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人間の条件?

唯の生の辺りに・6

立岩 真也 2010/10/01 『月刊福祉』93-(2010-10):
全国社会福祉協議会 http://www.shakyo.or.jp/
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「社会モデル」?

  前回はリハビリテーションの「打ち切り」をめぐって『現代思想』の七月号(特集「免疫の意味論――多田富雄の仕事」)に原稿を書いたこと、同じ雑誌の連載で続きを書いていることを記した。8月号は「「社会モデル」・序」という題。まだ始まったばかりといったところ。
  「社会モデル」というのは、「障害学」でよく使われる言葉で、とくにそのイギリスの学派では、その看板のような言葉である。障害は個人の問題ではなく、社会の問題だと言う。医療の対象ではなく社会的に対応されるべきものだと言う。
  なるほどそうかもしれない。しかし、では、なおせてもなおさなくてよいのか。そんなこともないだろうと思われる。とすると、医療やリハビリテーションでなおせること(あるいは状態を維持できること、状態の悪化を緩やかにできること)はして、それで対応できない部分については別の手段で、「社会的に」ということでよいではないか。それが「おとしどころ」というところではないか。
  それに反対というわけではない。ただ問題はもうすこし複雑になっているはずだ。そしてその複雑な部分について、その「障害学」もそうよく考えられているわけではない。そんなふうに思ってきたものだから、私もこれまでいくつかの文章を書いてきた。市販されている本の中では、野口裕二・大村英昭編『臨床社会学の実践』(有斐閣、二〇〇一)収録の「なおすことについて」、石川准・倉本智明編『障害学の主張』(明石書店、二〇〇二)収録の「ないにこしたことはない、か・1」等がある。それらで私が言っているのは、煎じつめると単純で、つまりは、なおしたり補ったりすることの本人や周囲の(様々な)人々にとっての損得をきちんと考えよう、そこで考えてみると、すこし「常識」とは違う答が出てくるはずだということだ。そしてその中身を考え出し、説明し出すとすこし長くなる。ややこしいところもすこし出てくる。『現代思想』の連載ではそんなあたりをもう少し続けようと思っている。
  私は、ずっと、人々ができる/できないこと、できるようになること/ならないことについて考えてきたのだと思う。そして、そのことと人々の暮らしがどのように関わっているのか→それでよいのか→よくないと思う→ではどうしたらよいのか、といったことを考えてきたのだと思う。だから、なおす/なおらない/なおさないといったことも気になる。
  そして私の周囲にも、なおると言われいろいろされて結果はさんざんだった、もういやだという(例えば脳性まひの)人たちがいる。そして、新しい治療法が現れるのを切望している「難病」の人たちがいる。どちらももっともだと、まず直感的に思う。その直感はどのように辻褄が合っているのか、そんなことを考えたいと思ってきたし、書いていきたいと思っている。

新刊

『人間の条件――そんなものない』表紙   それにしてももっと短く、要領よく、わかりやすく、なんとかならないか、と言われることがある。本人的には、それには不服なところがあって、すくなくとも近年のものについては、はっきりしたこと、ごくわかりやすいことを書いているつもりだ。ただ、こないだも、「おまえは何年か書くのをやめたらいいんじゃないか」と言ってくれた人がいたのだが――そして「すいません、でもできないと思います」と答えたのだが――いろいろとたくさん、そして長々と書いてしまっているのは事実で、「要するになんなんだよ」と言いたい気持ちはわかる気もする。ずいぶん前に出してもらった『私的所有論』(勁草書房、一九九七)にだいたい書いてはある、のだが、これ一冊がたしかに長くてそして値段も高い。
  そこで、というか、この八月に本を一つ出してもらった。『人間の条件――そんなものない』という妙な題の本で、理論社の「よりみちパン!セ」シリーズの一冊である。このシリーズは、「中学生以上すべての人の」と謳っていて、漢字にはみなふりがながついている。
  もちろんふりがながついていればわかりやすいというものでもない。いくらかくだけた文体というか、文章になっているが――それでいくらかとっつきやすくなることはあっても――わかりやすくなるというものでもないだろう。そういうこととは別に、すくなくとも全体の四分の三ぐらいは、日本語が読める人であればわかることが書いてある、はずだ、と思う。値段もこれまでの私の本の中では安い(一五〇〇円+税)ので、手にとっていただければありがたいです。T「できなくてなんだ」、U「ならどうならよいか・1」、V「しかしこの世の仕組み――私たちの社会は変だ」、W「でも社会はそうじゃないかという話」、X「人は違うものを信じている」、Y「差は仕方がない、必要だというお話について」、Z「「機会の平等」というお話がいけてない話」…と続く目次等はいつものように当方のホームページに掲載している。
  この本は理論社のウェブサイトでの連載「人間の条件――わけがわからない。だから考える」がもとになっているのだが、結局それだけではひとつながりの話にならなかったので、かなり書き足したり、連載にあった部分を今回は外したり、順序を入れ替えたりした。そして今度の本に書けなかったこともあるから、連載を続けさせてもらうことになりそうだ。そこにメールを送れるようにしてもらった。「でもやはりここがわからない」とか言っていただければ、考えてみます。

◆立岩 真也 2010/08/16 『人間の条件――そんなものない』,理論社,りみちパン!セ,392p. ISBN-10: 4652078552 ISBN-13: 978-4652078556 1500+ →201107 イースト・プレス,よりみちパン!セ,392p. ISBN-10: 4781690084 ISBN-13: 978-4781690087 [amazon][kinokuniya] ※
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UP:20100807 REV:
立岩 真也  ◇Shin'ya Tateiwa
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