■1 組織のこと
序章p.7に引用した文章は、2007年、文部科学省がしばらくやっていたCOE(Center of Excellence、卓越した拠点)プログラムという恥ずかしい名称のもの――当たると(まずは)5年間多めの予算(私たちのは多くなかった)をもらえるというもの――に応募するときに出した書類の冒頭の一番短い部分、「拠点形成の目的]だった。
こういう制度的なことから解説した短文を引用する。望月昭・サトウタツヤ・中村正――三人ともセンターの運営委員を勤めている――編『対人援助学キーワード事典』(望月・サトウ・中村編[2009])の「生存学」の項目だ(執筆は立岩)。
〓生存学(羅)Ars Vivendi 過去に他の使用例がないわけではないが、立命館大学的には、グローバルCOEの申請にあたりごく短い標語を求められ、2006年末に考案された語で、採択されたために、2007年度から若干の予算とともに実在することになった。その研究企画・拠点は、正しく(長く)は「立命館大学グローバルCOEプログラム〈生存学〉創成拠点――障老病異と共に暮らす世界の創造」と呼ばれる。その英訳には苦慮し、結局「Ars Vivendi: Forms of Human Life and Survival」となった。「Ars Vivendi」とはラテン語で「生の技法」といった意味である。生存学がなんであるのか、それを定義する必要はたぶんない。申請書類等、上記拠点の関係者が何をしようとしているのかは、また上記拠点その他で毎日産出される「成果」は、そのウェブサイトに掲載されている。人手は常に不足しており、おそらく経済的にはどんな利得ももたらさないであろうが、研究活動への参画を常に歓迎している。〓
〓なにより日常の継続的な研究活動に重点を置き、研究成果、とりわけ学生・研究員・PDによる研究成果を生産することを目指す。効率的に成果を産み出し集積し、成果を速やかに他言語にする。そのための研究基盤を確立し、強力な指導・支援体制を敷き、以下の研究を遂行する。
T 身体を巡り障老病異を巡り、とくに近代・現代に起こったこと、言われ考えられてきたことを集積し、全容を明らかにし、公開し、考察する。◇蓄積した資料を増補・整理、ウェブ等で公開する。重要なものは英語化。◇各国の政策、国際組織を調査、政策・活動・主張の現況を把握できる情報拠点を確立・運営する。資料も重要なものは英語化。こうして集めるべきものを集めきる。それは学生の基礎研究力をつける教育課程でもある。◇その土台の上に、諸学の成果を整理しつつ、主要な理論的争点について考究する。例:身体のどこまでを変えてよいのか。なおすこと、補うこと、そのままにすることの関係はどうなっているのか。この苦しみの状態から逃れたいことと、その私を肯定したいこととの関係はどうか。本人の意思として示されるものにどう対するのか、等。
U 差異と変容を経験している人・その人と共にいる人が研究に参加し、科学を利用し、学問を作る、その場と回路を作る。当事者参加は誰も反対しない標語になったが、実現されていない。また専門家たちも何を求められているかを知ろうとしている。両者を含み繋ぐ機構を作る。◇障害等を有する人の教育研究環境、とくに情報へのアクセシビリティの改善。まず本拠点の教育・研究環境を再検討・再構築し、汎用可能なものとして他に提示する。また、著作権等、社会全体の情報の所有・公開・流通のあり方を検討し、対案を示す。その必要を現に有する学生を中心に研究する。◇自然科学研究・技術開発への貢献。利用者は何が欲しいのか、欲しくないかを伝え、聞き、やりとりし、作られたものを使い、その評価をフィードバックする経路・機構を作る。◇人を相手に調査・実験・研究する社会科学・自然科学のあり方を、研究の対象となる人たちを交えて検討する。さらにより広く研究・開発の優先順位、コストと利益の配分について研究し、将来像を提起する。
V このままの世界では生き難い人たちがどうやって生きていくかを考え、示す。政治哲学や経済学の知見をも参照しつつ、またこれらの領域での研究を行い成果を発表しつつ、より具体的な案を提出する。◇民間の活動の強化につながる研究。現に活動に従事する学生を含め、様々な人・組織と協議し、企画を立案し実施する。組織の運営・経営に資するための研究も並行して行い、成果を社会に還元する。◇実地調査を含む歴史と現状の分析を経、基本的・理論的な考察をもとに、資源の分配、社会サービスの仕組み、供給体制・機構を立案し提示する。◇直接的な援助に関わる組織とともに政策の転換・推進を目指す組織に着目。国際医療保険の構想等、国境を越えた機構の可能性を研究、財源論を含め国際的な社会サービス供給システムの提案を行う。〓