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「まわりにいる人が楽になる、力をぬくための心がまえ」

立岩 真也・岡崎 勝 2016/03/25 『おそい・はやい・ひくい・たかい』90:46-50

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◆立岩 真也・岡崎 勝,『おそい・はやい・ひくい・たかい』90:46-50

『おそい・はやい・ひくい・たかい』90 20160325 特集:暮らす・学ぶ・働く 「発達障害」を身近に感じたとき,ジャパンマシニスト社,128p. ISBN-10: 4880495905 ISBN-13: 978-4880495903 1200+ [amazon][kinokuniya] ※

◇たていわ・しんや
立命館大学院先端総合学術研究科教授。専攻は社会学。「生存学研究センター」センター長い。近年の著作に『精神病院体制の終わり――認知症の時代に』(青土社)、『造反有理・精神医療現代史へ』(青土社)ほか。

◇おかざき・まさる
愛知県公立小学校教員。本誌編集人。子どもの居場所「アーレの樹」理事。著書に『センセイは見た! 「教育改革の正体」』(青土社)ほか。

□参考文献?
◆立岩 真也 2014/08/26 『自閉症連続体の時代』, みすず書房,352p. ISBN-10: 4622078457 ISBN-13: 978-4622078456 3700+ [amazon][kinokuniya] ※
 「ボクはこの本を読んで、「発達障害はわからない」ということがわかったのがよかった。発達障害の子たちへの支援に対する、矛盾や疑問はこういうところだと思うことがたくさんあって、得した気分になる。」(by 岡崎)

『自閉症連続体の時代』表紙
名づけることの楽さとめんどうくささ

岡崎 親が教員やまわりの人に「うちの子は発達障害なんですから、無理をいわないでください」というケースがあります。ボクが三年生を担任したときに、ひじょうに多動な子がいたんですが、マンションで走りまわるものだから下の階から苦情が入り、お母さんは困っていました。そこで診断を受け、マンションの人に「発達障害なんです。薬を飲ませておちつかせるので、勘弁してください」と伝えていたということがありました。
立岩 ぼくの甥っ子もそんな感じで、しょっちゅう大きい声を出してバタバタしていますが、「発達障害なんです、しょうがないんです」ってしたほうが、本人も無理なことをさせられなくてすむことはあって、それはまずはよいことだとぼくは思います。「がんばればできる」といわれても、できないことはいっぱいあるわけですから、「どうにかなるものではない」という認識は大事。そこで障害だと名づけることが便利に作用することもあります。ただ、診断名ついたからって薬で抑えればいいかっていうとそれは別の話です。ほんとはいちいち名前をつけるんでなくて、「変なくせ≠ェあるよね」くらいがちょうどいいとぼくは思っています。
岡崎 だけど、そうとはとらえられていなくて[…]
立岩 そうですね。ある種の像をあたえることによる楽さと、かえってややこしくなったりめんどうくさくなったりということが同時に起こってくる。マニュアルに寄りかかれるのは楽でいいんですが、同じに分類されても実際には人それぞれで、枠にはめこんだりすると、かえってまずいことがあります。「マニュアルは役に立つけどやばい。やばいけど役に立つことだから、それはそういうものとして身につける」[…]

マニュアルは使いながら解毒

立岩 この何十年か自閉症の人たちがいろいろな本を書いたりしてきた状況がありましたが、それはそのとき作られたものを使いこなせる人たちにとっては得な時代だったと思います。たとえば道のまちがえ方が激しい人たちがいて、そのリスクを低くして日々暮らしていくために、地図どうするかとか、標識どう見るかとか、本人たちが考えて作ったものがあって、それはあてはまる人にとってはけっこう役に立ったし、楽になった人もいます。
 だけど、そのブームをリードしてきたのは頭がよくてちゃんとしゃべれる自閉症の人たちで、そのときに作られたものは、その人たちに有効でも、たとえば言葉が出ない人には役に立たないかもしれない。そして役に立たない、役に立たないから使えない、使わないということを本人は言葉で伝えられないということになってしまうこともあります。
 すると、効果がないものを押しつけられるのはえらい迷惑なわけで、それはマイナスに作用します。そういう両方のことがいま起こっていて、教育の現場で広まっているものについては、マイナスの部分がずいぶん大きいのではないかと思います。
岡崎 マニュアルに足をとられて、子どもとの関係がおかしくなることもあります。
立岩 マニュアルは使いながら解毒するというか、使いながら「たいしたものじゃない」とわかっていくのがすごく大事だと思います。とくに親は子どもといる時間が長いから、それだけはまってしまう。ほんらい教員が、そういう親に対して「はまりすぎるとやばい」と伝えるべきで、過熱しているのをほどよく冷やしてあげないといけない。
岡崎 親が家で厳しくやり過ぎると子どもは学校で荒れるわけで……。もう少し寛容になれればいいけど、それがほんとうに難しい。
立岩 人間のなにかを根本的によくするとか、そういうことは、まずないほうがよくて、そのための方法がもしあったとしても、それはそれでやばいわけです。しょせん人が工夫できるのは、この世を渡り歩くときにちょっと使えるくらいのもの、つまり処世術で、とりあえずその場をとり繕えればいい。そうやって力をぬく、「力をぬく力」がほしいですね。そのために、たとえばセルフヘルプ的な集まりがあるといいのかもしれないし、文字を読む人にとっては『お・は』にも解毒の作用があるように思います。

