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身体の現代
―言説・運動・政策―
科学研究費基盤A応募書類・草稿
文責:
立岩 真也
提出:2011/11
English Page
*2010提出→2011不採択
*2011提出→2012不採択(ほぼ同じ文章)
*2012提出→2013不採択(ほぼ同じ文章)
■■身体の現代――言説・運動・政策
■■2 研究目的(概要)43字×8行
障害や病が訪れて人は身体の差異・変容を生きる。その人達を巡ってこの国でこの50年余りにあったことの大部分は、記録も考察もされていない。今後しばらくが最後の機会となる。気鋭の研究者の力と大学院生・修了者の参与を得て、研究を組織化し、以下を明らかにする。T:名付け、表わし、因果を問うことを巡り起こってきたこと。U:なおしたり補ったりする技術・技法の経緯、その正負の歴史、是非を巡る議論。V:社会運動の内部対立を含む経緯、そこに現れた主張・思想。W:運動と時に独立に、後に幾らか関わりをもって遂行されてきた政策の具体像・全体像。X:政策や運動と連動し、概ね肯定的に語られ、時に主導権に関わる攻防もあり、様々な形で提供されて/されないできたケアに関わる言説・現実とそのもとでの生活の変容と現在。
■■2 研究目的 43字×(33+49=82行)
@背景・経緯
そう遠い過去ではないが、これから10年も経てば証言が得られなくなるだろう時期から始まり、現在に至る障害や病に関わるこの国での出来事・言説についての研究の重要性は認識されてはおり、様々になされてはきたが、なお広大な未踏の部分が残されており、また全体として厚みに欠けている。研究者が研究に割ける時間・資源が限られているからでもある。それをすぐに変えることはできないから、研究を支える体制を組み込む。ここ数年に単著・編書を発表する等、活発に研究活動を進めてきた新進の研究者達と連繋し、意見や助言や要望を得ながら、大学院生・修了者が調査や情報の整理・発信に関わり、分担・連繋研究者他、関心のあるあらゆる人に情報を提供し、本企画に関わる全ての人が成果を生産し発信する。その必要と意義があると考えた。
A明らかにしようとすること
◆
[0]
まず必要で、この企画で可能なのは、基本的・具体的な事実を明らかにし、記録することそのものである。史料・資料を集中させ散逸を防ぎ、文字化されていない記憶を文字にすることである。現在入手困難な文献の一部については電子書籍等電子媒体での保存、配信を進める。
◆
[T知・表象]
知ること、名を与え(与えられ)原因を探ることを巡る議論・実践について、調査・考察する。病気を発見し、その病名を人々に付与(しその実践の対象と)することを「医療化」とし、その営みを技術・専門家の生活世界の浸食と捉えることがあるが、それほど単純ではない。まず日本において実際にその経緯が研究されたことはほぼなかった。そして名前・診断を求めること避けることの両方に、同じ当人にとって積極的な少なくともやむを得ぬ事情があり、同時に負荷がある。この視点を明示した研究はあまりなされていない。公害病、薬害、過労死・過労自殺を巡る原因究明や判定を巡る過去と現在について、発達障害に括られる種々の名を得ることの本人たちの肯定と同時に存在する懸念について、予め知ってしまうことの是非を巡ってあったこと、あることを明らかにする。その中から、すくなくともいくつかの場面では、病や障害を証明する必要のない社会のあり方が望ましく、また実現可能でもあることを示せるはずである。
◆
[U技術・技法]
技術にも日常の中で発見・発明され継承されてきた部分があり、狭義の科学の産物の部分があり、両者が交錯する部分がある。前者は多くその発祥や変遷は記録されない。そして技術に関わる学は基本的に前向きの学だから、過去を記憶・記録しない。とくに失敗は記録されない。こうして生命・生活のための様々な技術とそれが与えたものが忘却されようとしている。それは、私たちがこれからも技術を使い続けていくためにもよくない。例えば、
人工透析
の装置と関連する制度について、
人工呼吸器
他の医療機器の変化と在宅への導入について、肢体・聴覚・視覚に障害がある人のコミュニケーションに関わる技術の変遷を辿る。その中には
脳性まひ
