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関西・大阪を讃える

そして刊行を祝す

立岩 真也 2011/03/31
定藤邦子『関西障害者運動の現代史――大阪青い芝を中心に』,生活書院,pp.3-9

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 すこし「青い芝の会」のことを知っている人は、第1章は飛ばして、後で読んでください。第2章から本格的に関西の話、おもに大阪の話が始まる。関西はおもしろい。こういうことに関わってきた人なら皆知っている。しょぼい、けどすごい、すごいけどしょぼい、つらいけどおもしろい、おもしろい、けどつらい、そんなことがいろいろと起こった。「ここはぜひとも詳しく、できるだけ詳しく」と著者の定藤さんにお願いしたきたのでもあるが、例えば、『さようならCP』の上映運動や『カニは横に歩く』の製作活動(第2章第5節、一〇〇頁)、そして和歌山身体障害者福祉センター糾弾闘争(第3章4節1の(2)、一五四頁)、川崎バス闘争(第3章4節4の1の(4)、一七一頁)、そして大阪青い芝の会(他)に関わることになった人たちのそれまでの暮らしのことその後のことが詳しく記されている。
 そうしたことがあったことをいくらかの人は知ってはいる。しかし、私も含めて、詳しくは知らない。関わった人にはもういない人もいるし、忘れていることもある。その時に何が具体的に勝ち取られたのかと言えば、それほどの「獲得物」はなかったと言えるのかもしれない。しかし、とにかくなされたことがあった。それを行なった人たちがいた。私たちはそれらに対する、その人たちに対する敬意を感じ、その敬意を持ち続け、それを伝え続けるためにも、それらを記録し、読み、知らねばならないと思う。また、私は追悼するという行ないがどんな行ないであるのかわかっていないのだが、亡くなった後も人や人の行ないは記憶され讃えられるべきであると思う。この本は、そのための本でもある。

 関西はおもしろい。そのことはわかっていた。けれど、私たちが大学院生などしていてやがて『生の技法』(一九九〇年、増補改訂版一九九五、藤原書店)にまとめられた調査をしていたころは、お金もなかったし、関西に行くこともできなかった。一度、安積遊歩(純子)さんとともに京都・大阪に一度だけ訪れた記憶はある。京都で日本自立生活センターの長橋栄一さんにお会いし、今福義明さんにお会いした。そして大阪で「自立平和」というすごい名前の飲み屋でりぼん社に関係されてきた方々にお会いした、のだったかもしれない。そしてそれと別に、中西正司さんらの「ヒューマンケア協会」(東京都八王子市)の立ち上げの前、土肥隆一さんらがやっておられた「神戸ライフケアー協会」の見学にもごいっしょさせてもらったことがあるように思う。そして、その本がそろそろできるという頃、故・高橋修さんとともに福島に行って、そこにある療護施設を訪ね、その夜、本のことを話し合ったことがあった。すべて記憶が定かでない→記録って大切だと思う。あとはずっと東京近辺で調べることしかできなかった。
 そんなわけで、関西のことはほぼ書かれたもので知ることしかできなかった。『そよ風のように街に出よう』(りぼん社)は全国の人たちが登場し、全国の人たちに読まれてきた雑誌だが、この雑誌を刊行してきたのは、この本にも何度も登場する――そして今のように出版元として知られるようになるのは後のことなのだが――大阪のりぼん社である。バックナンバーをまとめて購入させてもらった。そして「全国障害者解放運動連絡会議(全障連)」はもちろん全国組織だが、関西の人たちの果たしてきた役割が大きかった(この組織の活動にはついては同志社大学院生の廣野俊輔さんが私たちのHPに情報を載せてくれている。)その機関紙やら、幾つかの機関紙を読んできたぐらいのものだ。そして普通学校・普通学級への修学運動に関わる本が何冊かあった。楠敏雄さん(いまこちらの大学院生の岸田典子さんが聞き取りを続けている→そのうち発表されるだろうと思う)や河野秀忠さん牧口一二さん入部香代子さん等の本はあって読ませてもらっていたが、それでも結局、私たちの本は東、というか東京近辺の方に偏っている。関西のことを誰かが書いてほしいとずっと思ってきた。
 そしたら定藤さんがやってきた。定藤さんは、二〇〇四年に私の勤め先である立命館大学大学院先端総合学術研究科(同じ大学の大学院の政策科学研究科の修士課程を終わられた後)に入学され、二〇一〇年度に博士論文を提出された。この本はその論文がもとになっている。定藤さんががなぜその論文を、そしてこの本を書かれたのか、そのことは序章に書かれている。
 私はその定藤さんの指導教員の一人ということになるのだが、言ってきたことはただ一つのことだった。「もっと詳しく」「もっとたくさん」調べて書いてくださいということだけだった。「なんにも考えなくてよいです」とさえ言った、と思う。もちろんここに考えてよいことはたくさんある。ただ、そのことをこれから人々がしていくためにも、まず人が知らないこと、おぼろげにしか記憶していないことを書いてくださいと、それだけ言い続けてきたと思う。すべての本が、例えば「自立生活」とかについてひととおりのことを言わなければならないと私はまったく思わない。それは幾度も書かれてきたし、それに加えることが特別になければ、それはそれでよい。
 そうして定藤さんが書かれている間に、ようやくと言うべきか、本が幾つか出されもした。この書でも紹介されている山下幸子さんの『「健常」であることを見つめる―一九七〇年代障害当事者/健全者運動から』(二〇〇八、生活書院)がある(山下さんには定藤さんの博士論文の外部審査員も務めていただいた)。そして昨年は角岡伸彦さんの『カニは横に歩く――自立障害者たちの半世紀』(二〇一〇、講談社)が出された。前者は主に「ゴリラ」の人たちの話で、後者は主に兵庫の人たちの話である。併せて読んでいただけたらと思う。そしてこの本とほぼ同時に同じ生活書院刊で、渡邉琢さんの『介助者たちはどう生きていくのか――障害者の地域自立生活と介助という営み』が出された。この定藤さんの本に書かれていることから、さらにその周りに何が起こったのか、そしてそれらをどう考えていこうか、何が先にあるのか、あるいはあるべきなのか、知ったり考えたりするためにとてもよい本だと思う。できればまとめて続けて全部読んでください。
 定藤さんは自己評価がまったく間違って過度に低い人で――ときに「専門的な教育」を受けてないという(ふうに認識している)「社会人」にそういう方々がおり、その方々にはわざわざ「学問」を初めから始めなければならないわけではないといいったことを幾度も繰り返すことになるのだが、それにしても、定藤さんはそういう方々の中でも、そういう方で――「私なんかが…」みたいなことをずっとおっしゃってきた。その度に「そんなことないです、これは絶対おもしろいです」といったことを、会う度に二十回以上言ったのではないかと思う。足し合わせたらそういう押し問答?がもう千回とかなされたのではないか。そして、よい本が出版された。同じことを千回申し上げた、その甲斐もあったと思う。