働くことを考えたときに

岡崎 いまの社会のなかで要求されている仕事は、たとえば介護など対人の複雑なものが多くなっています。そうすると、コミュニケーションをうまくとれない人たちは、働くのが難しくなってしまう。
立岩 そういうのが不得意な人は昔からたくさんいたでしょうし、割合はたぶんそんなに変わらないのではないかと思います。昔は人間がやっていたような仕事をいまは機械がやっているので、人間がやる仕事を探すとなると、そういうものになってしまう。
 でも、それは暗い話ではなくじつは明るい話で、機械化が進んで、それで働く人はすでに足りていて、セールスしたり交渉したりするする仕事しか残っていない。余っている人がいるのだから、それは「余裕のある社会」というふうに考えることができます。そういう意味でいえば、対人関係の仕事しかなくてそれが苦手だったら仕事をしない、あるいはもくもくとやりたいことがあればそういうことをしながら、年金や生活保護などで暮らしていくのもありだとぼくは思っています。
岡崎 もくもくとやれるような仕事はもちろんいまでもあって、農業や林業といった一次産業はそうだと思うけど、昔はみんなで農作業をしているなかに一切しゃべらないような人もたくさんいたと聞きます。
立岩 障害をもっているといわれる人には変わった才能をもっている人が一定数いて、その能力が時代にうまくフィットして妙に成功してしまうこともあるけど、そうではない人のほうがずっとたくさんいるわけですから、その人たちが暮らしていけるような社会政策や労働政策をしていくべきだと思います。さっき余っているといいましたが、それは、全員全力で働かなくても暮らすためのものはあるというこんなんですから、人に分けるだけの余裕がないなんていうのは嘘で、金も仕事も分けることはほんとはできるんです。
岡崎 働く場では、きっちりとしたマニュアルがあるほうがいい場合もあります。パターン化されたことを覚えるのが得意で、それをやっていくのが苦でない人にとっては、そのほうがやりやすい。
立岩 たんたんとやれる仕事もまだこの世には残っているので[…]

よけいな時間、よけいな力を減らす

岡崎 学校でも、たとえば漢字の学習をするときに、ボクは何回も練習させられるドリルはおもしろくないと思って、成り立ちを説明するようなことをやってきたけど、ドリルをたんたんと写すほうが楽な子もいるだろうなとは思います。
立岩 人によってやりやすい方法がちがうというのは、それはそうだと思います。[…]理屈で教わるほうが得意な人もいれば、ぱっと画像認識的に覚える人もい[…]る。[…]「理論」的に「科学的」に教えることのほうが常によいとは言えない。そのほうが科学的な真理だと思います。
岡崎 教員は自分がやっていることに意味をもたせようとするから、滑稽で物悲しいような実践をやってしまう。
立岩 自分たちがやっていることのわけをいちいち考えるのはめんどうくさいですしね。そして、たいていのことにはたいしたわけがあるわけではない。
 学校でやっていることだってそうです。人が人に教えることには、ちゃんとしたわけのあることのほうがじつは少ない。[…]どうしても大切なことはたいして多くないということで動くほうが楽なんじゃないかと思います。
岡崎 楽をするのは、手をぬいていると感じてしまう人も多いのでしょうね。
立岩 […]「よけいなことを考えるのはやめよう」というのは難しいことなのだけど、そういったよけいな時間、よけいな力をちょっと減らすようにしてみる。それはめんどうくさいことかもしれないけど、ある程度やっておかないと、そのしわ寄せがいろんなことを押しつけられて困っている人にいってしまう。[…]


UP:201603 REV:
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