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精神医療現代史へ・追記9――連載・106

立岩 真也 2013/12/01 『現代思想』2014-12
『現代思想』連載(2005〜)


 ※以下の本になりました。
◆立岩 真也 2015/11/13 『精神病院体制の終わり――認知症の時代に』,青土社,433p. ISBN-10: 4791768884 ISBN-13: 978-4791768882 2800+ [amazon][kinokuniya] ※ m.

『精神病院体制の終わり――認知症の時代に』表紙

■註
★01 前回の誤記の訂正を一つ。大谷藤郎(一九二四〜二〇一〇)の厚生省入省は一九六九年ではなく五九年。
★02 八一年三月一七日参議院社会労働委員会での高杉廸忠の質問を受けての山本純男(厚生省医務局次長)による京都府による勧告の報告が以下。
 「第一点は、「病院の運営の適正化について」で[…]五十五年十二月一日及び二日に実施した医療監視の結果に基づきまして幾つかの改善事項を指摘し、その改善の実施方を勧告いたしました。
 医師及び看護婦の不足の解消を計画的に図ること。
 非常勤医師の占める割合が高いので、常勤化を計画的に図ること。
 初診時の精神症状に照らして、保護義務者の同意を必要と認められるものがあるので、点検精査した上で必要なものについては、同意書を徴収すること。
 精神病床に精神障害以外の症状を主とする患者を入院させていたが、患者の症状に応じた適正な病床に収容すること。
 ピネル病院におけるエックス線防護設備を整備すること。
 次に、医療法人の財務の運営の適正化についても勧告をいたしております。
 (1)医療法第六十八条におい準用する民法第五十七条の規定に違反した無権代理行為による契約については、直ちに赤木孝から売買代金の返還を求めること。
 (2)国土利用計画法違反に係る土地取得において、多額の契約が長期にわたる返還期間で簡単に解消されているが、速やかに当該法人に売買代金に利息を付して返還させること。
 (3)法人の剰余金は、安全、確実に内部留保するとともに、施設、設備の改善、増員等医療サービスの向上等に適正に使用すること。
 (4)医療法人の不動産を関連会社の事務所等に使用させることなく、当該法人の定款に定める業務遂行のため使用すること。
 その他に、「医療法人の役員の刷新等」ということで
 (1)社会的に種々の批判を受けていることを反省し、この際、信頼を回復するため、両法人の理事長は、その職を退くこと。
 (2)赤木理事長の親族及び姻族は、理事及び監事の職を退くこと。
 (3)両法人とも、定款変更を行い、社員理事以外の学識経験理事一名を置くこととし、京都府医師会の推薦する者を当てること。
 (4)両法人とも、監事二名のうち、一名は、府の推薦する税理士をもって当てること。
 (5)関連会社等の株の取得については、両法人の資金が流用されているという疑惑をもたれているので、当該株について、可及的速やかに処分を行うこと。
 (6)医療法人と関連会社との関係は、社会通念に照らし、適正な取引関係を確立すること。」
★03 例えば民事の高裁判決が次のように紹介されている。
 「「保護室が不足している場合や医師看護人などの人手不足等人的物的施設の不備を補うため、扱い難い患者につき自傷他害のおそれがあるものとたやすく決め付け、むしろ他の治療・保護措置の簡易な代替手段として安直にベッド拘束を用いていたことが確認できる」と高等裁判所から厳しく批判されている。」(第二東京弁護士会人権擁護委員会編[1987:17])
★04 この構図のもとでは、徳田虎雄が始め、いっとき日本一病床のあった十全会でしのいで日本最大の医療法人になっていく徳洲会病院は「革新的」「破壊的」でもある。一九八二年に島成郎から徳田を紹介され唐牛健太郎(一九三七〜一九八四、六〇年安保闘争時の全学連委員長)がその選挙活動や医療広報活動にあたったことがあるといったことは拙著(立岩[2013])でも紹介した。初期の著作に徳田[1979]。小林[1979]には進出しようとする地域での地元医師会との軋轢や武見太郎についての言及もある。比較的近年の書籍として徳田の側にいて自民党国会議員も務めた石井一二の石井[2009]、ジャーナリスト青木理が取材した青木[2011]、徳洲会相手に医療過誤裁判を起こした人の著作に真鍋[2014]。
★05 第五七回日本病院・地域精神医学会総会の記念講演(立岩[2014])――前回の原稿の一部を配布してその線の話をした――のおり、質疑の中で会場から発言してくれた方(医師)は赤木は医師だったと語った。また以前あげた二論文の他に前川他[1961][1962]が見つかった(所属は東山サナトリウムになっている)。
★06 大阪医療人権センター[2000]、東京都精神医療人権センター・東京都地域精神医療業務研究会[2000]。その後も報告書が出ていてウェブでも読むことができる。なおこの回を私はInlander et. al.[1988=1997]の紹介から始めている。そこには「消費者が同僚審査の過程に含まれるべき[…]連邦政府との契約によるどんな同僚医療審査機構も、理事会の少なくとも五〇%は消費者代表が占めるべきだ… より進んで、同僚審査チームのメンバーの少なくとも五〇%――そのグループは実際に医療を審査する――が消費者であるべきだ」(Inlander et. al.[1988=1997:250])といった記述がある。
★07 完全情報の欠如から「市場の失敗」を言い、そこに政府の役割があるとするのは経済学の標準的な議論である。さらにそこでも「政府の失敗」が起こるとしてNPOの意義を言うといった議論がある。本文に記した消費者運動の可能性もそうした文脈に置くことができる。所謂NPO法の成立前後にそれらが日本でも紹介された。立岩・成井[1996]でその幾つかを紹介し検討している。
★08 ただどんな制約もしないことは難しい。例えば公費で賄われるものとそうでないものとの区分は求められることになる。だが市場ではそのような制約はないのと比べるなら、それは自由を制約することにならないか。しかしこの社会の所有についての規則のもとでは、自由もその公平もない。では同じだけを配分したうえでその所得の使途を自由とすればよいか。けれどもそれでは個々人が被る境遇の差異に対応することにならない。こうして話は最初に戻ってくる。差異に対する差異化された配分がなされるべきことになる(立岩・堀田[2012]収録の立岩[2012])。その上で、基本的な所得の差を少なくすることによって各人の「恣意」における自由を確保するのがよいと考える。