等の障害に対する様々な「療法」のように無効だったもの、幾つかの難病に対する幾つかの治療法のように今のところ存在しないが発表のたびに期待が寄せられた(そしてやがて失望に変わっていった)ものもある。また技術的有効性の問題だけでなく、例えば、言語・文化の選択に絡んで
人工内耳
への批判的見解も示されてきた。これらの推移を把握し、考察する。
◆
[V運動と/の思想]
種々の障害や病を巡る社会運動やそれを担う組織・人について、研究が幾らかはなされ、幾つか著作も出されてきたがなお、なされるべき1割もなされていない。私たちが約25年間蓄積してきた資料に加え、新たに資料を渉猟し、証言を得、研究成果に繋ぐ。一つに着目するのは1960年代末からの社会運動との関係である。その時期、本人たちに自らの位置と主張を転換する動きがあり、研究者・専門職者集団の一部にも自らの営為を問い直す動きがあった→X。そこには左翼内部での対立が絡んでもいた。社会改革を肯定し志向した上での対立を受けてなされる主張(の一方)は、時に「極端」なものともなる。例えば(なおせても)「なおさなくてもよい」と語る(→T・U)。ゆえにその脆さを突くこともできるが、同時にそれは――ときに欧米の同じ領域の言説より――主張しうることの「限界」まで行こうとしたと見ることもできる。それを跡付け、理論的に考察する。また、国によって差異がある運動と主張とその背景を比較検討するために、英国・韓国等の研究者の協力を得、議論し、結果を多言語で発信する。
◆
[W政治・生活]
以上のすべてにも関わり政策に関わる研究を更新する。種々の政策動向を紹介する論文・刊行物等、U・Vに比れば研究の蓄積はあるが、例えば「特定疾患」に関する政策の推移等、社会科学的な研究がほぼないと言ってよい領域がある。また、今論じられのことの多い介護の領域をとっても、障害者を巡る制度の複雑な変遷を辿る研究は極めて少なく、相対的に進んでいる高齢者施策についても、例えば自治体独自の制度の初期についての研究は少ない。
◆
[Xケアの時代?]
まずケアが語られる語られ方についての社会科学的分析を遂行する必要がある。次に、誰が何を担い、時に避けようとするか。仕事を巡る取り合い、主導権争いがある。当然のことだが、各々の業界は都合のよいことを語る。あるいは語らない。他方、外部からは見えにくくそして複雑である。
『助産婦の戦後』
(
大林道子
、1989)のような優れた業績(これもその時にしかなしえなかった研究だった)もあるが、極めて少ない。それは、痰の吸引等「医療的ケア」の担い手を巡って現在起こっており、人々の生命を左右するできごとでもある。他方に、民間で、とくに利用する側自らが主体になって供給する組織・仕組みがこの25年程の間に作られ、発展してきた。高齢者を対象とする非営利組織の幾らかについては研究があるが、例えば
「自立生活センター」
の全体を捉える調査は長くなされていない。個人では困難なその調査も行う。
B意義
◆学問の意義の一つは記録することにある。この研究は今しかできない。私たちのこれまでの調査の期間中に亡くなられた方は既に多い。そして多くの人たちが語ろうとしているが、自らそれを文字にして公けにできる人は少ない。それは公正でもない。そして惜しい。つまりもう一つ、この研究は実践的な、人々に有益なものであろうとする。私たちは技術を使って生きていくし、それを使える専門家も、金も政府も必要であり、それを引き出しうまく使っていく必要があり、そのために自らが活動・運動しようともする。人々がどのように自らとその身体を了解し、技術を使い、政治に働きかけ、組織や人を使っていくか、そのためにも、そのことを巡って何があったのか、どんな工夫がなされてきたのか、どんな困難があってきたのかを知る必要があり、ここにも本研究の大きな意義がある。とくにW・Xは選択すべき政策を幾つも示す研究になる。
◆同時に理論的な貢献も期待される。本研究は、社会学にある「範疇化」「医療化」「専門家支配」といった言葉に、この国におけるその内実を与えるものであり、同時に、それらの言葉で何がどこまで言えるのかを吟味し、確定する作業でもある。そしてまた、障害者運動・障害学の知見も踏まえつつ、そこにあった「障害者は病人ではない」といった主張をどう捉えるのか、
「社会モデル」
という標語をどの水準で捉えるのか、これらを考察し確認する作業でもある。
