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右のものを左に

唯の生の辺りに・4

立岩 真也 2010/08/01 『月刊福祉』93-(2010-8):
全国社会福祉協議会 http://www.shakyo.or.jp/
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税を直す

  初回、自己紹介のようなことをした後、第2回は「最低限を保障せよ」という主張はわかるけれどあまり「最低限」にこだわらない方がよいと言い、第3回ではその「最低限の保障」もこの国ではずっと実現されていないのだが、「現場」の人々はどれほどそのことを知っているのか、知らされているだろうかと書いた
  すると、しかしお金がないという話になる。そこでこのごろどこでも同じ話をしている。つまり税金の話をしている。わざわざ強制的に徴収する税金の「本義」はたくさんある人・ところから、少ない人・ところに、また介護やら医療やら多くを必要とする人に渡すというところにある。そして、この国――に限らないのだが――は、このことをきちんとしていない。前からたいしたことをしていないのだが、とくにこの二十年余りはそうなってきてしまった。多くある人・ところからはより高い割合で取るという「累進性」をだんだんと低めてしまった。それはよくない。だから直した方がよい。とりあえず、まずは、いくらかずつでももとに戻したらよい。そんなことを書いたり話したりしている。
  まず、多くの人は事実そのものを知らない。消費税のことはよく報道もされ、わかりやすい話でもあるから、わりあいよく知っているが、所得税や相続税のことについて、それがだんだん弱体化していることについては知られていない。
『税を直す』表紙   それはいくらなんでもよくないだろうと思った。知ったり考えたりした方がよいと思って、わざわざ昨年夏の選挙の前に『税を直す』(青土社)を出してもらった。私の他に二人に書いてもらった。
  まず、私は計算がうまくできないので、こちらの大学院にいる村上慎司に、所得税を一九八九年の税率に戻したらどうなるか、推計してもらった。すると所得税の税収が一・五倍ほどになるという。本当だろうかと私は今でもいぶかっているのだが、本当かもしれない。
  またやはり同じ大学院にいる橋口昌治には、このところとてもたくさん出ている格差・貧困についての本をたくさん紹介してもらった。関心があっても、たいていの人は全部買うというわけにはいかないだろう。どんな人がどんなことを言っているのか、だいたいのことをわかるとよい。そこから何を買おうか読もうか参考にすることもできる。役に立ててもらえる本になった。

いくらかの変化

  私の担当部分では、多くの人が知らぬまにこうなってしまうにあたり、その筋の専門家たちや政治家たちが何を言ってきたのか、また何は言わなかったのか、それを辿ってみた。確かでない理屈が同じように持ち出され、金を多く持つ人たちの税を下げた方がよいという話が繰り返し語られてきたのを見ていくのは、不思議なような退屈なような感じだった。しかしこんな過去を辿ってみる仕事をした人は意外にいないようで、やってみた。
  このごろ、講演等に呼んでいただいた時に、幾度か同じ話をしてきた。話す場が話す場であるからだが、受け入れてくれる人が多い。つまり、たいがいそこには金持ちはいないし、介護などの仕事の人が多い。その人たちは税金(や保険料)から収入を得ているのから、そういうお金をきちんと取って、そういう分野に使うのはよいことだという話は自分たちにとってよい話なのである。
  その上で、よくしていただく質問は、その案は基本的によいとして、そうすると「経済」によくない影響を与えるという話があると思うが、それはどう考えるのかというものだ。そしてその話こそが繰り返し語られてきた話なのだ。どう考えるか。その場では簡単に説明させてもらうが、文章にするとそこそこ長くなる。そのことについては本の中で書いたから、そちらを見ていただきたい。一番簡単に言うと、それは根も葉もないというほどのことではないが、そう心配するほどのことではないし、また打つ手がないわけでもないという話になる。
  私だけがこんなことを言っているわけではない。専門家の間ではその話はそこそこに出ていた。かつての与党の政治家にもそんなことを言う人がいた。ただあまり大きな動きではなく、報道されることもなかった。ただ、それも変わってきつつある。政権交代後、昨年秋から所得税の最高税率の引き上げを今度首相になった当時の財務大臣が口にしたり、新しくなった税制調査会とその専門家委員会がその方向での議論をしている。今年になってようやく新聞もいくらか取り上げらようになった。私も『朝日新聞』に書き、当方のHPにも載っている記事で動きをごく簡単に紹介した。『現代思想』連載の5月号掲載分「『税をなおす』の続き」では、より詳しくこの半年ほどのことについて紹介しまた検討している。
  私は消費税引き上げに絶対反対ではない。だが消費(おおまかには所得)比例の税が基本になったら税の存在意義もなくなる。まずは直説税を直すのがよい。

◆立岩 真也・村上 慎司・橋口 昌治 2009/09/10 『税を直す』,青土社,350p. ISBN-10: 4791764935 ISBN-13: 978-4791764938 2310 [amazon][kinokuniya] ※ t07, English


UP:20100606 REV:
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