■文献→文献表・総合
青木理 2011 『トラオ――徳田虎雄 不随の病院王』、小学館→2013 小学館文庫
千葉大学文学部社会学研究室 1996 『NPOが変える!?――非営利組織の社会学(1994年度社会調査実習報告書)』、千葉大学文学部社会学研究室・日本フィランソロピー協会
第二東京弁護士会人権擁護委員会 編 1987 『精神医療人権白書』、悠久書房
小林紀廣 1979 『徳洲会の挑戦――徳田虎雄が狙う奇跡の医療革命』、祥伝社
西岡晋 2002a 「第一次医療法改正の政策過程(1)、『早稲田政治公法研究』70:183-217
―――― 2002b 「第一次医療法改正の政策過程(2・完)」、『早稲田政治公法研究』71:61-94
Inlander, Charles B.; Levin, Lowell S.; Weiner 1988 Medical on Trial: The Appalling of Medical Ineptitude and the Arrogance That Overlooks It, People's Medical Society=19971125 佐久間充・木之下 徹・八藤後 忠夫・木之下 明美 訳、『アメリカの医療告発――市民による医療改革案』、勁草書房
石井一二  2009 『徳洲会はいかにして日本最大の医療法人となったのか』、アチーブメント出版
前川暢夫・吉田敏郎・津久間俊次・中西通泰・清水明・川合満・中井準・池田宣昭・吉原宣方・久世文幸・田中健一・時光直樹・中村彰・沢辺修一・西岡諄・井本伍平・氷室一郎・小松幹夫・由本伸・赤木孝・日根野吉彦・伊藤篤・田井保良・河崎弘・神田瑞雄・金森正子・大橋美与治・柴田朝緒・小沢晃・杉山栄一・上野知二・松田好和・志保田明 1961 「結核化学療法施行前の喀痰中結核菌の耐性検査成績について(第1報)」、『京都大學結核研究所紀要』9-2:129-135
前川暢夫・吉田敏郎,津久間俊次・中西通泰・清水明・川合満・中井準・池田宣昭・吉原宣方・久世文幸・田中健一・小沢晃・蒲田迪子・柴田朝緒・時光直樹・岡武雄・大井豊・中村彰・沢辺修一・西岡諄・井本伍平・氷室一郎・小松幹雄・松島留蔵・赤木孝・日根野吉彦・大田正久・伊藤篤・田井保良・河崎弘・神田瑞雄・金森正子・塩屋道規・田口精彦・浜田浩司・正井寿英・上野知二・松田好和・志保田明 1962 「結核化学療法施行前の喀痰中結核菌の耐性検査成績について(第2報)」、『京都大學結核研究所紀要』11-1:38-43
真鍋雅之 2014 『徳洲会の黒い影――弁護士を付けずに闘った全記録 そしてその勝訴の意味とは…』、如月出版
大阪医療人権センター 2000 『大阪精神病院事情ありのまま 第2版』
立岩真也 2000a 「遠離・遭遇――介助について」、『現代思想』28-4(2000-3):155-179,28-5(2000-4):28-38,28-6(2000-5):231-243,28-7(2000-6):252-277→立岩[2000b:221-354]
―――― 2000b 『弱くある自由へ――自己決定・介護・生死の技術』、青土社
―――― 2001 「「消費者主義」の本――医療と社会・ブックガイド 1」、『看護教育』42-2(2001-2)
―――― 2009 『唯の生』、筑摩書房
―――― 2012 「差異とのつきあい方」、立岩・堀田[2012:15-93]
―――― 2013 『造反有理――精神医療現代史へ』、青土社
―――― 2014 「造反有理――精神医療・保健福祉の転換期へ」(与えられた題)、第57回日本病院・地域精神医学会総会記念講演
立岩真也・堀田義太郎 2012 『差異と平等――障害とケア/有償と無償』、青土社
立岩 真也・成井正之 1996 「(非政府+非営利)組織=NPO、は何をするか」、千葉大学文学部社会学研究室[1996:48-60]
東京都精神医療人権センター・東京都地域精神医療業務研究会 2000 『東京精神病院ありのまま』
徳田虎雄 1979 『生命だけは平等だ――愛 わが徳洲会の戦い』、光文社



◆立岩 真也 2015/01/01 「精神医療現代史へ・追記10――連載 107」『現代思想』43-(2015-1):8-19
◆立岩 真也 2015/02/01 「精神医療現代史へ・追記11――連載 108」『現代思想』43-(2015-2):8-19


UP:20141118 REV:20141201 
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