◆研究を組織として進める意義がある。これまで調査・研究が個々の研究者の努力に委ねられていたことで、なされるべきわずかしかなされてこなかった。実力と業績があるが職を得てかえって研究が困難になった人もいる。そうした研究者達と比べて時間と意欲のある大学院生他を組み合わせ、収集・整理・掲載の日常的な体制を整備・確立して、個別の研究を個々にするのでは明らかにならないことを明らかにする。得られた事実・資料は原則HPに公開し誰にでも利用してもらう。研究・成果発信の速度を加速させ、研究成果の塊を作り出す。そしてこの体制が恒常的な国際発信を可能にする。2010年創刊の英語を主言語とする雑誌に毎号論文を掲載する。
Colin Barnes
(英)、
Arthur Frank
(加)、
Jo Hanjin
(韓)、
Pam Smith
(英)らの協力を今後も得る。
■■研究計画・方法
○概要 9行
前記T〜Xを遂行するために研究を円滑に動かす体制を作り上げる。分担&連繋研究者・研究協力者は連繋し協力する人達であるとともに、多忙な教育や実践の場にいて、資源・成果を利用しつつその方向に関与する人達である。その人達と協議しつつ、時間と意欲をもって研究を進めている大学院生・学術振興会特別研究員他が聞き取りやその文字化、資料収集・整理・掲載等を担当し、両者が連繋し調査研究に当たる。一部は共同の研究成果となる。この体制のもと、これまでの蓄積に加え、さらに散逸しつつある資料を収集する。関係者への聞き取り(一部は公開インタビュー)、組織についてのアンケート調査を行う。承諾が得られたものについては記録をアーカイブ化する。海外の研究者と情報・意見交換しつつ、成果を速く多く発信していく。一部は年4回発行予定の英語を主言語とする雑誌に掲載する。期間中少なくとも15冊の書籍を刊行する。
○32+48+48=128行
平成23年度
:参画する研究者は多数であり、多数であるがそれを超えてすべきことは多い。人と活動を繋ぎ強化するために、本研究を円滑に動かす体制を確立する。聞き取りやその文字化、資料収集・整理などについては、研究代表者・分担研究者の指示・連絡を受け、多くを大学院生や日本学術振興会特別研究員が担い、相当部分については共同の研究成果として公表されるものとする。連繋研究者・研究協力者は、協力を得る人達であるとともに(資金以外の)研究の素材と結果を提供する宛先であり、そこからの反応は次の段階に生かされる。その体制をもって、散逸しつつある文献を収集し、聞き取りをし、団体についての調査を行なう。承諾が得られたものについてはアーカイブに収め、公開する。研究者各々の構想に委ねる部分はあるが、すくなくとも以下については計画的に進める。この年度にはまずこの研究の意義を述べTの一部を検討する書籍をみすず書房から刊行する。Vに関わる論文他を英語・韓国語にして雑誌他に掲載する。
■
[T知・表象]
この数十年の間にも様々な障害・病が「発見」され、普及した。それは「医療化」として捉えられ、例えば科学知の生活世界への浸食とも捉えられる。それはことの半分を言い当てているが、それだけのことでもない。本研究は、状態を名付けること、またその原因を明らかにしようとすることを巡る出来事の全体を捉える。
公害や労災を巡る責任追及や補償を巡り、被害の有無や軽重を巡って原因や事実認定が争われざるをえないことがある。それは必須のことだったとしても、大きな負荷がもたらされる。例えば病や障害の悲惨を語らざるをえなくなる。他の可能性はないのか。それを考えるためにも、
水俣病
、
薬害エイズ
、C型肝炎等を巡って起こったことを調べ記述する必要がある。例えば
先天性四肢障害児父母の会
(1975〜)は、環境汚染が様々に問題にされていたその活動の初期、環境要因を疑い、当初「原因究明」を訴える活動をする。ここでは当然その障害をなくすことが目指された。だが現に障害があって暮らしている子どもがいる時、障害を否定的に捉えてよいのか。それを考えていくことになる。こうした問題はそれ以前にもあった。遺伝性の部分を含む
筋ジストロフィー
について、1970年代、そのことも社会に知らしめるべきだという主張と、それに慎重な主張が対立し、それは組織の分裂も引き起こした。その後には遺伝子診断を巡る議論もなされる。現在は入手困難な出版物や
石川左門
(1937〜)他への聞き取り調査からこれらの軌跡を辿る。
