい、かように考えます。」

 この時期は、薬害スモンが社会問題となり、それを巡る対応が議論されていた頃だ。そしてスモンに対する対応を認めさせるのに合わせて、他の「難病」についても公費負担を求める要求がなされる。七〇年の質疑で要求されているのはベーチェット病についての公費負担だった。答弁で言われているのは、大きく二つ、「反社会的」「社会防衛的に必要」な疾患と、「社会的な事柄が原因」の疾患である。前者には精神疾患、結核、ハンセン病があげられていた。後者には所謂公害病が入れられており、他方、他の疾患については公費負担は難しいということになっている。それでもスモンが入り口になってこの時期だんだんと変わっていって「難病対策」が始まる。このことについては別に記すとして、ここでは「反社会的」で「防衛」されるべき範囲が広かったこと、そしてそれを特に患者やその人たちを支援する側も利用することがあったことを見ておく。」


UP:201601 REV:

立岩 真也  ◇Shin'ya Tateiwa  ◇身体の現代:歴史
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