 それにしても、論文や本は読みものである。適度な本の厚みというものもある。資料の類をたくさん載せたりインタビューの全部をそのままに掲載ということは難しい。定藤さんは、この本でも言及されている資料の幾つか、『関西青い芝連合』1・2(一九七五)、自立障害者集団友人組織関西グループ・ゴリラ連合会役員会「緊急アピール 関西ゴリラ連合会に集うすべての兄弟・姉妹へ」(一九七七)、『月刊全健協』(一九七八年四月特別)号 『がしんたれ』1〜3(一九七八)、大阪ゴリラ再誕大会・議案書他(一九七八)の全文を、恐るべきこと驚くべきことに――たしかに古いガリ版印刷のものが多かったりしてスキャナーで読み込んで文字化しようとしても無理なのだが――ぜんぶ手で再入力してくれており、これらはさきに紹介した廣野さんの資料と同様、皆私たちのHP(「生存学」のHP→その「中」を「青い芝の会」で検索)で読むことができる。
 加えると、私は定藤さんと『闘争と遡行・1――於:関西+』という冊子を作ったことがある(二〇〇五、<分配と支援の未来>刊行委員会)松永真純「兵庫県「不幸な子どもの生まれない運動」と障害者の生」(二〇〇一)、堀田義太郎 「生命をめぐる政治と生命倫理学――出生前診断と選択的中絶を手がかりに」(二〇〇三)を堀田義太郎「障害の政治経済学が提起する問題」(二〇〇四)、山下幸子「健常者として障害者介護に関わるということ――1970年代障害者解放運動における健全者運動の思想を中心に」(二〇〇四)、野崎泰伸「当事者性の再検討」(二〇〇四)、「川嶋雅恵さんのお話」(聞き手:定藤邦子)、定藤邦子「青い芝の会(関西)関連年表・資料」、立岩真也「闘争と遡行」(二〇〇一)を収録。四五字×五〇行×一二〇頁、印刷したものはなくなったので、ワードのファイルで提供してます。八〇〇円です。私にメールをください→TAE01303@nifty.ne.jp。)
 そして、私たちは今「身体の現代――言説・運動・政策」という共同研究企画を――資金が獲得できるかどうかにもよるのだが、できなくても――進めていこうとしている。定藤さんも大学院は修了されたのだが、私たちとの関わりを続けてくださる。皆さまにおかれても、研究への参画、資料提供等々、どうぞよろしくお願い、です。

■文献(本では略)

◆定藤 邦子 20110331 『関西障害者運動の現代史――大阪青い芝の会を中心に』,生活書院,344p. ISBN-10: 4903690741 ISBN-13: 9784903690742 \3000 [amazon][kinokuniya] ※ dh. ds.

◆角岡 伸彦 20100921  『カニは横に歩く――自立障害者たちの半世紀』,講談社,509p. ISBN-10:4062164086 ISBN-13:978-4062164085 \2310 [amazon][kinokuniya]
◆田中 耕一郎 20051120 『障害者運動と価値形成――日英の比較から』,現代書館,331p. ISBN: 4768434509 3360 [amazon][kinokuniya] ※,
◆立岩 真也+定藤 邦子 編 2005.09 『闘争と遡行・1――於:関西+』,<分配と支援の未来>刊行委員会,120p.
◆渡邉 琢 20110220 『介助者たちは、どう生きていくのか――障害者の地域自立生活と介助という営み』,生活書院,420p.,ISBN-10: 4903690679 ISBN-13: 978-4903690674 2415 [amazon][kinokuniya] ※
◆山下 幸子 20080930 『「健常」であることを見つめる―一九七〇年代障害当事者/健全者運動から』,生活書院,243p. ISBN-10: 4903690253 ISBN-13: 978-4903690254 \2625 [amazon][kinokuniya] ※ ds


UP:20110305 REV:20141108, 20180925
定藤 邦子  ◇『関西障害者運動の現代史――大阪青い芝の会を中心に』  ◇立岩 真也  ◇博士号取得者 
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