他方、その名(と対処法等)を得ることが本人たちに肯定的に受け止められることがある。そしてそれと同時に、名付け、医療の対象とすることの危うさもまた指摘されている。
「(高機能)自閉症」「アスペルガー症候群」
についてそうしたことが起こった。また、
自殺
(原因)の医療化も起こってきた。それで本人の責任が免除され、対策が講じられるが、病の発見やケアに関わる家族の責任の強化という面もある。過労死を労災として認めさせるにあたって医学的所見が要請されることにもなる。それは過労が病を引き起こし死に至らせたと主張するなら必要なことでもあるが、事実認定を巡る長い争いに巻き込まれ、医学的判断を要請せざるを得ないことにもなる。どう考えるか。これは理論的な考察の対象だが、それ以前に何も事実が明らかにされていない。
藤原信行
他が過労死遺族の会に自ら関わりながら研究する大学院生らと共に研究を遂行する。
■
[U技術・技法]
人工透析
について、公費負担(1972年に更生医療適用)に至る経緯、その後の経過を明らかにする。組織としては「全国腎臓病協議会(全腎協)」(1971〜)が関わっている。またかつて病院にあった「医療機器」としての
人工呼吸器
が在宅で使われるようになる過程が複数の経路で存在する。一つは入院している子どもを家に戻す動き、また保育園や学校での使用を巡る動きがあった。
「人工呼吸器をつけた子の親の会(バクバクの会)」
(1990〜)の活動がある。既収集の発行物の一部をデータベース化、平本美代子、平本歩、折田みどり、
穏土ちとせ
等にインタビューする。それと別に、筋ジストロフィー者等、自らその生活を始め、生活のための体制を作ってきた人たちの動きがあり、組織に
ベンチレーター使用者ネットワーク
(1990〜)がある。
佐藤きみよ
らへの聞き取りを含め、その流れを追う。そしてこれらについては国による違いもあるから(欧米がむしろ消極的)、国際比較を行い、その背景を探る。これらの研究は(とくに高齢者の、高額を要するとされる)医療・福祉の今後を考えるためにも必要である。
同じくなされてこなかった交信のための機器の開発や普及、人的・社会的仕組みについての研究を、科学研究費新学術領域研究
「異なる身体のもとでの交信――情報・コミュニケーションと障害」
(2008〜2010年度)を引き継いで進める。視覚障害者のための文字情報のデータ化について、近年の電子書籍の普及等も射程にいれた研究を行う。また、身体の動きを人が読み取る方法から文字盤やPCの利用、さらに脳波・脳血流を用いた発信法に至る、技術とそのその利用を巡る実践・制度の歴史と現在、そこから展望される未来について研究を継続する。科学史の研究者であり、異なる身体の間の交信技術、技術と機械の接合について研究を組織してきた
松原洋子
が、
坂本徳仁
らと共に、
石川准
・
星加良司
・
福島智
らの協力も得て、研究をさらに進める。
こうして技術や機械はおおむね肯定的に捉えられるのだが、中には是非自体が問われたものものある。例えば
人工内耳
についてはそうした議論が日本だけでなくあり、今も終わってはいない。精神障害・疾患の治療法・薬の使用についても、近年では所謂発達障害者の薬剤使用も含め、議論がある。これは近年の
「エンハンスメント」
に関わる議論にも関係し、批判的議論の幾つかは紹介されているが、その導入・普及についての社会科学的研究はない。聴覚障害者に関わっては
『たった一人のクレオール』
(2003)等の著作のある
上農正剛
が関連する大学院生と協力しながら研究を進める。さらに、なおす側の人が(それが果たせない時に)「受容」を勧めることがある。著書
『障害受容再考』
(2009)等のある
田島明子
らが、課題Vの研究対象でもある
秋元波留夫
(1906〜2007)、
上田敏
(1932〜)他のリハビリテーションや医療を巡る言論を検証する。
■
[V運動と/の思想]
1970年代以降、とくに障害者運動には、当時の左翼運動における日本共産党やそれに近い組織αとそれに対抗する勢力βとの対立が関わり、障害児教育のあり方等を巡って厳しい対立関係が生じた。一方にα
「全国障害者問題研究会(全障研)」
(1968〜)
「障害者の生活と権利を守る全国連絡協議会(障全協)」
(1967〜)「共同作業所全国連絡会(共作連)」(1977〜)、他方にβ
「全国障害者解放運動連絡会議(全障連)」
(1976〜)
