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めんどうで難しいけど続けていく

立岩 真也 2010/11/25
『おそい・はやい・ひくい・たかい』58:45-49

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 *題は編集部がつけてくれました。原稿を送った時の仮題は「何を申してよいやら」というものでした。

 私に一人だけ甥・姪にあたる人がいます。少子化・人口減少に賛成しているから、というわけではなく、たまたま一人だけということになっています。で、弟夫婦のその男の子は、いま小学校一年生なのですが、そういう「ジャンル」の子です。弟の夫婦は私の実家(佐渡にあります)に住んでいるのですが、私はめったに実家に帰らないので、最初に会ったのはまだ一歳ぐらいだったかもしれません。積み木とかをばんばん投げて元気なかんじでした。その後、弟夫婦は二人とも勤め人で、近所の保育園に行ってるとか、言葉をしゃべり始めるのが遅かったり、みたいなことを私の親から電話で聞いたり、で、今年から小学校一年生で、じつにひさしぶりに会って来ました。えらい元気で明るい子で、なかでも私の子(二〇歳)はしたわれていて、離してもらえずというかんじでした。ただ、他の同じ年ぐらいの子どもたちとは遊び方が違うというか、つきあい方が違うみたいで、家でいっしょに遊んだりはしないようで、でも集団登校とかは楽勝、ということのようでした。私が行っていた小学校に通っていて、「特別支援学級」にいて、「普通学級」を行ったり来たりみたいです。学校も休みで、親もいない時、ばあさん(私の母親)は、他のこともあり、ちょっとたいへんなこともあるみたいですが、全体としてまあまあの感じで暮らせているみたいでした。私の小さい時に顔が似ていると親戚たちに言われるそうですが、私の感じではちょっと違っていて、私の目はたんに小さい目だったのですが、彼の目はかっこよくて、けっこう男前かもと思いました。
 というようなことを書いてそれでどうするの、とは、もちろん思って、でも――「どうしてちょっと変わった子が特別支援学級へ?」という依頼だったのです――何書こうと、これを書き始めたのではあるのです。なにかまとまとったことを書こうとすると、本一冊にはなるだろうし、しかも何年かかかりそうです。これははなからあきらめるしかないなと思ったのです。
 私は、大学に入った年というのが養護学校が義務化された年(一九七九年)で、その時にその賛成・反対について大学の学生の中でも喧嘩があって、私は反対の方に就くことにして、つまり「隔離」に反対して「統合」に賛成することにしました。その時はそうたいしたことを知っていたわけでもなく、まあ今でもそうです。ただ、私の知人には幾人も普通学校への就学運動の支援に関わっている人たちがいて、中には(私と同年ぐらいの生まれだったのに、もう)亡くなってしまった人もいるけれども、それ以外の人はなんやかんやいって、今でも障害者のことに関わることやってたりします。それから、北村小夜さんの書かれたものだとか、雑誌だと『そよ風のように街に出よう』とか『季刊福祉労働』などは読ませてもらってきました。一九七〇年代から八〇年代、その後も、普通学校・普通学級に行こう、入試0点でも高校に行こうみたいなはかなり出ています。そのときどきの「事件」に関係して出されたものも多いので当然は当然なのでしょうが、当時の本のほとんどは今は本屋さんからは買えないはずで、それは残念だと思っています。そのときどきの人たちが思ったり、したことをみながもっと知れるようにしたいなということは思っています。
 で、私の立場は、基本的には、それから変わってはいません。「統合」でいいでしょ、すくなくともその子がいたいところにいさせろよ、いさせなよということです。二〇〇七年の夏には「障害児を普通学校へ全国連絡会」の第一二回全国交流集会というところでしゃべらせていただいたりしました。もっとも何を話したかはよく覚えてなくて、むしろ、その後の岩渕進さん(ピープルファースト北海道にも関わりがあったりした方でした、二〇〇八年没)との昼間っからビール飲みながらの「生臭い」話とか、本誌頻出の山田真さんの娘さんとの話の方が記憶にあります。あと、今年の一月、韓国であった学会みたいなところで「ただ進めるべきこと/ためらいながら進むべきこと」という講演をしてます。これはまあ、まじめな話をしています。日本語版も韓国語版も英語版も当方のホームページ(「生存学」等で検索)にありますので、読んでいただければと思います。
 その上で、「発達障害」とか「(高機能)自閉」とかいった「名前」をつけること/つけられることにはついては、さらに加えて考えたり言ったりすることがあると思っています。『みすず』というみすず書房の雑誌に「身体の現代」という連載をさせてもらっていて、いちおう終わったのですが、そこに、そういう名前を(大人になってだいぶたってからという人が多いのですが)もらってよかったという人たちが書いた文章などを引用したりしました。それを読むとなるなほどもっともと思います。そのことと、いちいち名札を貼って特別扱いするなという気持ち・主張――私はどちらも間違っていないと思います――とがどう関係するのか、折り合うのか。これはちょっと面倒な話です。その連載でもいくらかのことは書いたには書いたのですが、本にまとめる時にももうひと考えしなければならないかなとも思っています。けれどその本が出るのは早くても来年になってしまうでしょう。すいません★01。
『人間の条件――そんなものない』表紙  その代わりに、というか、もっとずっと基本的で単純なことだったら、この八月に出してもらった本★を読んでみたくださいませ。基本は簡単です。でもそれから先はすこし難しい。この本のもとになった理論社のサイトでの連載でも学校の話から始めたにもかかわらず、続かなくて、学校の話は今度の本には使いませんでした。連載は続くはずですので、そこでいくらかでもできたらと思っています。

★01 立岩 真也 2014/08/26 『自閉症連続体の時代』,すず書房,352p. ISBN-10: 4622078457 ISBN-13: 978-4622078456 3700+ [amazon][kinokuniya] ※
★02 漢字総ふりがな付き、中学生以上OKの「よりみちパン!セ」シリーズの一冊として出してもらった『人間の条件――そんなものない』(理論社、一五〇〇円+税)。

UP:20100916 REV:20101226, 20141224 
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