「障害児を普通学校へ全国連絡会」
(1981〜)
「差別とたたかう共同体全国連合(共同連)」
(1984〜)
「全国「精神病」者集団」
(1974〜)等がある。そしてそれは学問・科学のあり方にも関わっていた。精神医療・臨床心理等の学会・業界に自らの位置を問題化する動きが少なくとも一時期あった。ここで押さえておくべきは、そこで批判された側αも「改革派」だったことだ。βからT・Uについて「極端」な主張がなされたのもこのことが関わっている。双方の言論と実践を検証する。
次に、差異は存続しつつ、とくに1980年代以降、障害者については
「DPI日本会議」
(1986〜、大きくはβの流れを汲む)、
「日本障害者協議会(JD)」
(1993〜)、
「日本障害者フォーラム(JDF)」
(2004〜)等、全国組織の活動も始まる。そして力関係にもいくらか変化があった。規模が大きいのは旧来の親の会等であり、そこに変化はないが、主張の正当性において優位に立ち、次に交渉や政策立案の前面に出て行くのは1970年代以降の流れを継ぐ従来少数派だった部分であり、政権交替にも関わり2009年に始まった「障がい者制度改革推進会議」についてもこのことは言える。流動的な現在を把握し、将来を展望するためにも、経緯をまとめる。
以上について情報を収集・整理する。
青木千帆子
が共同連の研究を継続。
吉村有里
らの協力を得る。
楠敏雄
(1944〜)、
長野英子
(1953〜)、太田修平(1957〜)らに聞く。一部については公開インタビューとする。韓国・英国等の研究者にも加わってもらい、
田中耕一郎
の
『障害者運動と価値形成――日英の比較から』
等でも追究された各国の運動の共通性と差異を明らかにする。日本に限らず存在する専門家達の「内省」については
『社会福祉学の「科学」性――ソーシャルワーカーは専門職か?』
(2007)の著者
三島亜紀子
の研究等からその含意を検討する。
そして、障害・疾病別の運動、各地域の運動がある。例えば
血友病
について、医療者・製薬会社・患者(家族)三者の利害が一致したところに、患者会、全国組織としては「全国ヘモフィリア友の会(全友)」(1967〜)の活動があったが、薬害エイズ問題によってその互恵的な関係は崩壊し、休止状態に陥る。それとともにそこからの再生の動きもある。その研究と運動に関わってきた
北村健太郎
がこの研究を主に担当する。また、各地域の運動・組織についても、東北についての
土屋葉
らの、関西についての
山下幸子
他の研究をさらに発展させる。
■
[W政策・生活]
とくに1980年代以降、施設から地域へ、キュアからケアへといった標語が掲げられ、多職種の連繋、自己決定、等々が言われてきた。だが実際はそれほど単純ではない。むしろそれらを部品に組み込む複雑な過程があってきた。
天田城介
が、これまでの蓄積を踏まえ、高齢者・障害者施策の現代史研究を志す研究者達を指揮し、その全体を捉える研究を進める。例えば精神障害者の「脱病院化」一つをとっても複雑な動きが存在してきた。そしてそれ以前に、精神病院に暮らした/働いた人達についての社会科学的研究がほとんどない。この領域については長く精神科看護の現場や政策に関わってきた
末安民生
の研究に新進の研究者が加わる。
また「特定疾患」
「難病」
という本来は行政的な範疇の生起、その制度とその内実の推移についても把握されていない。
ALS
の人に限っても立岩
『ALS』
(2004)等の記述は概要を示すに過ぎない。また似た部分もある他の障害、例えば
筋ジストロフィー
の人の多くは発症が早く、一括りにできない部分もある。さらに数が少なくあるいは知られていない疾患・障害について、社会的認知を求め(→T)、特定疾患に含めることを求める運動もある。
「スティーブンスジョンソン症候群(SJS)」
「複合性局所疼痛症候群(CRPS)」
を経験しつつ研究する大学院生達がいる。さらに、介助制度(→X)を使ったり使えなかったり、政策に翻弄されもし関与しようともする人たちの生活について、事例研究はようやく幾つか出てきたが、地域間格差、居住形態別の差異等、全体像は明らかにされていない。『セルフヘルプ・グループの自己物語論』(2009)の著者
伊藤智樹
、
ハンチントン病
の人・組織に関わってきた
武藤香織
らの力を得て研究を進める。
■
[Xケアの時代?]
その政策の不足と同時に誘導があって、とくに1980年代以降、とくに高齢者に介護等のサービスを提供する(非営利)民間組織の活動が増加する。そしてそれは
「ケア」
「ケア倫理」を巡る学説・言説と連動・共振し、その後の公的介護保険(2000〜)を含め、「共助」という枠組みに政策の全体を流し込んでいく方向にも作用する。その組織の活動についてはいくらか調査があるが、Wと総合し、言説・実践空間の変容を把握しようとする研究はない。著書
『認知症家族介護を生きる』e
(2007)のある
井口高志
、共編書
『“支援”の社会学』
(2008)のある
崎山治男
、
『ケアと/の倫理』
(2010)のある
安部彰
らが研究を進める。政策についてはWと合わせ『ポスト障害者自立支援法の福祉政策』(2010)他の著者
岡部耕典
他の協力を得る。
ほぼ同じ時期、障害者自身が運営しサービスを提供する
自立生活センター
の活動が始まる(1986〜)。その活動について一時期一定の調査報告がその全国組織によってなされたこともあるが、その後長く把握されていない。その
「全国自立生活センター協議会(JIL)」
(1991〜)と協議し、会員組織等の実績と運営について調査を開始する。長くその実践に研究者として関与してきた
圓山里子
にこの主題を研究する大学院生が協力する。そしてこの場は人々が競合し争う場でもある。1990年末から、痰の吸引等
「医療的ケア」
を誰が行うかが争点になってきた。現在は、医療(むしろ看護)の主導権を維持しようとする側と、自ら(の組織)で既に自前で行ってきた側との争いが起こっている。その議論と制度・仕組みの経緯、今後について調査・検討する。
*平成24年度以降
以上を継続し成果を発表していく。書籍・報告書を年4冊〜。ただ記録自体は膨大なものになるので、別途ウェブサイト上で公開する。翻訳の意義ある論文から翻訳し、多言語の査読付雑誌(オンライ+紙媒体)に掲載する。書籍の翻訳も検討。シンポジウム等を頻回に行うことはむしろ各々の研究の時間を削いでしまうので、意義のある限りにおいて開催する。
■準備状況・発信する方法 13行
@:本研究に継承される主題を一部に含むグローバルCOEプログラム「生存学」創成拠点(〜2011年度)の活動があり、恒常的な組織として立命館大学生存学センターがある。大学の予算で専任の事務局員、ポストドクトラルフェローを雇用し、書籍・雑誌機関誌等30000点余を整理して収蔵する書庫、研究会等に利用できる部屋、事務室を確保している。A:研究分担者・連繋研究者の多くが@に記した機関・企画に関わってきた。教員・研究者でありつつ大学院生として拠点・研究科の教員とともに自らの研究を進めてきた人達、日本学術振興会特別研究員等を経て拠点の研究員等を務めている人達もいる。十全な連繋の体制がある。B:年間ヒット数1000万を超える上記拠点のウェブサイト
http://www.arsvi.com
に、本応募書類(関連事項・人・組織等約200の頁にリンク)を含め、情報・成果を掲載する。研究成果等、有用な情報は英語・韓国語等にも訳されており、その言語圏の全ての人に資料・成果が提供される。また英語を主言語とする査読付雑誌に掲載していく。上記センターの査読付雑誌
『生存学』
は一般書店で購入できる。
■人権の保護及び法令等の遵守への対応
「日本社会学会倫理綱領」(2005)を遵守する。また各研究者は、各大学における指針等がある場合にはその規定にも従う。立命館大学においては「立命館大学における人を対象とする研究倫理指針」(2009)に基づき、人を対象とする研究倫理審査を受ける(cf.
http://www.ritsumei.jp/research/c10_01j.html
)。
UP:20101101 REV:20101102, 03(92), 04, 20110303, 20120404
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